ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
問題はキヴォトスが基本話し合いより先に撃ち合いを始めるうえ、一部を除いた生徒以外は倫理観が終わっているので団長の暴走は元々もありますがキヴォトスブーストによって悪化した結果なのかなと。
訓練を終えた草原に、夕風が渡る。
倒れ伏す草と抉れた大地だけが、先ほどまでの激突を物語っていた。
アイズは静かに息を整える。
全身に残る疲労。
だがそれ以上に――確かな充実。
「……ありがとうございました」
素直な言葉だった。
向けられるのは、蒼の少女。
ミネは首を横に振る。
「私は少しお手伝いしただけです」
そのやり取りを、重い足音が遮る。
猛者オッタルが歩み寄った。
「特訓はここまでだ」
短く告げ、そして本題に入る。
「報酬の件だが」
アイズの金の瞳が瞬く。
「俺への対価は取り決めの通りだ。フレイヤ様が望んだとき貴様には対価を支払ってもらう」
そこまでは、事前に決まっていた。
アイズからフレイヤ・ファミリアへ。
あくまで個人的な報酬。
だが。
「ミネへの報酬はどうする」
「…えっ?」
思考が止まる。
「ミネはフレイヤ様の眷属ではない。当然、報酬も別で支払う必要がある」
淡々とした指摘。
その通りだった。
今回の特訓は、オッタルとの約定に基づくもの。
だがミネはその枠外にいる。
完全に、抜け落ちていた。
「……ごめんなさい」
アイズは即座に頭を下げた。
ミネは慌てて首を振る。
「い、いえ。本当に私は自発的に……」
「それでは示しがつかん」
オッタルの声は揺るがない。
「ミネ、これはお前だけの問題ではない。ファミリア間の報酬を蔑ろにすればヘスティア・ファミリアにも悪影響だろう」
善意では済まされない世界。
アイズは唇を引き結ぶ。
「……何を、望みますか」
真っ直ぐに、ミネを見る。
逃げない。
ミネはしばらく黙考し、静かに息を吐いた。
「では、一つお願いがあります」
アイズの瞳が揺れる。
「数日間、ロキ・ファミリアに滞在させていただけませんか?」
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――ロキ・ファミリア本拠地の玄関ホール。
「そういうわけだからミネを少しの間泊めてあげたい」
アイズの簡潔な説明。
一拍の沈黙。
「ふ~ん、なるほどなぁ」
予想外の人物を連れて来たアイズの話を聞いていた主神が、にやりと笑う。
そして。
「っていいわけあるか!何でウチがドチビの眷属を泊めなあかんねん!!」
ホールに反響する怒号。
ミネはぺこりと丁寧に頭を下げる。
「突然のお願い、申し訳ありません」
「謝って済む問題ちゃうねん! 自分ドチビの眷属やぞ!? 顔合わせた瞬間、戦争や!」
「ロキ」
短く名を呼んだのは、団長フィン。
静かな声音。
「正式な報酬という話なら、無碍にはできないよ」
ロキはぎり、と歯を鳴らす。
「理屈は分かっとるわ!」
視線がミネに向く。
値踏みするように。
「くぅ~、近くで見ればめっちゃ別嬪さんやないか! しかもおっぱいも大きい! なんでドチビの眷属なんや!! そこを除けば完璧やのに!!」
アイズは首を傾げる。
「……だめ?」
その無垢な一言に、ロキは天井を仰いだ。
「……しゃあない。 数日間だけや。 正式な報酬やからな!」
許可が下りる。
その瞬間――
「はぁぁぁぁぁぁあ!!!!?」
甲高い絶叫がホールを震わせた。
「な、な、ななななななな……!」
振り向けば、金髪のエルフ。
蒼い瞳を見開き、指を震わせる。
レフィーヤ・ウィリディス。
「なんでここにいるんですかぁぁぁぁ!!?」
悲鳴のような問い。
ミネは静かに微笑む。
「お久しぶりですね。レフィ」
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滞在中はアイズの部屋を借りることになった。
廊下を歩くミネ、アイズ、レフィーヤ。
だが――
「あれ、ミネじゃん! 何でここに居るの?」
軽い声と共に現れたのは双子のアマゾネス、
ティオナ・ヒリュテとティオネ・ヒリュテ。
「アンタ、まさか団長を狙ってきたんじゃないでしょうね?」
ティオネがじろりと睨む。
さらに――
「ミネ、久しぶりだな」
落ち着いた声が廊下に響く。
長い緑髪を揺らし、気品ある佇まいで立つエルフ。
リヴェリア。
「ロキから聞いている。しばらく滞在すると」
「はい。ご迷惑をおかけします」
ミネは深く一礼する。
リヴェリアは静かに頷いた。
「すまないが、少し話がしたい。時間はあるか?」
その眼差しは穏やかだが、鋭い。
副団長としての視線。
部外者を迎え入れる以上、確認は必要だ。
「もちろんです」
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アイズの部屋はロキ・ファミリアの幹部らしくそれなりの広さを持つ。
しかしミネ、アイズ、レフィーヤ、ティオネ、ティオナ、リヴェリアと6人もの女子が居るとなれば少し手狭に感じてしまうのも仕方なかった。
「ミネ。単刀直入に聞こう」
翡翠の瞳が、真っ直ぐ射抜く。
「今回の滞在の真意は何だ?」
報酬という建前はある。
だがそれだけではないだろう、と。
副団長としての確認。
部屋が静まる。
ミネはゆっくりと視線を巡らせた。
アイズを見る。
レフィーヤを見る。
ヒリュテ姉妹。
そしてリヴェリア。
「……確かめたいことがあるんです」
「確かめる?」
アイズが小さく首を傾げる。
「はい。ロキ・ファミリアの中でレフィがどのような人間関係を築きどのように過ごしているかを確認したかったのです」
レフィーヤが、固まった。
「……は?」
間の抜けた声。
ミネは穏やかなまま続ける。
「姉代わりとしてはやはり妹分の環境が気になっていたもので」
あんまりな返答にリヴェリアは少しの間呆けていたが、
「……ふふっ、な、成程、な……っ」
口元を押さえながら、視線を逸らす。
この同胞の少女は一切の裏がない。
ただ単純に、妹分であるレフィーヤが心配で心配でたまらなかっただけなのだと。
「え、なにそれ? 保護者?」
「過保護すぎでしょ」
ティオネが呆れたように肩を竦める。
アイズは小さく瞬きをした。
「……レフィーヤ、心配されてる」
「アイズさんまで!?」
レフィーヤは今にも床に崩れ落ちそうだった。
だがミネは至って真剣だった。
「再会してから少し忙しかったのでレフィと会うこともできませんでしたので、この機会にゆっくり話したかったのです」
レフィーヤの顔がみるみる赤く染まっていく。
「な、なんでそんなことをわざわざ確認しに来るんですか!?」
「大切だからです」
即答だった。
あまりにも迷いのない声音に、部屋の空気が一瞬だけ止まる。
レフィーヤは言葉を失い、口をぱくぱくと動かした。
「わ、私はもう子供じゃありませんし! ロキ・ファミリアでちゃんとやれてますし! 姉代わりとか……その……!」
「知っています」
ミネは穏やかに微笑む。
「知っていますが、それでも気になるものです」
その声音は柔らかい。
だが揺るぎない。
ティオナがくすりと笑う。
「なにそれ~。めっちゃ本気じゃん」
「アンタ、どれだけ可愛がられてたのよ」
ティオネが肘でレフィーヤをつつく。
「うぅぅ……!」
レフィーヤはついにしゃがみ込み、頭を抱えた。
リヴェリアは小さく息を吐き、ミネへと視線を戻す。
「……つまり、政治的な意図や探りではないと?」
「ありません」
きっぱりと。
「そのような意図があるのであれば回りくどいやり方はしません」
言い切る声音に、一片の迷いもない。
リヴェリアは数秒、ミネの瞳を見つめ――やがて小さく肩を竦めた。
「……分かった。疑うのは失礼だったな」
「いえ。当然の確認です」
穏やかに返すミネ。
副団長としての責務を理解しているからこその言葉だった。
部屋の緊張が、ようやく解ける。
「そうだ、ミネってアルゴノゥトくんと同じファミリアなんだよね!だったら色々聞かせてよ」
「アルゴノゥトくん?」
小さく首を傾げるミネ。
本気で分からない、という顔だった。
「え? ほら、白髪で赤い目の……」
ティオナが身振り手振りで説明しようとする。
「……ベル」
アイズがぽつりと呟く。
その名が落ちた瞬間。
「ああ、ベルさんのことですか」
ミネはようやく得心したように頷いた。
「この子、この前の白兎の脚とミノタウロスの戦いを見てからそう呼んでるのよ」
ティオネが肩を竦めながら補足する。
異端児をダンジョンに返す途中でベルとミノタウロスの戦いが民衆の中で行われたことはミネも聞き及んでいた。
「なるほど。その時は私は都市に居なかったので話でしか聞いていないのですが…そんなにすごかったのですか?」
ティオナが身を乗り出す。
「そりゃもうすごかったよ! まるで物語の英雄みたいで!!」
目をきらきらと輝かせ、拳を握りしめる。
静かな熱が、その声にはあった。
ミネは微笑む。
「そうですか」
誇らしげでも、過度に驚くでもない。
ただ、当然のことを聞いたように。
「やっぱり、ベルさんですね」
その様子を見て、面白くないのがレフィーヤだ。
「な、なんでそんなに落ち着いてるんですか!?」
思わず声が大きくなる。
「ベルさんならどんな困難でも乗り越えられる。そう信じていますから」
――疑いのない笑み。
それは盲信ではない。
知った上での、確信。
最初に口を開いたのは、ティオナだった。
「……なにそれ」
ぽかん、とした顔。
「それ、もう物語の英雄とヒロインじゃん」
その言葉にミネが固まってしまう。
「…ヒロイン、ですか?」
ヒロイン。
その単語が、自分に向けられたことが理解できない、といった顔だった。
「え、違うの?」
ティオナ・ヒリュテが首を傾げる。
「だってさ、どんな困難でも信じて待ってるって、もう物語の王道じゃん!」
ミネの頬がほんのり染まる。
自覚がない。
それが余計に、周囲をざわつかせた。
「……英雄」
ぽつり、と呟いたのはアイズ・ヴァレンシュタイン。
金の瞳が、じっとミネを見つめる。
「ベルは、ミネを見て強くなってる?」
真っ直ぐな問い。
部屋が静まる。
ミネは少しだけ考え、静かに首を振った。
「いいえ」
「え?」
意外そうな声が重なる。
「私はきっかけの一つかもしれませんが、理由そのものではありません」
穏やかな声音。
「ベルさんが強くなりたいと思ったのは、自分の意志です」
誰かのためだけではない。
憧れ。
悔しさ。
守りたいもの。
その全てが混ざり合って、今の少年を形作っている。
「だから私は、物語の中心ではありません」
にこり、と微笑む。
「隅っこで拍手している観客のようなものです」
「いや絶対違うでしょ」
ティオネが即座に否定。
「アンタの“当然です”って顔、あれは正妻ポジションよ」
「……正妻、ですか……?」
ぽかん、と口を開けたまま固まるミネ。
その様子に、部屋の空気が一瞬止まり――
「ぶふっ」
吹き出したのはティオネだった。
「やっぱ自覚ないのねアンタ!」
「だ、だから違いますって……!」
狼狽えるミネに、ティオネがけらけらと笑う。
「……じゃあ」
アイズは静かに問いを重ねる。
金の瞳が揺れる。
「ベルが、英雄になったら」
「はい」
「ミネは、どこにいる?」
部屋が静まり返る。
レフィーヤがごくりと息を呑む。
ミネは、ほんの一瞬だけ視線を落とし――
そして、微笑んだ。
「同じ場所です」
「同じ……?」
「今と同じ距離で」
変わらない。
「強くなっても、弱くても。英雄でも、そうでなくても」
その声音は、静かで。
「私は、隣にいます」
断言。
揺らぎのない宣言。
ティオナがぽつりと呟く。
「……それ、ヒロインより重いよ」
「え?」
その一言に、空気が微妙に揺れた。
ティオネが腕を組み、にやりと笑う。
「自覚なしでそれ言えるの、ほんとすごいわよアンタ」
「だから違いますと……」
まだ否定するミネ。
だがその頬はしっかり赤い。
高レベル冒険者たちが円になり、真剣な顔で語っている内容は――恋バナである。
「で? ベルが他の女の子と仲良くしてたらどうすんの?」
ティオネが悪戯っぽく身を乗り出す。
因みに本人は愛しの団長が他の女と仲良くしてたらその女をつぶしに行くだろう。
「応援します」
「は?」
全員の声が揃った。
「ベルさんが大切に思う方なら、きっと素敵な方でしょうから」
「やばい、天然の無自覚ヒロインだこれ!」
ティオナが腹を抱えて笑う。
一方。
「ミネお姉ちゃんに恋人とか……しかもそれがあの兎だなんて……今のうちに始末するしか……」
レフィーヤが物騒な呟きを零す。
年相応の少女たちの団欒を見ながらリヴェリアは数日間は退屈しなさそうだと溜息をつくのだった。
ロキ・ファミリアの脳焼きはベルVSアステリオスで補完されました。
このSSが完結したら
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アリス編を書け
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過去編を書け
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フレイヤ様に拾われたミネ編を書け
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イズナ編を書け
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ツルギ編を書け
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いつまでかかっても良いから全部書け