ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか   作:救護騎士団オラリオ支部

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新しい眷属

「ふっふっふっ、ミネ君、ベル君! ようやく僕たちのファミリアも躍進の時が来たー!!」

 

 両手を高く掲げ、満面の笑みを浮かべるヘスティアの声が、新たな本拠に響き渡る。

 

 ベルとミネは、思わず顔を見合わせた。

 

「え、えっと……ヘスティア様?」

 

「なんだいベル君、その歯切れの悪い反応は!?」

 

 ヘスティアは腰に手を当て、得意げに胸を張る。

 

戦争遊戯ウォーゲームでの大勝利!

 アポロン・ファミリアの本拠を改築して、立派な拠点も手に入れた!

 ここで一気に勢力拡大を狙わずして、いつ狙うというのさ!」

 

「そ、それは……そうかもしれませんけど……」

 

 ベルは困ったように視線を泳がせる。

 

 確かに、戦争遊戯ウォーゲームの勝利は都市中に知れ渡っていた。

 ヘスティア・ファミリアは“弱小”という評価を完全に覆し、今や注目の的だ。

 特に1ヶ月という速さでレベル2からレベル3へと昇格したベルなんて他の神々からしょっちゅう勧誘されるようになった。

 

「さぁさぁさぁ、僕達の新しい仲間候補の顔を拝もうじゃないか!」

 

 そう言ってヘスティアが玄関の扉をあけ放つ。

 

 そこには多くの冒険者が、

 

 冒険者が…、

 

「……何で一人もいないのさー!!」

 

 ヘスティアの悲痛な叫びが、新しい本拠の玄関に虚しくこだました。

 

 開け放たれた扉の先には、整えられた中庭と風に揺れる草花だけ。

 人影は、影も形もない。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ベルとミネは、何も言えずに沈黙した。

 

「おかしい……おかしいよね!?」

 

 ヘスティアは慌てた様子で辺りを見回す。

 

戦争遊戯ウォーゲームに勝ったんだよ!? あのアポロンを完膚なきまでに! 話題性だって十分なはずなのに!」

 

「え、ええ……そうですね……」

 

 ベルは曖昧に頷きながら、視線を逸らした。

 

「そりゃそうだろ。

 アレを見て入団しようなんて、奇特な奴はいないだろ」

 

 不意に、どこか呆れたような声が割り込んだ。

 

「え?」

 

 ベルとヘスティアが同時に振り返る。

 

 玄関の柱にもたれかかるように立っていたのは、赤髪の青年――ヴェルフ・クロッゾだった。

 

「ヴェ、ヴェルフ!?」

 

「よぉ、ベル。久しぶりだな」

 

 軽く手を上げて挨拶するヴェルフの表情は、いつも通りの気安さを保っている。

 

「な、なんでヴェルフ君がここに!?」

 

「ヘファイストス様の代わりに様子を見に来ただけだ」

 

 そう言って、ちらりと開け放たれた玄関の外を見る。

 

「……で、これですか」

 

「これとはなんだい!」

 

「誰もいねぇ現実だよ」

 

 容赦ない一言に、ヘスティアはぐっと言葉に詰まった。

 

「今回の戦争遊戯ウォーゲームだが見てたやつはほとんどドン引きしてる。

 あんなヤベー奴がいるファミリアに行くとか正気かって持ちきりだ」

 

 ヴェルフは腕を組み、淡々と続ける。

 

「ミネの姉御*1がやった回復が、拷問じみててな」

 

 いつの間にか姉御呼びになっていることは、誰も突っ込まなかった。

 

「見てた側からすると、

 どんなにダメージを負おうが治されて戦場に引き戻される」

 

 ヴェルフは肩をすくめた。

 

「死ねねぇ、逃げられねぇ、倒れても終われねぇ。

 そりゃ“回復地獄”なんて言葉も出る」

 

 ぐうの音も出ない。

 

「そ、そんな馬鹿な~!?」

 

 ヘスティアが叫ぶが来ないものは来ないのだ。

 

 確かに――あの時のミネは容赦がなかった。

 味方でいてくれるからこそ心強い。

 だが、外から見れば“安心”とは別の感情を抱かせるだろう。

 

「……ベル君、最近、他のファミリアから勧誘されてるって言ってたよね?」

 

 ヘスティアがむすっとしながら言う。

 

 ギルド、酒場、通りすがり――

 

 戦争遊戯ウォーゲーム以降、何度か勧誘を受けていた。

 

「ミネ君は?」

 

「一度もありません」

 

 即答だった。

 

「だろ?」

 

 ヴェルフが肩をすくめる。

 

「神々の間じゃ、

 『下手に引き入れたら主神ごと殴られる』

 って噂まで流れてる」

 

「そんなこと……」

 

 ミネは一瞬だけ言い淀み、

 

「……しないとは言い切れませんが」*2

 

「否定しろよ!」

 

「間違った行いをしなければ手を出しません」

 

 淡々としたミネの一言に、場の空気が一瞬で凍りついた。

 

「いやいやいや! “間違った”の基準が怖いんだって!」

「それを判断するのは誰なんだい!?」

 

 ヘスティアとヴェルフが同時に突っ込みを入れる。

 

 ミネは首を傾げたまま、少しだけ考える素振りを見せた。

 

「一般的な倫理観と、法と、アストレア・ファミリアでの教えに照らし合わせて――」*3

 

「ほら重い!」

「基準が全部“裁く側”のやつだ!」

 

 ヴェルフは頭を抱え、深いため息をついた。

 

「……ま、そういうとこだな。誰も来ねぇ理由は」

 

 玄関先に吹き込む春風が、妙に冷たく感じられる。

 

「うぅ……」

 ヘスティアはがっくりと肩を落とし、その場にしゃがみ込んだ。

「せっかく立派な本拠まで手に入れたのに……!」

 

「あ、あの……」

 

 控えめな声が、沈み込んだ玄関に落ちた。

 

 気づけば、開け放たれた門の外、中庭の端に――

 二人の少女が立っていた。

 

 一人は黒髪を腰まで伸ばした少女。

 もう一人は、赤髪の少女。

 

「……人、いた?」

 ヘスティアが恐る恐る顔を上げる。

 

 ベルもミネも、同時に目を瞬かせた。

 

「え……? あ、あの……入団希望の方、ですか……?」

 ベルが戸惑いながら声をかける。

 

「そうよ。あんた達がアポロン様を追い出したせいで、こっちは居場所が無くなったの。

 責任取ってウチらを引き取りなさい」

 

 赤髪の少女は、はっきりと言い切った。

 

 一瞬、時が止まる。

 

「え……?」

 ベルの口から、間の抜けた声が漏れた。

 

「ベルさん、アポロン様の元眷属の方々ですよ。戦争遊戯ウォーゲームで見覚えがあります。特に黒髪の方は」

 

 ミネの静かな指摘に、場の空気が一段と張り詰めた。

 

「え……?」

 ベルは改めて二人の少女を見つめる。

 

 黒髪の少女は、視線を伏せたまま小さく頷いた。

 

「……はい。戦争遊戯ウォーゲームでは、後衛として……」

 

「ほら」

 

 赤髪の少女が腕を組み、少しだけ顎を上げる。

 

「アンタたちの“回復役”に何度も引き戻された側よ」

 

 ヘスティアはゆっくり立ち上がり、二人を見比べた。

 

「元アポロン・ファミリア……か」

 

 その名前を口にした瞬間、赤髪の少女の目が僅かに揺れる。

 

「言っておくけど他の連中は来ないわよ。あんなおっかない奴のいる所に行くって正気かって他のファミリアに移籍済み」

 

 赤髪の少女は淡々と言い切った。

 

 その言葉に、ヘスティアの肩がぴくりと震える。

 

「……つまり」

 

 ヘスティアは、ゆっくりと視線を二人へ向けた。

 

「君たち二人だけ、ってことかい?」

 

「ええ」

 

 赤髪の少女は即答する。

 

「それで、どうするの?ウチらは入団を希望してここに居るんだけど?」

 

 赤髪の少女の問いかけに、場の視線が一斉にヘスティアへ集まる。

 

「…………」

 

 ヘスティアは口を開きかけ、閉じた。

 一度、ミネを見る。

 次にベルを見る。

 

 二人とも、何も言わずに待っていた。

 

「……ふぅ」

 

 小さく息を吐き、ヘスティアは腰に手を当てた。

 

「大歓迎だよ~。さぁ、早く改宗コンバートしよう! 善は急げだ!」

 

 あまりにも軽い一言に、場の空気が一瞬で固まった。

 

「は?」

 

 赤髪の少女が、素で聞き返す。

 

「……え?」

 

 黒髪の少女も、完全に思考が追いついていない表情だ。

 

「ちょ、ちょっと待ってヘスティア様!?」

 

 ベルが慌てて割って入る。

 

「条件とか、説明とか……!」

 

「細かいことは後! 今は勢いが大事なんだよ勢いが!」

 

「勢いで改宗コンバートさせる神初めて見たわよ!」

 

 赤髪の少女が思わず叫ぶ。

 

 ヴェルフは額を押さえ、深いため息をついた。

 

「……相変わらずだな、この女神様」

 

 だが。

 

「……ふふ」

 

 小さな笑い声が、場に落ちた。

 

 黒髪の少女だった。

 

「あ……?」

 

 彼女は、胸の前で手を握りしめながら、俯き気味に言う。

 

「正直……追い返されると思ってました

 元アポロン・ファミリアですし」

 

 その声は、かすかに震えている。

 

「だから……」

 

 顔を上げ、ヘスティアを見る。

 

「“大歓迎”って言われて……少し、びっくりして……」

 

 赤髪の少女は、横目でそれを見て、ふっと鼻を鳴らした。

 

「……あんた、弱いとこ見せすぎ」

 

「で、でも……」

 

「まあ、いいわ」

 

 赤髪の少女は肩をすくめ、ヘスティアへ視線を戻す。

 

「本当に、ウチらを受け入れる気があるのね」

 

「あるとも!」

 

 ヘスティアは胸を張り、迷いなく言い切った。

 

「君たちがどこのファミリアにいたかなんて関係ない

 今、行き場がなくて、ここに来た。それだけで十分だよ」

 

 一瞬の沈黙。

 

 赤髪の少女は、わずかに目を細めた。

 

「……随分、あっさり言うのね」

 

「うん。僕、面倒なこと嫌いだからさ!」

 

「…まったく、のんきな連中ね」

 

 赤髪の少女が、ふと思い出したように言う。

 

「まだ、名乗ってなかったわね」

 

「そうだよ!僕達の新しい家族の名前を教えてくれよ」

 

 ヘスティアの言葉に、赤髪の少女は一瞬だけ視線を伏せ――すぐに顔を上げた。

 

「……ダフネ・ラウロス。元アポロン・ファミリアよ」

 

 きっぱりと名乗り、隣を示す。

 

「こっちは――」

 

「カサンドラ・イリオン、です」

 

 黒髪の少女が、少し緊張した様子で頭を下げた。

 

 こうしてヘスティア・ファミリアは新たな仲間を迎え新たな冒険の第一歩を踏み出すことになる。

*1
ミネはヴェルフと同い年である

*2
ぶっちゃけヘスティア以外ではアストレアクラスの善神でないと制御しきれない

*3
アストレア・ファミリアで育てられただけあって倫理観はしっかりしてるのが救い




・改宗できたとしても馬鹿な事したら主神だろうと殴りに来そう。
・治癒師と凶戦士が同居できるってマジ?
・ヒーラーって頭おかしいの多いけど、その中でぶっちぎりに頭のおかしいヤベー奴。
・アレを引き入れるとかないわー。
白妖の魔杖ヘディンとは別方面のドS。

等と神々から思われている模様

このSSのフレイヤ様は…

  • 普通のフレイヤ様
  • アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様
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