ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
戦いの野でレフィーヤは針の筵状態であった。
強靭な勇士達がギラギラとした目でレフィーヤを睨みつけているからだ。
そもそも何故ロキ・ファミリアであるレフィーヤがフレイヤ・ファミリアの本拠である戦いの野にいるのか?
それはミネがフレイヤにお願いして強靭な勇士達にレフィーヤの鍛錬の手伝いを依頼したからだ。
ミネの頼みもあってフレイヤはそれを許諾した上、
「一番頑張った子にはご褒美を上げる」*1
なんて言ったものだから強靭な勇士のやる気は有頂天になった。
それはもう獲物を熱い視線でつかんで離さない。
もはや鍛錬相手に向けるものではなかった。
レフィーヤは一歩、また一歩と後ずさる。
囲まれている。
完全に。
逃げ場は――ない。
「ひっ……ひぃっ……!」
レフィーヤの喉から漏れるのは、もはや悲鳴というより本能的な拒絶だった。
じり、じり、と包囲が狭まる。
重い足音。
獣のような気配。
視線は一つ残らず自分へ――逃がさぬとでも言うように絡みついている。
「ではレフィ、今日の鍛錬の説明をしますね」
その声は――場違いなほど穏やかだった。
「きょ、拒否権はないんですかぁぁぁ!?」
レフィーヤは半泣きで叫ぶ。
だがミネは一切気にした様子もなく、いつも通りの微笑を浮かべていた。
「ありません。レフィにはこれから強靭な勇士の皆さんと戦ってもらいます」
「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
絶叫が戦いの野に響き渡る。
「レフィがしなければならないことは三つ」
ミネは静かに指を立てる。
「ヴィータ・コンティヌアを維持し続けること、精神力が尽きそうになったら精神力回復薬で回復する事、そして決して意識を失わず戦い続けること」
「いつまで戦わせる気ですかぁぁぁああ!!!?」
「レフィが次の鍛錬に耐えられるくらいになるまでです」
「終わりが見えないんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!?」
絶望の叫び。
だがミネは微笑んだまま、淡々と告げる。
「安心してください」
「どこがですかぁぁぁ!?」
「この鍛錬は次の鍛錬の準備みたいなものなので長くはかかりません。これは一対多の戦闘に慣れる訓練です。ここで慣れないと次の鍛錬で命を落とすので」
「今、命を落とすって言いました!!?」
悲鳴は、もはや悲鳴の形を保っていなかった。
だが――
「では」
ミネは、ただ一言。
「皆さんお願いします」
『ヒャッハァァァァアア!!』
歓声は、もはや戦意の咆哮だった。
「いやぁぁぁぁぁああああ!!!!!?」
対照的な声が、戦いの野に響き渡る。
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「それで、どうしてお前がここにいる。アイズ」
戦いの野の片隅。
轟音と悲鳴が遠くに響く中――そこだけは妙に静かだった。
いや、“静かにされている”と言うべきか。
「……」
アイズは正座していた。
土の上で。
剣を横に置き、背筋を伸ばし、視線を落とし。
完全に叱られる体勢で。
「答えろ」
リヴェリアの声は低い。
冷静。
だが――確実に怒っている。
「なぜフレイヤ・ファミリアの本拠で、しかも」
一拍。
「オッタルと戦ってた」
「……」
アイズはほんの少しだけ視線を泳がせる。
「……お願いした」
「それがロキ・ファミリアにどんな不利益をもたらすかを考えてか?」
静かな声音。
だが、その重さは明確だった。
「……個人的な借りにしてもらったから」
ぽつり、と。
だがはっきりとした声だった。
リヴェリアの眉が、ぴくりと動く。
「……だとしてもお前の立場を考えれば許されるものではないことはわかっていたはずだ」
静かに、だがはっきりと断じる。
逃げ道はない。
「どうやら派閥幹部としての自覚を叩き込む必要があるようだな」
アイズの背筋が、ぴんと張る。
逃げ場はない。
言い逃れも、できない。
「……お待ちください、リヴェリア様」
その声は、戦いの喧騒の中でも不思議と通った。
「……ミネ」
振り返るまでもない。
穏やかで、しかし場を支配する声音。
ミネはいつもの柔らかな微笑を浮かべたまま、二人の方へ歩み寄る。
背後では――
「ひぎゃあああああああああああああああああ!!!!!」
レフィーヤの悲鳴と、強靭な勇士達の歓声が絶え間なく響いている。
「……そちらは放っておいていいのか」
リヴェリアが視線だけで示す。
「はい。私とレフィがヴィータ・コンティヌアを維持しているので問題ありません」*2
即答だった。
「アイズさんの件ですが」
もしかして助けてくれるの?
そんな期待の光がアイズの瞳に宿る。
「ここはフレイヤ・ファミリアの本拠なので帰ってからにしていただけますか?」
アイズの瞳に宿った光が、すっと消えた。
「……」
無言。
だがその落差はあまりにも分かりやすい。
ほんの一瞬前まで浮かんでいた“助かったかもしれない”という期待が、見事なまでに霧散していた。
「……それもそうだな」
リヴェリアはあっさりと頷いた。
怒気はそのままに、だが理は通す。
「ここでやる話ではない」
視線をアイズへ向ける。
「アイズ」
「……はい」
「後で、改めて話をする」
「……はい」
深く頭を下げた。
その姿勢は崩れない。
ただ――先ほどよりほんの少しだけ、重い。
リヴェリアはそれを見届けると、小さく息を吐いた。
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黄昏の館、応接室。
ロキ・ファミリアとアストレア・ファミリアの第一級冒険者たちが、静かに向かい合っていた。
フィンは肘を組み、思案するように視線を落としている。
対するは――アリーゼとライラ。
両者ともに、軽口を叩く様子はない。
空気は張り詰めていた。
「……なぁ、フィン。何でミネに人造迷宮の事を話しやがった」
視線が突き刺さる。
飄々とした彼女の仮面の奥にある“警戒”が、はっきりと見えていた。
フィンはすぐには答えない。
組んだ指に顎を乗せ、わずかに視線を落とす。
そして――
「それに関してはすまないことをしたと思っている。しかし、こちらも人造迷宮の事が彼女に伝わっていない…、どころか秘匿されていたなんて知らなかったんだ」
フィンは視線を上げる。
真っ直ぐに、アリーゼとライラを見た。
「何故彼女に人造迷宮の事を秘匿していたんだい?彼女の力を考えるなら情報は共有されているべきだろう?」
アリーゼとライラの表情が、同時に歪んだ。
それは怒りでも、困惑でもない。
――“苦い記憶”を噛み締めた顔だった。
「……やっぱそこ、突っ込んでくるよなぁ」
ライラが後頭部を掻きながら天井を仰ぐ。
軽口の形は崩していない。
だが、その目は笑っていなかった。
アリーゼもまた、小さく息を吐く。
「……理由は単純よ」
一拍。
「“知ったら止まらないから”」
静かな断言。
フィンは目を細める。
「止まらない、とは?」
「そのままの意味よ」
ソーマ、アポロン、イシュタル、アレス。
その悪行をミネに知られ壊滅、もしくはそれに近い被害を受けたファミリアだ。
ミネは迷わない。
一度決めれば一直線に突き進む。
誰も止められない暴走特急だ。
「最悪、人造迷宮への単独突入――アイツが全てを蹂躙し尽くした上で全て丸く収まるなら、アタシ達もアイツを使ったさ」*3
だが――
「でも今回の件は黒幕が何者かさえつかめていない。ミネの力を知られた上で黒幕に逃れられるのはどうしても避けたいというのが私たちの総意よ」
静かに、アリーゼが続けた。
「……なるほど」
フィンはゆっくりと頷いた。
そこにあったのは理解と――わずかな警戒。
「派手に暴れて全部終わり、なんて都合のいい話ならそれこそミネを突っ込ませればいい。でも今回はそうじゃないでしょ?」
エニュオと言う神かどうかすら定かではない正体不明の存在。
そんな存在を相手取るには切り札は最後まで隠したいというのがアストレア・ファミリアの方針だった。
「今回、ミネが留まったのは運がよかったとしか言いようがねぇ」
ミネが人造迷宮の入り口を知らなかった事、レフィーヤを弟子にしたことで時間を稼げたこと、稼げた時間を使いエニュオと言う存在をミネに伝えることで勝手な突入を防げたこと。
ライラはフィンを睨みつける。
「フィン、ミネを使おうなんて烏滸がましい事は考えるな。アイツは一見は話が通じるし温厚に見える」
ライラはゆっくりと指を組み直し、低く続けた。
「――でもな」
一拍。
「アイツが我を通すうえで邪魔だと判断されたら話なんて一切聞かずに蹂躙されるだけだ」
その言葉は、重く――静かに落ちた。
冗談でも誇張でもない。
実際にそれを“見てきた者”の声音だった。
応接室の空気が、さらに一段階冷える。
フィンはしばし沈黙した。
視線を落とし、指を組んだまま動かない。
やがて――小さく息を吐いた。
「肝に銘じるよ」
フィンは頷いた。
その一言は、軽くはなかった。
それを聞いたアリーゼが、ほんのわずかに肩の力を抜く。
「じゃ、本題ね。ミネの弟子になったレフィーヤって子なんだけど」
フィンが顔をしかめる。
休む間もなく魔法を施行し精神力がなくなれば精神力回復薬で回復、そしてミネにボコボコにされていたのを思い出したからだ。
「おそらく、明日から修行の最終段階に入るわ」
フィンの眉がわずかに動いた。
「……最終段階?」
その一言に、場の空気がわずかに揺れる。
アリーゼは頷いた。
「人造迷宮突入まで後五日なら逆算して明日あたりから入るでしょうね。今やってるのはその前段階で基礎を教えているだけの状態」
基礎。
だが、それがどれほど常軌を逸したものかは、この場にいる誰もが理解していた。
魔力を枯らしながらの連続詠唱。
精神力回復薬による強制継続。
そして――あのミネによる“実戦形式”の蹂躙。
今、フレイヤ・ファミリアで行われている強靭な勇士達による集団蹂躙。
それら全てがミネの本当の修行を行うために必要となる基礎なのだ。
フィンは、ゆっくりと息を吐いた。
「一体彼女はレフィーヤに何をさせるつもりなんだい?」
アリーゼとライラは、ほんの一瞬だけ視線を交わした。
――言うか?
――隠しても無駄でしょ。
無言のやり取り。
そして――
「……闘技場に突っ込ませるわ」
――闘技場。
絶え間なくモンスターが湧き続ける、狂気の空間。
逃げ場はなく、休息もなく、終わりもない。
――冒険者にとっての“死地”。
「……正気かい?」
フィンの問いは、疑問というより確認だった。
ライラが肩をすくめる。
「正気じゃねぇよ。だからこうして事前に“基礎”を叩き込んでるんだろ」
「基礎、ね……」
フィンは苦笑すら浮かべない。
魔力を削り続け、精神力回復薬で無理やり継続し、さらに強者たちに袋叩きにされる少女。
――それが“基礎”。
その先にあるのが闘技場。
「闘技場で数日間、休む間もなく死闘をさせる。この方法でミネが鍛えた弟子たちは全員ランクアップした。とはいえ、全員レベル3以下だったけどな」
それはランクアップもするだろう、とフィンが呆れる。
「……生き残れれば、の話だけどね」
フィンの呟きは、乾いていた。
だが――否定はしない。
できない。
それが“結果を出す方法”であると、理解してしまったからだ。
「死なすわけねぇだろ。ミネだぞ」
断言だった。
そこには楽観も希望もない。
ただ“事実”として積み重ねてきた信頼だけがあった。
フィンは、わずかに目を細める。
「……随分と信用しているんだね」
「信用? 違ぇよ」
ライラは鼻で笑った。
「アイツはな、“守ると決めたら絶対に守る”だけだ」
アリーゼも、小さく頷く。
「……それがどんな無茶でもね」
その言葉に、フィンは沈黙する。
――守る。
それは簡単な言葉だ。
だが、闘技場という“死地”に放り込んだ上で、それでも守り切る。
それがどれほど異常なことか、理解できないほど彼は愚かではない。
「……なるほど」
小さく、息を吐いた。
そして――
「それで、その修行を行うために僕の許可が欲しいと?」
「いや、許可が下りなくてもアイツは強行するから、別にいらないが」
ライラはあっさりと言い切った。
その言葉に、フィンはわずかに眉を上げる。
「……随分と正直だね」
「事実だからな」
肩をすくめるライラに、アリーゼが苦笑を浮かべる。
「実はこの修行、あと一人枠が空いてるのよ」
その一言で、空気が止まった。
「……は?」
フィンの声は、珍しく間の抜けたものだった。
アリーゼはにこり、と笑う。
「私とリオンが同行するわ。あと一人、ロキ・ファミリアから人員を出してほしいの」
沈黙。
応接室の空気が、ぴたりと凍りつく。
フィンは、ゆっくりと指を組み直した。
「枠が空いているというのはどういう意味だい?まるで人数に制限があるように聞こえるが」
フィンの問いに、アリーゼは一拍置いた。
そして――
「ええ、制限があるわ」
静かな断言だった。
ライラが肩をすくめる。
「つーか、正確にはミネの付与魔法の最大人数だ」
フィンの目が細まる。
「……それはつまり」
「闘技場ではミネの三つ目の魔法を使用することを前提にした鍛錬だ。そして、その付与魔法の最大人数がミネを含めて五人になる」
フィンの目が、わずかに見開かれた。
「……五人」
その数字の重みを、彼は理解していた。
闘技場という“終わりなき死地”で生き残るための切り札。
それを共有できる人数が――五人。
フィンはゆっくりと確認する。
「ミネ、レフィーヤ、君たち二人で四人。残りは一枠、というわけか」
「そゆこと」
ライラが軽く頷く。
軽い調子。
だがその実――内容は極めて重い。
「誰でもいいわけじゃないわよ」
アリーゼが続ける。
「まず闘技場で戦い続けられる力がある事、精神面で強い事、デメリットのあるスキルを持たないこと」
フィンは思考する。
闘技場で戦い続けられる力
これはわかる。
そもそも闘技場で戦うのだから戦闘力は必須だ。
精神面で強い事
これもわかる。
闘技場は絶え間なくモンスターが湧く空間。
心が折れれば致命的になる。
だが―
「……デメリットのあるスキルを持たない?」
静かに問い返す。
その声音には、明確な引っ掛かりがあった。
戦闘力でも、精神力でもない。
“スキルの性質”。
それが条件に含まれる意味を――彼は即座に測りかねていた。
「どういうことだい?」
視線を向ける。
アリーゼは小さく息を吐いた。
「ここからはミネの最大級の秘密にかかわるわ。たとえロキ様でも話さないと約束してくれないかしら」
フィンは、ほんの一瞬だけ目を細めた。
――最大級の秘密。
つまりこの先の話は軽々しく踏み込んでいい領域ではない。
「だからフィン、誓ってくれ。神でもなくフィン自身でもなく…、小人族の勇気に」
フィンの瞳が、わずかに細められる。
――小人族の勇気に誓え。
フィンにとって小人族の再興は何物にも代えられない悲願。
そして、その小人族の勇気は他種族に決して劣らない小人族の誇り。
この誓いを破ることは、自分自身を否定することに等しい。
「……いいだろう」
目を開く。
その瞳には迷いはなかった。
「小人族の勇気にかけて誓う。この場で聞いたことは、僕の胸の内に留める」
静かな声音。
だが、その重みは誰よりも理解している。
ライラが、わずかに息を吐いた。
「……上等だ」
アリーゼもまた、小さく頷く。
「ありがとう、フィン」
その一言の後。
空気が、変わった。
先ほどまでの警戒が消え――代わりに現れたのは、覚悟だった。
「ミネの三つ目の魔法、ルミナス・アルフィア」
アルフィア、という言葉にフィンが反応するが、構わずアリーゼは続ける。
「その効果は――同時付与した対象のスキルを共有すること」
フィンの思考が――止まった。
「……なんだって?」
静かに問う声。
だが、その内側では明確に理解を拒む何かがあった。
アリーゼは、逃げずに言い切る。
「“スキルの共有”。それがミネの三つ目の魔法――ルミナス・アルフィアの本質よ」
ミネの弟子達は闘技場から帰ったらミネに弟子をやめることを伝え―たわけではなくランクアップをミネに報告し
「これでもっと厳しく鍛えても大丈夫ですね」
笑顔で言われたこの一言で心が折れました。
【ルミナス・アルフィア】
・付与魔法
・発動時、ステイタスを半減
・消費したステイタスに比例して魔法・スキルの強化
・魔法・スキルの効果拡張
・同時に付与した対象のスキルの共有化
ミネの精神力でも最大5人が限界の超クソ燃費魔法。
使うたびにステイタスが半減という特大デメリットを持ってますが効果もヤバいミネの切り札。
魔法・スキルの効果拡張とは効能そのものが上位の効果に変更されること。
例えばヴィータ・コンティヌアは強力ですが回復魔法の範囲を出ないものです。
これが回復魔法→復元魔法になり回復魔法では不可能な部位欠損を時を戻すように復元する魔法に拡張されます。
どう変化したかはステイタスに反映されるのでステイタスを確認すれば詳細が分かりますがステイタス半減のデメリットで中々確認は行えません。
アストレア・ファミリアの団員はミネがランクアップした直後に確認するなどで拡張後の魔法、スキルを把握しています。
このSSが完結したら
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アリス編を書け
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過去編を書け
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フレイヤ様に拾われたミネ編を書け
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イズナ編を書け
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ツルギ編を書け
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いつまでかかっても良いから全部書け