漫画世界に転生した巫女はカラーページが欲しい。   作:サイリウム(夕宙リウム)

22 / 34
22:枠外

 

 

 

『笹沼先輩』宅に集まっていた怪異たち。

 

本来はただ本能の赴くままに人の魂を貪り食うのが彼らである、しかしながら何かしらの調整をされたのか、その場にいた5体の怪異たちはまるで人のような知能と理性を保っていた。これは確かに怪異から進化した存在、『妖怪』と同じ特徴ではあったが……、いささか妖怪と言うには弱すぎる。

 

そんな中途半端な彼らではあったが、その意志は一つにまとまっておりただ忠実に与えられた任を熟そうとしていた。

 

 

今回行われる作戦。その目的は、2つ。

 

 

1つ目はこの地で最近活動を始めた2人の霊能力者の観察及び実験。当初の予想と反し覚醒してしまった霊刀使いである『塚本樹里』と、まるで無から急に生み出された霊具使いである『夏みかん』。この二人の現在の能力を詳細に分析し、可能であればその成長を促すというもの。

 

事前調査から二人の能力値が初心者の域を超えていないことから、選ばれたのは1体。『弓鳥』という名を与えられた怪異が、担当することになっている。

 

事細かに対象の様子を観察しながら同時にやり過ぎないことを求められるため、少々厄介な任であることは確かだが……。怪異たちからすれば、何も問題はない。『弓鳥』は人の身体に鳥の頭を縫い付けたような肉体を持つ怪異であり、鳥特有の高い視力を生かした観察眼と弓術の高い練度を持つよう調整されている。単純な出力差だけでも現状の樹里とみかんを圧倒しているのだ、失敗する要因など無かった。

 

 

そして2つ目は、この地での活動をより容易にするための作戦である。残りの怪異たち4体で『往霊大社』を襲撃し、そこから人質。『山本さくら』の身を奪取するというものだ。『往霊大社』はこの周辺地域一帯のまとめ役であり、それに見合った力量を持つ管理者、神主と巫女が在籍しているが……。現在は2人ともこの地を外しており、無能力者の『山本さくら』しかいない。

 

何かしらのトラップ、もしくは霊具による反撃を受けるだろうが、相手は力を持たぬ一般人。“さくら一人”相手であれば怪異たちだけでも襲撃は可能と判断した彼らは、即座にその身柄を手に入れることを決定したのだ。成功したその後の細かな方針などは彼らの主人が決めることになるだろうが、孫娘を管理下に置いてしまえば取れる選択肢は大幅に増えるのは間違いない。

 

神主及び巫女が二人ともこの地を離れるという機会は滅多にない。

 

虎の居ぬ間に行動を起こすのは、そうおかしな話ではなかった。

 

 

「では、作戦開始だ。」

 

 

彼らのリーダー格。熊の頭を持つ怪異が号令を発し、一斉に動き始める怪異たち。

 

それぞれが真剣な面持ちで部屋から出ていき、目的地へと向かい始める。

 

その場にいる人数が1人多いという初歩的にして致命的なミスを冒している彼らであったが、ただの怪異どころか妖怪ですら認識が難しい『世界から切り離された隠蔽』を使える彼女を発見するのは酷な話というもの。何も知らぬ彼らはとある地点まで全員で行動し、頷き合った後『弓鳥』が単独行動に移る。

 

残り4体が神社を襲撃している間に『樹里&みかん』が余計なちょっかいを出さぬように先んじて攻撃を行い、同時に観察を行うためだ。

 

一行から離れていく『弓鳥』を見送った怪異たちは、再度頷き合った後に神社へと足を向け始める。

 

確かに彼らからすれば今回のターゲット、山本さくらは無能力者であるが、全くの無防備であるとは考えていない。なにかしらの防衛設備や霊具での反撃が待ち構えているだろう。故にこの場に残った4体は単純な戦闘力のみならず、結界や霊具を無効化するための能力が与えられていた。準備は万全であり、怪異たちの顔に油断は一切ない。全員が気合を入れ直し、神社へと向かおうとするが……。

 

 

瞬間、世界が切り替わる。

 

 

 

 

そもそもの話。彼らは、大きな思い違いをしている。

 

山本さくらは、無能力者ではない。

 

それどころか、この世界にとって完全なるイレギュラーだ。

 

未だそのすべてを解放しきっていない現状であっても、ただの怪異如きが勝てる様な存在ではない。

 

 

 

「へぇ、こんな感じなんですねぇ。」

 

「ッ!?」

「誰!」

「何が……。」

「白い、世界?」

 

 

神社に向かっていたはずの怪異たちであったが、突然全く何もない世界。

 

白い床と白い空が広がる謎空間へと連れてこられてしまう。

 

即座に全員が背中を預けながら周囲を確認するが、何も見つけることが出来ない。しっかりと声は聞こえるはずなのに、見えるのは見渡す限り白だけ。

 

 

「実は私も初めてなんですよ、ここは。存在は知っていたんですけどね?」

 

「全員警戒を怠るな! 防御を固めろ! 『槍鹿』!」

「既にやってる、だが何もない……! 何だこの空間は……!」

 

 

どこか楽しそうに話す謎の声に対し、返答せず防御を固める怪異たち。

 

リーダー格である熊の怪異が仲間の1体。槍と鹿の頭を持つ『槍鹿』に指示を出すが、帰って来たのは強い困惑の声。どうやら鹿の怪異はその角が索敵器官になっているようで、異常を感知した瞬間から霊力によって周囲の索敵を行っていたようだが……。彼の言う通り、この空間には『何も』存在しない。

 

建物や生物は勿論、怪異や妖怪も。

 

まるですべてが『無』で塗りつぶされたかのような場所。

 

 

「あぁ、それはそうでしょうね。だってここは……。『外』、ですもの。」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

突如として出現する気配。

 

そして、背後から聞こえてくる声。

 

怪異たちが一斉に振り返ると、そこには『山本さくら』の姿が。

 

彼らが背中を向け合い周囲を警戒したのにも関わらず、その隙間に何でもないように立っていたターゲット。怪異という人を恐れさせる存在ながらより本能的な恐怖を感じた彼らは、弾かれたように距離を取ってしまう。

 

そんな様子が滑稽だったのだろう、小さく笑みを浮かべる彼女。

 

 

「少々可哀想ですし……、冥土の土産に軽く説明してあげましょうか。」

 

 

まるで自身が圧倒的な強者であるかのように振舞う少女。

 

怪異たちにとっては、彼女はこの作戦の重要人物だ。人質として確実に確保するためその顔はしっかりと頭に入っている。故に眼前の存在はその情報と一致し同一人物だと判断できるが……、“ソレ”から発せられる全身を覆い尽くすプレッシャーが否定する。

 

霊力を一切感じないはずなのに、止まらない悪寒。

 

まるでどう足掻いても勝てない絶対的な捕食者の前に放り出されたかのような感覚。

 

“既に死している”ような存在である怪異だからこそ武器を構え相対することが出来たが、常人であればその圧倒的な“格の違い”から命を絶ってしまうような存在が、彼女だった。

 

 

「ご存じの通り、この世界は『漫画』です。ただ生きるだけなら何も気にせず生きていくことが出来るでしょうが……。“気が付いて”しまえば色々な不合理に満ち溢れています。まぁそんなことを言っても貴方たちにはわからないでしょうけどね?」

 

「なに、ぉ。ぁ、ぁ、れ」

 

 

棒を持ち猿の頭を縫い付けられた怪異、『棒猿』が口を開こうとするが……。

 

その瞬間、彼の体に描かれる無数の線。

 

そして起こる、肉体の崩壊。

 

瞬きもせぬままに切断されてしまったのだろう。無数に刻まれた線が大きな裂傷となり、両断され、粉微塵になっていく猿の怪異。気が付けば彼の肉体は完全なる液体と化すまで切り結ばれてしまい、その短い生命活動を停止した。

 

こんなものを見せられてしまえば、怪異たちであっても嫌でも理解してしまう。

 

この存在の前では口を開くことすら許されないのだ。体の奥深くから湧き上がってくる恐怖を何とか押し戻しながら、残された彼らはただ武器を構えることしかできなかった。

 

 

「ふふ、賢い子は嫌いではないですよ? さて、話を戻しましょう。『ここはどこか』という問いの答えですが……、『外枠』というのが一番正しいでしょう。漫画のコマの外、コマとコマの間。白い部分のことです。その証拠として、何もないでしょう?」

 

 

そう言いながら、楽しそうに笑う彼女。

 

怪異たちも製作者から一般的な知識を与えられているため、その単語が何を意味するのかは理解することが出来たが……。眼前の化け物が何を言っているのかは、理解できない。なぜこの場でそのような単語が出てくるのか、そもそもこの世界が何なのか。生死の狭間に立たされているのだ、彼らはその疑問を放棄し、生き残る術を探し出す他なかった。

 

無論“彼女”もそれを理解していたが……。何も気にせず、その言葉を続けていく。

 

 

「この場所は『作者』によって描かれていない世界、つまり何も存在出来ない世界なんです。元はと言えばあちらの世界、『現実世界』へと渡るために試行錯誤して辿り着いた場所なのですが……。周囲を気にせず貴方たちのような不届き者を滅するのにはちょうどいい場所なんですよ。」

 

 

そう言いながら、ゆっくりと式神を展開していく彼女。

 

ここから戦闘が始まるとそれぞれの武器を強く握りしめる怪異たちだったが……。

 

 

 

 

瞬間、視界が爆発する。

 

 

 

 

肉体に何か起きたわけではない。

 

ただ眼前の存在が、それまで抑えてきた『霊力』を解き放ってしまったのだ。

 

怪異という霊力を強く認識してしまう種族だからこそ、理解できる異常。まるで目の前に太陽が落ちて来たのかと錯覚する様な、莫大な霊力。格の違いを超えた、“世界”の違い。彼らはただ本能で、ソレを理解してしまう。

 

 

「実はまだ実戦経験が1度しかなくてですね? ちょうどいい機会ですし……、“付き合って”頂きますよ?」

 

 

 





やめて! さくらの特殊能力で肉体を焼き払われたら、どんな存在だって消し飛んじゃう!

お願い、死なないで怪異たち!

あんたが今ここで倒れたら、笹沼先輩や弓鳥との約束はどうなっちゃうの?

ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、さくらに勝てるんだから!

次回「怪異五人衆、死す」デュエルスタンバイ!



感想評価お気に入り登録で怪異五人衆(すでに1人欠員)を応援しよう!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。