ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
ダンジョン深層――闘技場。
無数の怪物が生れ落ち、そして殺し合う、上級冒険者すら立ち入ることをためらう空間。
そしてその中に放り込まれた、哀れな冒険者が二人。
「いやぁぁぁぁああ!助けてラウルさぁぁぁん!!!?」
「無理っすぅぅぅぅぅぅう!!⁉」
情けない悲鳴が、反響して幾重にも広がった。
全力で逃げ回るレフィーヤとラウル。
その背後を――
ルー・ガルー、スパルトイ、リザードマン・エリート、さらには強化種と思しき異形まで。
大小様々なモンスターが群れをなし、二人に狙いを定めながら雪崩のように追いかけていた。
「多い多い多い多い多いぃぃぃ!!?」
「理不尽すぎるっすぅぅぅぅう!!?」
叫びながらも足は止めない。
止めた瞬間、四方八方から喰い尽くされる未来しかない。
地面を蹴る音。
背後で響く咆哮。
「レフィ、ラウルさん、逃げ回ってるだけではステイタスが上がりませんよ?」
そんな様子の二人を見ながら多数のモンスターの頭を殴り潰すミネ。
「ミネ、二人は闘技場は初めてなんだから無茶言わないの!」
炎を纏い複数のモンスターを切り伏せるアリーゼ。
「…可哀そうに。死ぬことは無いので耐えてください」
ルミノス・ウィンドを展開しながらモンスターを薙ぎ払うリュー。
手慣れた様子で3人は襲い来るモンスターを処理していた。
「いや助けてくださいよぉぉぉぉ!!?」
涙目で叫ぶレフィーヤ。
確かにミネたちは戦っている。
戦っているのだが――
二人に向かう流れだけを絶妙に残している。
「うわぁぁぁ!? なんでこっちばっかり来るんすかぁぁぁ!!?」
「誘導してますので」
ミネが、拳でルー・ガルーの頭を砕きながらさらりと言う。
「ほら、レフィ。そっち行きましたよ」
「いりませんよぉぉぉ!!?」
ぶん投げられたスパルトイが、一直線にレフィーヤへ。
咄嗟に避ける。
だがその着地地点に、今度はリザードマン・エリート。
「なんで連携してるんですかぁぁぁ!!?」
「悪魔っす!この人善人に見せかけた悪魔っす!!」
この場で一番不幸なのは間違いなくラウルだろう。
ミネはこの地獄を生み出した張本人。
レフィーヤは自ら地獄に足を踏み飲んだ。
アリーゼはステイタスアップのチャンスだとアストレア・ファミリアじゃんけん大会の結果、挑戦権を手に入れた。
リューはステイタスが足りずランクアップ保留中だったので優先的に選ばれた。
しかしラウルは自分の意思とは関係なくこの場に居るのだ。
ロキ・ファミリアで一人誰を送り込むかとなった時、フィンはラウルを指定した。
フィンとしてはラウルに期待しての事だがラウルからすればとんだとばっちりである。
「死んだら恨むっすよ団長ぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」
悲痛な叫びが、再び闘技場に響いた。
だが当然――誰も答えない。
否、答える余裕がない。
「いやもうこれ無理ゲーっす!! 詰みっす!!」
「諦めないでくださいぃぃぃ!! 私も無理だと思ってますけどぉぉぉ!!」
もはや励ましにもなっていない。
だが――その時。
「地面に伏せてください」
反射的に二人は地面に伏せる。
その直後ー
ゴウッ――!!
空気を裂き、圧を伴って通り過ぎたそれは、ただの武器ではなかった。
質量そのものが暴力と化した一撃。
直後――
ズドォォォォンッ!!
闘技場の中央で、大地が爆ぜた。
岩盤が砕け、衝撃が放射状に走る。
巻き込まれたルー・ガルーも、スパルトイも、リザードマン・エリートすらも――
まとめて吹き飛び、潰され、沈黙した。
「……え?」
伏せたまま、レフィーヤが顔を上げる。
ラウルも同様に、呆然と視線を向けた。
そこにあったのは――
巨大な“大盾”。
穢れた精霊にとかされた盾に代わるミネの新たな盾、
名を『アンブレイカブル・オース』
「アリーゼさん!リオンさん!薙ぎ払います!!」
その言葉を聞いた二人は大きく跳躍する。
ミネはアンブレイカブル・オースから延びるワイヤーを握りしめ。
アンブレイカブル・オースをぶん回した。
――次の瞬間。
轟音すら、遅れてやってきた。
ミネが握り締めたワイヤーが軋み、巨大盾『アンブレイカブル・オース』が――
円を描いた。
否。
それはもはや“回転”ではない。
質量による制圧。
「――ッ!?」
空気が消し飛ぶ。
衝撃波が闘技場を舐めるように走り、地面が削れ、岩が砕け、魔物が――
消し飛んだ。
ルー・ガルーの群れが弾ける。
スパルトイが粉砕される。
リザードマン・エリートすら、抵抗する間もなく宙に舞い――
壁へ叩きつけられ、沈黙した。
ドォォォォォォォォンッ!!
回転が止まった瞬間、ようやく音が追いつく。
遅れてやってきた衝撃に、レフィーヤとラウルの身体がびくりと震えた。
「…………」
「…………」
二人は、伏せたまま動けない。
思考が追いついていない。
ただ一つ理解できるのは――
やばい。
それだけだった。
「仕切り直します。モンスターはすぐに生まれますよ。体勢を立て直してください。」
レベル9やべぇ。
二人は改めてミネと言う規格外の実力を認識した。
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十数時間も闘技場で戦っていれば流石にレフィーヤもラウルも慣れて来た。
本当に危うくなればミネやアリーゼ、リューがフォローしてくれるので死ぬことは無い。
それだけが、唯一の保証だった。
だがそれ以外は、すべて本物だ。
痛みも、疲労も、恐怖も、判断も。
すべてが実戦。
すべてが極限。
そして――
「右三体!! 後ろ一体っす!!」
「分かってます!!解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢《アルクス・レイ》!」
レフィーヤが魔法を放つ。
閃光が走り、背後から迫っていたリザードマンを撃ち抜いた。
そのまま前方へ。
スパルトイの骨を砕き、動きを止める。
「……いける」
レフィーヤが、息を整えながら呟く。
最初の頃のような混乱はない。
視界は広い。
敵の動きが見える。
そして――
「まだ来るっすよ!!」
「分かってます!!」
恐怖は消えていない。
だが、それに飲まれない。
それだけで、世界はまるで違って見えた。
「…そろそろですか」
ミネが、ぽつりと呟いた。
「レフィ、ラウルさん!ここからが本格的な鍛錬です!」
ミネは待っていた。
二人が、この闘技場という“死地”に慣れるのを。
恐怖に飲まれず。
視界を保ち。
連携し。
――戦える段階に至るのを。
「アリーゼさん、リオンさん、使います」
ミネのその一言に――空気が変わった。
「……は?」
ラウルが間の抜けた声を漏らす。
「使うって……何を――」
「単なる付与魔法ですよ」
あまりにも軽い口調だった。
「『静謐なる祈りよ、天穹に満ちよ』」
七年前、かつての本拠だった廃教会である冒険者と出会った。
「『穢れを断ち、痛みを鎮める白き灯火』」
妹との思い出の場所だと言っていた。
「『私は願う――争いなき安寧を』」
彼女がオラリオの敵だと知った時、何か事情があるのだと思った。
「『私は乞う――傷つきし魂の救済を』」
だからミネは彼女を救おうとした。
「『静寂よ、ここに降り立て』」
でも彼女は目の前で炎の中に消えてしまった。
「『慈光よ、すべてを包め』」
救うための力がなかった、だから今度は彼女のような人を救うために強くなると誓った。
「『安らぎの名のもとに、その光、顕現せよ――』」
彼女の名は―
「《ルミナス・アルフィア》」
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「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁあ!?」
黄昏の館にロキの叫び声が響き渡った。
人造迷宮突入の二日前に戻って来たレフィーヤとラウルのステイタス更新をしステイタスを確認した瞬間、抑えることも忘れ自然と口に出てしまった叫びであった。
■レフィーヤ・ウィリディス
Lv.4
力:I17→H121
耐久:H134→D 585
器用:I29→G226
俊敏:I31→G288
魔力:H172→C669
トータル1500オーバーの成長率。
特に耐久と魔力の成長がやばい。
ラウルも魔力が無い分、マシだったがそれでも似たようなものだ。
ロキが頭を抱える。
「なんやこれ!? バグか!? バグやろこれぇ!!?」
ロキの絶叫が、なおも止まらない。
その横で――
フィンは静かに腕を組み、数値を見つめていた。
「……これは、流石に予想外だね」
唯一ミネの魔法を知っているフィンは何らかのスキル効果だろうと予想するが口にすることは無い。
「闘技場で鍛錬したにしてもこれは異常だ。レフィーヤ、ラウル、何をした」
リヴェリアに問われた二人は――
顔を見合わせた。
そして同時に、視線を逸らす。
思い出しているのは――あの地獄だ。
絶え間なく湧き続ける怪物。
休む暇もなく続く戦闘。
逃げ場のない空間。
そして何より――
「……死ぬかと思いました」
レフィーヤが、真顔で呟いた。
「いやマジで死んだと思った瞬間、何回もあったっす……」
ラウルも同意するように頷く。
ロキが眉をひくつかせた。
「いや、“思った”やなくて普通死ぬやろそれ」
「でも死ななかったんですよね……」
「フォローが入るんすよ……ギリギリで……」
二人の声には、妙な実感がこもっていた。
それは誇張ではない。
本当に――
“死ぬ直前でだけ”助けられていた。
「ミネさんもそうっすけどアストレア・ファミリアの二人もヤバかったっす。闘技場での戦いに慣れてるっていうか…」
「“慣れてる”なんてもんじゃないですよ……」
レフィーヤが遠い目をした。
「あの人たち、絶対何回か同じことやってます……」
脳裏に焼き付いているのは――
絶え間なく湧き出る魔物の群れの中で、呼吸をするように戦い続ける三人の姿。
「あとミネお姉ちゃんが付与魔法を使ってから二人とも随分張り切ってたような気がします」
ガレスが、顎に手を当てながら低く唸った。
「……まったく妙ちくりんな小娘だわい」
その一言に、場の視線が集まる。
「何がや?」
ロキが怪訝そうに眉をひそめる。
「回復に防御、付与――どれも後衛の魔法だ。なのにあの小娘は常に前に出るバリバリの前衛ではないか」
そもそも魔法特化ともいえる種族のエルフとしてミネは明らかにバグっている。
なんでエルフが前衛で盾持って味方を守っているんだ。
最前線で味方を守り、殴り、耐え、なおかつ――支える。
「普通やったら後衛に置いてナンボの逸材やろ……」
ロキが額を押さえながらぼやく。
「回復も、防御も一級品。なのに前で暴れまわるとか、戦術的には意味分からんで」
「……だがそれが高水準で成立してしまっている」
静かに口を開いたのはフィンだった。
「前線で自己完結しながら、味方全体に影響を与える。しかも回復・防御・強化の三種を同時に扱うとなれば――」
「……パーティ全体の生存力が、異常に跳ね上がる」
リヴェリアが、低く結論を告げた。
「なぁ、フィン。もし、もしもや。アレと敵対して勝てるか?」
部屋の空気が、ぴたりと止まる。
誰もすぐには答えない。
だが――
「……戦いを選んだ時点で僕たちの負けが確定するね」
静寂が、落ちた。
それは重く、張り詰めた沈黙だった。
ロキも、ガレスも、リヴェリアも――言葉を失う。
ただ一人、フィンだけが淡々と続けた。
「深層の竜種を一撃で屠り穢れた精霊の魔法を無傷で耐えるような相手が回復、防御、強化をしながら前衛で暴れまわるんだ」
指先で顎をなぞりながら、思考を言葉にする。
「普通の戦術で勝てるはずがない」
フィンは、静かに断じた。
「単純な格闘戦においてもベートやティオナ、ティオネを手玉に取るんだ。彼女一人でこちらの前衛は崩壊する」
その言葉に、誰も口を挟めない。
「敵対した時点で負けだ。かの女帝と同じ領域にいる相手に喧嘩を売る気にはならないよ」
事実を、ただ事実として述べただけの――冷徹な結論。
ロキは頭を掻きむしりながら、天井を仰ぐ。
「……はぁーあかん。ほんま、なんでウチにおらんのやあの子……」
「はっはっはっ、無いものねだりなどみっともないぞロキ」
ガレスの豪快な笑いが、重苦しい空気をわずかに和らげた。
「……分かっとるわ!」
ロキは不貞腐れたように頬杖をつく。
「せやけどなぁ……あれはちょっと反則やろ。戦力の枠からはみ出とるで」
「規格外、という意味では同意する」
リヴェリアが静かに頷く。
「だがその規格外がオラリオ側に居る。それをもたらしてくれたヘスティア・ファミリアとアストレア・ファミリアには感謝せねばな」
フィンは、わずかに目を細めた。
「……ああ、それが一番重要だ」
静かな声音。
だがそこには、はっきりとした確信があった。
「彼女は“味方である限り”、これ以上なく頼もしい存在だ」
逆に――
「敵に回さない。それだけを徹底すべきだね」
その一言に、誰も異を唱えなかった。
絶対に敵対しないこと。
この場に居る全員がそのことを心に誓い―
「た、大変です!!」
勢いよく扉が開かれ、室内の空気が一変する。
息を切らしながら飛び込んできた団員は、言葉を整える余裕すらない。
「未完の蒼とアストレア・ファミリア数名がディオニュソス・ファミリアを襲撃!主神ディオニュソスと白巫女が捕縛されたと報告が!至急救援を求めるとディオニュソス・ファミリアから!!」
なんでそうなる!!
この場に居た全員が叫びたかった。
【癒業進化+(リジェネレイト・ギフト・プラス)】(ルミナス・アルフィアによる効果拡張)
・『他者に対する総回復量』→『総合消費精神力』に応じて成長率の永続的な強化
・耐久、魔力の限界突破
・総魔力量に応じて『回復行動』→『魔法、回復行動』に対する補正
Q.なんでこんなにステイタスが上昇してるの?
A.ルミナス・アルフィアの効果で癒業進化の効果が増強された上で共有されたため。発動時の消費ステイタスが膨大だったのでそれ相応に効果が強化された。また、ルミナス・アルフィアで共有された癒業進化の効果は共有している全員の『総合消費精神力』を加算した結果を参照するためレフィーヤ、リューがメンバーに居ることも影響してる。
Q.ベル君含めてルミナス・アルフィア使うとヤバくない?
A.間違いなくヤバい。今回はベル君は遠征中(原作12巻)のため選定に入らなかった。
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