ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか   作:救護騎士団オラリオ支部

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死なせないために死ぬほど鍛える方針

 フィンはロキへの報告へ向かい、ガレスは必要物資の手配へと動いた。

 

 残されたのは――ミネ、レフィーヤ、そして監督役のリヴェリア。

 

 静かな緊張が、室内に満ちる。

 

「では……始めましょうか」

 

 その一言で、空気が引き締まった。

 

 ミネの口から、魔法の詳細が語られ始める。

 

「まずは今回の作戦で重要となるヴィータ・コンティヌアの詳細を」

 

 レフィーヤが息を呑む。

 

「この魔法は広域に持続する回復を行う魔法です。発動時には精神力は消費せず発動後に持続的に精神力が消費されるタイプの魔法です」

 

「……持続型」

 

 リヴェリアが小さく呟く。

 

「はい。そしてこの魔法の大きな特徴として回復性能や効能、範囲や回復対象を消費精神力を増減させることで自在に変化させられることにあります」

 

 リヴェリアの瞳が鋭くなる。

 

「かなり自由度が高いな」

 

「はい」

 

 ミネは頷いた。

 

「極端な話、極小範囲・高出力にすれば致命傷すら一瞬で回復可能です」

 

「……っ」

 

 レフィーヤの肩が震える。

 

「逆に、低出力・広域にすれば、部隊全体の継戦能力を底上げできます」

 

「……まるで別の魔法だな」

 

 リヴェリアが低く呟く。

 

「通常状態での範囲は半径約150M、回復効果も非常に高いですが――」

 

 一拍。

 

「更に、呪解、状態異常、疲労、病魔、空腹、不浄、寝不足等の身体的不調に対する回復効能もあります」

 

「…………」

 

 沈黙。

 

 明らかに、空気が止まった。

 

「……今、何と言った?」

 

 リヴェリアの声が低く落ちる。

 

「状態異常の解除、疲労回復、病の抑制、代謝補助などです」

 

「それは“回復”の範疇を逸脱している」

 

「はい」

 

 あっさりと肯定するミネ。

 

「その分、消費精神力は非常に高いです」

 

「だろうな、それだけ規格外の効果ならそれ相応に精神力を消費するのは当たり前だ」

 

「しかし欠点もあります。回復効能が多岐にわたるため回復性能以外の効能はそこまで高くないことです」

 

「……分散されるのか」

 

「その通りです」

 

 リヴェリアは小さく息を吐いた。

 

「万能であるがゆえに、突出しない」

 

「はい」

 

 レフィーヤは、ゆっくりと理解し始めていた。

 

「じゃあ……この魔法って」

 

「全部できるが、全部中途半端なんだな」

 

「はい」

 

 ミネは肯定する。

 

「ただし」

 

 一拍。

 

「制御しない場合に限ります」

 

「……!」

 

 レフィーヤの目が見開かれる。

 

「消費する精神力を多くしたり効能を絞れば、その分効能は高くできます」

 

「……あ」

 

「不要な効果を切り捨てれば、その分を回復に回せる」

 

「つまり――」

 

「“特化”させられる」

 

 リヴェリアが言葉を引き取る。

 

「はい」

 

 ミネは頷いた。

 

「この魔法の本質は状況に応じて必要な回復効果のみを引き出せることです」

 

 静かに、だがはっきりと。

 

「必要に応じて姿を変える魔法」

 

「…成程」

 

 リヴェリアは腕を組み、深く頷く。

 

「強力な魔法だ」

 

 人造迷宮攻略後も大いに役に立つ魔法だ。

 

 これは報酬も膨大になりそうだな。

 

「では詠唱を教えますので試してみてください」

 

 ミネがレフィーヤに詠唱を教え、エルフ・リングをそしてヴィータ・コンティヌアの詠唱を紡ぐ。

 

「『ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴(らくえん)の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい』

『命は流転し、終わりを拒む。絶えぬ息吹よ、我が祈りに応え、傷を縫い、痛みを鎮め、穢れを祓え。いま、希望の灯を繋ぎとめよ――《ヴィータ・コンティヌア》』」

 

 蒼い光がレフィーヤから放たれた。

 

 淡く、優しく――しかし確かな力を帯びた光が、室内を満たしていく。

 

「……っ」

 

 レフィーヤ自身が、息を呑む。

 

 精神力が、静かに削られていく感覚。

 

「これが……持続消費……」

 

「そうです」

 

 ミネの声は冷静だった。

 

「維持している限り、止まりません」

 

 だが――

 

 くらっ

 

「っ……!」

 

 レフィーヤの体が、わずかに揺れる。

 

 視界がぶれる。

 

 足元が、不安定になる。

 

「集中を切らさないでください」

 

「は、はい……!」

 

 歯を食いしばる。

 

 だが、思った以上に消耗が早い。

 

(こんなに……!?)

 

 今も凄まじい勢いで精神力が削られている。

 

 レフィーヤの呼吸が荒くなる。

 

 肩が上下し、額に汗が滲む。

 

 それでも――光は消えない。

 

 淡い蒼光が、確かにその場に在り続けていた。

 

「では次の魔法を教えますね」

 

 その一言に――

 

「……え?」

 

 レフィーヤの思考が止まる。

 

 今、この瞬間にさえ精神力を削られ続けている。

 

 それなのに。

 

「次……ですか……?」

 

 かすれた声で問い返す。

 

「はい」

 

 ミネは平然と頷いた。

 

「実戦ではヴィータ・コンティヌアの展開は前提とする必要があります。ヴィータ・コンティヌアを維持しているからほかの魔法を使えないでは話にならないので」

 

「む、無茶です……!」

 

 思わず叫ぶレフィーヤ。

 

 だが、ミネの表情は変わらない。

 

「だからこそ、今のうちに慣れてください。ヴィータ・コンティヌアは維持を。今から訓練終了まで解くことは許しません」

 

 その宣告は――あまりにも無慈悲だった。

 

「……え……?」

 

 レフィーヤの顔から血の気が引く。

 

「い、今から……ずっと……ですか……?」

 

「はい」

 

 ミネは一切の迷いなく頷いた。

 

「訓練終了まで維持してください」

 

「とんでもない無茶振りしないでください!無理に決まってるじゃ無いですか……!」

 

 即座に否定が飛ぶ。

 

 だが――

 

「本当に無理な時は精神力回復薬マジック・ポーションで補填します。ガレスさんたちが用意してくれているはずなので大丈夫ですよ」

 

 にっこりと、天使のような微笑みがレフィーヤに向けられる。

 

 ――逃げ道が、塞がれた。

 

「次の魔法、アストラ・ファエルですが、レフィには全く適性がないので教えてもいいのか悩むのですが、消費精神力を加速できるので教えますね」

 

「え、えぇぇ……!?」

 

 レフィーヤの悲鳴が、応接室に響いた。

 

「適性がないって今言いましたよね!?」

 

「はい」

 

 即答だった。

 

「ではなぜ教えるんですか!?」

 

「消費精神力を加速できるからです」

 

「理由が鬼です……!」

 

 涙目で抗議するが、ミネはどこまでも冷静だ。

 

「アストラ・ファエルはレフィの前でも使ったことがありますね。こちらは広域障壁魔法となり範囲内の対象に障壁を張る魔法になります。ただ…」

 

 ミネは僅かに言葉を区切る。

 

「この障壁は術者の耐久に依存するんです」

 

「……え?」

 

 レフィーヤの思考が、ぴたりと止まる。

 

「……耐久、ですか?」

 

 聞き返す声は、かすれていた。

 

 今この瞬間も、ヴィータ・コンティヌアの維持で精神力は削られ続けている。思考に割ける余裕など、ほとんど残っていない。

 

 それでも――聞き逃せない言葉だった。

 

「はい」

 

 ミネは静かに頷く。

 

「アストラ・ファエルの防御性能は、術者の“耐久”に依存します」

 

「…………」

 

 沈黙。

 

 そして――

 

「意味無いじゃないですか!?」

 

 即座に叫んだ。

 

「わ、私、後衛ですよ!? 耐久なんて高くないです!」

 

「まぁ、エルフは基本耐久は高くないですからね」

 

 ミネはあっさりと肯定した。

 

「ですので、基本的にレフィには向いていません」

 

「だったらなんで教えるんですかぁ!?」

 

 半泣きである。

 

 だがミネは一切ぶれない。

 

「消費精神力は高いので連続発動で加速的に精神力を消費できます。これで魔力を効率的に鍛えられますね」

 

「鍛え方が雑ですぅぅぅ!!」

 

 悲鳴だった。

 

 もはや抗議ですらない、純粋な嘆きである。

 

 その時、

 

 重厚な扉が開き、低く響く声が室内に落ちる。

 

 振り返った先――そこには、腕いっぱいに瓶を抱えたガレスの姿があった。

 

「すまんの、精神力回復薬マジック・ポーション。用意できるだけ持って来たぞ」

 

 どさり、と。

 

 テーブルの上に並べられる小瓶の数々。

 

 透明な液体が満ちたそれは、淡く光を反射している。

 

「……」

 

 レフィーヤの視線が、ゆっくりとその山に吸い寄せられる。

 

 そして――

 

「こんなにいります!?」

 

 悲鳴だった。

 

「足りないのでミアハ・ファミリアで追加分の精神力回復薬マジック・ポーションと、あと『蒼』を在庫分全部と伝えて頂けますか?私の名前を出せば用意してくると思うので」

 

 ガレスの眉が、ぴくりと動いた。

 

「『蒼』だと?何かの隠語か何かか?」

 

「裏メニューみたいなものです」

 

 ミネは淡々と答えた。

 

「高純度の精神力回復薬マジック・ポーションです。通常流通のものより高い効能がありますが並大抵の冒険者では過剰回復になるため限られたファミリアにのみ少数流通しているものです」

 

 ガレスの目が細まる。

 

「……訓練のために使う薬ではない気もするがの」

 

 ぼそり、と零しながらも、ガレスは肩を竦めた。

 

「分かった。行ってこよう」

 

 再び踵を返し、今度こそ足早に応接室を後にする。

 

 ――ぱたん。

 

 扉が閉じる音がやけに大きく響いた。

 

 残されたのは、再び三人。

 

 そして。

 

「……」

 

 レフィーヤの前には、既に並べられた回復薬の山。

 

 逃げ場は、完全に消えた。

 

「では、続けましょう。その前に一本どうぞ」

 

 ミネは一本の小瓶を手に取り、レフィーヤへと差し出した。

 

「え、あ、はい……」

 

 反射的に受け取る。

 

 震える手で蓋を開け、そのまま一気に煽る。

 

「――っ!」

 

 次の瞬間。

 

 体の奥に、熱が走った。

 

 じわり、と満ちていく感覚。

 

 先ほどまで削られていたはずの“余力”が、急速に回復していく。

 

 ――だが回復した精神力は、満ちた傍から削り取られていく。

 

 なんて燃費の悪い魔法なんですか!!

 

「ではアストラ・ファエルの詠唱を教えるので3回ほど発動してください。マインドダウン寸前になると思うので精神力回復薬マジック・ポーションで回復。それを十セットお願いします」

 

「じゅ、十セットぉぉぉぉ!?」

 

 もはや悲鳴すら裏返った。

 

 レフィーヤの顔は完全に引きつっている。

 

「はい」

 

 ミネは一切の迷いなく頷いた。

 

「10セットこなしたらロキ様にステイタス更新をしてもらってきてください」

 

「……え?」

 

 一瞬。

 

 レフィーヤの思考が止まった。

 

「す、ステイタス更新……ですか……?」

 

「はい」

 

 ミネは当然のように頷く。

 

「この負荷なら確実に魔力が上昇しますので」

 

「でしょうねぇぇぇえ!?」

 

 もはや涙目どころではない。

 

「基礎訓練は早めに終わらせて本格的に鍛えられるようにしないといけないので」

 

「“基礎”って何ですかぁぁぁぁ!?」

 

 レフィーヤの絶叫が、応接室に響き渡った。

 

「今やってるこれが基礎なんですか!?」

 

「…?」

 

 ミネは首をかしげる。

 

「魔法を使うための魔力を鍛えているだけですので基礎としか言えないのですが?」

 

 本気で不思議そうな声だった。

 

 ダメだ、根本的に価値観が違いすぎる!

 

 縋るような視線。

 

 その先にいるのは、最後の砦。

 

「リヴェリア様……」

 

 か細い声。

 

 助けを求める、必死の響き。

 

 だが。

 

「……」

 

 リヴェリアは、静かに目を閉じた。

 

 そして。

 

「……死ぬほどつらくはあるが死ぬわけでも怪我をするわけでもないな。人道的な問題はあるが確かに効率的だ。止める理由は無いな」

 

 リヴェリアはそっと目をそらした。

 

 その一言で、全てが決した。

 

「そんなぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 もはや魂の叫びだった。

 

 しかし現実は変わらない。

 

「では、始めてください」

 

 ミネの一言が、容赦なく落ちる。

 

「いやぁぁぁぁぁああ!!!?」

 

 後にステイタスを更新した際、魔力がカンストしたことでレフィーヤはレベル4へランクアップすることになった。




ヴィータ・コンティヌア維持時間

レフィーヤ→約10分
ミネ→約8時間

ミネはこのクソ燃費魔法を恩恵を得た時から使い続けたのと癒業進化の効果で魔力をカンスト越えでランクアップをしたので長時間の維持が可能になりました。

このSSが完結したら

  • アリス編を書け
  • 過去編を書け
  • フレイヤ様に拾われたミネ編を書け
  • イズナ編を書け
  • ツルギ編を書け
  • いつまでかかっても良いから全部書け
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