TS転生ラルトス♀はサーナイトになりたくない! 作:如月SQ
もう少しでこのお話もおしまいですね。
今しばし、お付き合いくださいませ。
突如現れた、異様なプレッシャーを放つ、白いポケモン……。
息を飲む私を背中にして、サーナイトがそのポケモン……アルセウスと向き合っていた。
アルセウスは先細りした四肢で、不思議な模様の半透明な床の上に立ち、不気味な空の下でただ佇んでいる。
放ってくる圧力はディアルガ達の比じゃない程なのに、敵意も何も感じない……ただそこにあるだけの存在感だけで、ひどく此方を苛んでくる。
口の中が緊張で乾いていくのを自覚しながら、私は勇気を振り絞り、口を開いた。
「あ、あの……! 貴方が、アルセウス、ですか……?」
「…………」
私の問いにアルセウスは答えない。
けれど肯定しているようには感じた。
一度唇を湿らせてから、もう一度口を開いた。
「私、元の時代に帰りたいんです……! どうか、帰してくださいっ……!」
「……………………」
アルセウスの眼光が、私を射抜き続ける。
感情の感じられない瞳と目を合わせ続けた。
ほんの僅かな時間だったような気もするけれど、私にとっては永遠と思える程に長い時間だった。
ふっ、とアルセウスの圧力が和らぎ、その視線が逸れた。
自然と私の肩からは力が抜けて、いつの間にか止めてしまっていた息を吐いた。
そして、一度下を向いて息を整えた後に顔を上げた時……そこには敵意を向けるアルセウスの姿があった。
「――――――――――!」
形容出来ない声で吼えるアルセウスに、なんで、と思う間も無く、私の意識は切り替わる。
戦わなければいけない、そう思った瞬間には身構えていた。
そしてそれは、サーナイトも同じ。
戦いが、始まる。
「っ……! なんとなく、こうなる気はしてたけどっ……!
お願い、サーナイト!」
「サナッ!」
そうして戦闘態勢に入った私達を見たアルセウスの顔が、歪んだような気がした。
――次の瞬間、閃光が迸った。
ズドオッ!
ズシャァッ
「…………え?」
気付けば……サーナイトの姿は私の視界から消えていた。
アルセウスと向き合って、戦いだと意気込んで、サーナイトが駆け出した瞬間……そこまでの記憶はある。
その次の瞬間、アルセウスが目映い光を放った……と思う。
反射的に目を瞑って、開いた時にはアルセウスの姿はそのまま、サーナイトの姿だけが消えていて……。
背後で、何かが倒れる音がした。
振り向いて、愕然とした。
さっきまで頼もしい背中を見せていたサーナイトが、戦意を漲らせていたサーナイトが、血濡れで倒れていたのだから。
あの時……ラルトスだった頃のように、初めて出会った時のように。
不思議な模様の床に、サーナイトの血がじわりじわりと広がっていく。
顔か頭からか出血し、血濡れで顔を染めながら、ドクドクと血を流している……。
「――――――――――」
血の気が引く思いだった。
サーナイトを今すぐ治療しなければいけないのに、アルセウスの放つ圧力は増すばかり。
顔を前に戻せば、もう終わりか?とばかりに此方を見下ろす視線とかち合った。
ゾクッ
背筋に走る悪寒に急かされるように、ボールを手に取った。
無意識に掴んだボールは、ガチグマのもの。
私はそのままガチグマを繰り出した。
「お願い、ガチグマ!」
「グマァ!」
サーナイトが一撃でやられた……その絶望的な事実の前で、それでも何処か冷静な部分が状況を分析していた。
エスパー、フェアリーであるサーナイトへの有効打ははがね、ゴースト、どく、アルセウスもそのタイプである可能性が高い。
それなら、ノーマル、じめんであるガチグマなら有利に立ち回れると、そう反射的に考えてぶちかましを指示して――
「ッ――――――」
――
創造神、ポケモンのタイプと対応したプレート、アルセウスとの関わり……ヒントは幾つもあった。
気付けなかった、気付かなかった……!
アルセウスは……!
ズドォッ!
「グ……マァ……」
自分のタイプを、自在に操れる……!
緑色の光が閃いて、ガチグマを容易く弾き飛ばしてしまった。
僅かに見えた……アルセウスの眼前に集まった凄まじい圧縮されたエネルギーが放たれ、無数の礫のようになってガチグマに炸裂したのが。
吹き飛んでいくガチグマの意識が既に刈り取られているのがわかって、即座にボールに戻した。
「……ごめん、ガチグマ……読み違えた」
これじゃあ、ただやられる為に出しただけ……。
アルセウスが恐ろしくて、そこから逃げる為だけにガチグマを生け贄にしてしまった。
ぎゅ、とガチグマのボールを握り締める。
とはいえ……正直に言えば……サーナイトが抗えなかった時点で勝ちの目は薄い……。
アルセウスはまだ一歩も動いていない。
見たこともない技を、放っただけ……恐らくは早業で。
技の出があまりにも早く、私では見切れなかった。
そして、私のポケモンに、あれに対抗出来るポケモンは……殆どいないだろう。
サーナイトもやられてしまった……いや、サーナイトの様子を見るに反応はしていた……?
それでも防げなかった……いや、
……私が後ろにいたから。
いや、それを狙っていたのか……?
不意に希望の光が灯る。
それなら、サーナイトが好きに動けるよう場を作る事が出来れば……!
「お願い、レントラー! ヌメルゴン!」
「ガァウ!」
「ヌメェ!」
レントラーをすぐそばに、ヌメルゴンをアルセウスへと飛び掛かるようにように繰り出す。
即座にアルセウスから放たれる技に、指示を飛ばす。
早業!
「たてこもる!」
「ヌメッ!」
ガキンッ!
ドゴンッ!
今度は、見えた!
無数のエネルギーの塊が、ヌメルゴンに殺到してた!
けど、いくつかは外れたみたいで、ヌメルゴンはまだ大丈夫そう……!
なら、今のうちだ!
「レントラー!」
「ガァウッ!」
レントラーに跨がり、倒れたサーナイトの元へと向かう。
サーナイトを背中に乗せて貰って、そのまま走り続けるように指示を出した。
指示通り走り出したレントラーの背中で、サーナイトの治療を始める。
揺れる視界、震える手付きに、幾つもの薬を落としながら、アルセウスから放たれる無数の礫の回避をレントラーに任せて、サーナイトの治療を続けた。
「サーナイト! お願い、目を覚まして……!」
ぐったりとしたサーナイトの意識は、すぐには戻らない。
潰れていた左目部分が抉れてしまったのか、そこからかなり出血してしまっていたみたいだった。
ポタポタと垂れる血が私とレントラーの体を濡らしていく。
それでもサーナイトは拳を握り締めていた。
まだ戦えるとばかりに、意識を失いながらも戦意は失っていないみたい。
ボロボロの痛ましい姿に胸が痛い。
だけど、悔しいけれど、サーナイトなしでアルセウスに勝てる気がしなかった。
「ヌ……メェッ……!」
「っ……! お願いっ! ジュナイパー、イダイトウ!」
「ジュナ!」
「イダァッ!」
礫が殺到し耐え続けていたヌメルゴンの苦し気な声が聞こえた瞬間、残りの二匹も繰り出していた。
任せろとジュナイパーとイダイトウは戦意を漲らせて駆けていく。
それを見送るしか出来ない自分の不甲斐なさに、奥歯を噛み締めた。
「っ……サーナイトッ……!」
一先ず治療は、終わった。
私にはこれ以上何も出来ない。
後はもう、サーナイトに呼び掛けるくらいしか出来ない。
飛び交う無数の礫に傷付いていくみんなを治療する事も出来ず、ただ私はレントラーの背中で叫ぶように名前を呼び続けた。
ヌメルゴンが倒れ、レントラーへと向かう礫の数が一気に増した。
ジュナイパーがいくつも撃ち落としているのに、それでもレントラー自身が電撃で撃ち落とす数は増える一方だった。
妨げるようにイダイトウがその身をアルセウスへと懸命にぶつけにいくも、装飾の色を紫に変えたアルセウスはビクともしない。
「ゼェ…………ゼェ………………ガォオオン!」
レントラーの息も切れ始めた。
……当然だ、私とサーナイトを乗せてほぼ全力で動き回っていたのだから。
それでも一度たりとも足を止めず、レントラーは吼えた。
その時、サーナイトの右目がピクリと震えたのが見えた。
「サーナイトッ!」
反射的にその手を握って、声をかけた。
お願い、サーナイト……!
早く、目を覚まして……助けて……!
その瞬間、アルセウスの瞳が光り、イダイトウに向かっていた礫が突然肥大化した。
ズドォッ!
「ダッ……」
「ジュナッ!?」
撃ち抜かれたイダイトウはそのまま崩れ落ち、向かってくる礫の数が突然倍加したジュナイパーの瞳が大きく開かれた。
身を翻し、撃ち落し、いくつも対処していたものの遂には対応し切れず、ジュナイパーもまた、崩れ落ちた。
ドゴォッ!
「ジュ……ナ……」
「っ……! レントラー! もう少し、もう少しだけ頑張って!」
「グ……ガォオオオオオオオン!」
そして、当然そうなれば……アルセウスの操る礫の全てはレントラーに向かってくる。
レントラーが咆哮と共に、私には影響が出ないように電撃を放った。
ただその程度の電撃では今の礫を撃ち落とす事は叶わなくて、精々反らすのが関の山。
けれどレントラーは身を翻し、走り続け、電撃で反らし、私達を守り続けた。
その時、礫がレントラーの足を掠めた。
「グゥッ……!」
倒れる事こそ無かったもののバランスを崩し、ほんの僅かに、レントラーの速度が緩んだ。
その瞬間を、アルセウスは見逃さなかった。
ヒュンッ
「あっ」
素早く放たれた礫が、気付いた時には私の目の前にあった。
不可避のタイミング、引き伸ばされた時の中で、死を感じる瞬間に……私は何故か笑みを浮かべていた。
こんな状況に覚えがあって、既視感を覚えて。
ならきっと、似たような事が起きると、そう確信してしまって――
バチンッ!
――目の前の礫が、弾き飛ばされた。
下から伸びた、青く細い腕によって。
見下ろせば、パチリと開いた右目と目があった。
血を拭う暇もなくて血濡れだったけれど、その美しさは微塵も翳っていないな……なんて、この状況には相応しくない事を考えながら。
「サーナイト!」
「サナ!」
名を呼べば、コクリと頷いたサーナイトはふわりと身を翻し、レントラーの背中から飛び降りる。
そこから遠ざかるようにレントラーは力の限り走り……此方に向かってくる礫の全てを、サーナイトが撃ち落とすのが見えた。
やっぱりサーナイトなら、という希望が灯ったけれど、同時に……。
ポタ……ポタ……
「サ、サナッ……!」
その拳から、血が滴り落ちるのが見えた。
サーナイトの無敵の拳が、今までなんだろうとぶち抜いてきた拳が、傷付いた。
その事実にサーナイトが目覚めて浮き足だっていた所に、冷や水をかけられた気分だった。
もしかして、サーナイトでも、勝てない……?
そんな強い不安が、鎌首をもたげた。
もう、薬は殆どない。
みんなを少しでも癒せるようにと、逃げながら投げつけたり、そもそも落としたりして手持ちには残っていない。
荒い息を続けるレントラーも、もう限界だ。
「ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……ガゥ!」
それでも、私を下ろしてアルセウスに向きあって守ろうとしてくれている……そんなレントラーにこれ以上の無理はさせられない。
「サーナイト……!」
全てを、サーナイトにかけるしかなかった。
サーナイト、お願い……!
勝って……!
そう願った時、サーナイトが一瞬、此方を振り向いた。
小さく微笑んで……顔の前で拳を握り締めた。
ポウッ……
「……え……ペンダントが……」
その時、胸元のペンダントが震えたような気がした。
無意識にそれに触れれば熱く、そしてサーナイトとの、強い繋がりを感じた。
瞬間、目映い光を放つそれに呼応するように、サーナイトからも強い光が放たれるのが見えた。
「ガ、ガゥ……!?」
そして、サーナイトはみるみるうちに謎の球体に包まれていく。
レントラーの困惑が伝わって来る中で、私はその光景に僅かに覚えがあった。
それは確か、何処で見たのか……ラルトスと共に見ていたカロス地方のリーグ戦、チャンピオンの最後の一匹が同じような状態になっていた。
既に進化しない筈の、姿が変わらない筈のポケモンの、変化……フォルムチェンジとは違う、新たなシンカ……!
確か、そう!
「メガ、シンカ!」
「サナァアアアアアア!」
目映い光が、辺りを包み込んだ。
邪神「素晴らしい絆を持つ人とポケモンだ。本気を出そう。是非ともその輝きを見せてくれ」(ウキウキ
邪神「む……やり過ぎたか……? 少し手を抜くか……」(オロオロ
邪神「おほぉおお! それそれ! もっと見せてくれその輝きを!」(ギンギン
邪神「……素晴らしい。これが人とポケモンの絆……その極致……もっとだ、もっと見せてくれ」(絶頂
誤字報告ありがとうございます。