ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
「必要ないよ。タケにもそう伝えておいて」
「そんな、あまりにも無謀です!」
声を張り上げたヤマト・命は、思わず一歩踏み出していた。
ヘスティアは小さな体で腕を組み、命をまっすぐに見返す。
「ボクは今回の件で新たに眷属を迎える気はない。だから君を改宗するつもりもないよ」
「しかし――!」
「そんなことをしなくても、勝つのはボクたちだ」
断言だった。
迷いも、計算も、恐れさえも感じさせない声音。
命は言葉を失い、唇を噛みしめる。
「……無謀です! ベルさんだけで勝てるはずが――!」
「ボクには、もう一人眷属がいるんだ」
その言葉に、命の瞳が大きく見開かれた。
「……え?」
思わず、間の抜けた声が漏れる。
ヘスティア・ファミリア――その構成員は、ベル・クラネル一人のはずだ。
「冒険者登録をしていないだけで、もう一人いる。その子がいれば、勝てると確信できるくらいの子がね」
冗談を言っているようには、とても見えなかった。
「そ、そうなのですか……?」
問い返す声が、わずかに震える。
「だから命君は心配せず、タケの元に帰るんだ。あ、どうせなら酒場とかで賭けをやってるだろうから、ウチに賭ければ儲けられるかもね」
「へ……?」
一瞬、場の空気が抜けた。
「へ、ヘスティア様……!」
「冗談冗談。……半分くらいは」
笑うヘスティアに、命は頭を抱えそうになる。
「こ、こんな状況で賭け事の話をするなど……!」
「でもさ」
ヘスティアはふっと笑みを引っ込め、真剣な目で命を見る。
「実際、君たちも余裕なんてないんだろ?」
「……それは、そうかもしれませんが……」
命は言葉を濁しつつも、先ほどまでの強い否定は、もう口にしなかった。
確かに感じてしまったのだ。
この女神の中にある、揺るぎない“確信”を。
「……その、もう一人の眷属という方は……」
恐る恐る尋ねる。
「ちょっとした野暮用で、ベル君と一緒に出ていてね」
ヘスティアは人差し指を唇に当てた。
「安心しなよ、命君。ボクたちは負けない」
「……」
命は深く息を吐いた。
本気で、このまま勝つ気でいる。
もう一人の眷属の存在が気にならなかったわけではないが、理解せざるを得なかった。
「……承知しました」
命は静かに頭を下げる。
「タケミカヅチ様には、そのままお伝えします」
「うん。よろしく」
踵を返しかけた命は、ふと足を止めた。
「ヘスティア様」
「うん、何かな?」
「……どうか、ご武運を」
「ありがとう、命君」
ヘスティアは軽く手を振り、命の背を見送った。
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「ダメよ」
「なんでだ! 俺が敬愛した女神は、友を助けるななんて言わないはずだ!」
ヴェルフ・クロッゾの怒声が響いた。
赤髪の鍛冶師は拳を握り締め、炉の前に立つ女神を真正面から睨みつけている。
対するヘファイストスは、腕を組んだまま静かに彼を見返していた。
「落ち着きなさい、ヴェルフ」
「落ち着いてられるかよ!
あいつ一人で、アポロン・ファミリアとやり合うなんて――!」
「分かってる」
短く、だが重みのある声。
「分かっていて、止めているの」
ヴェルフは言葉に詰まる。
「……どうしてだよ」
絞り出すような声だった。
「ヘスティア様は、あんたの神友だろ?
ベルは、俺の……俺たちの仲間だろ!」
ヘファイストスはしばらく黙ったまま、工房の壁に掛けられた武器の数々を見つめていた。
「ねえ、ヴェルフ」
「……なんだよ」
「あなたの決意は、主神としてとても誇らしいわ。状況が違えば、喜んで送り出したでしょうね」
「だったらっ……!」
ヴェルフの声は、怒りと焦燥が入り混じって震えていた。
「だったら、どうして止めるんだよ!
見殺しにしろって言うのか!?」
炉の火が、ばちりと弾ける。
ヘファイストスは、すぐには答えなかった。
しばらくの沈黙の後、ゆっくりと口を開く。
「あなたがヘスティアのところへ行ったところで、結果は何も変わらない」
その言葉は、冷たい刃のようにヴェルフの胸に突き刺さった。
「あなたがいようといまいと、勝つのはヘスティア。
あの子を“楔”から解き放ってしまった以上、もう誰も止められない」
静かで、しかし抗いようのない確信を孕んだ声音。
ヴェルフは唇を噛み、俯く。
拳はまだ震えていたが、その力は少しずつ抜けていく。
「……楔、だと? 何だ、それは……」
「ミネは、ヘスティアの眷属よ」
「ミネ?」
そういえば、以前説教されたとき、そんな名前のエルフが一緒に正座させられていた気がする。
「あの子がいれば負けはない。だから、あなたがヘスティアのところへ行く必要はないわ」
断言だった。
ヴェルフは顔を上げ、ヘファイストスを睨む。
「……強いのか? あのエルフは」
「少なくとも、今回の戦争遊戯を完勝できるくらいにはね」
「……そんな人が、ヘスティア様のところに……?」
ヴェルフの喉から、かすれた声が漏れた。
ヘファイストスは肯定も否定もせず、ただ静かに炉の火へと視線を戻す。
赤く揺れる炎が、女神の横顔を照らしていた。
「“強い”なんて言葉じゃ、足りないわね」
「……」
「アポロン・ファミリア、そのすべてを一人で正面から叩き潰せる力がある」
ヴェルフは、思わず息を呑んだ。
「冗談だろ……?」
一緒に正座させられて叱られていた、あのエルフ。
まさか、そこまでの存在だったとは。
「……なんで、今まで表に出てこなかった」
「出られない事情があったのよ。そして、その事情も、もう問題なくなった」
即答だった。
「だから、ヘスティアのところへ行くことは許さない。
そんな決意を持っているところ悪いけど……このまま行けば、あなたは道化にしかならない」
ヴェルフは、言葉を失ったまま立ち尽くす。
――道化にしかならない。
それは侮蔑ではない。
むしろ、彼を思ってこその忠告だった。
「……そんな言い方、あるかよ」
かすれた声でそう返すが、反論の勢いはない。
「あるわ」
ヘファイストスは即座に言い切った。
「あなたが悪いんじゃない。ただ――舞台が違うの」
一歩、ヴェルフに近づく。
「ミネは……」
言葉を切り、静かに告げる。
「“均衡を壊す存在”よ」
ヴェルフの背筋を、冷たいものが走った。
「壊す……?」
「ええ。数も、戦力差も、常識も」
淡々とした語り。
「アポロン・ファミリアは、数で圧殺する前提で戦争遊戯を組み立てた」
「……」
「でも、ミネがいる限り、その前提は成立しない」
炉の火が大きく揺れ、火花が散る。
「正面から当たれば壊滅する。
策を巡らせれば、策ごと叩き潰される」
「……嘘だろ」
ヴェルフは呻くように呟いた。
「数が多いほど、的が増える。
あの子にとってはね」
沈黙。
ヴェルフは、自分の拳を見つめた。
多くの武器を生み、多くの戦士を支えてきた手。
「……俺は」
唇を噛みしめる。
「何もしなくていいのかよ」
「いいえ」
ヘファイストスは首を横に振る。
「“今は”何もしないでいなさい」
「今は……?」
「ええ」
その声は、確信に満ちていた。
「戦争遊戯が終わった後、あなたの力が必要になる」
「……何のために」
「決まっているでしょう」
壁に掛けられた武器を、軽く指で弾く。
「次の戦いのためよ」
迷いのない答え。
「だからこそ、あなたはここにいなさい。
鍛冶師として、仲間として」
ヴェルフは、ゆっくりと炉に向き直った。
燃え盛る炎を見つめながら、静かに拳を握る。
オラリオの夜は静かに、しかし確実に動き始めている。
戦争遊戯は、まだ始まっていない。
だが――
勝敗は、すでに裏側で決しつつあった。
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「はぁ……はぁ……はぁ……」
浅く早い呼吸が止まらない。
アポロン・ファミリア本拠の一室で、カサンドラ・イリオンは膝を抱え、床に座り込んでいた。
額には冷や汗。
指先は小刻みに震え、喉がひくりと鳴る。
「……また……」
唇から、かすれた声が零れた。
――夢。
いや、夢などではない。
彼女は知っている。
逃げようのない、必ず訪れる“未来”。
目を閉じれば、今も鮮明に焼き付いている。
傷だらけになりながらも、太陽に噛みつく兎。
そして――
「……来る……」
喉が張り付いたように、声が震えた。
蒼い凶鳥。
ただ、圧倒的な“何か”。
その羽ばたきが、太陽の輝きを消し飛ばす光景。
「……嫌……」
カサンドラは頭を抱える。
「また……誰も、信じてくれない……」
蒼い凶鳥は、すべてを覆す。
太陽神アポロンが描いた盤面そのものを、上から叩き潰す存在。
「……言わなきゃ……」
ふらつく足で立ち上がる。
どうせ、信じられない。
いつものことだ。
それでも――
「……言わないと……」
扉に手をかけた、その瞬間。
胸の奥が、ひどく冷えた。
――もう、間に合わない。
そんな確信が、骨の髄まで染み渡る。
戦争遊戯は、まだ始まっていない。
だが、勝敗はもう――
「……ああ……」
カサンドラの喉から、かすれた声が漏れた。
蒼い凶鳥が、羽を広げる。
太陽は、影に呑まれる。
それでも彼女は扉を開いた。
予言者としてではなく、一人の眷属として。
――せめて、悲鳴だけでも上げるために。
オラリオの夜は静かだった。
だが、その空の下で、均衡はすでに崩れ始めている。
ヘスティア・ファミリア。
名簿に載らぬ“もう一人”。
蒼い凶鳥が、目覚めの時を待っていた。
ヘスティア・ファミリアが切羽詰まってないのでヴェルフと命は入団理由が薄くなったため改宗ならず。
このSSのフレイヤ様は…
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普通のフレイヤ様
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アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様