ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか   作:救護騎士団オラリオ支部

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ライラって解決能力高そうで苦労人枠に入れやすいから出番多くなっちゃうのよね。
なのでベル君やヘスティア様より出番多くなってしまう。


苦労人ライラ

「に、逃げなきゃ……!?」

 

 手首につながれた鎖を外そうと、ベル・クラネルは必死に腕を動かしていた。

 

 石壁に反射する光は弱く、空気は重く湿っている。

 拘束具は頑丈で、冒険者用に作られたものだ。簡単には外れない。

 

 ――ギィ……。

 

 重く、湿った音を立てて鉄格子が開く。

 

 ベルは思わず息を呑み、反射的に身を引いた。

 逃げ場はない。

 鎖は外れず、足元は石床。

 

「あ、あの…、大丈夫ですか?」

 

 そこに居たのは狐の耳に尻尾、狐人の少女だった。

 

「あ、貴女は?」

 

 狐人の少女は、怯えたように一歩だけ近づいた。

 

「春姫とお呼びください。今、外しますので…」

 

 春姫は小さな鍵束を震える手で取り出し、拘束具に差し込んだ。

 

「だ、大丈夫です……すぐ……」

 

 ――ガチャン。

 

 硬い音と共に、鎖が外れる。

 

「……っ!」

 

 ベルは思わず息を呑み、自由になった手首を見つめた。

 

「ありがとうございます……! 本当に……!」

 

「い、いえ……それより……!」

 

 春姫の声が、かすかに震える。

 

 ――ドンッ!!

 

 遠くで、重い衝撃音。

 壁が揺れ、天井から砂埃が落ちてきた。

 

 轟音が、近づいてくる。

 

 ――ドンッ!!

 

 地下牢全体を揺さぶるような衝撃が、再び鳴り響いた。

 

「ひっ……!」

 

 春姫が思わず身をすくめ、耳と尻尾が強張る。

 ベルも反射的に拳を握り、壁に背を預けた。

 

「な、何の音……?」

 

「……上、です……。たぶん……」

 

 言葉を濁す春姫の表情は、恐怖と、どこか信じられないものを見ているような色が混じっていた。

 

 ――ドンッ、ガァァン!!

 

 爆音とともに、地下牢の壁が内側へと砕け散った。

 

 石片と粉塵が吹き荒れ、ベルは反射的に春姫を庇うように身を寄せる。

 

「きゃっ……!」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 視界が白く霞む。

 咳き込みながら顔を上げた、その先――。

 

 崩れた壁の向こうに、一人の少女が立っていた。

 

 蒼い髪。

 埃と赤紫の灯りを背に、静かにこちらを見つめる瞳。

 

「……ベルさん」

 

 その声を聞いた瞬間、ベルの胸が大きく跳ねた。

 

「ミ、ミネさん……!?」

 

 間違いない。

 今、最も会いたかった人だった。

 

 ミネは崩落した壁の瓦礫を踏み越え、地下牢へと足を踏み入れる。

 その足取りは落ち着いているが、拳には僅かに力がこもっていた。

 

「遅くなって、すみません」

 

「い、いえ! それより……!」

 

 ベルは、ミネの背後を思わず確認する。

 

「命さんもっ!?」

 

 その背後に居たのは一緒にダンジョンに潜っていたタケミカヅチ・ファミリアのヤマト・命だった。

 

「え、は、春姫殿!?」

 

 命が思わず声を上げた。

 

 地下牢に漂っていた緊張が、その一言でわずかに揺らぐ。

 狐人の少女――春姫は、驚いたように目を見開き、そして小さく頭を下げた。

 

「命様……」

 

 命は安堵に息を吐き、すぐに周囲を見回す。

 

「ベル殿も……良かった……本当に……」

 

「命さん……!」

 

「お二人は先に離脱を。そちらの狐人の方は…」

 

「私がお連れしますっ!」

 

「……っ」

 

 春姫は、命の手を取ろうとして――寸前で、それを振り払った。

 

「い、いけません……!」

 

 怯え切った声。

 だが、その瞳には、はっきりとした拒絶が宿っていた。

 

「私は……私は、イシュタル様の……

 ここから逃げることは出来ません……」

 

「春姫殿!」

 

 命が思わず一歩踏み出す。

 その声には、焦りと困惑が滲んでいた。

 

「何を言っているのです!

 貴女は――」

 

 春姫の指先が、喉元の黒い鎖に触れる。

 鈍く、不吉な光を放つ魔道具。

 

「これは私の居場所を知らせる魔道具……歓楽街から一歩でも出れば、音を立てて鳴り響き、首を焼いて……私を動けなくします」

 

 震える声だった。

 だが、それは恐怖だけではない。

 

「だから……よいのです。それよりもここから早くお逃げください……」

 

 諦めだ。

 

「……大丈夫です」

 

 静かな声。

 だが、確かな力を宿した声音。

 

 ミネが、一歩前に出る。

 

 蒼い瞳が、黒い鎖を正確に捉えていた。

 

 無言のまま黒い鎖に手をかけ、

 

「はぁ!!」

 

 その鎖を飴細工のように引きちぎった。

 

 一瞬、時間が止まったかのようだった。

 

 ぱらりと、砕けた黒い鎖の破片が床に落ちる。

 魔力を帯びていたはずの魔道具は、もはやただの金属片と化していた。

 

「………………え?」

 

 春姫の喉元には、何もない。

 

 焼け焦げる痛みも、警告音も、縛り付ける感覚も――ない。

 

「…………あ……?」

 

 春姫は、恐る恐る自分の首に手を当てた。

 指先に触れるのは、自分の肌の温もりだけ。

 

「……な……に……を……?」

 

 声が、震えた。

 

 ベルと命は、言葉を失ったままミネを見つめている。

 

 あれほど忌まわしく、抗えないと信じ込まされていた鎖を――

 力任せに、引きちぎった。

 

「……ミ、ミネさん……?」

 

 ベルの声は、呆然としていた。

 

「これで問題ありませんね。お二人は春姫さんを連れて脱出を。私には少々、やり残したことがあるので」

 

 ベルと命は、思わず同時に声を上げた。

 

「や、やり残したことって……!」

 

「ミネ殿、一人で残るつもりですか!?」

 

 地下牢の空気が、再び緊張を孕む。

 

 ミネは振り返らず、短く答える。

 

「はい」

 

 それだけで、意志は十分すぎるほど伝わった。

 

「ですが……!」

「大丈夫です」

 

 命の言葉を遮るように、ミネは静かに続ける。

 

「必ず、追いつきます。――春姫さんを、お願いします」

 

 その声には、疑いようのない確信があった。

 

「……っ」

 

 命は歯を食いしばり、一瞬だけ視線を伏せる。

 そして、強く頷いた。

 

「……分かりました。必ず、無事で!」

 

「はい」

 

 ベルは何か言おうとして――結局、言葉を飲み込んだ。

 代わりに、深く頭を下げる。

 

「……ありがとうございます、ミネさん」

 

「気にしないでください。私の“仕事”ですから」

 

 その言葉に、春姫がはっと顔を上げた。

 

「……あ、あの……!」

 

 不安と戸惑い、そして微かな希望が混じった声。

 

「わ、私は……皆さんに、迷惑をかけるわけには……」

 

 ミネは、ようやく彼女に向き直った。

 

「貴女の主張を聞くつもりはありません」

 

 ミネの声は、柔らかく――しかし一切の反論を許さない強さを帯びていた。

 

「……私は救護が必要な方を、救護する。それだけです」

 

 それだけで、十分だった。

 

 命は春姫の肩に手を置き、静かに頷く。

 

「行きましょう」

 

「……はい……」

 

 震える声で答え、春姫は初めて自分の足で一歩を踏み出した。

 

「ミネさん!」

 

 去り際、ベルが振り返る。

 

「絶対……無理しないでください!」

 

 ミネは、ほんの一瞬だけ振り返り、微笑んだ。

 

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「これはひどい」

 

 ライラの一言がこの場の全てを物語っていた。

 

 即座に召集できたのはネーゼ、イスカ、マリュー、リリルカとレベル2~4のメンバーでイシュタル・ファミリアと事を構えるには心もとないメンバーだったが今はそんなことどうでもよくなるくらいには目の前の惨状は凄惨極まるものだ。

 

 ……沈黙が、異様な重さで場を支配していた。

 

「……いや、マジでひどい」

 

 ライラはもう一度、同じ言葉を繰り返した。

 それ以外に、適切な表現が見当たらなかった。

 

 イシュタル・ファミリアの本拠は、もはや“戦場跡”ですらない。

 戦闘の痕跡というより、一方的な蹂躙の結果だった。

 

 床に倒れ伏す戦闘娼婦たち。

 壁にめり込み、天井に突き刺さり、柱を粉砕して沈黙する者たち。

 

「うわ~、ソーマ・ファミリアの時もここまでじゃなかったよね?」

 

 ネーゼが乾いた笑いを漏らした。

 

「やめてください、ネーゼ様。あの時の事を思い出してしまいます…!」

 

「……これはもう“事故現場”ね」

 

「事故で済ませていいのかしらね……」

 

 イスカが壁に空いた大穴を覗き込み、眉をひそめる。

 向こう側には隣の建物の廊下が見えていた。

 

 その時。

 

 ――コツ、コツ。

 

 瓦礫を踏む、規則正しい足音が響いた。

 

 全員が即座に武器へと手を伸ばす。

 

「誰だ!」

 

 イスカの鋭い声に応じるように、崩れた回廊の向こうから人影が現れた。

 

「……待て」

 

 ライラが、手を上げる。

 

 現れたのは、埃にまみれた蒼髪の少女だった。

 だが、その足取りは驚くほど安定している。

 

「……ミネ」

 

 呼びかけに、彼女は小さく頷いた。

 

「ライラさん。皆さんも……来ていたのですね」

 

 その声は、いつも通り落ち着いていた。

 つい先ほど、女神の本拠を蹂躙した人物とは思えないほどに。

 

「……ベルと命は?」

 

 ライラが問いかける。

 

「無事、離脱しました」

 

 その言葉に、場の緊張がわずかに緩んだ。

 

「……そうか」

 

 ライラは短く息を吐く。

 

「で?」

 

 ぐっと一歩、ミネに近づく。

 

「とりあえず言い訳を聞いておこうか?」

 

 ミネは一瞬だけ考えるように視線を彷徨わせ――そして、いつも通りの調子で答えた。

 

「……正当防衛です」

 

「通るかぁぁ!!」

 

 ライラの叫びが、崩壊した広間に虚しく反響した。

 

「どこをどう見たら正当防衛なんだよ!

 建物は半壊! 団員は全滅! というか、あそこに倒れてるのイシュタル様じゃねーか!

 殴ったのか!?お前、神を殴ったのか!!?」

 

「襲われましたので」

 

「先に踏み込んだのは誰だ!」

 

「私です」

 

「自白すんな!!」

 

 イスカが肩を震わせ、必死に笑いを噛み殺している。

 

「……あは、あはは……ダメだ、腹筋が……」

 

「笑ってる場合じゃねぇ!」

 

 ライラは額を押さえながら、真剣な顔でミネを見た。

 

「で何を見つけた?」

 

 ライラの問いに、ミネは少しだけ視線を伏せた。

 

「お前の事だ。どーせソーマ・ファミリアの時みたく何らかの後ろ暗い物の証拠を確保してんだろ?」

 

 瓦礫と沈黙に満ちた広間。

 倒れ伏す戦闘娼婦と、半壊した本拠。

 その中心に立つ彼女は、淡々と――しかし確実に重い事実を口にする。

 

「とりあえずは闇派閥の繋がりと資金の提供の証拠。それに伴う脱税の形跡のある書類を確保しています」

 

 その一言で、場の空気が完全に凍りついた。

 

「……は?」

 

 ネーゼが、今度こそ本気で固まる。

 

「ちょ、ちょっと待って……今、何て言った?」

 

 イスカが指を折りながら確認するように言葉を繰り返す。

 

「闇派閥と繋がってて、資金提供してて、脱税……?」

 

「はい。まだまだありますが、一番不味いのはこれかと」

 

 ミネは淡々と頷いた。

 

「帳簿、送金記録、裏取引の内容も含めて、かなり明確です」

 

 ライラが、頭を抱えた。

 

「……あー……」

 

 そして、深く、深く溜息を吐く。

 

「これ、もう“ファミリア潰し”とかそういう次元じゃねぇな……」

 

「歓楽街を牛耳るイシュタル・ファミリアが、闇派閥と直接繋がっていたとなると……ギルドが動かざるを得ない」

 

「というか、送還コースだよね?」

 

 ネーゼが乾いた声で言う。

 

 全員の視線が、広間の奥――瓦礫の中に半ば埋もれるように倒れている女神へと向けられた。

 

 艶やかな髪も、妖艶な衣装も埃に汚れ、イシュタルは気絶したまま動かない。

 

「……やっちまったなぁ」

 

 ライラがぼそりと呟く。

 

「不可抗力です」

 

 ミネは即答した。

 

「不可抗力で神を殴るな」

 

 コイツ、後でどんな罰を与えれば懲りるだろうかと思いながらライラは後始末の事を考え頭を抱えるのだった。




ミネはイシュタル・ファミリアを全滅させた後は悠々と命を救った後にベル君救出までスムーズに行った模様。
なお、ベル君達と別れた後にフリュネと遭遇したが即救護した。
その後は怒られるのはわかっているのでイシュタルの資質などを漁りヤバげな書類等を集めて足場固め。
ライラの弟子なのでそこらへんは抜かりなかったり。
この強さのくせして書類仕事もきっちりこなせるので資料を見つけるのもお手の物の上、ライラの教えで機密資料の場所の発見も得意。
アストレア曰く、ライラのいいところも悪いところも全てしっかり学んでいるとのこと。

ベル君は歓楽街に行ってないのでここで春姫と初遭遇。
原作7巻部分の経験が完全になくなりますが、そもそもアストレア・ファミリアに日常的に鍛えられているので対人、格上経験含め問題は無かったり。

フレイヤ様は静観。
ミネが動いたことは把握しているので歓楽街に人員を配置するくらいに留め有事の際だけ手を出すように指示。

このSSのフレイヤ様は…

  • 普通のフレイヤ様
  • アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様
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