ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか   作:救護騎士団オラリオ支部

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ミネとライラ

 オラリオの街が赤く染まる。

 

 子供達は笑いながら家路につき、温かな灯りが一つ、また一つと灯っていく。

 

 その光景を見下ろしながら――

 

 ミネとライラは、星屑の庭の屋根の上に立っていた。

 

「あぁいうのを見てるとな、お前には悪いことをしたって思ってるんだぜ?」

 

 ライラがぽつりと零す。

 

「あの年頃の頃のお前はオラリオを駆けずり回って誰かを救ってばかりで同年代のダチを作って遊ばせてもやれなかったってな。まぁ、そこら辺はアタシも似たようなもんだが」

 

「悪いなどと思わないでください。私は私がやりたいことをしていただけですから。それにしても…」

 

 そのまま視線を街へと落とす。

 

 石畳を歩く人々。

 

 笑い合う家族。

 

 手を引かれて帰る子供達。

 

 どれも――戦いとは無縁の、当たり前の光景。

 

「こうやってライラさんとオラリオの街を見下ろすのも…、随分してなかった気がします」

 

 ミネの言葉に、ライラは一瞬だけ目を細めた。

 

「……あぁ、そうだな」

 

 どこか懐かしむように、視線を遠くへと投げる。

 

「怪我人見つけてはすっ飛んで行って魔法をかけてはぶっ倒れて。お前には手を焼かされたよ」

 

「ご迷惑をおかけしました」

 

「今もかけてるだろうが。昔の事みたいに言ってんじゃねぇよ」

 

「……否定はできません」

 

 小さく肩をすくめるミネに、ライラは呆れたように息を吐いた。

 

「迷惑をかけないようにしろよ、そこは」

 

「努力はしています」

 

「成果が見えねぇんだよ」

 

 ぴしゃりと言い切る。

 

 だがその声音に棘はない。

 

 むしろ――長年積み重ねてきた関係だからこその、気安さだった。

 

「……あの頃はライラさんの方が大きかったのに、今では見下ろすくらいになってしまいましたね」

 

小人族パルゥムに身長の話をするなドアホ」

 

 即座に拳が飛ぶ。

 

 コツン、と軽くお腹に当たるだけのものだが、抗議としては十分だった。

 

「…この件、お前を関わらせる気は無かった」

 

 ぽつり、と。

 

「お前が居ればオラリオの平和は安泰だ。お前さえいればこの安寧は守られる」

 

 ライラの口から零れた言葉は、夜風に紛れるように静かだった。

 

「だがな――」

 

 ライラは、視線を街へと落としたまま続ける。

 

「その安泰に、お前を縛りつける気はなかった」

 

 静かな声だった。

 

「……」

 

 ミネは何も言わない。

 

 ただ、隣に立つその小さな背中を見つめる。

 

「お前が居なくてもアタシ達ならオラリオの平和を守れる」

 

 苦々しげに吐き捨てる。

 

「お前に頼らなくてもやれるってな。そう思いたかったし、思い上がりでもいいから――証明してぇと思った」

 

 夜の帳が、ゆっくりと街を覆っていく。

 

 灯りは増え、人の声は遠くなる。

 

 それでも――二人の間の距離は、変わらない。

 

「笑えよ。正義の眷属達が護るべき民より自分たちのプライドを優先したんだ」

 

 吐き捨てるような言葉。

 

 だがその奥にあるのは――後悔と、自嘲だった。

 

「それでもアタシ達は証明したかったんだ。お前はもうアタシ達に縛られる必要なんてないんだと」

 

 その言葉は――願いだった。

 

 ミネはアストレアの眷属ではない。

 

 だからお前は正義に縛られるなと。

 

 私達に縛られるなと。

 

 足枷私達など外してしまえと。

 

 ――しばしの沈黙。

 

 夜風が、二人の間をすり抜ける。

 

 遠くで誰かの笑い声がした。

 それはとても穏やかで――この街が守られている証のような音だった。

 

「……それでも」

 

 ぽつり、と。

 ミネが口を開いた。

 

 視線は街に落としたまま。

 

「私は、皆さんと一緒に行きますよ」

 

 あまりにも静かな声音。

 だが――揺るがない。

 

「頼まれたからでも、縛られているからでもありません」

 

 ゆっくりと、顔を上げる。

 

 夜に染まる空。

 星が、ひとつ、またひとつと瞬き始めていた。

 

「私がそうしたいからです」

 

 それは、ただの事実。

 

「……」

 

 ライラは何も言わない。

 ただ、横目でミネを見た。

 

「救えるなら救う。止められるなら止める。それだけです」

 

 その言葉には、飾りも理屈もない。

 

 ――だからこそ、重い。

 

「誰に言われたわけでもなく、誰のためでもなく」

 

 一瞬だけ、ミネは笑った。

 

「私がそうしたいからやるんです」

 

 ライラは――小さく息を吐いた。

 

「……変わんねぇな、お前」

 

「ええ」

 

 即答だった。

 

「変えるつもりもありません」

 

 その言葉に、ライラは肩をすくめる。

 

「まったく、生意気に育ちやがって」

 

 だが――その声音に、嫌味はなかった。

 

 むしろ。

 

 どこか、誇らしげですらある。

 

「誰に似たんだか」

 

「ライラさんでしょうか?」

 

「違ぇよ」

 

 即答。

 

 だが次の瞬間、小さく鼻で笑う。

 

「……いや、少しくらいはそうかもな」

 

 肩を竦めるその仕草は、どこか照れ隠しのようだった。

 

 ミネは何も言わず、ただ隣に立つ。

 

 夜のオラリオ。

 

 灯りは増え、人々は家路につき、

 

 戦いとは無縁の時間が流れている。

 

 ――だからこそ。

 

「この光景を壊そうとしてる屑がいる」

 

「許せませんね」

 

「あぁ、許せねぇよな。策士気取りで裏側でコソコソしてバレないとでも思ってやがる」

 

 エニュオ―

 

 ロキ・ファミリアから伝えらえた事件の黒幕だと考えられる存在。

 

「人か神か、それすらわからない。表に一切出てこない臆病者め」

 

 夜に沈みゆく街を見下ろしながら、その瞳はわずかに細められる。

 

 ライラの言葉は、夜風に乗って静かに落ちた。

 

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 冗談めかした口調。

 

 だが――そこに込められた信頼は、揺るがない。

 

「命は流転し、終わりを拒む。

 

 絶えぬ息吹よ、我が祈りに応え、傷を縫い、痛みを鎮め、穢れを祓え。

 

 いま、希望の灯を繋ぎとめよ――《ヴィータ・コンティヌア》」

 

 詠唱が、静かに夜へと溶けた。

 

 しかし何も起こらない、いや、薄いのだ。

 

 ゼロに近い回復効果を範囲を広めて展開した。

 

 効果対象は―エニュオ

 

 暗躍する闇派閥を問答無用で表に引きずり出してきた魔法。

 

「ミネ、久しぶりの散歩だ。付き合ってもらうぜ」

 

「エスコートはお任せしますね」

 

 ミネとライラはオラリオの街を駆けだした。

 

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「それでディオニュソスがエニュオと特定したと」

 

 アストレアの問いにライラが答える。

 

「ヴィータ・コンティヌアに引っかかったんだ。間違いなく黒でしょうよ」

 

「……そう」

 

 静かに目を伏せたのは、アストレアだった。

 

 その表情にあるのは驚きではない。

 

 むしろ――覚悟を確認するような、沈黙。

 

「ディオニュソス……」

 

 名を噛みしめるように呟く。

 

「よくミネを抑えられましたね。そのまま突撃しなかったのですか?」

 

 リューの問いは、静かだが鋭かった。

 

 視線はミネへと向けられている。

 

「どの道突撃するから全員でやった方がいいだろってだけだ」

 

 ライラが横目で睨む。

 

「明後日の人造迷宮クノッソスの攻略にはディオニュソス・ファミリアの連中も来る。碌なことにならねぇのは確定してるんだ。なら突入前に不安要素を潰しておくのは絶対だ」

 

 アリーゼが頷いた。

 

「まぁ、後ろから斬られることがわかってるんだから何かされる前に対処するのは当然ね」

 

「だろ?」

 

「となると時間が無いわね。すぐに準備しないと」

 

 アリーゼもデュオニュソス・ファミリアへの襲撃は避けられないと判断する。

 

 しかし問題もある。

 

「……一応聞きますが」

 

 リューは一瞬だけ言葉を区切る。

 

「証拠は?」

 

 場の空気が静かに沈む。

 

 ヴィータ・コンティヌアを使用した特定では証拠をつかめない。

 

 なにせミネの証言でしか立証できないのだから。

 

 静寂が落ちた。

 

 誰もが理解している。

 

 “黒”である確信と、“裁ける証拠”は別物だと。

 

「今回は強行しかねぇだろ。調べてる時間なんかねぇよ。それに…」

 

 ライラの視線がミネに向き――

 

「コイツが一人でも突撃するのはわかってるだろうが」

 

 ぴたり、と場の全員の視線がミネに集まった。

 

 間違いなく行く。

 

 止めようが、理屈を並べようが関係ない。

 

 それがミネという存在だと、この場の全員が知っていた。

 

「でしょうね」

 

 リューがため息混じりに呟く。

 

「いいわ、行きなさい。どうせ止まらないなら一緒に行って被害を減らすようにお願いね」

 

 アストレアのこの言葉でデュオニュソス・ファミリアの襲撃は決定した。




ベル君と命を見つけたようにヴィータ・コンティヌアは索敵能力も規格外です。
デュオニュソスからすれば盤面に剣を叩きつける準備をしてた所に最硬金属オリハルコン製の駒が背後から脳天をぶち抜いてきた気分でしょう。

このSSが完結したら

  • アリス編を書け
  • 過去編を書け
  • フレイヤ様に拾われたミネ編を書け
  • イズナ編を書け
  • ツルギ編を書け
  • いつまでかかっても良いから全部書け
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