ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
「うおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
「はああああぁぁぁっ!!」
咆哮と気合が正面から衝突し、乾いた衝撃音が大地を震わせた。
神の宴から数日後――
フレイヤ・ファミリアの本拠、戦いの野。
血と汗が染み込んだ訓練場で、二つの影が真正面から激突していた。
一人は、巨躯。
岩を削り出したかのような筋骨隆々の身体に、獣を思わせる威圧感を纏う男。
――オッタル。
そしてもう一人は、彼よりも遥かに小柄な蒼髪の少女。
裏のオラリオ最強、ミネ。
ドン――ッ!!
正面からぶつかり合った拳と拳が、空気そのものを押し潰す。
衝撃波が地面を走り、訓練場の土が跳ね上がった。
正面衝突。
それは本来、体格差がすべてを決める局面だ。
だが――
「うっ、ぐっ!?」
呻いたのは――オッタルだった。
正面から拳をぶつけ合った瞬間、彼の巨体がわずかに、しかし確かに後退した。
踵が地面を抉り、重戦士の体重をもってしても衝撃を殺しきれない。
「やっちゃえ、ミネ~!えぐりこめ~!!」
観戦していたヘイズが普段の私怨を交えた応援をミネに送り・・・。
「行ってくださいミネさん!私たちの日ごろの恨みをここで晴らしてー!!」
「その無能な団長を叩きのめしてー!むしろミネさんが団長になってー!!」
満たす煤者達もオッタルに対する辛辣な言葉をやめない。
完全に私怨である。
しかし罵声と私怨まみれの声援を浴びせられながらも、オッタルは眉一つ動かさない。
ただ、獣のような双眸だけが、真正面の少女を射抜いていた。
オッタルがレベル8に昇格してから既に3回目の対峙であるが…、この少女に土一つ付けられていない。
しかも明らかに手加減されている。
ミネはどうも打撃に対し回復効能を持たせられるスキルを持っているらしく攻撃の際にはこの効果を必ず付与しオッタルは常に回復されながら戦わされている。
わかってはいる。
彼女はレベル9。
そして自分は、ようやく到達したばかりのレベル8。
その差は、理解している。
理解しているが――納得はしていない。
(……届かない、か)
オッタルは奥歯を噛み締める。
拳を交え、何度も真正面からぶつかっている。
だがその度に、彼は“気絶しない程度”に抑え込まれ、削られ、そして――回復させられる。
ミネは一歩下がり、軽く手を振った。
「……まだ行けますよね?」
声音は穏やかだ。
まるで稽古の続きを促すような、それでいて逃げ道を許さない響き。
「……当然だ」
オッタルは短く答え、地面を踏み締めた。
次の瞬間。
ドンッ!!
踏み込みと同時に、巨体が砲弾のように突進する。
拳ではない。
肩、肘、体重そのものを叩きつける――純然たる“戦士”の突撃。
しかし。
ミネは正面から受けない。
すり抜ける。
軸をずらし、体を回し、オッタルの死角へと滑り込む。
「――っ!」
肋骨に走る凄まじい痛みと衝撃。
砕け治されていく。
「……ふざ、けるな……!」
この怒りはミネに対してではない。
この数年で驕りに驕り弱くなっていた余りにも不甲斐ないオッタル自身に対しての怒りだ。
怒りを燃料に、オッタルは再び踏み込んだ。
「――おおおおおっ!!」
獣の咆哮。
拳が唸り、風を裂く。
地面が沈み、空気が悲鳴を上げる。
だが――
ミネはそれを真正面から迎撃していく。
拳と拳。
肘と肘。
膝と脛。
ぶつかるたび、乾いた破砕音が連なり、衝撃波が幾重にも訓練場を走った。
――速い。
オッタルの踏み込みは、レベル8に到達した今、以前とは比べものにならない。
一撃一撃が必殺を孕み、僅かな油断すら許さない。
だが、それでも。
ミネの方がまだ強い。
「かはっ…!!?」
ミネの拳がオッタルの腹に刺さる。
――それでも。
崩れない。
「っ、ぉ……!」
オッタルは踏み留まった。
膝を折らず、歯を食いしばり、拳を握り締める。
回復が走る。
砕けた箇所が、強引に“元へ戻される”。
だがそれは、救いではない。
(……違う)
回復しているのは“肉体”だけだ。
魂の奥に溜まり続ける焦燥と悔恨は、何一つ癒されない。
――届かない。
――追いつけない。
そう理解してなお、立ち止まれない。
「……まだだ……!」
オッタルは低く唸り、両拳を構え直す。
その姿を、ミネはじっと見つめていた。
その瞳に浮かぶのは、嘲りでも優越でもない。
――観察。
そして、期待。
「……いい目ですね」
ミネは小さく頷く。
「次は――」
蒼い少女が、真っ直ぐに告げる。
「少しだけ、手加減をやめます」
「――っ!」
オッタルの全身に、戦慄が走った。
恐怖ではない。
歓喜でもない。
これは――“試される”感覚。
オッタルは、ゆっくりと口角を吊り上げた。
「……上等だ」
獣の笑み。
踏み込む足が、地面を砕く。
そして二人は再び――
真正面から、激突する。
己はまだまだ強くなれる。
目の前の少女がそれを証明しているのだから。
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「それで、ミネの方は大丈夫なのね」
「そっちはフレイヤ様に任せてあるし、暫くは何とかなりそうだ」
ライラの言葉に、場の空気がわずかに緩む。
アストレア・ファミリアの本拠、星屑の庭。
柔らかな月光が白い石畳を照らす中、ヘスティア、アストレア、そして眷属の数人たちが円を描くように集まっていた。
「……あの子にばれたらアウトだからね」
ヘスティアは腕を組み、顔をしかめる。
ここ数日、ヘスティアとベルは日に数回襲撃を受けている。
下手人は明らかにアポロン・ファミリアの連中だが、アストレアたちもまだ尻尾を掴めていないのだ。
「アポロンめ~、アストレアが怖いからってこそこそと!」
ヘスティアが地団駄を踏むように声を荒げると、周囲の眷属たちも小さく頷いた。
アポロン・ファミリアの襲撃は少人数小規模でアストレア・ファミリアが駆けつけたときには既に逃亡している。
どう足掻いてもアストレア・ファミリアには勝てないのはわかっているのでチクチクと嫌がらせを続けているのだ。
こんなことがミネにばれてみろ。
下手人は速攻で捕まるだろうがそのままアポロン・ファミリアに突撃され主神もろとも救護される。
それは――冗談では済まない。
ミネが動けば、止めるられる者はいない。
救護という名の制圧、制圧という名の蹂躙。
アポロン・ファミリアが…、いや、オラリオ全体がどれほど抵抗しようと、結果は最初から決まっている。
フレイヤ・ファミリアはミネを閉じ込めておく檻でもあるのだ。
ミネが暴走させるような事態をミネに知られる前に情報を封鎖するための役目も担っている。
「ギルドの対応は?」
「証拠がないなら動けないとの一点張りだったよ。ギルドへの道中だって1回襲撃を受けたってのにさ!」
中立を謡うギルドなら襲撃をしたファミリアについて調べるべきだろうにそれすらしない。
弱小ファミリアだからと明らかに舐められている。
「証拠がない限り動かない。
証拠があっても、大事になりそうなら後回し……いつものことだ」
「それじゃあ――」
ベルが思わず声を上げかけ、口を噤んだ。
自分たちが狙われている。
それでも守ってくれる存在はいない。
その現実を、改めて突きつけられた形だった。
「フレイヤ様がアイツを足止めしてくれてるうちに何とかするしかない」
ライラが、視線を伏せたまま言う。
「ミネが動けば、すべてが終わる。
でも――終わり方が最悪になる」
アポロン・ファミリアは壊滅するだろう。
問題はそのあとだ。
ミネの存在がバレればギルドはヘスティア・ファミリアに対しミネの情報開示を迫るだろう。
その後はミネを巡る大決戦だ。
ミネを手に入れれば、そのファミリアこそがオラリオ最強だ。
ヘスティアを送還してでもミネを手に入れたいと考える神など腐るほどいる。
ミネが表に出た瞬間に起こる未来を、ここにいる全員が理解していたからだ。
「……あの」
控えめに、しかしはっきりとした声だった。
円の外縁にいたリリルカが、小さく手を挙げる。
皆の視線が一斉に集まり、彼女は一瞬だけ身を竦めたが、それでも言葉を続けた。
「その……受けませんか?戦争遊戯」
「アホか、戦争遊戯をしたってミネがバレれば…」
「その上で、ギルド側に今回の不誠実をネタにペナルティを課すんです」
リリルカは一度、深呼吸した。
「ギルドにはファミリア同士の調停義務があります。
ですが、ヘスティア・ファミリアは既に十数回もの襲撃を受けている。それにもかかわらず、ギルドは“証拠がない”の一点張りで事実上の放置……これは明確な職務怠慢です」
場が、静まり返った。
「本来ならガネーシャ・ファミリアとの連携や襲撃者の調査、ヘスティア・ファミリアの保護をギルド側は行う義務があるはず。冒険者としてきちんと税を納めていたんですから」
リリルカの言葉が、夜の中庭に重く落ちた。
誰も、すぐには反論できなかった。
「……確かに」
アストレアが、静かに口を開く。
「ギルドは“中立”を名乗る以上、調停を放棄することは許されない。放置は中立ではなく、黙認ね」
リリルカを見つめなおし問う。
「リリルカ、貴女は何を要求するつもり?」
「簡単です」
リリルカは、はっきりと告げた。
「ヘスティア・ファミリアに所属する冒険者一人に対し恒久的なレベル公開義務の拒否権とその冒険者はファミリアのランク評価ではレベル1として扱う特権です」
その言葉が落ちた瞬間――
中庭の空気が、目に見えない形で凍りついた。
「…………は?」
最初に声を漏らしたのは、ヘスティアだった。
完全に想定外の要求に、目を丸くしている。
「リ、リリ? それって……」
「はい」
リリルカは一歩前に出た。
小さな身体だが、その声は揺れていなかった。
「“ミネ・シルヴァリエ”という存在を、ギルドの公式記録上――
レベル1の冒険者として固定する、という意味です」
眷属たちの間に、ざわめきが走る。
「ちょ、ちょっと待ってリリ!
それってつまり……!」
「はい。
ミネ様がどれだけ強くなろうと、どれだけ功績を積もうと――
ギルドは彼女を『レベル1』としてしか扱えなくなります」
ヘスティアは言葉を失った。
それは、保護であると同時に――
完全な封印でもあった。
「……大胆すぎるわね」
そう言ったのはアストレアだった。
しかしその声には、否定よりも評価が滲んでいる。
「ギルドにとって、それは“管理不能な戦力”を黙認するに等しい要求よ」
「はい」
リリルカは、真っ直ぐにアストレアを見返す。
「だからこそ、ペナルティなんです」
夜風が、月明かりを揺らした。
「今回の件で、ギルドは明確に職務を怠りました。
襲撃の事実を把握しながら、調査を行わず、保護も行わなかった」
「……それを認めさせた上で?」
「はい。
ギルドに“中立の名の下に弱者を切り捨てた”という前例を刻ませます」
「ギルドが飲むと思う?」
「飲みますよ、だって…」
にやりとリリルカが笑い…、
「フレイヤ、アストレア、ヘファイストス・ファミリアに連名で非難されたくなかったら飲む以外に道はないでしょう?」
それが正義を掲げるファミリアの団員の口から出たことにアストレアは頭痛を覚える。
しかしリリルカの手は妙手ではある。
税金問題は一気に解決。
ミネがバレたらまずいのは、そのレベルであってレベル不明なら強いことはわかっても流石にレベル6くらいが上限だと思わせられる。
常識的にレベル7以上が出てくるなんてことはまずないのだから。
推定レベル6なら無理やりミネを奪おうなんて神はかなり少なくなるだろう。
「…けっけっけっ、面白れぇじゃねぇか、リリ。今からあの豚の吠える顔が楽しみだ」
ライラがけらけらと笑う。
ライラとしてもあのギルドの豚に何度毟り取られたかわからない。
金にがめついアイツがオラリオ最高戦力からは金を全くと言って良いほど搾り取れない。
――それを思うだけで、ライラの口元は自然と歪んだ。
「それじゃあ、まずは根回しからね」
アストレアが静かに告げると、円の中心にいた全員の視線が自然と集まった。
「ギルドには正式な手続きを踏んで抗議を入れるわ。
事実と義務の不履行を淡々と突きつけてくるわ」
「その窓口は……」
「私が立つ」
迷いのない即答だった。
アストレアが前に出るという事実だけで、その重みは段違いだ。
ギルドが“聞かなかった”では済まされない立場になる。
「ギルドに要求をのませた後は…」
アストレアは一度、言葉を区切り、ヘスティアを見る。
「ヘスティア、戦争遊戯を受けるとアポロンに伝えてきなさい」
「わかったよ、アストレア。まったく、今からアポロンに何を要求してやるか考えておかなくちゃね」
この場においてミネの敗北を心配するものなど一人もいなかった。
何故なら心配するならアポロン・ファミリアの連中の方なのだから。
ミネは帰って来てからオッタルの依頼で素手によるタイマンをするようになってます。
報酬は洗礼の1日完全休止と満たす煤者達の1日休暇。
ヘイズ初め満たす煤者達は拝み倒した。
なお観戦はフレイヤ・ファミリアなら誰でもできたため最初は心配出来ていたもののミネの強さを知ってからは完全に観客気分でオッタルがボコされるのを楽しんでいる。
素手限定なのはミネが盾を失っているのでオッタルがそれに合わせた。
新しい盾は発注済みで現在、ゴブニュ・ファミリアで製造中。
前回の反省を生かし不壊属性がつけられミネの望んだ改造を施しお値段が跳ね上がった。(4億6000万ヴァリス)
フレイヤ・ファミリアは実はミネに対する最後の防壁だったり。
ミネがあまり暴走せずにここまでオラリオ側に知られなかったのはヤバめな情報が出回るとミネに伝わる前にアストレア・ファミリアからの依頼でフレイヤ・ファミリアでの囲い込みが行われるから。
ミネも何となく察してはいるが本当に自分の力が必要なら直接声を掛けてくるはずだとアストレア・ファミリアを信頼しているため敢えて何も言っていない。
ミネはレベルをそのまま公表するとミネを手にしたファミリアがオラリオ最強になれるというのが一番の問題。
こうなるとヘスティアの送還も視野に入れて動く神が現れ大戦争になる。
原作の春姫の襲撃回数とか見てると絶対起こるという嫌な確信がある。
このSSのフレイヤ様は…
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普通のフレイヤ様
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アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様