TS転生ラルトス♀はサーナイトになりたくない! 作:如月SQ
ストーリーはここでおしまいとなります。
後はエピローグを残すのみ……。
最後まで楽しんでいただければと思います。
サーナイトとの熱烈なキスを終えて、呆れた様子を見せ近付いてくるレントラーを、私達は少し気まずい気分で迎え入れた。
アルセウスとの戦いで傷付いたみんなを、どうにか拾い集めた薬とサーナイトの『いのちのしずく』で癒し……みんなをサーナイトと一緒に褒めまくった。
「ガチグマ! 私の判断ミスで、ごめん。でもアルセウスの特異性には気付けた。君のお陰だよ」
「サナサナ」
「グマァ……」
首もとを撫でながら、ガチグマを労った。
「ヌメルゴン! たくさん耐えてくれてありがとう! お陰でサーナイトを助けられた」
「サナァ」
「ヌメェエ!」
頭を擦り付けてくるヌメルゴンの頭を優しく撫でた。
「ジュナイパー! 助かったよ! 君が撃ち落としてくれなかったら危なかった時がいくつもあった」
「ジュナ」
誇らしげに羽毛を膨らませるジュナイパーの首の後ろを掻いてあげた。
「イダイトウ! いつも通り良い働きだったよ! 自分が傷付いても前を張り続けた君が誇らしいよ」
「イダァッ!」
嬉しそうに体を揺するイダイトウを、褒め称えた。
「そして、レントラー……! 本当にお疲れ様……! 君がいなかったら、私無事じゃなかったと思う……本当に、ありがとう」
「ガゥ!」
元気になって返事をするレントラーを、精一杯愛でまくった。
最後はサーナイトが全部持っていったけれど、みんな、本当に頑張ってくれた。
本当に……自慢の仲間達だよ!
そうやってみんなを褒めて、愛でてわちゃわちゃしていると、私達ではない物音が僅かにした。
瞬間、みんなは即座に身構えて、私の体はヌメルゴンの腕の中にあった。
そして、みんなの視線の先には、先程の激戦が無かったかのように無傷で佇むアルセウスの姿があった。
ただ、アルセウスからは敵意も圧も感じない。
それを理解してか、みんなも警戒して身構えるだけだった。
互いの視線がぶつかりあう中で、アルセウスは僅かにその瞳を細めた。
そのまま小さく頷いたアルセウスは、コツコツ、と足を鳴らした。
「グギャッ?」
「ガギャ?」
「ビシャン……?」
その瞬間空間が裂け、そこからディアルガ、パルキア、ギラティナが現れた。
「えっ……!?」
いや、嘘でしょ……!?
咄嗟に固く閉じていた鞄を漁り三つのボールを取り出すも、その中身は当然のように空だった。
アルセウスとの対面がどう転ぼうと、三匹は必要だと思って持ち物として持って来てたのだけど……空間に干渉されて無理矢理引っ張り出された……って事……?
困惑している様子の三匹を静かに眺めるアルセウスに、今更ながらに畏れを感じる。
サーナイトの活躍で倒す事は出来たけれど……やはりまがりなりにも神様。
こんなにも簡単に超常現象を起こされると、笑うしかなかった。
「ビッ! ビシャアアアンッ!?」
「グギャギャァッ!」
「ガギャ……」
アルセウスを見るなりいきり立つギラティナを、ディアルガは前足で頭を踏みつけて押さえつけて、頭を下げさせているようだった。
その横でパルキアは前足を合わせて、ペコペコと頭を下げている。
……なんだか、それだけで三匹とアルセウスの立ち位置というか力関係がわかったような気がする。
私は内心の恐れを誤魔化すようにサーナイトの手を握って、伝説達のやり取りを眺めていた。
やがてギラティナが折れたのか、何処かいじけた様子を見せつつ、自発的に頭を下げた。
満足そうなディアルガと、少し呆れた感じのパルキアも並んで頭を垂れて……アルセウスは仰々しく頷いた。
そして……三匹はアルセウスに言われるがままに力を解放し……その場に光が溢れた。
光が収まった時、そこにはキラキラと光輝く裂け目が新たに現れていた。
「あ……」
不意に感じた空気というのか、裂け目からふわりと漂ってきた何か……言葉にするなら、そう、匂い、だろうか。
裂け目から、ひどく懐かしい匂いがした。
この向こうに懐かしい景色が広がっている事を直感して、一歩前に踏み出した。
「……サナ」
手を繋いだままのサーナイトは少し心配そうだったけれど、渋々と言った様子で私の後に続いてくれた。
他のみんなもアルセウスに警戒心を向けながらも、ゆっくりと裂け目へと近付いていく。
裂け目は変わらず、キラキラ、キラキラと輝いていた。
やがて目の前に来た時に、感じる空気は間違いなく、元いた時代のものだと確信が持てた。
ここを潜れば私は……元の時代に戻れる、と。
強い達成感に思わず笑みが溢れた。
今までの苦労が報われた気分だった。
……もう、こんな時代で頑張る必要もないんだという安堵もあった。
振り返って、みんなに向けて笑みを浮かべた。
私と一緒に、私の為にいっぱい苦労をしてくれた、最愛の仲間達に向けて。
「帰ろう!」
そして私は、裂け目へと一歩、踏み込んだ。
瞬間、感じたのは引っ張られる感覚だった。
「……サーナイト?」
繋いでいた手を引っ張られている事に気付いて、振り返る。
なんで、と思った。
ここを通れば帰れるのに、と。
けれど、サーナイトが浮かべている焦燥の表情に困惑してしまう。
何故か誰も裂け目に入る様子を見せていなくて……いや、入ろうとしてるのに……入れない……?
良く見ればサーナイトもみんなも、私のいる裂け目に入ろうとしているのに、見えない壁でもあるかのように一歩も入り込めていなかった。
どうして、そう思った瞬間、アルセウスの思念が直接伝わってきた。
「――――――――」
『一と一で来たのならば、戻れるのは一と一だけ』
……それは、別離を告げる言葉だった。
ヒスイに来てから博士に貰ったモクロー、最初に捕まえたコリンク、きのみを一緒に食べたヒメグマ、落としたボールが捕らえていたバスラオ、ラルトスが引き連れてきたヌメイル……みんなとの思い出が頭に過って、じわりと涙腺が緩んだ。
みんなとはお別れしなければならない事がひどく悲しかった。
けど、そうじゃない。
みんなとの別れは辛くて悲しい、けれど、そうじゃない!
「じゃあ! なんで!」
なんでサーナイトもこっちに来れないの!?
「サ……ナッ……!」
呻くサーナイトの腕は何かを堪えるように震えている。
サーナイトはヒスイで捕まえた訳じゃない、一緒に落ちてきた、元の時代からの手持ちで……!
「一と一しか帰れないなら、なん――――」
ドクン、と背負う鞄から鼓動を感じた。
その時、大事に、大事に仕舞っていたタマゴが、独りでに鞄から飛び出し、宙に浮かぶ。
私とサーナイトの瞳が、見開かれた。
「――――」
『選べ。戻れるのは一と一のみ』
その宣言は、残酷なまでに私の頭を揺らした。
ガン、とハンマーで頭を叩かれたみたいだった。
サーナイトへと伸ばしている手が震える。
選べ、選べって……言った……?
頭の中をグルグルと、選べという言葉が回る。
回り続ける、グルグル、グルグル……。
ドクドクと心臓が五月蝿いくらいに脈打ち、口から漏れる吐息が荒く、激しくなっていく。
その言葉を、漸く噛み砕いて、理解して、噛み締めた奥歯が軋んだ。
ギリッ……!
「ッ……! 選べる訳、ないじゃん! 選べないよ!」
血を吐き出しそうな思いだった。
今にも胸が張り裂けそうだった。
サーナイトと、サーナイトとの子を選べなんて、そんな、残酷な選択……!
サーナイトがいないのに、元の時代に戻ったって……!
でも、この子を置いて帰るなんて事も考えられないよ!
「――――――」
『ならばヒスイの地で生きるか? その場合
「何……それ……!」
頭に突き付けられる、三つの選択肢。
サーナイトを残し、タマゴと共に現代に帰る。
タマゴを残して、サーナイトと現代に帰る。
サーナイトとタマゴと一緒にヒスイで骨を埋める……身代わりに誰かを犠牲にして。
「ッ……!」
噛み締めた唇がプツリと裂け、血が滴り落ちた。
選べる訳がない……だって、どれも選べない……!
ヒスイに残れば、確かに私はみんなを失わない。
サーナイトと子と、みんなと……平和に暮らせるかもしれない。
でも、二度と私は故郷に帰れない……今感じている懐かしい匂いのする場所に戻る事は出来ない。
何より、誰かを私と同じ目にあわせてしまうことが、耐えられない……!
あんな、家族に会えなくなって、帰れなくなって……まるで世界に独りぼっちになってしまったような孤独感を、誰かに味わわせる事になるなんて、嫌だ!
その苦しみは、私が一番良く知ってる!
それこそノボリさんみたいな人を、これ以上増やすなんて考えられない……!
「選べない……」
声が震える、まるで背中に氷柱を差し込まれたかのような寒気がする。
どうしたらいいの?
私、どうしたらいいの?
サーナイト……。
サーナイト!
どうしたらいいか、わからないよ!
助けて、サーナイト!
サーナイトの手を強く握り締めて、すがりつく思いでサーナイトの顔を見て――
「…………サナ」
――そこにあったのは、柔らかな笑顔だった。
「え…………」
スルッ
繋いでいた手が、するりと抜けた。
「待っ……」
ぶわっ
瞬間、体を浮遊感が襲う。
伸ばした手は宙を切り、体はその場で浮かび上がった。
バサバサと音をたてて、しっかりと着込んでいた筈の服が、ギンガ団の服が剥がされていく。
気付けばあの日、空から落ちてきた時と同じ格好で、ヒスイで得た全ては、向こう側へと弾かれていった。
ただ一つ、タマゴだけを残して。
そして、一番大事な、大切なモノを残して……。
「ッ……! サーナイトッ!」
手を伸ばした。
精一杯伸ばした。
けれどもう届かない。
サーナイトの私と繋いでいた腕はだらんと下に垂れ下がっていて……よく見ればボロボロで、血塗れで……。
目を見開く私の視線から隠すように身を傾けたサーナイトは、無事な手を掲げた。
「サナッ……」
笑顔で、満面の笑みで、サーナイトは静かに手を振った。
……その瞳に、涙を浮かべながら。
「やだっ……やだよ、サーナイトッ!」
「――――――」
『戻るのは一と一……確かに。ご苦労だった』
伸ばした手に、宙に浮いたままのタマゴが触れた。
思わずそれを受け止め、抱き寄せて……その瞬間体は弾かれたように宙に浮かんでいく。
グングンと加速していき、サーナイトの姿はあっという間に小さくなっていった。
「――――」
『元の時代に、帰るといい』
ドクン、ドクンと鼓動を刻む、温かいタマゴに反して、胸元のペンダントのキーストーンは、ドンドンと温かさを失っていく……。
触れればほんのり温かくて、握ればサーナイトと繋がっている感じがしたのに、今はどれだけ触れても何も伝わってこなかった。
タマゴの温かさと、ペンダントの冷たさが。
タマゴの鼓動と、沈黙するペンダントが。
相反した感覚で、気が狂いそうだった。
「いやっ……いやっいやいやいやぁっ! 離れたくない! 私とサーナイトを引き離さないでぇっ!」
叫んでも、泣き叫んでも、どれだけ声を張り上げても、サーナイトからはグングン離されていって……。
その視認出来なくなる瞬間、サーナイトの口が動いた。
「サ、ナ……」
『その子を、お願い……』
聞こえる訳ない、伝わる訳がないのに、そう、聞こえた。
その瞬間、溢れた涙で視界が滲んだ。
これが最後だと、信じたくなかった。
それでも……もう私の手元にはサーナイトとの子しか……タマゴしかいなくて……感じる鼓動が現実だと訴えているようだった。
「サーナイト!」
抱き締めたタマゴに、滴がポタポタと落ちる。
名前を呼んだけれど、何の反応もない。
もう姿も、見えなくなった。
キーストーンを握っても、何も感じない。
信じられなくて、首を振るけれど……現実は、変わらない。
サーナイトは……もう、いない。
「いやぁああああああああああああ!!!」
キラキラした空間の中、私の叫び声だけが響き続けた。
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崩れ落ちたピジョットを見て、目の前のツンツンした髪の男性が顔を歪めた。
カントー最後のジム、トキワジムのジムリーダー、グリーンの最後の一匹を下した私は、それを成したポケモン……私の
通常の色違いのキルリアとは少し違う、青……というよりは濃い青色……紺色の髪のような部分を揺らして、両目を瞬かせたキルリアは、輝くような笑みを見せた。
「キルッ!」
そのまま此方に飛び込んできたキルリアを全身で受け止めた。
大きくなっても……強くなっても、甘えん坊で困る。
「よくやったね、キルリア!」
「ルリァッ!」
よしよしと頭を撫でてやれば、心地よさげに目を細めるキルリアに、親愛を込めてキスを落とした。
擽ったそうに笑うキルリアに、胸が張り裂けそうだった。
ヒスイから帰還して一年……私はカントー地方を旅していた。
キラキラした裂け目の中、途中で気を失っていた私が気が付くと、そこは自室のベッドの上で、その直後、腕の中に抱いていたタマゴが孵った。
産まれたのは、サーナイトとは少し色味の違う、色違いのラルトスだった。
『ラルッ』
笑って身を寄せてくれるラルトスの角がちゃんとしているのが、隙間から見える左目がある事が、私の『ラルトス』じゃない事を示していて……全てが現実である事を突き付けられた気分だった。
崩れ落ちて泣き叫びたかった。
最愛を永遠に失くした喪失感に気が狂いそうだった。
でも。
それでも、目の前の、腕の中の、無邪気に私にすり寄ってくれる新たな命が……私とサーナイトの愛の結晶が……愛しくて仕方なかった。
ポロポロと涙を流しながら、それでも笑顔を浮かべて、私はラルトスを抱き締めた。
ギュッと、優しく、それでももう離さないように強く……。
私の、可愛い子……。
サーナイトの分まで愛し続ける事を、その時私は誓った。
必ず、幸せにしてみせると。
それが……サーナイトへの愛の証明になると信じて。
産まれた子は元気で、そしてサーナイトの子らしく非常に強かった。
バトルが好きなようでそこらのムックルやコリンク、果てはそれらの群れのボスのムクバードやルクシオにすら喧嘩を売るザマで、その度にヒヤヒヤさせられた。
それでもグングン成長したラルトスはあっという間にキルリアに進化して……それ以上、進化する事はなかった。
折角だからとジム巡りの旅をして、その最中進化しそうになった時、キルリアは自分の意思でそれを止めていた。
それがまたサーナイトを思い出してしまって……涙目になりながらもかつて『ラルトス』がしていたペンダントと、似たようなものをプレゼントしてあげた。
嬉しそうに首にかけるキルリアは自慢するように、見せつけるようにクルリと回って、上目遣いで私を見つめてきた。
その可愛らしい、あざとい仕草をする可愛い我が子を、私は目一杯可愛がるのだった。
そうしてジム巡りの旅をカントーで行って……最後のバッジ、グリーンバッジを手に入れたのだった。
トキワジムから出ながら、受け取ったバッジをバッジケースにしまい、並んだ8つのバッジを眺めた。
達成感を感じつつ、私は悩んでいた。
これからどうしようかと。
隣り合った地方であるジョウトを旅するのも悪くはないかもと思いつつ……一度家族に顔を見せに行くの良い。
どうする?とキルリアに問い掛けようと思った、その時だった。
「おお、やっと見付けましたよ!」
そんな声がかかって、思わず私はタメ息を吐いた。
ジムから出てきた直後に声をかけてくる人物……それは大概記者だとかリーグ関係者だ。
そのどちらにせよ邪険にするのは宜しくなく、かと言って簡単には解放されず……兎に角ただただ面倒な事になる。
思わずタメ息として漏れたものの、その推定記者は離れる気配を見せず、むしろグングンと近寄ってくるようだった。
そして……その容姿に私は既視感を覚えた。
青い長袖長ズボンに、白いエプロンに黄色の模様……黄色のモコモコとした襟と袖……。
ピンと人差し指を立てて、その金髪の人物は、服と似たような色合いの帽子のつばをあげた。
「約束を果たしに来ました。お届け物ですよ」
その手には、ひどく古ぼけたモンスターボールが握られていた。
時「……母上、何故彼女達を引き離したのですか? あれほど苦労したのです、報いの一つや二つあっても良かったのでは……」
邪神「ではあなたがやりなさい。一人と一匹が消え、一人と一匹が増える。『時』のズレが起こるのは当然。それを私がずっと抑制していたのですが……? まぁ、どれだけ致命的なズレが起きようと貴方が直し、何があっても自力でなんとかすると言うのなら構いませんよ」
時「…………」
間「母上の言い方どうにかなんねぇのかな」
裏「相変わらず性格悪いわね……そんなんだから異世界の観測者達に邪神なんて言われるのよ」
邪神「聞こえていますよ。千年程幽閉してあげましょうか」