TS転生ラルトス♀はサーナイトになりたくない!   作:如月SQ

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果たしてラルトスくんちゃんの安否や如何に
それはそれとして、御察しの良い読者がいらっしゃいますな!


それだけで良いの、君さえいれば

「ラルァッ!?」

 

「む、むぐぅ……」

 

 このクソジジイ!

 まさかその空っぽの頭一つ下げただけで許されると思ってんじゃねぇだろうなぁ!?

 あらぬ罪で追放されたショウちゃんの受けた苦痛は、こんなもんじゃねぇぞ!

 

 恥も外聞もなく土下座を敢行したデンボクのクソボケジジイの頭を、グリグリと踏みつけてやる。

 もっと地面に頭擦り付けろ!

 いや、もう埋まれ!

 ついでにハゲちまえ、この、この!

 

「デンボク、さん……私」

 

 ほら、ショウちゃんが話してるぞ!?

 ちゃんと話聞いとけよクソジジイ!

 ショウちゃんが優しい子だった事を感謝しろよ!?

 

「元の場所に、戻りたい……その方法はまだ、見つからないけど……」

 

 忍者差し向けて『ガチ』で始末しにきやがって!

 あの人『ガチ』過ぎるだろ、本人も手持ちも!

 特にサーナイトとエルレイド!

 必ず『避けたらショウちゃんに当たる』かつ『忍者の邪魔にならない』位置で立ち回りやがって……!

 ま、ちょっと苦労したが、ボコボコにしてやったわ!

 ……俺も進化してたらもう少し楽だったのかもしれないな、なんて頭に過って、少し落ち込んでしまった。

 

 内心で少し落ち込みつつ、ショウちゃんの言葉にジジイを足蹴にしながら耳を傾けていた。

 

「見つかるまで……その手掛かりの一つとして……ついでに、ヒスイを助けてあげても良いですよ」

 

 ショウちゃん……!

 俺はその言葉に感動していた。

 自分が一番辛い筈なのに、苦労している筈なのに、デンボクのクソジジイなんて殺しても殺し足りないだろうに、強がって、思いやって、わざわざ傲慢な振りをして……!

 それでも見ず知らずの他人の為に、ヒスイを救おうとするショウちゃんの、なんと立派な姿よ!

 

「……ついで、か?」

 

 ええかジジイ、あれが『人の為に自分を犠牲にする』って事だぞ!?

 見習え!

 爪の垢を煎じて飲ませて貰え!

 いや、それすら勿体無い!

 

「はい、ついでです」

 

 デンボクのクソジジイを真っ直ぐ見つめて、堂々とした態度での宣言……。

 ショウちゃん、立派になったな……。

 

「そう、か……それで良い。かたじけない……」

 

 絶対、元の時代に戻してやるからな。

 ショウちゃんの前に立ちはだかるなら俺が打ち砕く。

 ショウちゃんを傷付けようとするなら俺が守る。

 必ず守るからな。

 ……何が、あっても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラルトス!」

 

 ……ん……?

 なんだ、ショウちゃんの声……?

 でもなんか、違和感が、ある。

 あどけない……幼い……?

 目を開けば、そこにあるのは俺と同じか、ちょっとだけ大きいくらいの、幼いショウちゃんの姿だった。

 

 そこで、ああ、と思う。

 これは夢か。

 ショウちゃんの小さい頃……背丈的に、出会って……少しした頃、かな。

 ……それにしても……。

 

 この頃のショウちゃん、可愛いな!

 今のショウちゃんも可愛いが、現状の悪さもあってあまり満面の笑みは見られなかったりするから、無邪気な笑顔を浮かべるこの頃のショウちゃんは懐かしいし、可愛らしいぜ!

 

「ほら見て、ラルトス!」

 

 ……っと、小さなショウちゃんが話し掛けてくれてるみたいだ。

 何か、分厚い本みたいなのを抱えて……此方に、見せてる……?

 

「これ、キルリアに、サーナイトと、エルレイド! ラルトスはどうなるのかな?」

 

 そこで、思い出した、この記憶の事を。

 俺達サーナイトの一族の描かれたページを開いて、ニコニコと笑うショウちゃんに悪気は一切ない。

 問題があるとすれば……俺のほうなんだ。

 

 視界が、何度か横にブレる。

 その度にショウちゃんの表情は笑みは少しずつ、色を失っていった。

 キョトンとした顔で俺を見つめ、首を傾げた。

 

「……どうしたの? こっちは可愛いし、こっちは格好良いよ?」

 

 違うんだよ、ショウちゃん。

 俺はエルレイドになれない。

 俺はキルリアにも、サーナイトにもなりたくない。

 俺は進化したくないんだ。

 

 ……これは、前世が男だった俺の、ちっぽけな矜持だ。

 あんな姿になりたくない……俺の我が儘。

 ヒラヒラとした女みたいな姿になるなんて、どうしても考えられない。

 

 ……それに、嫌なんだ。

 

『キルッ!』

 

『サナ、サーナ……!』

 

 あの、俺を見下す冷たい目。

 理解できない異物を、気持ち悪いモノを、排除したくて仕方ないと言いたげな冷たい視線。

 俺を迫害し、思うがままに傷つけ、群れから追い出した肉親達と同じ姿になりたくないんだ。

 いつか、あいつらと同じような存在に成り果てそうで、どうしても受け入れられなかった。

 

 俺を迫害する気持ちは……わからなくはない。

 中身も()()()も異質な俺を、野生の世界で受け入れるのは容易い話じゃなかっただろうから。

 特に種族特性として気持ちに敏感なサーナイト族の群れだ、忌避してしまうのも、わかる。

 ただ、それを許容し理解し納得するかどうかは別の話だ。

 転生して、一人ぼっちで……肉親や群れから迫害されて、左目を潰されて死にかけた中で、恨んでない、なんて言えない。

 キルリアやサーナイトの姿に男の矜持としてなりたくない、というのも本音ではあるけど、一番はそれだ。

 あんな奴等と同じになりたくない。

 どうしようもなく、吐き気がする。

 

「ラルトス……」

 

 イヤイヤと首を振り、進化を拒絶する俺に、ショウちゃんは口をへの字にして、俺に手を伸ばしてきた。

 ……怒られる、だろうか。

 こんな小さな子供なんだ、パートナーのポケモンには強くなっていって欲しいだろう。

 強くなるのに手っ取り早いのは当然進化だ。

 それを拒絶する俺を、どうするかなんて……。

 

 俺は、見たくない現実から目を背け、ギュッと目を瞑った。

 ショウちゃんに助けられてからは、毎日幸せだった。

 温かくて、暖かくて、空腹に喘ぐ事もなく、安心して眠れて……。

 平穏な日々も終わりか……そんな諦めの境地でいた。

 

ぎゅう

 

 そんな俺が感じたのは、俺を包み込む、温もりだった。

 

「大丈夫! だったらラルトスはラルトスのままさいきょーになろう!」

 

 ポンポンと背中を優しく叩かれながら、ショウちゃんは言葉を続けた。

 

「進化なんてしなくて良いよ、だって、ラルトスはラルトスだもん! 私と一緒に、さいきょーになろう!」

 

 中程で折れて、人の気持ちを感じ取り辛くなってる筈の角から、ショウちゃんに触れてる角から、温かな思いが伝わってくる。

 全幅の信頼、思い描いている、明るい未来。

 俺が俺のまま、最高のトレーナーとポケモンとして、最強の二人になる、そんな未来が来る事を、ショウちゃんは微塵も疑っていなかった。

 俺となら出来るって、そう心の底から信じてくれた。

 

「約束だよ!」

 

 気付けば俺の視界は滲んでいた。

 唯一残る右目から涙が止まらなくて、潰れていた筈の左目からも滴が止めどなく溢れ続けた。

 俺は、ここにいて良いんだ。

 ショウちゃんの相棒で良いんだ。

 このままで……良いんだ。

 それが、俺にとって……どれだけ救いになったか。

 

「ラル……」

 

 ヒスイの地に飛ばされて、日々を必死で生きて、こんな幼い頃の約束なんて、ショウちゃんは忘れてしまってるかもしれない。

 いや、忘れていなくても、そんな約束気にしてる場合じゃない。

 日々を生きるので精一杯で、さいきょーになるなんて具体性に欠けた目標なんて、気にしてなんていられない。

 

 でも俺は覚えてる、ずっと。

 ラルトスという、一度も進化しない弱小ポケモンで強くなるには、死ぬ気で日々を生きて鍛え続けなければいけない。

 何度も死ぬような思いをして、血反吐を吐いて、それでも鍛え続けて、何度かショウちゃんを泣かせて……それでも。

 

「ラルッ!」

 

 それでも俺はさいきょーにならなければいけない。

 なってないといけない。

 そうじゃないと、君を、守れないから――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズキンッ

 

「ラッ……ル…………」

 

 痛っ……今の、は夢か……。

 身体中が痛い……痛くない場所を探したほうが早いくらいに、全身に激痛が走ってる。

 辺りを見回せば、そこは断崖絶壁。

 崖の中の僅かな岩場に、俺の体は横たわっているようだった。

 痛みで震えながらも上空を見上げれば、テンガン山の頂は雲海に包まれているようだった。

 

「ラル…………」

 

 そう、か、俺は……ディアルガのラスターカノンから、ショウちゃんを庇って……。

 流石は、伝説のポケモンって事か……油断もあったが、とんでもない一撃だった……ヌメルゴンのとは桁違いの威力だった。

 ……クソ、それにしても伝説のポケモンの癖にいきなりトレーナー狙うとかせけぇトカゲだ。

 

 しっかし、吹っ飛ばされて、崖から転げ落ちたなら、今生きてるのが奇跡みたいなもんだな。

 体は……まともに動かない……痛すぎて今にも意識が飛びそうだ……。

 

 ……良いんじゃないか、もう。

 どうせ、あんな所から落ちて助かるなんざ、誰も思ってないだろう。

 助けなんざこない……そうなれば遅かれ早かれ、俺の命は尽きるだろう。

 

 ショウちゃんは守った、俺が直々に鍛えたあいつらもいる。

 あの瞬間、油断はあったにしても、ショウちゃんとあいつらなら、きっと勝てるだろう……。

 それで、良い……あのクソトカゲにはきっと、相応の報いが下るさ……。

 

 視界が狭まる、痛みからか頭がボヤける。

 ショウちゃんの行く末を見守れないのは心残りだが……もう、良いだろ……。

 

 瞼が重くて仕方無い。

 ごめんなショウちゃん、一抜けだ。

 こんな、中身がオッサンで異物な俺を相棒にしてくれて、ありがとうな。

 君の未来が、明るいものになる事を……願ってる。

 

 視界が、少しずつ黒く染まっていく。

 意識も、闇に飲まれていく。

 激痛が消えていくような感覚がして、たまらなくなって、俺はそれに身を任せて……それで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ラルトスッ!』

 

 胸の()が入ったペンダントを、引きちぎった。




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