漫画世界に転生した巫女はカラーページが欲しい。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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21:愚者

 

 

 

「本当に、一人で大丈夫なのかぃ?」

 

「何回目? だから大丈夫だって! そもそも婆ちゃんに扱かれた私がそうそう怪我なんかするわけないでしょうが。」

 

「それは、そう、なんだけどねぇ……。」

 

 

明日からちょうどゴールデンウイークという日の夕方。長期の出張ということで神社を空けなくてはいけない祖父母を見送るために外に出て来たのだが……、もう何度目か解らないやり取りを交わしている。

 

き、気持ちは分かるんだけど、そんなに心配することかなぁ?

 

この前も言った通り、GW明けは私達霊能力者の繁忙期だ。気分の沈んだ人々が増えてしまい、その分怪異たちも活性化してしまう。けれどそれが解っているのであれば対策するのが人間ってもんで……。基本的に私達はこの休みシーズンを利用して結界の点検や張り直しをしたり、休み明けに活性化するであろう怪異や妖怪をあらかじめ退治するという方策を取っている。それでも休み明けは仕事漬けになるんだけど、これしておかないと過労死一直線になっちゃうんだよね。

 

とまぁそんなわけで、ウチの神主と巫女。もとい祖父母も『私という後継者が出来たこと』で各地のヘルプに駆り出されるわけなのですが……。もうずーっと心配して来るのよ。気にかけてもらってるってことに嬉しさはあるんだけど、この前2度目の色を見損ねたあたりからずっとこんな感じでさぁ。

 

 

(二人の娘、というか私の母親は心壊しちゃってるし、私の目もアレだから心配してくれるのは解るんだけどさぁ……。というかそういう心配してくれるのなら普段の修行にもう少し手心を加えてくれないもんですかね?)

 

「それとこれとは話が別だよぉ。」

 

「ナチュラルに人の心を読むのは辞めてくれませんかね、婆ちゃん。」

 

「顔に書いてるんだから仕方ないねぇ。……そうだねぇ、あんまり私達が心配しちゃうのも、さくらにとって負担になっちゃうのかもねぇ。」

 

「べ、別にそこは気にしてないよ? ほんとに。」

 

 

前世はまぁ一般的な家庭だったが、今世の家庭。両親は私の目のせいで完全に崩壊してしまった。

 

いくら大人の精神を持っていても体に引っ張られるものはあるようで、当時は結構来るものがあったが……。今はある程度の落としどころを見つけている。けれどやっぱり誰かに思ってもらえるというのは心地いいもので、『普段の修行』を除けば祖父母にはかなり感謝しているのだ。

 

まぁだからこそ、この世界が創作物だとか、私の目の原因になってそうなこととか、前世持ちな事を喋れてないんだけどさ……。ん? そう言えばこの前折檻されてた時に言おうとしてたんだっけ? 次の物語への介入は少し後になるだろうけど、必要があればまた暗躍するつもりだし、今度時間見つけて打ち明けてみるのも……

 

 

「うん、じゃぁそろそろ出発しようかねぇ。2週間、半月くらいは留守にすると思うけど、出来る限り早く帰って来るからお留守番よろしくねぇ。」

 

「あ、そう? りょーかい。ちゃんと日報は送るようにするから、確認お願いね。」

 

「もちろんだよぉ。何かあったらすぐ飛んで行くから、命大事にねぇ。」

 

「わかってるっての。私もまだ死にたくないもんねー。……あとさ、聞いていいのか解んなかったんだけど、そろそろ爺ちゃんの縄ほどいてあげれば?」

 

「駄目だねぇ。」

 

 

そういいながら祖父の方に視線を向けると、この前の折檻時に私が縛られていた物よりも強固な縄でぐるぐる巻きにされた爺ちゃんが助けを求める眼でこちらを見つめてくる。

 

い、いや助けたいのは山々なんですが、婆ちゃんがさっきまで『触れるな』って顔でこっち見てましたし、なんか私を縛ってた時よりも大幅にグレードアップしている気がするんでどうしようもないと言いますか……。そ、そもそもなんでこんな状態に? 爺ちゃんなんか悪い事しちゃったの? 確かに昨日『婆さんには内緒だぞ』って言いながら五万ぐらい懐にねじ込んでくれたけど……。

 

あ、婆ちゃんが凄い顔してる。こ、これまだバレてなかった奴なんですね。

 

ご、ごめんちゃいっ!

 

 

「……お金のことは置いておくとして、この人各地の結界を見て回らないといけないのに『さくらと一緒に残る!』って急に言い出してねぇ。私もそうしたいのは山々なのに、お役目を全部捨てて残ろうとするのよぉ。だったらもう、しばっていくしかないわよねぇ。」

 

「ア、ハイ、ソノトオリカト」

 

 

頑張って爺ちゃんのヘルプに入ろうとするが……、穏やかな口調ながら何かの化け物かと思うような視線を投げかけてくる婆ちゃん。こ、これでも結構強くなったとは思うんですけど、まだ全然敵わなくてぇ。に、睨まれちゃったらもう頷くしかなくてぇ。

 

しゅ、出張帰りの晩御飯は私が作っとくからさ! それで許して! い、愛しい孫の手料理だゾ♡ ……いや私こんなこと言うキャラじゃなかったな。いや作りはするけれども。

 

 

「じゃ、行って来るねぇ。」

 

「うん、行ってらっしゃい。二人とも気をつけてね?」

 

 

婆ちゃんと、彼女に引っ張られながら助けを求めて来る爺ちゃんに心の中で手を合わせながら、二人を見送る。

 

電車とバスで移動し、関東から中部に入り北陸を通りながら東北まで。各地の重要拠点、霊的に大事なところをぐるーって回るって話だ。激戦区の畿内は伊勢や春日が、北海道はアイヌさんたちの縄張りだからそれ以外のヘルプに入るって感じだね。ま、お仕事だけど多少の自由時間はあるみたいだし、二人で夫婦仲よく旅行気分で楽しんでいってくださいな。

 

聞いた話。結界の調整は無理そうだったけど、怪異妖怪は私でも倒せる程度の奴しかいないみたいだからね。変なことは起こらないだろうし、安心して見送れるってもんです。

 

 

 

「っし、行ったな。んじゃそろそろ……。」

 

 

 

暗躍の時間と行きましょぉかァ!!!

 

え、さっき暗躍はしないって言っただろって? ちっちっち。それはちょっと違うんですよねぇ?

 

今回は暗躍は暗躍でも、『物語の大筋』に介入しない暗躍なんですよ! そもそも婆ちゃんに怒られたのは一般人であるみかんちゃんに戦う力を与えちゃったのが問題なのであって……、『既に力を持っている人間』にアクションを起こすのは問題じゃぁないんですよ! 

 

だって何か危険なもの隠してるかもしれませんしぃ? 街に害をなすかもしれない存在ですしぃ? 調査は必要ですよねぇ? お家の中に入らせてもらって、片っ端から調べるのは大事ですよねぇ?

 

まぁそこで“何かしら”の計画書を見つけるかもしれませんが……。あはー! それとこれとは話が別なんだよねぇ!!!

 

 

(ふふふ、た~のしみ!)

 

 

既に今回のターゲット、『笹沼先輩』がこの町から外に出ていることは把握済みだ。

 

つまり彼が拠点としているあの家には誰もいないし、居たとしても『こちらで対処できる』存在でしかない。明らかに悪役な存在なのだ、この世界の神ともいえる作者が何を考えているのか解らない以上、敵の行動を先に調査することで情報を集める必要がある。なにせこっちは読者様により良いお話を提供するため、『適切な介入ポイント』を探らなければいかないのだ。もう家の中ぜーんぶひっくり返してやる。

 

カラーページのためにも、笹沼先輩のプライバシーには犠牲となってもらおう。

 

 

(まぁ普通に彼が何かの手先って可能性もあるしね。いつか家探しするつもりだったけど……、パイセンどころか爺ちゃん婆ちゃんもこの地にいないんだ。じゃあもうやるしかないっしょ!)

 

 

というわけでテクテクと神社へと帰還し、戻った瞬間に『隠蔽』をフルで使用。自身の存在を世界から切り離し誰にも知覚できないようにしてから、目的の場所へと向かう。

 

街の中をちょっと歩き、お高めの住宅が並ぶ地域へ。んでそこの一角に新しめのお家を構えている場所まで行くと……、見えてくるのは『笹沼』の表札。ここがヤツのハウスだ。結構豪華な一軒家に一人で住んでいるらしいのだが、やはり中から人の気配は感じられない。お留守のようですねぇ。

 

 

(んじゃパパっと済ませましょうか。)

 

 

懐から式神を一枚取り出し、そのまま鍵穴にシュート。

 

軽く霊力を流してみればすぐに式神が反応し、軽く回せばあら不思議。簡単にカギが開いてしまうではありませんか。本来は別の使い方がある式神なんだけど、外部の形状を覚えてそれに合致した形になるようプログラムされてるからね。コレぐらい簡単ってもんですよ。

 

というわけで何食わぬ顔でドアを開け、する~っと家の中に侵入完了。

 

 

「……ほ~ん、案外綺麗好きなのかね?」

 

 

ちょっと生活感がなさすぎる様な気もするが、かなり整い綺麗にされた玄関が迎えてくれる。まぁ別にどんな玄関でもいいんだけど、と脳内で付け足しながら次に行うのは更なる式神の投下。ほんの少しだけ宙に浮くことで土足で中へと入り込みながら、隅々まで調べていく。

 

 

「操作する子を増やし過ぎるとちょっと頭が痛くなるけど、便利だからね。……ん? これは、地下室か。」

 

 

彼の自室を始め、隅から隅まで式神に調べさせ記録している途中。風を扱う式神から異常を検知した報告が上がって来る。そちらの方により意識を向けてみれば、確かに空気の通り道が多い。指紋どころか霊力すら残さぬよう式神でさらに捜査してみれば、“霊的な手法”でのみ開かれる地下に繋がる扉が一つ。

 

当たり、のようだ。

 

トラップがないかの検査を終えた後。軽く開けてみれば、すぐに立ち上って来る独特の香り。

 

 

「死臭を誤魔化してるのと、霊力と……。あと微量に妖力もか? 魂の反応もあるっぽいし、妖怪でも飼ってんのかね?」

 

 

そんなことを口にしながら、調査を終えた式神たちを回収し地下へと続く階段を下りていく。

 

家の中を全てひっくり返して調べてみたが、どうやら地上部分では悪だくみをしていないようで、それらしい存在を見つけることは出来なかった。ちゃんと全て元通りにしたし、自身の眼の前にはこれ見よがしな地下へと進む道がある。だったらもう進むしかないだろう。

 

 

(軽く壁を触ってみたけど、何かしらの仕掛けが施されてるわけではないね。空間を弄っているような感じでもないし、地下室自体は純粋な人の手で作られたっぽい。それにしてはかなり深いんだけど……。)

 

 

そんなことを考えながら降りていくと、見えてくる扉。

 

金属製な上に幾つかの術によって声や力が外部に漏れない様な細工がされているようだが……、私にそんなものは通用しない。かけられた術式を解除しなくても、その中に何がいるのかぐらいは判別できる。

 

軽く反応を探ってみれば、案の定内部から少し違和感のある“怪異”の反応が。既に記録している笹沼先輩の生体反応がないことから、彼が家の防衛の為に置いておいた警備兵のような怪異なのだろう。少々厄介であることは確かだが、それほど大きな問題ではない。そもそもこちらが家の中に侵入しているというのに、対応できていない時点で雑魚でしかないのだ。『潜んで私に不意打ちをかまそう』という気配も感じられない以上、実力は察することが出来る。

 

少し物足りなさを感じながらも、家探しという観点から見ればこれ以上ない状況。軽く術を行使し、自身を“霊体”へとすることで鉄の扉を通り抜けながら、地下室の内部へと侵入する。

 

そこで私を待っていたのは……

 

 

(怪異が5体。……入っても反応なし、気が付かれてないね。)

 

 

かなり人に近く何かしらの動物をモチーフにした化け物たちが、迎え入れてくれる。まぁあっちは完全に気が付いていないから迎え入れては無いんだけど。

 

……にしてもこいつら、若干妖怪に成ってないか? ほーん、ある程度の強さはある感じなのね。

 

私がそう考えた瞬間、先ほどまで何か話し合っていたのだろう。より体格のいい熊のような怪異がそれまでの会話を纏めるためか、口を開き始める。

 

 

「では、作戦開始前にもう一度確認を行う。まず主がお決めになったように、『弓鳥』にはあの二人組の足止めを任せる。」

 

「解ってらァ。レディ二人のエスコート、ついでにちょっと育てとけばいいんだろ?」

 

「あぁ、だが決して壊さぬように。それが終わればバックアップに回ってくれ。そして残りの私含めた4名で、『往霊大社』を襲撃する。」

 

 

……うん? 耳がおかしくなったかな?

 

 

「目的は諸君も知るように、『山本さくら』の身柄を確保し人質とすることだ。力を持たぬ小娘一人ではあるが、あちらはこの地の守護者。その本拠地だ。何かしらの道具で反抗してくるだろう。しかし既に神主と巫女がこの地を離れたのは確認済み。油断さえしなければ脅威ではないだろう。」

 

 

へぇ。脅威ではない、ねぇ?

 

 

「主が京都から帰られた時に良い報告が出来るよう、各員全力を尽くしてくれ。では、作戦開始だ。」

 

 

ほぉ~~~~ん?

 

ひ・と・じ・ち。ねぇ?

 

とっても面白いこと、言うじゃないの。

 

あはー!!!!

 

 

 

 

 

 

 

笑えない。

 

 






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