ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
アイズ・ヴァレンシュタインは静かに目を覚ました。
窓から差し込む朝日。
見慣た天井――だが、すぐに思い出す。
「……ミネ?」
隣を見る。
だが、そこにあるはずの気配はなかった。
突然の訪問だったため、昨夜はミネのベッドを用意する余裕がなかった。
そのためミネは部屋のソファで休むことになったのだ。
もちろんアイズは、
『……私がソファでいい』
と申し出た。
だが――
『いえ、それでは私が落ち着きません』
ミネは静かに首を振った。
『ここはアイズさんの部屋です。部屋の主に不便を強いるわけにはいきません』
穏やかな声だが、引く気配はない。
『私は客人です。ソファで十分です』
『……でも』
『お気遣いありがとうございます』
そう言って毛布を整え、さっさと横になってしまった。
結局――
押し切られたのはアイズの方だった。
そのソファへ視線を向ける。
「……いない」
毛布は丁寧に畳まれている。
つまり、かなり早く起きたのだろう。
アイズはゆっくり体を起こした。
静かな部屋。
どこか少しだけ物足りない。
「……どこ?」
ぽつりと呟く。
身支度を整え、部屋を出る。
廊下はすでに人の気配があった。
団員たちが慌ただしく行き交っている。
だが――
見当たらない。
「……いない」
訓練場。
中庭。
武具庫。
廊下。
思いつく場所をいくつか回る。
それでも見つからない。
アイズは少しだけ考えた。
「……朝ご飯」
とりあえず食堂へ行くことにした。
----------------------------------
ロキ・ファミリアの食堂は朝から賑やかだった。
人造迷宮の攻略を控えたファミリアの朝は早い。
団員たちが列を作り、料理を受け取り、席へと向かう。
「あ、アイズ!」
聞き慣れた声。
振り向くとそこには――
「おはよー!」
「遅かったじゃない」
「おはようございます!」
ティオナ、ティオネ、レフィーヤの三人がいた。
アイズは席へ歩み寄る。
「おはよう」
「ミネは一緒じゃないんだ?」
ティオナが不思議そうに首を傾げる。
「……いない」
「え?」
「朝起きたらいなかった」
その言葉に三人もきょとんとした。
「え、ミネお姉ちゃんどこ行ったんですか!?」
「知らないわよ」
「どこか散歩でもしてるんじゃない?」
四人で首を傾げていると――
「ん?」
ティオナがふと厨房の方を見た。
「……あれ?」
「どうしたの?」
ティオネが怪訝そうに聞く。
ティオナは厨房の奥を指差した。
「ねぇ、あそこ」
三人も視線を向ける。
そして――
「……あ」
アイズが小さく呟いた。
厨房の奥。
そこには――
「はい、パンはこちらです。熱いので気をつけてください」
エプロン姿のミネがいた。
団員たちと一緒に朝食の配給をしている。
「次の方どうぞ」
「スープはこちらになります」
慣れた手つきで皿を渡していく。
完全に食事当番だった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
四人は無言でその光景を見つめた。
そしてティオナが一言。
「……何してんの?」
----------------------------------
しばらくして。
配給が一段落した頃。
「お待たせしました」
ミネは四人の席へとやってきた。
手には自分の朝食。
「……ミネ」
「おはようございます、アイズさん」
「……何してたの?」
ミネは少しだけ首を傾げた。
「朝食の配給ですが」
「それは見れば分かるわよ」
ティオネが呆れた顔で言う。
「なんであんたがやってるのよ」
ミネは当然のように答えた。
「滞在させていただいているのですから」
「?」
「雑用の一つくらいこなさなければ申し訳ないでしょう」
きっぱり。
だがその言葉に四人は顔を見合わせた。
「いやいやいや」
ティオナが苦笑する。
「別にそんなの必要ないって」
「そうですよ!」
レフィーヤも慌てて言う。
「そもそもミネお姉ちゃんはアイズさんの鍛錬の報酬で滞在しているんですよ!?」
「?」
ミネは少し不思議そうな顔をした。
「ですが、宿泊させていただいていますし」
「律儀すぎるわよ」
ティオネが呆れたようにため息をつく。
そんな会話をしながら五人は食事を始めた。
そして――
「ねぇミネ!」
ティオナが目を輝かせて言った。
「あとで手合わせしない?」
突然の申し出。
ミネは少し考える。
「……手合わせ、ですか」
「この前の遠征で戦ってるの見てたらさ何だかワクワクしちゃって!」
期待に満ちた視線。
ミネは静かに答えた。
「構いませんが」
「やった!」
ティオナが嬉しそうに拳を握る。
だがミネは続けた。
「ですが――」
「?」
「オッタルさんから言われております」
その名前に周囲の団員が反応した。
猛者オッタル。
フレイヤ・ファミリア最強。
「こういった場合には報酬を受け取るようにと」
「……は?」
一瞬、食堂が静まった。
そして――
「いや待て!」
「おかしいだろそれ!」
「なんでティオナさんが報酬を支払うんだよ!」
周囲の団員たちが騒ぎ出す。
「ティオナさんはレベル6だぞ!?」
「普通逆だろ!」
「身の程を知れ!」
完全にロキ・ファミリア目線の抗議だった。
ティオナも笑いながら言う。
「あ~、ごめんね。皆、アレを見てないから誤解してるみたい」
深層での戦いを見ているのは幹部陣とごくわずかの団員だけ。
知らない団員から見れば上から目線でティオナを侮っているようにしか聞こえない発言だった。
「いえ、こちらも軽率な発言でした。皆さんを不快にさせたことを謝罪します」
そう言って頭を下げるミネ。
「いやいやいや」
ティオネが頭を抱える。
「この子真面目すぎる……」
レフィーヤも困惑している。
「どうすれば……」
食堂は妙な議論でざわついていた。
その時――
「面白い話をしているね」
穏やかな声が響いた。
振り向く。
そこには――
「団長」
フィン・ディムナが立っていた。
ロキ・ファミリア団長。
小人の英雄。
フィンはゆっくりとミネの前へ歩み寄る。
「ミネ・シルヴァリエ」
「はい」
「一つ提案がある」
食堂の空気が変わる。
団員たちが静まり返る。
フィンは静かに言った。
「我々ロキ・ファミリアと手合わせしてみないか」
その言葉に――
食堂がどよめいた。
「……手合わせ、ですか」
ミネが静かに聞き返す。
フィンは頷く。
「ティオナだけではなく」
「ティオネ」
「レフィーヤ」
「そして――」
一瞬、視線がアイズに向いた。
「希望があれば他の団員も」
食堂の団員たちは息を呑んだ。
「もちろん、対価は支払おう」
その瞳が細くなる。
「できうる限りの報酬を約束する」
ロキ・ファミリア団長の言葉。
食堂の団員たちは息を呑んだ。
そして。
ミネは――
ほんのわずか考えたあと。
静かに頭を下げた。
「……承知しました」
その返答に。
黄昏の館の空気が、ゆっくりと熱を帯びていった。
ミネの家事能力ですが竈の女神の眷属である以上は家事くらい普通にこなさなければということで進んで引き受けていたのとフレイヤ・ファミリアでの満たす煤者達の手伝い等で鍛えられたため今すぐ嫁に出しても恥ずかしくないとヘスティアから太鼓判を貰っているくらいには高いです。
あと妹分に女子力でも負け越すのはヤバいと感じたアストレア・ファミリアの数人も頑張って鍛えたのでアストレア・ファミリアの総合的な女子力は上がっています。
このSSが完結したら
-
アリス編を書け
-
過去編を書け
-
フレイヤ様に拾われたミネ編を書け
-
イズナ編を書け
-
ツルギ編を書け
-
いつまでかかっても良いから全部書け