TS転生ラルトス♀はサーナイトになりたくない!   作:如月SQ

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閲覧、お気に入り、感想、評価、ここすき、ありがとうございました。
どれも一つ一つ、執筆の励みとなり、力となりました。
前回は邪神への恨み節が凄かったですね……。

さて、今話でエピローグとなります。
ここまでこのお話にお付き合いいただきありがとうございます。
最後まで楽しんでいただければ幸いです。


エピローグ・明日も

 シンオウ地方のとある砂浜。

 この砂浜はシンオウ地方では殆ど見られない、とあるポケモンの生息地となっていた。

 そのポケモンは、小さな梟のような鳥ポケモン、モクローだ。

 アローラ地方では初心者に送られるポケモンとして馴染み深い反面、他地方では見つける機会の殆どないポケモンだ。

 そんなモクローがポテポテとそこらを歩き回っていた。

 

 まだまだ幼いそんなモクローを見守る視線がいくつかあった。

 モクローの進化体である何匹かのフクスローは、それぞれ数匹のモクローを担当しているのか、一定距離を離して佇んでいる。

 時折元気過ぎて群れから離れすぎそうなモクローを連れ戻すのが、主な役目だ。

 

 そして、そんな群れから少し離れた場所で、砂浜から海を眺めるポケモンがいた。

 フクスローの進化体であるジュナイパー……であるのだが、その羽毛の色と形が通常のそれとは明らかに違っていた。

 本来新緑である筈の羽毛は紅葉のように色づき、頭を覆うのはフードではなく三度笠のようになっていた。

 

 それはかつてシンオウがヒスイと呼ばれていた時代のジュナイパーの姿、環境で姿を変えるポケモンのリージョンフォームの一つだった。

 モクローの群れの長、ジュナイパー、ヒスイの姿は首元に白いスカーフのようなものを巻き、静かに佇んでいた。

 代々この群れの長となりえるような強い個体はヒスイの姿となり、その中で長の座を勝ち取った個体が証として首に巻き続けていた。

 古ぼけてはいるものの、丁寧に扱われているそれは、まだ元の白さを残していた。

 

「…………?」

 

 その時、群れの長は背後の騒がしさに気付いた。

 外敵が来たような反応ではないが、フクスロー達がやけに騒がしい。

 なんだと思い振り返って見れば、そこには見知らぬ人間とポケモンの姿があった。

 その足元にはその二体を先導していたらしい、元気がありあまり、好奇心旺盛なモクローの姿があった。

 どうやらいつの間にか抜け出し、人間と接触し、連れてきてしまったらしい。

 

「……ジュナ」

 

 まったく、管理していたのはどのフクスローだ?

 あのモクローも後で叱ってやらねばな、などと考えながら、群れの長は一足飛びにその人間達の元へと飛翔した。

 

 ……そして、その場に跪いた。

 

 ざわり、辺りを囲うモクローとフクスロー達がざわめくが、群れの長に迷いはなかった。

 

 感じるのだ、目の前の人間から。

 首に巻いた布と、同じ匂いを、同じ気配を。

 此方をひどく優しい瞳で見つめる、その視線を。

 

「ジュナ」

 

 しゅるりと音をたてて、首元から布を外す。

 そして代々群れの長の証としていた筈のそれを、目の前の人間へと差し出した。

 そうするのが当たり前であると、群れの長は疑わなかった。

 

 人間は僅かに戸惑うも、差し出されたそれを恭しく受け取り、群れの長の頭を優しく撫でた。

 ……不思議な気持ちだった。

 群れの長に目の前の人間に対する思い出というものは一切ない。

 思うところも無く、生まれてずっとこの群れで生きてきた長が、目の前の人間の事を知ることもない筈だった。

 

 それでも、懐かしいと感じたのだ。

 

 目の前の人間は何言か口にして、群れの長へと手を伸ばした。

 それが誘いであると、群れの長は言葉はわからずとも理解出来た。

 不思議な郷愁の念を感じる人間、隣に立つ自分よりも圧倒的に強いであろうポケモン、きっと共に行けば自分は更に強くなれると確信が出来た。

 

「ジュ……」

 

 それでも群れの長は首を横に振った。

 自分はついていけないとのだと。

 代々伝わってきたものを、元の持ち主に返すという使命は果たした。

 それでも我らの生は続いていくのだ。

 群れの長が群れを放って行く等考えられない。

 

 だが、と、群れの長はずっと人間の足元でわちゃわちゃしているモクローを羽で人間のほうへと押した。

 かわりに、この子を連れていって欲しい、と、人間に向けて目で訴えた。

 モクローはその瞳を瞬かせ、何度か視線を人間と群れの長の間を行き来させていた。

 

「ジュナッ」

 

 あまり、迷惑をかけるなよ。

 そう言って群れの長が頷いたのを合図にモクローは、人間へとその身を擦り寄せた。

 満面の笑みでモクローを受け入れる人間と、それを微笑みながら見守っているポケモン。

 

 あのモクローはきっと、自分よりも強くなるだろう。

 

 そんな確証のない思いを抱き、群れの長は踵を返した。

 

『――――!』

 

 群れの長は元の位置に戻って海を眺める。

 背後の群れは人間達が去り、まだ少しだけ騒がしいが、いずれは落ち着く事だろう。

 少しだけ寂しくなった首元を撫でながら願う。

 あの子の、モクローのこれからの幸運を……そして――

 

「ジュナ……」

 

――あの人間とポケモンの先行きに、幸あれと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深い森の中、微睡みから一匹のポケモンが目を覚ました。

 夢の中、幸せな思い出に浸っていたそのポケモンは、ガチグマ。

 かつてヒスイの地でのみ生息が確認されていた、リングマの進化形である。

 

 ガチグマはここ最近、ずっと眠っていた。

 というのも、既にその身が限界である事を感じていたからだ。

 長くヒスイの時代から生き続けてきたその体は既に限界、何匹か産まれた子や孫なんかも全てが旅立ち、今はヒメグマが一匹側にいるくらいだ。

 このような死にかけの老いぼれの側にいる事を何度か思い直すように告げていたものの、ヒメグマはイヤイヤと首を横に振るばかりであった。

 

 そんな健気なヒメグマには悪いものの、ガチグマは日の殆どを眠って過ごしていた。

 かつてヒスイの地で、人の手持ちであった頃の、最も幸せな時間に浸るために。

 眠ればそこはかつての思い出のままの場所で、仲間達がいて、主がいて、姉のように慕っていたポケモンがいて……。

 

 目を覚ましたガチグマは、抱き抱えていた布を、悲しそうな目で見つめた。

 匂いの消えかかった上着は、かつての主が着ていたものだ。

 主がヒスイの地から消え、残ったそれらの服等を仲間でそれぞれ分けた。

 温もりも何も感じないそれにすがって、ガチグマはただ生きていた。

 

『――――』

 

 ふと、名前を呼ばれた気がして、虚ろな意識に灯が灯る。

 

 そして開いた瞳で、いつからかボヤけるようになった視界で、必死に目の前に立つ何かを見つめた。

 

 不意に頭に触れた、二つの感触、食べ物の匂いもわからなくなった筈の鼻を刺激する、ひどく懐かしい……ずっと、抱え続けていた衣服に残ったものと同じ匂い……。

 

「……ぐまぁ……?」

 

 まだ夢、なのだろうか?

 夢なら、夢でも良いか。

 ガチグマは、自分の頭に触れる何かに頭を擦り付けて、抱え続けていた衣服を差し出した。

 そうするのが役目のような気がして……何となく、肩の荷を下ろしたような気分になって。

 受け取ってくれた、そう認識して安堵から声が漏れた。

 

「ぐ……まぁ……」

 

 その途端ガクンと、ガチグマの頭が下がる。

 体に力が入らないと、首を傾げたかったがその力すら残っていなかった。

 体から力が抜けていく……足先がドンドン冷たくなっていく。

 急速に力を失っているのに……ガチグマに恐怖はなかった。

 ただ、頭を撫でる懐かしくて、優しくて、温かい感触に……身を任せていた。

 

『――――』

 

 ここは、とても暖かい。

 最後に、今にも落ちそうな重い瞼に力を入れて、目の前の懐かしい気配に目を向けた。

 その瞬間、その時だけ、まるでまだまだ体に力が満ちていた時のように、鮮明に景色が色づいた。

 懐かしの、最愛の主と、最優の仲間。

 そんな二人が並んで、笑顔で、此方を見つめている事に……ガチグマは心底安堵した。

 

 あの時、自分達と主が分かたれた瞬間の絶望を、よく覚えている。

 もうあの温かい時は訪れないのだと、心底悲しんだ。

 けれど、けれど……長い時を経て再びこの時が訪れたのだ。

 これ以上に、嬉しい事は、ない。

 

「ぐま……」

 

 ガチグマは静かに目を閉じた。

 ゆっくりと、温もりに身を任せて、眠りにつく。

 心残りはヒメグマの事……けれど主達の事だ、自分が何もしなくても大丈夫だと手放しで信じる事が出来る。

 

『――――』

 

 最後に、最期に……主の想いが詰まった言葉が耳をうって、ガチグマの意識は闇に溶けていった。

 その顔は、最後まで安らかなままだった。

 

 シンオウ地方のとある深い森の中。

 唯一日の当たる場所にポツンと立てられた大きな石。

 そこには古い文字で何かが刻まれているが、読み取ったものは誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幽霊が出る、そういう噂の絶えない湖の底、静かに泳ぐ一匹の魚のポケモンがいた。

 名をイダイトウ、古のヒスイの時代より生きる湖の主だ。

 上層には青でも赤でもない、白い筋のバスラオが元気に泳ぎ、それを下から穏やかに眺めていた。

 

 その時、一部のバスラオが騒ぎだした。

 闖入者が来たと。

 瞬間、イダイトウは今までの穏やかな表情を引き締め、騒ぎの起きた湖面へと急ぎ泳ぎだした。

 シンオウではそもそも珍しいバスラオ、その上に見たこともない色あいの筋を持つこの湖には、よく人間が顔を出す。

 その度にイダイトウは自身の持つゴーストの力を使って脅し、撃退していた。

 今回もその類いかと呆れつつ、人間の愚かさに辟易し、泳ぎながら準備を整える。

 周囲を回る仲間の魂を滾らせ、脅しをかける為に勢いをつける。

 本来、流れの激しいヒスイの川を平気な顔をしてかけ昇るイダイトウにしてみれば、湖で泳ぐこと自体が物足りなくはあるが……仲間を守る為に出し惜しみはない。

 

 周囲が一気に明るくなっていき、湖面が見え、イダイトウはそのまま勢いよく湖面から飛び出した。

 

「イダァアアアアッ!!!」

 

 飛び出して、大きく吠えて、脅しをかけたイダイトウ。

 突然現れた巨大な魚が、おどろおどろしい魂を纏い襲い掛かる姿は、殆どの人間達に悲鳴をあげさせていた。

 たまに対抗してポケモンを繰り出す相手もいたが、一瞬で打ち倒してやればやはり悲鳴をあげて逃げていく。

 今回もそうなるだろうと、どっちのタイプだろうと、視線を向けた。

 向けたのだが――

 

『――ッ!』

 

 返答は視界を覆い尽くす水色の拳だった。

 

「イダァッ!」

 

 あえなく吹き飛ばされながら、イダイトウは思う。

 ああ、懐かしい感触だと。

 

『――――ッ!』

 

 懐かしい声も聞こえて、全てを理解して、イダイトウは笑う。

 時が来た、と。

 良かった、と。

 感慨深い想いで――

 

バシャーーーンッ!

 

 そのまま湖面に叩き付けられたのだった。

 

 湖の畔に立っていた二つの影は、ふと畔に残されていた二つの炎のような魂を見つける。

 そのうちの一つが近付くとそれはほどけて消えていき、そこには足袋と草鞋が一組、残されていたのだった。

 

 この出来事の後暫し湖の主は姿を現さなかったものの、再び現れた密漁者はやはり、幽霊を見たと叫び逃げ帰っていった。

 湖の主は、仲間を傷付けるものを決して許さない。

 たとえ、かつての主と、折角再会した主と友と再び別れる事になろうとも、仲間を守り続ける。

 仲間の魂とともに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヌメェ……」

 

 ヌメイルは泣きたい気持ちだった。

 殻にこもりながら、親から代々受け継いできたという、さわり心地の良い布をぎゅっと抱き締めた。

 この匂いは、不思議と落ち着くのだ。

 

 本来ヌメイルに殻などはない。

 けれど過去、ヒスイの時代に生きたヌメラは進化した時に殻を背負うようになったという。

 その血が流れているのか、そのヌメイルも立派な殻を持っていた。

 シンオウのとある秘境の山あいで、ヌメイルは一匹で生きてきたのだ。

 

 そんなヌメイルの元に、見たこともない生物が近寄ってきたのだ。

 しかも二匹も。

 ヌメイルは明らかに自分を認識しているその二匹から逃げるように殻にこもり、そしてそのままずっと自分を見ている空気を感じ取っていた、

 どうしたら良いんだろう……その手に持つ布を触りながら、ヌメイルは思考し続けた。

 そして、大きく息を吸った時の事だった。

 布から顔を離していたにも関わらず、ずっと布から感じていたものと同じ匂いが……いや、より鮮明な匂いがしたのだ。

 

「……ヌメ?」

 

 キョト、と思わず殻から顔だけを出しその出所を探れば、それは目の前に立つ生物……人間から出ている事に気付いてしまう。

 首を傾げてその人間を見れば、人間は笑みを浮かべてヌメイルを見つめている。

 ヌメイルはひどくそれに安心した。

 自分でも不思議に思うくらいに安堵したのだ。

 何故、そう思う間も無く、自分の頬に人間の手が添えられた。

 

『――――』

 

 何言か、人間が自分に何かを囁くのを感じた。

 ヌメイルはその言葉を理解出来た訳ではない。

 何と言っているのかはまったくわからなかった。

 それでも……。

 

「…………ヌメッ」

 

『――――』

 

 何となく、この人間は自分の敵ではないのだと信じられた。

 何故か懐かしい匂いのするこの人間が、並び立つポケモンが、ヌメイルにとって悪いものではないと思えた。

 柔らかな笑みを浮かべた人間とポケモンに、ヌメイルは既に絆されていたのだろう。

 

 自然と、ヌメイルはその手に抱えた、ずっと持ち続けていた布をその人間に差し出していた。

 なんでかわからないが、そうしたほうが良い気がして……。

 頬を撫でる、温かくて優しく、何故か懐かしい二つの感触に、ヌメイルは身を任せる事にした。

 

 そして、人間が差し出していた丸い機械にヌメイルは、臆病者にしては躊躇いなく、鼻先を触れさせる事にした。

 瞬間光となって吸い込まれていくヌメイルに後悔はなかった。

 まるで、こうなるのが当然であるような、あるべきところに戻ったような感覚だった。

 

 後に残ったのはヌメイルがいた事を証明するかのような粘液だけだった。

 もう、独りじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幾年月が流れたか。

 黒い体毛を持つポケモンが一匹、とある遺跡の奥深くで体を丸めてジッとしていた。

 その遺跡には一切のポケモンが寄り付かなかった。

 というより、常に強力な電撃を纏っていて、入ろうにも入る事が出来なかったのだ。

 

 けれどそこに、一人のトレーナーが一匹のポケモンを引き連れて現れた。

 お世辞にも強そうには思えなかったのだろう、遺跡の管理――中には入れていないが――を任されていたとある人間は、そのトレーナーを引き留めた。

 あまりにも強力な電気ポケモンがこの先の遺跡を長年縄張りにしている為に、ここから先は立ち入り禁止なのだと。

 それこそ、そこそこ歳を重ねている自分が、産まれるよりずっと前から……。

 

『――――』

 

 けれど、トレーナーは、サーナイトを引き連れた少女は、大丈夫だと笑って躊躇う事なく遺跡の中へと進んで行ってしまった。

 危ない、と反射的に叫んだ人間だったが、少女は何事も無かったかのように遺跡の中へとあっという間に姿を消してしまった。

 呆気に取られる人間だったが、ならばと一歩近付いてみれば凄まじい電撃が迸る。

 ヒッと悲鳴をあげて後退りした人間は、そこで遠巻きに見守る事しか出来なかった。

 

 やがてその最奥の行き止まりで、黒い体毛に身を包んだポケモンが一匹、身を丸めて佇んでいた。

 シンオウに住む人間ならば何度も目撃する事になるだろう、恐らく最も身近な電気ポケモンの一匹であるコリンク。

 その最終進化形であるポケモン、レントラーは、ゆっくりとその瞼を開いた。

 

 懐かしい、ひどく懐かしい匂いがする。

 スンスンと鼻を鳴らし、レントラーは思わず破顔した。

 キリッとしていた表情を緩めて、駆け足で、その懐かしい匂いの元へとすり寄った。

 

『――――!』

 

『――』

 

「ガゥ」

 

 記憶と変わらない、自分を撫でる温かく優しい手……いや、主のほうは少し大きくなっただろうか。

 レントラーは目を細めて、その二つの手に頭を、体を擦り付けた。

 昔はたまに電気の制御を失敗し、静電気を引き起こして互いに痛い目にあっていたが、今はもう大丈夫。

 笑顔で自分を愛でてくれる変わらない二つの存在に、レントラーは心から感謝を述べた。

 

「ガォオオオン!」

 

 聞こえているのか、伝わっているのかは分からない。

 それでも伝えたかった、感謝を、心からの愛を。

 

 最期に。

 

「がぉ…………」

 

 自分を撫でてくれる大好きなトレーナーと、大好きな姉の頬をそれぞれひと舐めして、レントラーは小さく鳴いた。

 瞬間、その姿はかき消えて、その場には赤いマフラーと、それに包まれた奇妙な形の笛だけが残っていた。

 

 それに少女は震える手つきで手を伸ばした。

 赤いマフラー、()()()()ずっと身に付けていたそれを胸に抱いて、少女は……ショウは体を震わせた。

 

『ありがとう……』

 

 ポタポタと、床に雫が滴り落ちていく。

 止めどなく流れるそれを、ショウは拭う素振りも見せなかった。

 

『お疲れ様、レントラー……ゆっくり、休んでね』

 

 長い、気の遠くなる程の長い時の中で、レントラーはずっとショウを、そのパートナーのサーナイトを待ち続けた。

 二人が再会すると信じて、会いに来てくれると信じて。

 ずっと、ずっと待ち続けた。

 たとえ、自らの命が尽きようと。

 

『……サナ』

 

 サーナイトはショウに寄り添い、弟分を誇らしく思いながら……再びの別れに、永遠の別れに涙した。

 僅かにレントラーの気配の残った、ずっと守り続けてくれたマフラーに触れて、二人は暫しの間、そのまま静かに泣き続けた。

 

 とある深い森の中、日の当たる空間にある墓石。

 そこに新たに四つ目の名が刻まれる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルセウスは驚愕していた。

 久々にてんかいのふえを吹く存在が現れたと、意気揚々と出て来て見れば、自らを迎えたのは問答無用の拳であったからだ。

 無礼だと怒るべきところである筈なのに、自分の芯を揺らすような強大な一撃……どこか覚えのある拳に、いきなりの暴挙に困惑が先に来てしまい、身を固めてしまった。

 

 そしてそれが間違いだったと、次の瞬間思い知る事となる。

 

「ジュナイパー、『さんぼんのや』! ガチグマ、『ぶちかまし』! イダイトウ、『ウェーブタックル』! ヌメルゴン、『りゅうのはどう』!」

 

力業!

 

「ジュナ!」

 

「グマァ!」

 

「イィダァッ!」

 

「ヌメェッ!」

 

「――――――!???」

 

 殺到する、強大な技の数々。

 咄嗟に今一つなタイプに変化して受けるも、体の芯を揺らす威力に、アルセウスは戸惑いを隠せない。

 かつて、似たようなポケモンと対峙した事はあったが、これ程ではなかった……!

 

 指示を出しているトレーナーはその時と同じ、見覚えのある人間。

 だが、その時の脅威は一匹だけ、自身が実質的に敗北したあのポケモンだけの筈だった。

 アルセウスの記憶に刻まれた、あの無限にも思える程の拳を叩き込んできたポケモンが――

 

「サーナイト!」

 

「……サナァッ……!」

 

――再び、姿を表す。

 

 それは、決して有り得ない組み合わせだった。

 この一と一は、その道は、分かたれた筈。

 時という絶対の障害の下に、二度と会えない筈の。

 有り得ない光景に、アルセウスの思考が二度止まる。

 

「……()()()()()!」

 

「エルッ!」

 

 そしてそれは、致命的な隙を生んだ。

 

 そこに並び立つ、姿の似たポケモン。

 サーナイトの進化前、キルリアの分岐進化であるエルレイドは、サーナイトと視線を交わすと静かに頷きあった。

 そして、右手に持つ何かを見せつけるように掲げる。

 合わさるようにサーナイトは、左目のあった所に手を翳す。

 そこにはそれぞれ、丸いビー玉のような石、メガストーンがあった。

 

 トレーナーのショウが胸元のペンダントを強く握り、ポケモンとトレーナーの絆が光となって溢れ出す。

 

「メガシンカ!」

 

 二体のポケモンが、光の球体に包まれる。

 かつて自分を襲った、名状しがたい、凄まじい痛みと衝撃が頭に過る。

 

「ッ――――!」

 

 その瞬間、アルセウスは『さばきのつぶて』を放っていた。

 メガシンカ、変化の途中の二体へと。

 恥も外聞も捨てて、思うがままに。

 

 そこには創造神等という仰々しい存在はいなかった。

 ただ痛みに怯えるポケモンが一匹、いるだけだった。

 アルセウスの強力無比なわざ、『さばきのつぶて』が、無数の礫が光の球体へと凄まじいスピードで襲い掛かっていく。

 

「……サイコカッター」

 

早業!

 

パリンッ!

 

 けれど、それはもう遅かった。

 

ザンッ!

 

 一足先に砕けた球体から飛び出した、マントのようなものをはためかせたエルレイド……メガエルレイドは、肘から飛び出したブレードを既に振り切っていた。

 アルセウスの背後で。

 

「――――!?」

 

ズバァッ!

 

 全ての礫は切り裂かれ、遅れてアルセウスの体にも斬撃が刻まれた。

 目にも留まらない……いや映りもしない速さに、アルセウスの瞳が驚愕に見開かれる。

 

 ……いや、本当に速さ、なのか……?

 

 僅かに感じるのは、時と空間が弄られたような違和感。

 まさか、とアルセウスはメガエルレイドを凝視するも、当人はニヤリと笑うだけで何か答える事はなかった。

 それに思わず苛立ちを覚え、意識をメガエルレイドへと強く向けた。

 生意気な、と害意を向けたのだ。

 

「サナ?」

 

 その瞬間、アルセウスは首を掴まれていた。

 気付けば目の前には()()サーナイト、普通とは違う姿のメガサーナイトが右目でアルセウスを睨み付けていた。

 目線だけで殺せそうな程の溢れんばかりの殺意を向けるメガサーナイトに、アルセウスは流石に冷や汗を流した。

 ギシ、と自身の首が軋むのを感じ、遅れて未だかつてない程の危機感を覚えた。

 

「サナサナサァナァッ……!」

 

ゴォオオオオオオ

 

 メガサーナイトの振りかぶっている拳が、凄まじいエネルギーを纏っていたからだ。

 空間が軋んでいるのを感じて……流石にあれで殴られてはたまったものではない。

 ポケモンに、生き物に向けるようなものではないと、焦燥を滲ませながら、アルセウスは僅かな救いを求めてメガサーナイトのトレーナーである少女へと視線を向けた。

 

 が。

 

「――――……」

 

「やっちゃえ、サーナイト!!!」

 

 その僅かな希望は、同じくらいの殺意を少女から感じて打ち砕かれる事となった。

 嗚呼、これは、無理だ。

 迫る拳に、危機感か生存本能か、引き延ばされた時の中で、アルセウスは思う。

 これまでを省みて、人とポケモンが手を取り合い、絆の極致にて自分を追い込んでいる現状を思って。

 

 やはり、人とポケモンの絆は最高だと。

 

 ……何も省みてなかった。

 

「サナァッ!」

 

 そんな邪神へと、サーナイトの渾身の拳が叩き込まれた。

 一切の手加減容赦のない一撃は、空間をも揺らし、アルセウスの顔面にめり込んだのだった。

 

ドゴンッ!!!

 

 遅れて鈍い音が、その場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったのですか?」

 

「え? 何がですか?」

 

「あの服ですよ。寄贈してしまって……貴女のポケモン達の……」

 

「ああ、良いんですよ。あの子達の想いは、私の胸の中にしっかり残ってますから……」

 

「……そうですか。野暮な事をお聞きしてしまいましたね」

 

「それに、そんなのウォロさんこそじゃないですか」

 

「……まぁ、ワタシの中で区切りがつきましてね。もうアレはワタシには必要ありませんから」

 

「そっか……私も野暮な事聞いちゃいましたね」

 

「……さて。気を取り直しまして。ショウさん、貴女はこれからどうなさるおつもりで? 貴女程の実力なら引く手あまたでしょうが」

 

「うーん……それが結構鬱陶しいんですよね。ポケモンの物珍しさで変なのも寄ってきますし……ちょっと暫くは大人しく、気儘に観光でもしようと思ってますよ。ウォロさんは?」

 

「そうですか。ジブンも似たようなものです。色々と、世界を見て回りたくなりましてね。色んな地方を回りましたが、貴女を探すのを優先したせいで、見られていない場所が多々あるのですよ」

 

「……なんか言い方にトゲがあるなぁ」

 

「滅相もない! ジブンの一番のお得意様にそのような事!」

 

「……それじゃあ、お別れ、ですかね」

 

「ええ、この後ジブンは別の地方へと向かうつもりです。ショウさんはこの地方を観光するつもりなのでしょう?」

 

「はい、まずはここミアレシティから、観光していきたいと思ってます。今までの苦労は忘れて、楽しく」

 

「でしたら、ここでお別れと致しましょう。ではまた、縁があれば」

 

「はい! さようなら、ウォロさん」

 

「……ええ、さようならショウさん。そして、サーナイトさん。どうかお元気で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、行こっか、サーナイト」

 

「サナ」

 

「泊まるホテルは……()()()()ってところらしいね」

 

「サナ……」

 

「大丈夫大丈夫、ちゃんと地図もあるしね。そんな事より、今まで戦い詰めだったし、ここいらでのーんびり羽を伸ばそう?」

 

「サナッ」

 

「えへへ、明日は何しよっか? ミアレシティは都会だし、見るものきっといっぱいあるよ? 楽しみだね、サーナイト!」

 

「サナサナ」

 

「…………ねぇ、サーナイト」

 

「サナ?」

 

「あのね……大好き、だよ」

 

「ッ……!」

 

「あはっ、赤くなった! 可愛いっ!」

 

「サッ……サナァッ……!」

 

「えへへ、好き、大好きだよ。明日も、明後日も、これからはずーっと一緒だよ!」

 

「……サナッ!」

 

「あっ……えへへ、抱っこしてくれるの? ちょっと恥ずかしいけど……ありがとう、サーナイト!」

 

「……サナ……サナァ」

 

「ふふ……うん、幸せだね。これからもっと……もっともっと! いーっぱい! 一緒に幸せになろうね、サーナイト!」

 

「サナ!」

 




邪神「」(ビクンビクン

時「うわぁ……」

間「うわぁ……」

裏「キッショ、なんで生きてんだよ」



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