ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
アストレア・ファミリアの本拠、星屑の庭の中庭では、白と金の影がぶつかり合っていた。
白い影――ベル・クラネルが、金色の髪を揺らすリュー・リオンに向かって疾走する。
「はっ……!」
木剣を振る。だが、リューの身体は一瞬、風のように沈み込み、次の瞬間にはベルの懐を抜けていた。
「甘いです」
冷たい声と同時に、背中へ軽い衝撃。木剣の平で押された形跡が、的確に急所を示している。
「う、ぐっ……!」
ベルは膝をつきながらも、すぐに顔を上げた。
「まだ……まだいけます!」
その目に宿る闘志に、リューの青い瞳が僅かに細められる。
「立派な心構えです。ですが、“勢い”だけでは敵いません。レベルもそうですが、視線が私の剣を追っているうちは勝てない」
言葉と同時に、また姿が掻き消える。
リューの稽古は、静寂と風を伴う戦いだった。一手ごとに空気が裂け、ベルはその軌跡を追うことすら難しい。
しばらくして――。
「そこまで!」
涼やかな声が響き、二人の動きが止まる。
声の主、アリーゼ・ローヴェルが中庭の木陰から現れた。
「リオン、少し厳しすぎるんじゃない? ベル、もう息が上がってるわ」
ベルは肩で息をしながら、「だ、大丈夫です!」と笑ってみせた。
アリーゼはそんな様子に頬を緩める。
「ベルを見てると昔のミネを思い出すわ。あの子も昔はかなり無茶してた頃があったから」
「昔の…ミネさんですか?」
ミネがベルをアストレア・ファミリアに預けてから、すでに三日が経っていた。
アストレア・ファミリアの面々は時間の許す限りベルに訓練を付け、一緒にダンジョンに潜ってくれた。呼応するようにベルもステータスが大きく成長を見せていた。
しかし肝心のミネは、フレイヤ・ファミリアから帰ってくることなく、全く交流できていない。
ベルはミネのことを何も知らなかった。
「…あの、ミネさんのこと、教えてもらってもいいでしょうか? 僕、同じファミリアなのに、ミネさんのこと何も知らなくて」
アリーゼは「そうね……」と呟きながら考え込む。
「なら、私たちがミネと出会ってからのことを話しましょうか」
アリーゼはゆっくりと、ミネとの出会いについて語り始めた。
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アリーゼは小さく息を吐き、木陰のベンチに腰を下ろした。その仕草はどこか懐かしむようで、穏やかで、それでいて少しだけ寂しげだった。
リューだけでなく、輝夜、ライラも自然と集まり、四人が揃う。
中庭の真ん中では、まだ稽古で乱れた土がそのまま残っていた。
「ミネと初めて会ったのは十年前、ヘスティア様に連れられてアストレア様を訪ねてきた時だったわ」
アリーゼが静かに語り始める。その声に導かれるように、ベルも耳を傾けた。
「あの頃のミネは本当に可愛かったわよ。なにせ、ライラよりもっと小さかったんだから」
「おいアリーゼ、それはアタシに喧嘩売ってんのか?」
ベルが二人を慌てて宥めようと手を振ると、リューが溜息をつきながらも話を続けた。
「当時のミネは七歳ですよ。小さくて当然でしょう」
「七歳⁉ じゃあ、ミネさんて今…」
「ええ。今年で十七歳よ」
アリーゼが指折り数えながらそう答えると、ベルの目が丸くなった。
「そんなに若いんですか……!」
「そうよ。信じられないくらい落ち着いてるでしょ? でも、あの子は昔からそうだったの。小さくても大人顔負けの受け答えをしてね」
アリーゼはくすりと笑い、遠い記憶をたどるように空を見上げる。
淡い陽光が中庭の木々を透かし、揺らめく影を作り出す。
「当時、ヘスティア様が“あるお願い”をしにアストレア様を訪ねて来られたの。その時に一緒にいたのがミネだったわ」
「お願い……ですか?」
アリーゼは静かに頷いた。
「ええ、そう――“訓練をお願いしたい”って、ヘスティア様は言ってたわ。アストレア様も驚かれていた。だって、その時のミネはまだ七歳。遊び盛りの年齢よ」
アリーゼの瞳に、ふっと懐かしさが宿る。
「最初、私たちは冗談だと思った。だって、あの小さな子が怪物相手に戦うなんて想像できなかったもの」
アリーゼは苦笑しながらも、どこか誇らしげに続けた。
「でも――ミネは、本気だったわ」
その言葉に、ベルは思わず息を呑む。
リューも静かに頷き、当時を思い出すように言葉を重ねた。
「当時のオラリオの状況は今と違って、とても危険なものだった」
リューの声は静かで、しかしどこか緊張感を帯びていた。
「暗黒期……闇派閥という邪な神々が率いるファミリア達が活発に活動し、冒険者や一般人に対して大きな被害をもたらしていた時期です」
アリーゼが視線を木漏れ日に落とし、語り続ける。
「ミネは恩恵をもらった時から、非常に強力な回復魔法を持っていたの。闇派閥の被害にあった冒険者や一般人を即座に回復できるミネは、当時のオラリオにとってまさに救世主とも呼べる存在になり得た」
アリーゼの言葉に、ベルはますます目を見開いた。
「そんな……七歳の子が、ですか……?」
声に震えが混じる。小さな体で人々を救い、怪物や危険と向き合う力を持っていたなんて、想像もできなかった。
リューが静かに頷き、当時の光景を思い出すように言葉を継いだ。
「ええ。その回復魔法は非常に強力で、多くの人々を救いました。しかし」
その言葉を輝夜が引き継ぐ。
「そんな強力な回復魔法を持ったレベル1。もちろん、闇派閥が目を付けないわけがありませんなぁ」
輝夜の言葉に、ベンチに座る四人の間に一瞬、緊張が走った。
アリーゼが静かに続ける。
「当時のミネは、まだ経験も少なく未熟。だからこそ、危険が付きまとうのは当然だったわ」
リューは少し眉を寄せ、空を見上げるように口を開く。
「闇派閥がミネの力を知ったら、間違いなく標的になる」
「つまり……七歳の子が標的にされるってことですか?」
ベルの声は小さく震えた。
「だからこそ、ヘスティア様は私たちを頼った。ミネの力をオラリオで発揮しながらも、ミネの存在を徹底的に秘匿するために」
その言葉で、ベルはミネが冒険者登録を行っていないことを思い出す。
「もしかして、ミネさんが冒険者登録してないのって――」
「当時はギルド内にも闇派閥の手が伸びている噂があって、冒険者登録はしない方がいいって話になったのよ」
ベルは小さく息を吐き、頭の中で整理を始めた。
「なるほど……だからミネさんは冒険者登録をしていなかったんですね。危険から身を守るために」
しかし、ベルの疑問はさらに続いた。
「……あれ? だったら、なんで今も冒険者登録していないんですか? ミネさんはもう十分に身を守れる上に、今のオラリオにそんな危険はありませんよね?」
「あー」と言いたげな表情で、四人の顔が微妙に曇った。
「理由は二つあるんだけど……まず、ミネのレベルは、ベルが思っているよりも結構高いの。だから、ミネのことをオラリオに公表すると、他の神々がミネを奪うために戦争遊戯を仕掛けたりして、大きな混乱が起こるだろうってこと。そして、もう一つの理由だけど……」
アリーゼは言葉を切り、静かに空を見上げた。木漏れ日が揺れる中、四人の顔に影を落とす。
そんなに重大な理由なのかと、ベルは身構える。
「――税金が払えないからね」
「……えっ?」
「税金がね、払えないの。ミネが冒険者登録するとヘスティア・ファミリアのランクが上がって、ギルドへの税金が莫大になる。だから、冒険者登録してないの」
ベルは思わず口をあんぐりと開けた。
「そ、それって……そんな現実的な理由なんですか!?」
ライラが小さく吹き出す。
「あぁ、ファミリアのランクが上がれば税金も上がる。小さなファミリアにとっては死活問題になる。実際アタシらもギルドが課す税金には悩まされてるしな」
輝夜が肩をすくめて付け加えた。
「実は、ダンジョンに潜るのに冒険者登録は不要だ。代わりに色々と不都合はある」
ベルが「不都合?」と疑問を抱くと、リューが補足する。
「まず、冒険者に登録すれば、ギルドからアドバイザーを付けてもらえますし、初心者なら武器のレンタルもあります。これが受けられなくなりますね」
「そして武具を買うのも一苦労。冒険者登録は一種の身分保障のようなものだから、登録していない人に鍛冶師は武器を売りたくないでしょう? ダンジョンにそんな状態で潜りたい?」
ベルも、そんな状態でダンジョンには潜りたくない。
「そして最後に、魔石を換金できるのはギルドだけというのが大きな障害です。これを破れば明確な違法になります」
ベルは頭を抱え、目の前で語られる現実に呆然とした。
「なるほど……ミネさんは、力はあっても冒険者登録していないから、ギルドの保護も受けられないし、武器も揃えられない、報酬の管理も難しい……」
リューが静かに頷く。
「ミネがダンジョンに潜る際は私たちが同行しますが、ミネが倒したモンスターの魔石やドロップアイテムも、ミネが拾わないので、私たちが回収したという形をとっています。ミネが回収してしまった時点で、ギルドには下せなくなりますから」
なるほど、とベルは感心した。
確かにダンジョン内では、冒険者の都合で回収されていない魔石が落ちていることはたまにある。それを拾って換金しても違法ではないし、誰にも咎められることはない。
「と、話が大幅にそれちゃったわね。昔のミネの話よ」
「ってことは、ここからはアタシがメインで話すぜ。何せ、ミネの面倒を一番見てたのはアタシなんだからな!」
ライラは胸を張ってそう言った。
ベルとアイズのフラグはぽっきり折れてます。
酒場イベのフラグもおってる上、ベルの想う相手がミネのためヘスティア・ナイフの誕生フラグも無いなどミネの影響は結構大きいです。
代わりにアストレア・ファミリアの面々に鍛えられているためステータスの伸びが良くなっています。