ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか   作:救護騎士団オラリオ支部

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ツチノコ?
どう考えてもトンチキイベントやん。


模擬戦

 黄昏の館の鍛錬場では、多くの団員が見守る中、ティオナとミネの素手による模擬戦が行われていた。

 

 踏み込み。

 

 振るわれる拳。

 

 土を蹴る音。

 

「はあっ!」

 

 ティオナの拳が一直線に伸びる。

 

 だがミネは半歩だけ身体をずらし、その拳を紙一重で躱す。

 

 すぐさま反撃。

 

 掌底がティオナの肩へ向かう。

 

 だが――

 

 ばしっ。

 

 ティオナが腕で弾いた。

 

 そのまま回し蹴り。

 

 ミネが腕で受ける。

 

 衝撃で二人の身体が同時に後退した。

 

「うお……」

 

「すげぇ……」

 

 周囲の団員たちから小さな感嘆が漏れる。

 

「互角じゃないか?」

 

「ティオナさんとあそこまでやれるなんて……」

 

 団員たちの多くはそう感じていた。

 

 拳を交え。

 

 蹴りを捌き。

 

 互いに距離を取り。

 

 また踏み込む。

 

 まるで力が拮抗しているように見える攻防。

 

 しかし――

 

「……」

 

 その様子を腕を組んで見ていたフィンは、静かに息を吐いた。

 

「どう見える?」

 

 横に立つリヴェリアへ問う。

 

「……指導だな」

 

 短い返答。

 

 ガレスも鼻を鳴らした。

 

「末恐ろしい小娘だ」

 

 周囲の団員には互角に見える戦い。

 

 だが彼らの目にははっきりと分かる。

 

 ミネは今――

 

 ティオナのステイタスを僅かに上回る程度まで力を落としている。

 

 それもただ抑えるだけではない。

 

 ティオナが最も動きやすい速度。

 

 最も判断しやすい間合い。

 

 最も力を出しやすい攻防。

 

 それらを精密に調整している。

 

「普通あんな調整なんぞ」

 

 ガレスが呟く。

 

「強すぎればティオナは何も出来ん」

 

「逆に弱ければ意味がない」

 

 リヴェリアが言葉を継ぐ。

 

「絶妙だな」

 

 その間にも戦闘は続く。

 

「はああっ!」

 

 ティオナの連撃。

 

 拳。

 

 膝。

 

 蹴り。

 

 だがミネはそれを受け流す。

 

 避けるのではない。

 

 最小の動きで軌道を逸らしている。

 

「腰が少し浮いています」

 

 戦いながら、静かな声。

 

「え?」

 

 その一瞬。

 

 ティオナの体勢が崩れる。

 

 とん。

 

 ミネの掌が胸元に触れた。

 

「今ので勝負ありです」

 

「うわー!」

 

 ティオナが地面に転がる。

 

 だがすぐに起き上がる。

 

「もう一回!」

 

「ふざけろ馬鹿ゾネス! さっさと代わりやがれ!!」

 

 ベートが怒鳴りながら抗議を口にする。

 

 鍛錬場の空気が一瞬だけざわめいた。

 

「おいベート、落ち着け」

 

 ガレスが呆れたように言う。

 

 だがベートは構わず舌打ちした。

 

「ちっ……さっきから見てりゃ、いつまでやってやがる」

 

 鋭い視線が闘技場へ向けられる。

 

「模擬戦なら一度で終わりだろうが」

 

「えー、まだやりたーい!」

 

 ティオナが不満そうに叫ぶ。

 

「今いいとこなんだから!」

 

「知るか。次は俺だ」

 

 ベートは腕を鳴らしながら前へ出た。

 

 ぎし、と革靴が土を踏む。

 

 その視線は完全にミネへ向けられている。

 

「……」

 

 ミネは静かに首を傾げた。

 

「ベートさんですか?」

 

「あぁ」

 

 短い返事。

 

「文句あんのか」

 

「いえ」

 

 ミネは小さく首を振る。

 

「ありません」

 

 そのまま、静かに構えを取った。

 

 力みのない自然体。

 

 だがそれを見たベートは、鼻で笑う。

 

「はっ…!」

 

 鋭い犬歯を覗かせる。

 

「舐めてんじゃねぇぞ」

 

 次の瞬間。

 

 ベートの姿が掻き消えた。

 

 ――踏み込み。

 

 爆発的な加速。

 

 観戦していた団員たちからどよめきが上がる。

 

「速っ……!」

 

 狼の如き突進。

 

 鋭い前蹴り。

 

 空気を裂く一撃がミネの腹部へ突き込まれる。

 

 だが。

 

 ぱしっ。

 

 ミネの手が、その蹴りを正確に受け止めた。

 

 鍛錬場が静まり返る。

 

 しかしベートは止まらない。

 

 蹴りを弾かれた瞬間、体を回転させる。

 

 横薙ぎの回し蹴り。

 

 さらに着地と同時に後ろ回し蹴り。

 

 脚撃の連続。

 

 まるで狼の牙のように鋭い蹴撃が、次々とミネへ襲い掛かる。

 

 だがミネはそれを静かに捌き続けていた。

 

 受け流し。

 

 逸らし。

 

 半歩の移動。

 

 最小の動きで全てを躱す。

 

 ベートは距離を取る。

 

 そして再び踏み込む。

 

 低い姿勢からの跳び蹴り。

 

 着地と同時に足払い。

 

 さらに回転蹴り。

 

 脚技のみで構成された連撃。

 

 狼が獲物を追い詰めるような攻めだった。

 

 その中心で、ミネは静かに立っている。

 

 そして。

 

「では反撃しますね」

 

 そうミネが呟いた瞬間――

 

 ミネの姿がブレた。

 

 土が弾ける。

 

 次の瞬間には、すでにベートの懐へ踏み込んでいた。

 

「――っ!?」

 

 ベートの目が見開かれる。

 

 拳が振るわれる。

 

 だが。

 

 ミネはそれよりわずかに速く動いた。

 

 腕を払う。

 

 体勢を崩す。

 

 踏み込む。

 

 そして掌がベートの肩口へ触れる。

 

 とん。

 

 軽い一撃。

 

 だが衝撃は正確だった。

 

 ベートの身体が半歩、後ろへずれる。

 

「……!」

 

 すぐさま距離を取るベート。

 

 狼の瞳が鋭く細められる。

 

 だがミネは追わない。

 

 ただ静かに構え直す。

 

 その攻防を見て。

 

 フィンが小さく笑った。

 

「今度はベートか」

 

 リヴェリアが頷く。

 

「僅か数回の攻撃で見切られるか」

 

 ガレスが低く唸る。

 

「さっきと同じだな」

 

 鍛錬場の中央。

 

 ミネは――

 

 ベートよりわずかに早く。

 

 ベートよりわずかに強く。

 

 ベートよりわずかに上手く。

 

 その全てをほんの少しだけ上回る。

 

 ティオナの時と同じ。

 

 相手を圧倒するのではない。

 

 だが確実に届かない壁。

 

 ベートの口元が歪む。

 

「……なるほどな」

 

 低く呟く。

 

「舐めてんじゃねぇ!!」

 

 そして。

 

 次の瞬間――

 

 狼の踏み込みがさらに鋭くなった。

 

 今度の踏み込みは先ほどまでとは明らかに違う。

 

「おいおい……」

 

 観戦していた団員の一人が息を呑む。

 

「今の……さっきより速くないか……?」

 

「ベートさん、本気になってきてないか……?」

 

 その声を背に、ベートは怒りをあらわにする。

 

「調子に乗るなぁ!!」

 

 そして再び踏み込む。

 

 だが――

 

 ぱしっ。

 

 またしてもミネの手が、その蹴りを受け止めていた。

 

 ほんのわずか。

 

 ベートより先に。

 

 ほんのわずか。

 

 ベートより正確に。

 

「……っ」

 

 その瞬間。

 

 ベートの眉が僅かに動く。

 

 ミネは静かに言った。

 

「いい踏み込みです」

 

 そして。

 

 ほんのわずかに微笑んだ。

 

「ですが、怒りに身を任せすぎですね」

 

 とん。

 

 指先がベートの肩に触れる。

 

 まただ。

 

 ほんの軽い接触。

 

 だが。

 

「……っ!」

 

 ベートは即座に距離を取った。

 

 狼の瞳が鋭く細められる。

 

 今のは分かる。

 

 完全に入っていた。

 

 もし本気の一撃なら。

 

 ――終わっていた。

 

 それを理解した瞬間。

 

 ベートの奥歯がぎり、と鳴った。

 

「……ちっ」

 

 そしてミネを睨む。

 

「次は負けねぇ」

 

 ミネは静かに頭を下げた。

 

「はい」

 

 素直な返事。

 

 それを見て。

 

 ティオナが叫んだ。

 

「じゃあ次あたし!!」

 

「さっきやっただろうが!」

 

 ベートが即座に怒鳴る。

 

「まだ途中だったじゃん!」

 

「知るか!」

 

 鍛錬場が一気に騒がしくなる。

 

 その様子を見ながら。

 

 フィンは静かに呟いた。

 

「……なるほど」

 

 視線はミネへ向けられている。

 

「これは面白いことになりそうだ」

 

 リヴェリアが小さく頷く。

 

「あぁ」

 

 そして。

 

 ガレスが腕を組んだ。

 

「さて」

 

 低い声。

 

「次は誰が行く?」

 

 ガレスの問いに、鍛錬場の空気が一瞬だけ張り詰めた。

 

「わ、私にやらせてください!!」

 

 リーネ・アルシェは拳を握り締めたまま、真っ直ぐミネを見据えていた。

 

 周囲の団員たちはざわつく。

 

「おい……」

「レベル2だぞ……?」

「しかも後衛だろ……。どうやって戦うんだよ」

 

 ティオナやベートの戦いを見た直後だ。

 相手の次元が違うことなど、誰の目にも明らかだった。

 

 だが。

 

「……」

 

 ミネは、ただ静かに頷いた。

 

「構いませんよ」

 

 穏やかな声。

 

「いつでも来てください」

 

 その言葉に、リーネは一度深く息を吸った。

 

「――はい!」

 

 リーネが踏み込もうとした瞬間ー

 

「待て」

 

 低い声。

 

 ベートだった。

 

 鍛錬場の空気が一瞬だけ止まる。

 

「ベート?」

 

 ティオナが首を傾げる。

 

 だがベートは視線をミネから外さないまま、吐き捨てるように言った。

 

「それじゃ意味がねぇ」

 

 周囲の団員がざわつく。

 

「テメェは治癒師だろうが。コイツとどつき合ったところで意味がねぇ」

 

 吐き捨てるような声。

 

 だがその言葉には、先ほどまでの怒りとは少し違う色が混じっていた。

 

 リーネは思わず言葉を失う。

 

「……で、でも」

 

「でももクソもねぇ」

 

 ベートが苛立たしげに頭を掻いた。

 

「後衛が前衛と殴り合う訓練してどうすんだ」

 

 その言葉に、周囲の団員たちも顔を見合わせる。

 

 確かにその通りだった。

 

 リーネ・アルシェは後衛の回復役。

 

 最前線で殴り合う役割ではない。

 

「だから後ろで回復だけしてやがれ。前は俺がやる」

 

 ベートの視線がミネへ向けられる。

 

 いいな――と、言葉にはしない確認。

 

「……」

 

 ミネは一瞬だけベートを見つめた。

 

 その意図を読み取る。

 

 そして。

 

「……分かりました」

 

 小さく頷いた。

 

 その返答に、ベートは鼻を鳴らす。

 

「なら決まりだ」

 

 視線をリーネへ向ける。

 

「テメェは回復だけしてりゃいい」

 

 ベートが再び構えた。

 

「えっ?」

 

「何戸惑ってやがる。後衛らしく前衛をサポートしやがれ。それがテメェの仕事だろうが」

 

 ぶっきらぼうな言い方。

 

 だがその言葉に、リーネははっと息を呑んだ。

 

「……っ、はい!」

 

 慌てて杖を握り直す。

 

 ベートはもうそれ以上何も言わない。

 

 ただ視線を前へ戻す。

 

 鍛錬場の中央。

 

 ミネは静かに頷いた。

 

「では」

 

 穏やかな声。

 

「始めましょう」

 

 この模擬戦をきっかけに。

 

 それまで様子を見ていた団員たちも、次々とミネへ挑み始めることになる。

 

 こうして隠されていたミネの実力が徐々にオラリオへと浸透していくのだった。




ミネが相手の力量に合わせて訓練を行えるのは少数精鋭ながら前衛後衛アタッカーバッファーデバッファーヒーラーが揃っているアストレア・ファミリアという集団とよく訓練しているためです。
レベル2~6までなら数回攻撃を受ければ力量に合わせて調整が可能。
なお対象外のオッタルは1回加減ミスをして殴り飛ばされた結果、壁に埋まった模様。

このSSが完結したら

  • アリス編を書け
  • 過去編を書け
  • フレイヤ様に拾われたミネ編を書け
  • イズナ編を書け
  • ツルギ編を書け
  • いつまでかかっても良いから全部書け
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