ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか   作:救護騎士団オラリオ支部

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オラリオの火薬庫

 ベルと命の誘拐から端を発するイシュタル・ファミリアの壊滅は、瞬く間にオラリオ中を駆け巡った。

 

 歓楽街を支配していた巨大派閥が、一夜にして瓦解したという事実は、冒険者のみならず商人や神々にまで大きな衝撃を与え、ギルドの機能が一時マヒするほどの混乱を招く。

 

 アストレア・ファミリアにより、イシュタル・ファミリアの暗躍が単なる歓楽街の支配に留まらず、闇派閥との取引、巨額の脱税行為、他ファミリアへの襲撃など、数え切れぬ悪辣な行為に及んでいたことは白日の下に晒された。

 

 もはや弁明の余地はない。

 

 ギルドは即座にイシュタル・ファミリアの全面的な調査を宣言。

 残存する団員の拘束と聴取、資産の凍結、そしてロキ、アストレア、ガネーシャ・ファミリアによる合同調査が、間断なく進められていった。

 

 イシュタルは取り調べの後、送還が決定された。

 歓楽街という巨大な利権の空白が生まれれば、さらなる混乱を招くことは想像に難くない。

 

 ギルドは、しばらくの間大忙しだろう。

 そう考え、ライラは内心で少しだけ同情した。

 

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「うわ~、私たちが居ない間にすごいことになってるじゃない」

 

 アリーゼはどこか他人事のように、事の顛末を記した報告書をぱらぱらと捲った。

 

「イシュタル・ファミリア壊滅……よくもまあ、こんな短期間で」

 

「笑い事ではありません」

 

 即座に釘を刺したのは、隣に立つリュー・リオンだった。

 

 腕を組み、険しい表情で文書を睨んでいる。

 

 まさか主力メンバーがロキ・ファミリアと共に人造迷宮の調査をしている間に、ミネが単独で歓楽街に踏み込み、結果として都市の闇を根こそぎ引きずり出す事態に発展するとは、誰も想像していなかった。

 

 いや、今回ミネはそこまで悪くは無いのだ。

 

 ファミリアの団長が誘拐された時点でそれは宣戦布告と捉えられても文句は言えない。

 

 問題なのは明らかな過剰防衛と状況証拠だけでイシュタル・ファミリアという各方面に影響の大きいファミリアを壊滅させたこと。

 

「ミネの事は……まあ、置いときましょう」

 

 アリーゼは軽く肩をすくめる。

 

「あの子、反省はしても絶対に自分を曲げないから。どうせまた何かやらかすことは確定してるんだし」

 

 それよりも問題はイシュタル・ファミリアから保護した狐人の方だ。

 

「サンジョウノ・春姫、ね。この魔法は不味いわよ。狙ってくださいって言ってるようなものじゃない」

 

 ウチデノコヅチ

 

 15分間だけ他者のレベルを一段階昇華させる規格外の魔法。

 

「仮にミネに使えば前代未聞のレベル10。見たいような見たくないような…」

 

 まぁ、これをミネに使うような事態が起きる状況なんて考えたくもないけど。

 

 そんな感想を抱きながらアリーゼは報告書を閉じ、背もたれに体を預けた。

 

「厄介事はまとめた方がいい、か。ライラも相当キてるわね」

 

 そんな春姫だが、既にヘスティア・ファミリアに改宗することが決まっている。

 

 厄介事はもう一纏めにした方がいいと、死んだ目でライラが提案してきたときは、さすがのアリーゼも一瞬だけ言葉に詰まった。

 

「分散して管理するより、問題の中心を一箇所に集めた方が被害は限定できる。理屈は分かるけどねぇ……」

 

 アリーゼは天井を仰いだ。

 

「火薬庫に火種を全部放り込んで、“管理しやすい”って言ってるようなものよ?」

 

 沈黙が、室内に落ちた。

 

 アリーゼの言葉に、リューも反論しなかった。

 否――反論できなかった、が正しい。

 

 ベル・クラネル。

 急成長の象徴であり、トラブルを引き寄せる体質の塊。

 

 ミネ・シルヴァリエ。

 暴走すれば止める手段のない、都市最強の戦力。

 

 サンジョウノ・春姫。

 存在するだけで均衡を破壊しかねない、禁忌に近い魔法の担い手。

 

 今後、オラリオはヘスティア・ファミリアが中心となって動いていくのだろうとアリーゼは半ば確信するのだった。

 

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 竈火の館。

 

 アポロン・ファミリアとの戦争遊戯で得た旧アポロン本拠。

 今では完全にヘスティア・ファミリアの居城として機能しているその建物の一室で、ヘスティアは新たな眷属を二人迎えていた。

 

「よ、よろしくお願いします……ヘスティア様」

 

 一人は、サンジョウノ・春姫。

 

 先日、ベルが歓楽街で救い出した狐人の少女。

 儚げな外見とは裏腹に、都市の均衡を揺るがしかねない規格外の魔法《ウチデノコヅチ》を宿す、極めて危うい存在だ。

 

 緊張で強張った表情のまま、春姫は深く頭を下げている。

 

「よろしくね、春姫君! うちでは堅苦しいのはナシだから!」

 

 ヘスティアはにかっと笑い、春姫の肩を軽く叩いた。

 その拍子に、春姫は驚いたように小さく声を上げる。

 

「は、はい……!」

 

 そして、もう一人。

 

「これから世話になるよ。ヘスティア様?」

 

 軽い調子で名乗ったのは、褐色の肌に長い黒髪を持つアマゾネス。

 

 アイシャ・ベルカ。

 

 元イシュタル・ファミリアの団員。

 歓楽街では名の知れた実力者であり、数多の修羅場をくぐり抜けてきた戦士だ。

 

 ――もっとも。

 

 その誇り高いアマゾネスが、数日前、たった一人の冒険者に完膚なきまでに叩き潰された事実を知る者は、そう多くない。

 

 ミネ・シルヴァリエ。

 

 彼女に何一つさせてもらえず、抵抗すら許されず、一方的に蹂躙された記憶は、アイシャの矜持を深く抉っていた。

 

 もともと春姫の境遇には思うところがあった。

 加えて、あの敗北の雪辱。

 

 ――春姫の護衛と、ミネへのリベンジ。

 

 その二つを同時に果たすには、ヘスティア・ファミリアへの加入は、あまりにも都合が良かった。

 

「……」

 

 ヘスティアは、二人を交互に見てから、ぐっと拳を握る。

 

「うん! 歓迎するよ! 二人とも、今日からボクの大事な家族だ!」

 

 その宣言に、春姫の目が潤み、アイシャは肩をすくめて笑った。

 

「私、その……皆さんに迷惑を……」

 

「ストップ!」

 

 ヘスティアは人差し指を立てる。

 

「迷惑かどうかを決めるのは、周りじゃなくて僕。で、僕は“歓迎”してる。それだけで十分!」

 

「……っ」

 

 春姫は堪えきれず、ぽろりと涙を零した。

 

 それを見て、アイシャは小さく鼻を鳴らす。

 

「いい神様じゃないか。少なくとも、あの女神よりはね」

 

 その一言に、部屋の空気がわずかに張り詰める。

 

「ふふん、見る目があるねアイシャ君!」

 

 しかし、ヘスティアは気にした様子もなく、むしろ胸を張った。

 

 ヘスティア・ファミリアは、今日も前へ進む。

 

 騒動の中心として。

 

 そして、オラリオの未来を揺るがす存在として。




歓楽街の騒動の裏でアリーゼ、輝夜、リューを含めたアストレア・ファミリア数人が人造迷宮の探索に参加してました。
前回、アストレア・ファミリアの招集状況が悪かったのはロキ・ファミリアと一緒に事後処理をしていたから。
アリーゼ、輝夜はレベル6、リューはレベル5でステイタスを成長させるために昇格は保留中。
他団員もレベル3~4と大幅な戦力増強した上で人造迷宮の探索が決行。
この影響でリーネ含めたロキ・ファミリアの犠牲が無くなりました。

このSSのフレイヤ様は…

  • 普通のフレイヤ様
  • アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様
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