ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
「ミネの面倒を一番見てたのはアタシなんだからな!」
ライラが胸を張ってそう言った瞬間、ベルは思わず目を瞬かせた。
「ライラさんが、ですか? リューさんやセルティさんじゃなくて?」
ミネはエルフ。
だから当然、同じエルフのリューやセルティと仲が良いものだと思っていた。
だが、ライラは自信満々に鼻を鳴らす。
「そりゃリオンも色々教えてたが、一番って言ったらアタシだ。セルティはそもそも、その頃まだウチにいなかったしな」
「でも、ライラさんが一番……っていうのは意外ですね」
ライラはニヤリと笑い、椅子の背もたれにどっかと腰を預けた。
「状況的にアタシが最適だったんだよ。ミネはとにかく“表に出せない”。だったら隠れながら魔法を使うしかないだろ?」
「隠れながら……魔法を?」
ベルは目を瞬かせたまま、言葉を失った。
ライラの言う“隠れながら魔法を使う”という状況が、すぐには想像できなかったのだ。
「裏路地とか空き家とか、あとは……下水に潜ったりもしたな。隠れたり逃げたりするならウチで一番得意なアタシが、ミネにつきっきりだったんだ」
「下水……!?」
ベルは思わず素っ頓狂な声を上げた。
潔癖な印象のあるエルフのミネが――下水に潜っていたという光景が、どうしても頭に浮かばない。
「え、……まさか、ミネさんが?」
「信じられないって顔だな?」
ライラはケラケラと笑う。
「必要だと思ったら、あいつは普通にやるぞ?」
「ええ。彼女は、良い意味でも悪い意味でもエルフらしくない子です」
リューが静かに微笑みながら言葉を継ぐ。
「誇りよりも、“誰かを助けたい”という気持ちを優先していました。汚れることも、恥だとは思っていなかったのです」
ベルはその言葉に、あの真っ直ぐな笑顔を思い出す。
“誰かを救うためなら、場所なんて選ばない”――
きっとミネなら、そう言うに違いなかった。
「リオンの言うとおりさ」
ライラは頷き、手をひらひらと振った。
「初めて下水に連れ出した時なんか、絶対嫌がるだろうなって思ってたんだ。けど、いざ蓋を開けてみりゃ――あいつ、自分から先に降りていきやがった」
「えっ!?」
「しかもな、にっこり笑って“いつも助けてくださりありがとうございます”だとよ。あの笑顔で言われたら、さすがのアタシでも調子狂っちまうっての」
ライラは苦笑しながら肩をすくめた。
「それから二人で、オラリオの裏通りをあっちこっち走り回ってた。あの頃のミネはまだ魔力量も足りなくて、魔法を使うたびにマインドダウンでぶっ倒れてたんだ。で、気を失ったミネを背負って帰るのが、アタシの日課だった」
「……背負って、ですか?」
「おう。あいつ、ちっちゃかったからな。軽かったけど、毎回気を失ってるやつを背負うのはさすがに骨が折れたぜ」
ライラは肩を軽く叩く仕草をしながら、懐かしむように笑った。
「ま、そういうわけでミネの面倒はアタシが一番見てたってわけだ」
ライラの言葉には、ただの“苦労話”ではない――確かな“絆の記憶”が宿っていた。
ベルは静かに微笑む。
穏やかな空気の中、ライラがぽつりと呟く。
「ただ、予想外だったのが――ミネの成長だな」
その言葉に、アリーゼ・リュー・輝夜の三人の表情がわずかに曇った。
それぞれが微妙に視線を逸らし、どこか気まずそうな空気が流れる。
「え、皆さん……どうしたんですか?」
ベルが首をかしげる。
「いやぁ……その、“予想外”って言葉にちょっと刺さっただけよ」
アリーゼが頬をかきながら、乾いた笑みを浮かべた。
「刺さった?」
「だって、当時の私たち……正直、あの子のこと“守らなきゃいけない側”だと思ってたのよ」
「しかも私たちにとってミネは、妹のような存在でした」
リューが静かに続ける。
輝夜が腕を組み、ふっと笑った。
「それが三か月でレベル2にランクアップ。四か月後にはレベル3。さらに五か月でレベル4……。嫉妬すら追いつきませんな」
皮肉めいた声音だが、そこに含まれていたのは、悔しさよりも誇らしさだった。
「三か月で……!?」
ベルは思わず声を上げた。
「たしかレベルアップの最短記録って、アイズ・ヴァレンシュタインさんの一年じゃ――」
「ああ、表向きはね」
アリーゼが頷く。
「でもミネは冒険者登録してなかったし、恩恵をもらってることを知ってたのもごく一部だけ」
リューが補足するように口を開く。
「彼女の回復魔法は、当時“オラリオの奇跡”と呼ばれていました。
どこの誰が使っているのか、ギルドも調査を進めていましたが――」
「本格的に捜査が始まったころには、もうレベル3になってた」
ライラが肩をすくめる。
「アタシが一から逃げ隠れを仕込んだのもあってな。あの頃のオラリオじゃ、上位冒険者でもないとミネを捕まえるのは無理だったろうよ」
アリーゼがくすりと笑う。
「もし目撃されても背丈は小人族くらい。フードを深く被れば誰にも顔は見えない。数少ない目撃例からギルド側も奇跡の正体は小人族だって断定してたくらいだからね。
常識的に考えて、7歳のエルフがそんなことをしているなんて誰も思いもしなかったわ」
卓を囲む全員から、静かな笑いがこぼれた。
懐かしさと、誇りと、少しの寂しさを含んだ微笑み。
ベルは胸の奥がじんと熱くなるのを感じ、小さく呟いた。
「……本当に、すごい人なんですね。ミネさんは」
アリーゼたちは優しく頷いた。
その瞳には、今もなお色褪せない“仲間への誇り”が宿っていた。
“たった数か月で、それだけの力を身につけるなんて――それも、誰にも知られずに。”
「でも……」
ベルは小さく息を吐く。
「ミネさん、きっとすごく大変だったんだろうな」
「そりゃ大変だったさ」
ライラが口を挟む。
「毎回魔法を使うたびに気絶するんだからな。まぁ、それもレベル3になる頃にはなくなったけど」
「それだけではありません」
リューが微笑みながら言葉を継ぐ。
「私たちが守る側だと思っていた分、逆に彼女の決意の強さに助けられたことも多かったのです」
「アタシもな」
ライラは笑いながら肩をすくめた。
「下水や裏路地での隠密活動、気を失った後の背負い運搬……全部やったけど、あいつの方がずっと強かったって思うことが何度もあったぜ」
ベルは胸の奥がぎゅっと締めつけられるのを感じた。
小さな体で、命をかけて人を救う。
その覚悟と純粋さは、同年代の誰よりも濃密だった。
「でも、そんなミネさんだから……」
ベルは声を潜めて続ける。
「皆さんも、誇らしいんですね」
アリーゼが目を細め、柔らかく笑った。
「誇らしい……というより、安心してるわね。あの子が強くなって、守る側として背中を任せられるって意味で。まぁ、あの子は戦うときは超前衛だけどね」
輝夜も頷く。
「そうだな。羨ましさや嫉妬も少しあるが」
ベルは静かにうなずき、胸の中に熱いものがこみ上げるのを感じた。
ただ“強い”だけじゃない――誰かを助けるために自らを律し、挑み続ける力。
そして、信頼できる仲間と過ごした日々の積み重ねが、今のミネを作ったのだ。
「……ミネさん、すごい人ですね」
ベルの言葉に、四人は優しく微笑む。
その瞳には、いまだ色褪せることのない“仲間への誇り”が宿っていた。
ベルは心の中でそっと誓った。
――いつか、あの強さと優しさに、少しでも近づけるように。
ミネとライラは主に闇派閥が行うテロや襲撃現場で裏側から味方冒険者や一般人への回復をしていました。
ライラが状況判断をしミネがライラの指示で回復を行いマインドダウン、その後すぐさま撤退というのが最初期の動きになります。
ステータスやレベルの上昇に伴いマインドダウンが起こりにくくなって完全に克服したのはレベル3当たり。
克服した後はほぼ単独行動でライラから教わったことを総動員してギルド側や闇派閥から全力で逃げ隠れしてました。
そもそも目撃例が少なく見つかっても速攻で逃げられるためギルド側は冒険者の中から小人族に当たりを付けて調査しますが冒険者登録していない上、7歳という年齢から容疑者に上がることもありませんでした。
作中では語られていませんがステータスアップのためにダンジョンには定期的に潜っていました。