ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
あとはユキノだけだ。
デュオニュソス・ファミリアの本拠の周囲は、多くの人々で埋め尽くされていた。
押し寄せる民衆をガネーシャ・ファミリアの団員たちが抑えている。
ざわめきは波のように広がり、誰もがその異様な光景に目を奪われている。
――主神の捕縛。
――ファミリアの壊滅。
アストレア・ファミリアによる突然の襲撃は、あまりにも鮮やかだった。
主神デュオニュソスは拘束され、団員たちは完全に制圧されている。
抵抗らしい抵抗すら許されなかった。
その手際は、もはや“作戦”というより“処理”に近い。
時間にして――五分。
それだけで、一つのファミリアは機能を失った。
「ほらほら、どいたどいた!まったく、アストレアの奴、面倒なことおこしよってからに」
喧騒を押し分けるようにして、ひときわ通る声が響いた。
群衆がざわめきながら道を開ける。
現れたのは――
「……ロキ様」
誰かが小さく呟く。
橙色の髪を揺らしながら、ロキは面倒くさそうに頭をかいた。
その後ろには、幹部たちの姿。
フィン、ガレス、リヴェリア。
そして複数の団員が続く。
「アストレアの奴、この忙しいときにやらかしおってからに」
ぼやきながらも、その歩みは迷いがない。
視線はすでに現場の核心を捉えている。
民衆を抑えるガネーシャ・ファミリアの団員達の背後、
拘束されたデュオニュソスと眷属達――
対峙するアストレア・ファミリア、
そして未完の蒼、ミネ・シルヴァリエ
「……さて」
一歩、踏み出す。
ロキ・ファミリアの主神が、現場の中心へと歩み寄る。
自然と人垣が割れ、道が開かれていく。
「派手にやっとるやないか、アストレア」
軽い調子で声をかける。
だがその視線は鋭い。
アストレアはゆっくりと振り返った。
「……ロキ」
「呼ばれてへんけど、来たで?」
測るように。
探るように。
「ほんで?」
ロキは顎で示した。
「これはどういうつもりや。説明してもらわんとなぁ」
一拍。
空気が、沈む。
「……デュオニュソスはエニュオよ」
アストレアは静かに答えた。
「ほーん、なるほどなぁ。どうやって突き止めよった?」
驚きはない。
ロキも最も怪しんでいたのはデュオニュソスだ。
しかし、確信に至るまでは無かったため泳がせていた。
「ミネの魔法よ」
ロキの眉が動く。
「魔法やと?」
「ええ」
アストレアは頷く。
「ミネの魔法が対象判別機能を持った回復魔法なのは知ってるわよね?」
「あぁ、ウチのレフィーヤが教えてもらったやつやな……、いや、まて、マジか?」
対象判別
その言葉を聞いてロキはぴたりと動きを止めた。
数秒。
沈黙。
そして――
「……それ、“神”にも効くんか?」
低く、確かめるような声。
「ええ」
アストレアは即答する。
「ミネの魔法からは神であっても逃れられないわ」
その言葉の意味を、ロキは瞬時に理解した。
つまり――
「……エニュオを対象として引っかかったのがデュオニュソスよ」
静かに告げられた結論。
「……ははっ」
ロキが、乾いた笑いを漏らす。
「なんやそれ……」
頭をかく。
「インチキにも程があるやろ」
策士を気取る連中からすればまさに天敵のような魔法。
「どういうからくりや。何でそんな高度な判別が出来る?」
問い。
興味と警戒が入り混じった声音。
視線がミネに向けられる。
ミネは少しだけ沈黙し――
「……ヘディンさんによればヴィータ・コンティヌアの判別能力は主に範囲内の対象の深層意識の認識を判別していると考察されています。他にも要素があるみたいですが私自身、詳細な判別方法はわかっていません…」
静かに答えた。
「……ほぉ」
ロキの目が細くなる。
「深層意識ってことは洗脳や催眠の類も突破するってことか?」
「はい」
「洗脳や暗示じゃ誤魔化せん」
「はい、ヘグニさん協力で検証しましたが、暗示も突破することがわかっています」
「……えげつな」
ロキは額に手を当て、深く息を吐いた。
「ほんま……えげつないにも程があるやろ、それ」
回復魔法のおまけでついていい判別能力じゃない。
「そら隠れられへんわな。運が悪かったとしかいうほかないやん。なぁ、そうは思わんか、デュオニュソス」
視線がゆっくりと、拘束されたデュオニュソスへと移る。
縄に縛られ、膝をつかされたその姿は敗者そのものだった。
「やぁ、ロキ。すまないが彼女たちの誤解を解いてくれないか?どうにも私の話を聞いてくれなくてね」
その一言に――場の空気がわずかに揺れた。
あまりにも自然。
あまりにも“いつも通り”の声音。
まるで、これがただの行き違いであるかのように。
「……は?」
ロキが、わずかに目を細める。
その視線には、呆れと――ほんの僅かな感心が混じっていた。
「まだやるんかいな」
肩を竦める。
「往生際が悪いっちゅうか……大した度胸やで、ほんま」
だが――
デュオニュソスは微笑みを崩さない。
「誤解だよ、ロキ」
穏やかに。
静かに。
「証拠も無しにいきなり拘束され、罪人扱いだ。余りに理不尽じゃないか?」
理路整然。
破綻のない言葉。
周囲の民衆の中にも、わずかな動揺が走る。
――本当に誤解なのではないか?
――神を一方的に拘束するなど、あり得るのか?
そんな空気が、じわりと滲み出る。
「言葉だけなら、いくらでも整えよる。けどな…」
一歩、踏み出した。
「今回は、その“言葉”が通じる相手やないんやわ」
ロキはミネをジト目で見る。
思ったよりヤバいやん、この子。
「だが私だって眷属達を失っている被害神だ。このような扱いは納得できない」
その言葉に――
今度こそ、明確な“苛立ち”が場に滲んだ。
「……まだ言うか」
ロキの声が、低く落ちる。
軽口は消えていた。
代わりにあるのは、明確な不快と――断定。
「被害神、やと?」
一歩、踏み込む。
石畳が、乾いた音を立てた。
「自分で火ぃつけて、燃え広がったの見て“被害神です”言うてるようなもんやぞ、それ」
冷ややかな視線。
「ミネたんは嘘は言うてへん。つまりミネたんの魔法の性能は本物でそれが自分をエニュオだと判別した」
アストレア達はミネを信じている。
だからこそデュオニュソスを解放する気など全くないと伝わってくる。
「せやから――」
ロキは肩をすくめる。
「今は大人しく拘束されとき。少なくとも人造迷宮に自分は連れていけへん」
デュオニュソスの瞳が、わずかに細められる。
「…信じてくれロキ。私は本当にエニュオではない」
なんだ、どうにも話がかみ合わない。
ここまでされて、追い詰められて、それでもあきらめていないだけ?
本当にデュオニュソスはエニュオなのか?
「…なら、もっと簡単な方法で確かめればええやん」
ロキは周りを見渡す。
白巫女をはじめとするデュオニュソスの眷属達が拘束されている。
「自分の眷属達に聞いてみれば一発やろ。全員に聞けば何人かは引っかかるかもしれん」
拘束された団員たちの間にも、わずかな緊張が走った。
「……成程、確かに私の眷属たちに聞けば私の潔白も証明できる」
デュオニュソスは、あくまで穏やかに頷く。
「私の眷属達に問いただせばいい」
視線を、ゆっくりと自らの眷属へ向ける。
「私が“エニュオ”かどうかをね」
ざわめいていた民衆が、息を潜める。
拘束された団員たちも、固まったように動かない。
そして――
「ロキ様!デュオニュソス様がエニュオなどありえません!デュオニュソス様は私たちを愛してくださる尊敬すべき主神です!」
声を上げたのは副団長のアウラ・モーリエルだ。
その言葉には、迷いがなかった。
絶対の信頼。
絶対の敬愛。
他の眷属達も声を上げる。
「そうだ!デュオニュソス様がそんなことをするはずがない!」
「なにが正義の眷属だ!罪もない神に濡れ衣を着せるなど!」
「ロキ様!デュオニュソス様は無実です!助けてください!」
一切、嘘が無かった。
眷属達は誰一人嘘をつかずデュオニュソスを擁護した。
しかし、ただ、一人だけ、
声をあげないものが居た。
団長の白巫女、フィルヴィス・シャリアだ。
ロキの視線が、すっと細くなる。
喧騒の中から、その一点だけを正確に拾い上げた。
「なんで自分だけ黙っとるんや?」
一瞬で、空気が変わった。
周囲の団員たちも、はっとしてフィルヴィスを見る。
「フィルヴィス……?」
デュオニュソスが戸惑うように名前を呼ぶ。
それでも――返答はない。
沈黙。
重く、沈む沈黙。
それは否定でも肯定でもない。
だが――
「……答えられへん、か」
ロキがぽつりと呟いた。
その声は低く、静かで。
決定的だった。
フィルヴィスの指先が、きゅっと握られる。
爪が食い込むほどに。
それでも、顔は上げない。
「無様だな」
その一言は――
あまりにも冷たく、あまりにも唐突だった。
場の空気が、一瞬で凍りつく。
誰もが、その声の主へと視線を向けた。
「仮面の怪人…」
デュオニュソス・ファミリアの本拠。
そのバルコニーから仮面の怪人が姿を現した。
このSSが完結したら
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