TS転生ラルトス♀はサーナイトになりたくない! 作:如月SQ
「ラルラルラル! ラルァッ!」
「グマァアアアアア!」
悲鳴をあげてガチグマが吹っとんでいく。
まったく、こんなに小さくてか弱くてプリチーな俺に簡単に吹っ飛ばされるなんて、不甲斐ないぞ!
「ジュナー……?」
あっ、てめ、ジュナイパーお前、「どこがか弱い……?」っつったな!?
こんな俺に簡単にやられるお前達が貧弱なんだっ、よ!
「ラルッ!」
「ジュァアアアアア!」
生意気な口をきいたヒスイジュナイパーを情けないガチグマと同じ目に遭わせてから、俺は残りの面子に目を向けた。
「……フン」
吹っ飛んでいった奴等を鼻で笑ったのは、レントラー。
無口でクール、多分俺を除いたらショウちゃんの手持ちで一番強いのはこいつだ。
コリンクの頃からじっくり育てたレントラーは、まさに俺の弟分と言える存在で、俺以外にショウちゃんを任せられるのはこいつしかいない……と思ってたんだが……。
「…………ガゥ」
……まぁ、電気無効のオヤブンガブリアスの群れは流石に荷が重かったか。
とはいえ、ショウちゃんを危機に晒した事に一番後悔してるのもレントラー自身だ。
訓練にも真面目に取り組んでいるし……次は期待してるさ。
「ラァルッ!」
「ガゥッ!」
頷いたレントラーは、勢いよく走り出した。
うむうむ、後でしっかり揉んでやるからな。
しっかし立派になったよなぁ……コリンクの頃はよく甘えてきたから、抱き締めて眠ったりしてたのに……そいや進化してからはしてなかったか。
進化してからクール無口キャラになったけど、生来の性格なんざ早々変わる訳ねぇし、そうさな……今日は久し振りに添い寝でもしてやるとするかね。
イダイトウは……ああ、お前は根本的にまだまだ力つけねぇとな。
水場がなきゃ戦えないってのは甘えだぞ?
俺達のトレーナー、ショウちゃんにいつどんな危機が訪れるかなんてわからねえんだからな。
「ラルラル、ラァッルッ!」
「ィダァッ!?」
まずは水の無い所でどうするか、考えるんだなっ!
水場も何にもない原っぱへとイダイトウを放り投げて……草の上でビチビチと跳ねるイダイトウから視線を外した。
そして、最後にある意味一番の問題児に向き直る。
でっかい殻に籠って震えるそいつは、ヒスイヌメイル……。
まだ仲間になったばかりでレベルも低いし、性格も臆病でヒスイ種特有の殻にこもりがちなんだよなぁ。
相当な力を秘めてると確信しているんだが……如何せん本ポケの意識が追い付かないとなぁ……。
「ラルルッ」
「……ヌメ、ヌメェエ……ヌメヌメ」
……ふむふむ、ヌメイルはヌメイルで、俺がいない間に蹂躙された事を悔しくは思ってた。
それでも戦いは怖いし痛いし……嫌、か。
「ラルァッ?」
「ヌッ!? ヌメェ……!」
「ラッ?」
「ヌメェ……!」
じゃあショウちゃんがお前が戦わないせいで死んでもいいのか、そう言うと殻から顔を出して必死に首を横に振る……。
じゃあ戦うのかというとそれもまた否定……。
……なんかムカムカしてきたな。
あれも嫌これも嫌って……。
「ラルルッ」
「ヌェッ!?」
オヤブンガブリアスの群れに襲われるってのを経てこれなら、ダメダメだお前は。
取り敢えず一回……。
俺の何倍もあるだろう殻を持ち上げて、俺は宣言する。
「ラルルァッ!」
「ヌメェエエンッ!」
ぶん投げた先には、燃え盛る鬣の馬が、目を赤く光らせて佇んでいた。
呆れたように鼻息を漏らすそいつは、俺を見て仕方ないとばかりに頷いてくれた。
そいつ頼んだぜ、オヤブンギャロップ!
「ブフンッ!」
「ヌメェエエエエ……!」
暫く死なない程度に自然に揉んで貰え!
ま、うちの手持ちの登竜門だ。
あのオヤブンギャロップ相手にある程度もたないと話にもならんからな。
泣きながら飛んでいったヌメイルが、オヤブンギャロップにそのまま蹴りあげられるのが見えた。
そんなこんなで、ガチグマとジュナイパーをもう一回シバいて、イダイトウとヌメイルも合わせてレントラーに任せた俺は、俺自身の訓練を始める事にした。
さぁて、まずは……この原野中の新しく生えた素材集めといきますか。
アイテムなんてのは、なんぼあっても良いですからね。
ぐいぐいと腰を回して体を解してから、俺は走り出すのだった。
ちなみにその夜、添い寝したレントラーは照れながらも嬉しそうだった。
そのつやつやもふもふの毛並みに埋もれ、ショウちゃんと一緒に安眠出来た事を伝えておこう。
またこんな感じで眠ろうな。
……イダイトウ、
あ、あぁ……そう、だな……機会があれば……うん。
そうして鍛え直した俺達は、改めて純白の凍土へと挑戦した。
一度は逃げ帰ったようなものだったし、みんなどこか緊張した面持ちで挑んだのだが……。
ドズゥウウウウウウウウウウウン
目の前で、氷の巨体が鎮んでいく。
空の異変から荒ぶり始めたらしい各地を治めるキング、その最後のキング、クレベースを鎮める事に成功したのだった。
……まあ、拍子抜け、と言わざるをえない。
今回の挑戦、みんなの成長を見る為に、俺は殆ど手を出さなかった。
ショウちゃんの腕の中でじっくりと見学させて貰っていた。(当然ねんりきでショウちゃんの腕の負担は0にさせている)
そんな状態でも、みんなは訓練通り、いやそれ以上に張り切り、野生のポケモンもオヤブン個体も立ちはだかる全てを薙ぎ倒し、荒ぶるキングを鎮めた……。
これには俺も後方腕組み面である。
よくやったぞ!
後で存分になでなでしてやろう!
「やった……」
ショウちゃんの声がする。
「やったやった! ラルトス、やったよ! 最後のキングを鎮めた!」
ぎゅうと俺を抱き締めて、頭に頬擦りをするショウちゃんは、とても無邪気に喜んでいた。
「ラル!」
「うん、これで全部解決だね!」
全身で喜びを露にするショウちゃんの姿に、俺も嬉しくなって笑みを浮かべた。
「みんなも、ありがとう! お疲れ様!」
手持ちのみんなをボールから出して、ショウちゃんは輝かんばかりの笑顔を浮かべた。
そこにあるのは、達成感、歓喜、そして、俺達手持ちのポケモン達への溢れんばかりの愛……。
自然と笑顔になっていくような、心地好い想い。
「みんなのおかげでここまで頑張れたよ! 本当にありが、うわっ!」
そんないじらしい主に、我慢出来るポケモンはこの場にはいなかった。
全身で、全力で、けれど主を傷付けないように親愛を示していく。
みんなにもみくちゃにされて、髪も服装もグチャグチャでベトベトのヌルヌル。
そんな状況にされても、ショウちゃんはずっと笑顔だった。
「あははははっ! くすぐったいよみんな!」
それを俺は後方腕組み面で見つめていた。
ん……視界が滲むぜ……歳を取ると涙脆くなってよくねぇぜ……。
右目を擦って涙を拭いながら、その尊い光景を眺め続けていた。
……勿論、直後に俺も混ざったけどな!
その後は純白の凍土の温泉を存分に楽しんでから、コトブキ村へと帰還するのだった。
さあて、手持ちのみんなも十分強く逞しくなったし、目立った問題も解決した。
これで事態が終息してくれれば良いんだがなぁ。
……まだショウちゃんを元の時代に戻す手掛かりすらも見つかってないし、ぶっちゃけここからがスタートラインだ。
さっさと面倒な事態は解決してしまって、そっちの調査に取り組みたいもんだ。
この異変を終息させたらそのまま帰れる……って話なら一番都合が良いんだが……そう上手くはいかないだろうなぁ。
「ラル……」
「……ん? どうかした?」
「ラルッ」
ただまぁ、少しでもショウちゃんの苦労が少なくなれば良いなと、それだけを俺は願うよ。
まぁそんな細やかな願いすら、叶わなかった訳だが。
「ラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルラルッ!」
糞がよ。
運命は、人が辿る境遇ってのは誰が決めてんだ、神か?
もしも神なんてのがいようと、ショウちゃんをこんな目に遭わせるような神なんざ邪神だ邪神。
絶対許さねぇ。
もしも目の前に現れたら、全力でシバき倒してやる……!
「ラルァッ!」
誤字報告ありがうございます!