棚の上のダンテさん   作:サイゼりあ

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1話

 

 

 

 俺の名前はダンテ。

 表向きは、便利屋"デビルメイクライ"を営むしがない青年、裏じゃ悪魔も泣き出す悪魔狩人(デビルハンター)。二足の草鞋を履くナイスガイだ。

 トレードマークの赤いロングコートに、愛銃"エボニー&アイボリーと、魔剣"リベリオン"を携えて、今日も危険な匂いの漂う街を駆けるぜ。

 

 ──なんてな。

 みんなご存知、CAPCOM(カプコン)の大人気スタイリッシュアクション、その主人公ことダンテ。

 俺はそのダンテであって、ダンテじゃない。本物は画面の向こう、ゲームの世界に住むキャラクターだ。

 俺は、そんなキャラクターを模して作られたフィギュア。要するに玩具(おもちゃ)だ。

 

 なんだ偽物か、だって? 

 確かに俺は紛い物のガラクタだが……これでも結構イカしてるんだぜ。可動式の関節は細かいポージングを可能にしているし、顔の造形も「4」をベースにした渋顔で、服の塗装やら武器の質感やら、細部まで拘り抜かれた本物顔負けの一品だ。

 俺を欲しがるファンは多いだろう。実際、有難いことに持ち主(マスター)も俺が一番のお気に入りらしくてな。

 

 だから一応、俺が他の玩具たちをまとめるリーダー的なことをやってる。柄じゃねぇけどな。

 トイ・ストーリーは知ってるか? あれのウッディポジが俺だ。伝説のデビルハンターが玩具たちの引率係とは、泣けるぜ。

 ……おっと、これは別の奴の台詞だったか? 

 

 さて、モノローグはこのくらいにして、そろそろ本編に入るとするか。

 "本編"なんて物々しい言い方をしちまったが、別に俺たちの"原作"のような劇的な物語なんてものは無い。

 せいぜい、どっかのオタクの部屋にかき集められた玩具たちの、ドタバタ群像劇を気楽に楽しんでくれればそれでいい。

 

 

 今日は新人が来る日だ。

 正確には、いつものようにAmazonの段ボールに詰め込まれた新しい玩具が届く。

 我らが持ち主(マスター)の興奮混じりの独り言を聞くに、どうやら大好きなアニメのキャラクターフィギュアらしい。

 フィギュアか……ここは俺が同じフィギュアの先輩として、色々と教えてやらなきゃな。

 

 早速朝一番、少し大きめの段ボールが部屋へと運び込まれた。

 梱包を丁寧に剥がし、持ち主(マスター)が中から取り出したのは……"魔法少女リリカルなのは"と印字された箱。

 

 おいおい、いい歳して魔法少女って。そんなだから未だに彼女の一人も出来ない童貞野郎なんじゃないか。

 とまあ自分の主人に対して散々な悪態をつきつつ、俺は様子を見守る。

 

 持ち主(マスター)は箱から少女のフィギュアを取り出し、机の上に置いた。

 白を基調とした制服のようなデザインの服を着た、栗色の髪の美少女だ。箱に書かれた説明を読むに、彼女が「魔法少女リリカルなのは」の主人公、"高町なのは"らしい。

 結構凝った設定があるようで、説明書きに色々と……って小学3年生!? 

 持ち主(マスター)の野郎、マジで大丈夫か? 

 流石にロリコンじゃないとは思うが……いや、既に彼女を見つめる視線がアウトだな。

「フヒッ、フヒッ」と奇妙な呼吸までダダ漏れだ。嬉しいのはわかるが、もう少し欲望を抑えてくれ。

 

 ダンテ()を買った時の、クールな男に憧れていたお前は何処に行ったんだ。

 俺と持ち主(マスター)の共通点、ストロベリーサンデーとピザが好きなところだけだぞ。

 

 それから持ち主(マスター)はカメラで撮影会をしたり、他のフィギュアやジオラマと並べてみたり、ひとしきり彼女を堪能していた。詳しくは割愛するが、終始キモかったとだけ伝えておこう。

 

 まあ、持ち主(マスター)に関してはいつものことなので置いとくとして、問題は高町なのはの方だ。

 

 持ち主(マスター)が部屋を後にし、玩具にとっての自由時間が訪れる。一斉に動き出した俺たちは、高町なのはの元へと集まった。

 ファーストコンタクトは、もちろん代表である俺だ。

 

「ようお嬢さん、いきなり災難だったな」

 

 第一印象は大事だ。まずダンテらしく、キザに話しかけてみる。

 だが、高町なのはの反応は、怯えた子猫のように弱々しかった。

 

「あ、あの……一体ここは何処ですか?」

 

 まさか。

 一瞬嫌な予感が脳裏をよぎるが、敢えて無視して話を続ける。

 

「ここは持ち主(マスター)の部屋さ。散らかってるだろ? 適当にくつろいでくれて構わないぜ。多少物の配置がズレてても、うちの持ち主(マスター)は全然気づかないしな」

「はあ……、マスターって、さっきの大きな人……ですか?」

「ああ。ま、ああ見えて玩具は大事にする奴だ。悪いようにはならないと思うぞ。キモいけどな」

 

 話しながら、俺は近くにあったミニチュアの椅子に腰掛ける。

 高町なのはも、それに倣ってペットボトルの蓋の上にちょこんと座った。その所作はまるで本物の少女のように可憐で、庇護欲がくすぐられる。作り込みがすごいのだろう。持ち主(マスター)が興奮する理由もわかる。

 

「私、高町なのはって言います」

「俺はダンテ。周りのこいつらも含めて、みんな持ち主(マスター)の玩具で、仲間だ。ここじゃ一応俺がリーダーってことになってる。よろしくな」

 

 言って、手を差し出す。

 高町なのは──なのはは、周囲を不安げに見つめてから、恐る恐る差し出された俺の手を握った。

 手の平も動かせるのか……俺と同じ、武器を持たせるタイプだな。こんな小さな少女を戦わせるなんざ、原作の俺が知ったらどう思うやら。

 

 俺たちの握手を合図に、小さな歓声が上がる。

 久しぶりの新人だ。すっかり歓迎ムードになった仲間たちを、俺は手を上げて制する。

 

「ほらてめぇら、なのはが困ってるだろ。それぞれ持ち場に戻っとけ。

 後で順に回ってやるから」

 

 流石に少女一人を大勢で囲むのは可哀想だからな。

 俺がそう言うとみんなは素直に散っていった。

 ……ただ一人を除いて。

 

「どうしたエクシア」

「……確認したいことがある」

 

 そう言って俺となのはの前に歩み出たのは、エクシア。

「機動戦士ガンダム00」に登場する主人公機、"ガンダムエクシア"のプラモデル──いわゆるガンプラってやつだ。

 エクシアはこの部屋に住むガンプラ達のリーダーで、俺と共に一癖も二癖もある玩具たちをまとめる相棒だ。

 

「わわ、すごい、ロボット……?」

 

 エクシアの姿に可愛らしく反応するなのは。

 対するエクシアは数秒、沈黙した。

 LEDランプのように光る瞳が、まっすぐなのはを射抜く。

 

「君は、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「え、それってどういう……」

 

 いきなりの鬼気迫る質問。なのはの顔に動揺の色が広がる。

 流石に鋭いな。まあ、この子は分かりやすかったが。

 

「海鳴市、私立聖祥大附属小学校に通う小学三年生。

 仲の良い友人は、アリサ・バニングスと鈴村すずか。

 そしてインテリジェントデバイス、"レイジングハート"を携えた"時空管理局"所属の空戦魔導士──」

 

 ほー、魔法少女って言うからどんなファンタジーかと思ったが、案外SFっぽい設定なんだな。

 

「ど、どうしてそれを!?」

「君が入っていた箱に書いてある」

 

 エクシアが指を刺した先には、"高町なのは"と大きくプリントアウトされた箱が豪奢なイラストと共に存在感を放っていた。

 

「なに、これ……」

 

 やはり、この子は理解してないタイプか。

 フィギュアタイプの玩具にはよくあることだ。それも、クオリティが高く、より本物に近いやつほど強く思い込んでいることが多い。

 ──玩具であることに気がつかず、自分が本物のキャラクターだと信じているんだ。

 

 初心なやつほど、この現実に耐えられねぇんだよな。

 

「君は、高町なのは本人じゃない。

 高町なのはというキャラクターを元に作られた、唯の玩具だ」

 

 真実を告げるエクシアの冷たい声色は、なのはの顔に暗い影を落とす死神の宣告となった。

 

 

 *

 

 

 しかし、なのはは意外にもこの真実に順応した。

 現実逃避気味ではあるが、発狂しないだけマシだろう。……酷い奴は、持ち主(マスター)に危害を加えようとすることもあるからな。

 本来、俺たち玩具は、人間の前では本能的に身動きがとれなくなる。頭でどれだけ「自分はそのキャラクター本人だ」と主張していても、「玩具」の使命からは逃れられないんだ。

 だが、時折そのリミッターをぶっ壊して暴れようとする奴がいて……そうなったら俺たちで"処理"するしかない。

 何故か見つからない玩具とかあるだろ? あれは実は暴走した仲間を俺たちがそうやってこっそり処理していたからなのさ。

 

 今回はそういうことにならなくて良かった。

 とはいえ、彼女の精神状態は逐一チェックする必要はあるだろう。()()()()()、きっとショックがデカいタイプの筈だから。

 

「落ち着いたか?」

「はい……」

 

 エクシアの宣告から十数分。とりあえず状況を飲み込んでくれたなのはに、俺は近くに転がっていたマグカップ(持ち主(マスター)の妹が忘れていった玩具。シルバニアなんとかって言ってたっけ)を手渡す。

 

「これも本物じゃないけどよ。気分だけでも、あったかいスープを飲んだ感じになる。

 気持ちが楽になるぞ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 カップを受け取ったなのはは、ふうふうと熱いスープを冷ますように息を吹きかけて、それからゆっくりと飲むモーションをした。

 ……流石は最近のフィギュア。その姿もちゃんとサマになってやがる。

 

「なんで、いきなり話したんだ?」

 

 俺は隣に立つエクシアに、横目で訴える。

 真実を聞かせるのは、もう少しみんなと仲を深めた後でも良かったじゃないか。

 

「認識のズレは早いうちに解消しておいた方がいい。後になればなるほど暴走の危険も高まる上に、禍根も残る。妥当な判断だと思うが?」

「そりゃそうだろうけどよ……」

「お前、まさか()()彼女を昔の自分と重ねてるわけじゃないだろうな? 

 それで去年どうなったか……忘れたとは言わせん」

 

 今度は逆に、エクシアの冷たい視線がこちらを凍て刺す。

 ──喉の奥が急速に渇くのを感じる。思い起こすのは、かつての()()の姿。

 

「んなわけねぇだろ。あんな悲劇(こと)は、二度とゴメンだ」

「ならいいがな……」

 

 おお怖い。

 エクシアのGNソード、経年劣化で出荷時より鋭く尖って殺傷力増してるんだから、あまり敵に回したくないんだよ。

 

「あの!!」

 

 と、急に立ち上がったなのはが、俺たち二人に詰め寄ってきた。

 おっと、何か抗議か愚痴か? OK、今日の俺はサンドバッグだ。少女の苦しみは全部スタイリッシュに受け止めてやるぜ。

 

「さっき、皆さんに言ってましたよね? "後で順に回るから"って。

 私、正直まだ自分の状況をうまく理解できてません。だから、まずはここにいる皆んなとお話しして、それから色々考えようと思うんです」

「お、おう……」

 

 てっきり喚くかと思って身構えていたが、予想以上に覚悟の決まった台詞が飛んできて驚く。エクシアも表情は読めないが意外そうだ。

 ……俺が思っていたよりも、この子は強い子かもしれないな。

 

 こいつも"魔法少女"とはいえ、れっきとしたバトルアニメの、それも主人公だ。メンタルはそれなりに鍛えられているというわけか。

 確かに、過保護ばかりが大人の役割じゃねぇ。ここはエクシアに倣って、ビシバシやってみるとするか。

 

「嬢ちゃん、いい表情(カオ)だぜ。

 それじゃあルームツアーといくか。

 みんな、ジャンルも時代も違う世界の人間だ。お前の常識なんざ、一瞬で塵になる覚悟しとけよ?」

「ふぇえ……が、頑張ります!」

 

 両手でガッツポーズをとるなのはの姿は、年相応の少女のようにも、歴戦の勇者のようにも見えた。

 かくして、俺となのはと、ついでにエクシアの三人による、持ち主(マスター)の部屋ツアーの旅が始まったのだった。





【登場人物紹介①】
・ダンテ(デビルメイクライ)
 CAPCOMの大人気スタイリッシュアクションの主人公。
 その"可動式"フィギュア。
 原作通りの熱血漢でカッコつけたがりのナイスガイ。見た目は「4」準拠だが中身は「1」に近い。
 持ち前の正義感から何かと問題解決に動いていたら、いつの間にか玩具たちのリーダー役を務めることになった。

・高町なのは
 「魔法少女リリカルなのは」シリーズの主人公。
 そのフィギュア。ダンテと同じく"可動式"で、細かいポージングも可能な最新モデル。
 まだ目覚めたばかりの新人玩具ながら、すでに自分の宿命について受け入れつつあり、原作譲りのメンタルから、他の玩具との「お話し」を望む。ここでは高町式交渉術を使うことは無さそう。
 バリアジャケットおよびレイジングハートは、「A's」準拠で、カートリッジシステムのギミック付き。実は光って喋る優れもの。

・エクシア
 「機動戦士ガンダム00」の主人公、刹那・F・セイエイが搭乗している機体「ガンダムエクシア」のプラモデル。
 情に流されやすいダンテを支える、冷静でクールな副リーダー(CV.宮野真守)。
 ダンテはガンプラたちのリーダーだと思っているが、実はこの部屋のプラモデルの殆どは違う作品のプラモであり、厳密にはガンプラではなく、プラモデル達の代表。「俺の歌を聞けぇ!」とうるさい変形機や、「逃げちゃダメだ」とうるさい汎用人型決戦兵器がいるらしい。
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