ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか   作:救護騎士団オラリオ支部

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恥知らずな頼み

 重厚な机を囲む形で座る幹部たちの前で――

 

「団長! それは!!」

 

 レフィーヤが机を叩きながら抗議を叫んだ。

 

 自身の魔法、『エルフ・リング』はエルフの魔法なら自分の物として使用できるという規格外の魔法だ。

 

 しかし、使用するにはその魔法の詠唱と効果を完全に把握している必要がある。

 

 だがステイタスとは同じファミリアに所属する者すら秘匿するほどに重要なものだ。

 

 魔法やスキルなど、それ以上に秘匿する必要がある。

 

「それは余りにも無礼です!!」

 

 レフィーヤの声は震えていた。

 

 それは怒りというよりも――困惑と戸惑いに近い。

 

 机の向こう側。

 

 小さな体を椅子に預けながら、フィンは静かにレフィーヤを見つめていた。

 

「落ち着け、レフィーヤ」

 

 低く、しかし穏やかな声。

 

 だがレフィーヤは引かない。

 

「落ち着いてなんてっ……!」

 

 なんでリヴェリア様がこんなに冷静なの?

 

 まさか……、

 

「……リヴェリア様も、承知の上なんですか?」

 

 リヴェリアも、そしてガレスも苦虫を潰したような顔をする。

 

 しばしの沈黙。

 

 先に口を開いたのはガレスだった。

 

「……ああ」

 

 低く、重い声だった。

 

「儂らも了承しとる」

 

「……っ!」

 

 レフィーヤの目が大きく見開かれる。

 

 そしてゆっくりと、リヴェリアへ視線が向いた。

 

「……レフィーヤ」

 

 リヴェリアは静かに口を開いた。

 

 その声には、いつもの厳格さがあった。

 

「お前の言うことは正しい」

 

 はっきりと言い切る。

 

「魔法を教えろなど破廉恥極まりないとも自覚している」

 

 その言葉にレフィーヤは息を呑む。

 

「だが」

 

 静かな声が続く。

 

「それでも、私はこの判断を支持した」

 

「……どうしてですか」

 

 レフィーヤの声はかすれていた。

 

「団員たちのためだ」

 

 短い言葉だった。

 

 だが、その重みは誰よりも伝わった。

 

 リヴェリアは視線を机の上に落とす。

 

「今回の人造迷宮攻略――」

 

 ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「呪解が可能な人数が増えるということは団員たちの生存率に大きくかかわる」

 

 人造迷宮の制圧に参加する者たちで呪解を可能なのは二人。

 

 ディアンケヒト・ファミリアの戦場の聖女、アミッド・テアサナーレ。

 

 そして今しがた参加を約束してくれたミネ・シルヴァリエだ。

 

 だがミネの魔法をレフィーヤが使うことが出来れば3人目。

 

 そして今回の作戦では3部隊に団員を分け進行する予定だ。

 

 全ての部隊に呪解を可能な人員を配置することが出来る。

 

「恥知らずの頼みだとは理解している。それでもお願いしたい」

 

 フィンが深く頭を下げる。

 

「報酬は可能な限り用意する。どうか君の魔法をレフィーヤに教えてほしい」

 

 団長が。

 

 ロキ・ファミリアの団長が。

 

 頭を下げている。

 

「……フィン」

 

 ガレスが低く呟く。

 

 リヴェリアもまた、目を伏せていた。

 

 だが止めない。

 

 止める資格がないと理解しているからだ。

 

 レフィーヤは言葉を失っていた。

 

「……頭を上げてください」

 

 ミネは静かにそう言った。

 

 柔らかな声だった。

 

 だが、その場にいた全員の耳に確かに届いた。

 

「レフィが千の妖精と呼ばれ、他のエルフの魔法を使用できることは承知しています。そしてエルフである私の魔法も使用できるようになることも」

 

 千の妖精。

 

 『エルフ・リング』の効果によって多くの魔法を使用できるためにつけられたレフィーヤの二つ名。

 

 その魔法の効果はオラリオでは広く知れ渡っているし、妹分の情報ということもあってミネも把握していた。

 

「魔法を教えること自体は構いません。しかし……」

 

 そこで一度、言葉を切る。

 

 視線が静かにレフィーヤへ向いた。

 

「多分、私の魔法は今のレフィではまともに扱えないでしょう」

 

 その言葉に――場の空気が止まった。

 

「……え?」

 

 間の抜けた声を漏らしたのはレフィーヤだった。

 

 フィンの頭も、まだ下がったまま止まっている。

 

 ガレスとリヴェリアはわずかに目を細めた。

 

「どういうことだい?」

 

 フィンがゆっくり顔を上げる。

 

 ミネは穏やかな表情のまま答えた。

 

「言葉通りです。詠唱や効果を教えること自体は問題ありません」

 

 静かな声。

 

「ですが――私の魔法は3つとも莫大な精神力を必要とします。レフィでは恐らくすぐにマインドダウンを起こすだけになるでしょう」

 

 フィンの瞳が僅かに細くなる。

 

「……それほどかい?」

 

「はい」

 

 ミネは頷いた。

 

「……」

 

 レフィーヤは唇を噛んだ。

 

 リヴェリアが静かに問う。

 

「具体的にはどの程度だ?」

 

 ミネは少しだけ考え。

 

「レフィが一度発動すれば」

 

 一拍。

 

「一番消費の軽い魔法でも4回くらいかと」

 

「……っ」

 

 レフィーヤの肩がびくりと揺れた。

 

 ガレスが低く唸る。

 

「つまり実戦では使えん、ということか」

 

「使用するにしても精神力回復薬を多用しなければならないでしょう」

 

 部屋に静かな沈黙が落ちる。

 

 フィンは腕を組み、思考を巡らせていた。

 

「……なるほど」

 

 

 

「それは確かに扱いきれるものではないね」

 

 フィンはそう言って椅子に背を預けた。

 

 静かな声だったが、その言葉には諦めに近い現実的な判断が滲んでいた。

 

「なので作戦開始までの数日間、レフィを預けてもらえませんか?」

 

 フィンの指先が、わずかに止まった。

 

「……預ける?」

 

 青い瞳がミネを見る。

 

 その言葉の意味を測るように。

 

「はい」

 

 ミネは穏やかに頷いた。

 

「私の魔法を扱うこと自体は不可能ではありません」

 

 静かな声だった。

 

 だが――

 

「ただし、今のままでは確実にマインドダウンします」

 

 断言だった。

 

 レフィーヤの肩がびくりと揺れる。

 

「ならば」

 

 ミネは続けた。

 

「扱えるようにすればいいだけです」

 

 その言葉に。

 

 沈黙。

 

 数秒後。

 

「……ほう?」

 

 最初に反応したのはガレスだった。

 

 白い眉がゆっくり持ち上がる。

 

「出来るのか?」

 

「出来るかどうかではなく」

 

 ミネは少しだけ首を傾げる。

 

「やるかやらないかです。判断はレフィに任せます」

 

 静かな視線が、一斉にレフィーヤへ向いた。

 

 突然、話の中心に置かれた本人は――

 

「……え?」

 

 間の抜けた声を漏らした。

 

 だが、すぐに状況を理解する。

 

 ミネの言葉の意味を。

 

 今の自分では扱えない。

 だが、扱えるようにすることは出来るかもしれない。

 

 ただし――

 

 それは間違いなく、楽な道ではない。

 

「……」

 

 レフィーヤの手が、机の上でぎゅっと握られる。

 

 リヴェリアが静かに口を開いた。

 

「レフィーヤ」

 

 厳格な声。

 

「無理をする必要はない」

 

 金の瞳がわずかに揺れる。

 

「今回の作戦は確かに危険だ」

 

「だが、お前一人が背負うものではない」

 

 その言葉は、師としてのものだった。

 

 守ろうとしている。

 

 だが――

 

 ティオナ。

 ティオネ。

 ベート。

 アイズ。

 

 ――もし。

 

 もし自分がいれば。

 

 助けられる可能性が増えるなら。

 

「……私が出来るなら」

 

 ゆっくりと顔を上げる。

 

 青色の瞳は、まだ震えていた。

 

 だが――

 

 その奥には、確かな意志が宿っている。

 

「やります」

 

 はっきりと言った。

 

 部屋の空気がわずかに張り詰める。

 

 ガレスが腕を組んだまま低く唸った。

 

「……覚悟はあるようじゃな」

 

 リヴェリアは数秒、レフィーヤを見つめた。

 

 その視線は厳しい。

 

 だがやがて――

 

 小さく息を吐く。

 

「……分かった」

 

 短い言葉だった。

 

 それは、許可だった。

 

 フィンがゆっくりと笑う。

 

「どうやら決まったようだね」

 

 そしてミネへ視線を向ける。

 

「レフィーヤを預けよう」

 

 青い瞳がわずかに細くなる。

 

「だが一つ聞いてもいいかな?」

 

「はい」

 

「どんな訓練をするつもりだい?」

 

 その問いに。

 

 ミネは少しだけ考え――

 

 穏やかな声で答えた。

 

「まずは精神力を限界まで使い切ってもらいます」

 

「……」

 

「マインドダウン寸前まで魔法を使い続ける訓練ですね」

 

 沈黙。

 

 ガレスの眉がぴくりと動く。

 

 リヴェリアのこめかみに青筋が浮かんだ。

 

 フィンだけが興味深そうに聞いている。

 

「それを不眠で作戦前日まで可能な限り繰り返し続けます」

 

「……え?」

 

「精神力の回復と消費を繰り返すことで魔力のステイタスを可能な限り強化し続けます。安心してください。私の回復魔法を使えば睡眠も食事も必要ありません」

 

 さらりと説明する。

 

 まるで普通のことのように。

 

 だが。

 

 それを聞いたガレスがぼそりと呟いた。

 

「……死ぬぞ小娘」

 

「え?」

 

 レフィーヤの顔が青くなる。

 

「大丈夫です、レフィ。乙女の尊厳は壊しませんお風呂とトイレは許可しますので」

 

 にこりと微笑む。

 

 柔らかい笑顔だった。

 

 ――だが、逃げ道はない。

 

 レフィーヤの背筋にぞくりと冷たいものが走った。

 

 フィンが小さく肩をすくめる。

 

「レフィーヤ」

 

「は、はい……」

 

「頑張りたまえ」

 

 団長の言葉は優しかった。

 

 だが。

 

 なぜか慰めには聞こえなかった。

 

 こうして――

 

 レフィーヤの短期特訓が始まることになった。

 




所で何の関係も無いですが史上最強の弟子ケンイチて面白いですよね。
いや、本当に何も関係ないんですが。


ミネの弟子一覧

アストレア・ファミリア
一番弟子のマリュー(2週間ほどでランクアップし辞めた)

フレイヤファミリア
満たす煤者達数人(10日ほどで全員ランクアップし辞めた)

ロキ・ファミリア
レフィーヤ(NEW)

このSSが完結したら

  • アリス編を書け
  • 過去編を書け
  • フレイヤ様に拾われたミネ編を書け
  • イズナ編を書け
  • ツルギ編を書け
  • いつまでかかっても良いから全部書け
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