TS転生ラルトス♀はサーナイトになりたくない!   作:如月SQ

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11月3日、日間2位!
本当にありがとうございます!

前話ラストの胸のペンダントを握り砕くシーン、「引きちぎる」に変更しました。
ご注意下さい。


ご都合覚醒はオリ主の宿命

 ラルトスが……。

 ラルトスがいない。

 私のそばに、ラルトスがいない。

 

 彼女を初めて捕まえた、私の初めてのモンスターボール。

 ヒスイで自前で作ったボールとは違う、機械的なボール。

 少しだけ古ぼけたそれは、何度確かめても中には誰もいない。

 

 ラルトス……ずっと、今まで私を守ってくれたラルトス。

 その小さな体で飛び出して、全て薙ぎ倒して守ってくれた。

 今も、油断した私を庇って……ラルトスはいなくなった。

 

 崖から落ちていく姿が、目に焼き付いて離れない。

 今まで見たことない程の、ボロボロの姿で落ちていく姿が忘れられない。

 ……いや、そんな事ないか。

 もっと私が小さい頃、あれくらいボロボロの姿になって帰ってきた事が何度もあった。

 その度に、満身創痍の痛ましい姿に、いつも泣いちゃってたっけ。

 それで、ラルトスはおろおろしちゃって、おでこをくっつけながら慰められて……。

 ……もう、慰めてくれる子は、いない。

 

「グギュ……」

 

 この、目の前のクソトカゲのせいで。

 

 何が伝説のポケモンだ。

 何がシンオウ様だ。

 何が時を司るポケモンだ……!

 

「ディアルガ……ラルトスの仇……覚悟して!」

 

 手の中のボールが、痛い程に暴れている。

 腰につけた四つのボールも、早く出せ、出せと懇願しているように感じる。

 ……そうだよね、みんなラルトスが大好きだったもんね。

 厳しくても、強くて、優しくて、面倒見が良くて……そんなラルトスを奪ったアイツが、許せない。

 それはきっと、私達全員が強く思っている共通の想いだった。

 

 絶対に負けない……相手がたとえ、伝説ポケモンのディアルガだろうと、私達は絶対に負けられない……!

 

「グギュグバァッ!」

 

 吠えるディアルガを睨み付けて、ボールを大きく振りかぶった。

 

「お願いっ、行って! ガチグマ!」

 

「グマァアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 ボールから飛び出した瞬間、ガチグマは今まで聞いた事のない程の大声で吠えた。

 ビリビリと空気が震える程の咆哮を轟かせた後、いつもの穏和さは鳴りを潜め、鋭くディアルガを睨み付ける。

 

 ……そうだよね、許せないよね。

 皆、ラルトスの事大好きだったもんね。

 ラルトスを奪ったアイツを、けちょんけちょんにしてやろう!

 

力業!

 

「ぶちかまし!」

 

「グマァッ!!!」

 

 力強く、地面を踏み締め駆け出すガチグマを、ディアルガはどっしりと構えて迎えうった。

 私とガチグマの、いや皆の、ラルトスを奪われた痛み……思い知らせてやる!

 

ズドォオオンッ!

 

 二つの巨体が真正面から衝突し、凄まじい轟音と衝撃が響き渡った。

 私はそれを見つめながら、胸元のペンダントを握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ラル』

 

 ニコリと、右目だけを細めて笑みを浮かべて此方を見上げるラルトス。

 そう言えばいつの間にか、視線の高さが随分と変わっていた。

 抱き上げて愛でる事が出来るのも悪くないから気にならないけど、ラルトスはどう思ってただろうか?

 

『ルォッ』

 

 ラルトスの胸元に光るのは、ラルトスが『進化したくない』と意思表示した後に私が用意したペンダント……『かわらずのいし』を加工したもの。

 私が初めてラルトスと出会った場所で拾った綺麗な虹色の石……それを使ったペンダントとお揃いになるように加工したペンダント。

 私とラルトスの、絆と覚悟の、約束の証。

 これで、私達さいきょーになろうねと、お互いに見つめあって、約束しあった大事な思い出。

 

『ラァッ』

 

 ……進化しないであれだけ強くなったラルトスが進化したら、なんて考えなかった訳じゃない。

 ヒスイの地で冒険して、大暴れし続けたラルトスの姿を間近で見続けたら、そんな邪な考えが頭を過ってしまった。

 ラルトスに対して失礼だからその思いを表に出す事はなかった……というか、オヤブンサーナイトを執拗にボコボコにするラルトスを見れば、そんな考えはいつの間にか頭から飛んでいってしまったけど。

 ふふ……やっぱりラルトスは凄い、

 

 私はラルトスを信じて、二人でさいきょーになる。

 ずっと変わらない、私達はさいきょーのコンビ。

 最高の相棒同士で……ずっと、ずっと一緒に……。

 

『ルァ』

 

 一緒に、いてほしかった。

 

 なんで今、私の隣に君はいないの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガ……ゥ………………」

 

「レントラーッ……!」

 

 私の最後の手持ち、レントラーが、地に伏せてしまった。

 皆でディアルガに立ち向かったけれど……足りなかった。

 ディアルガも無傷な訳じゃない、私の見立てで言えばあともう一押し……もう少しだった。

 

「グゥウ……」

 

 苦しそうに唸るディアルガを睨み付けるけれど、現実は変わらない。

 私の手持ちの皆は全員ひんし状態で、治療も出来ない……。

 勝てなかった……皆、必死に頑張ってくれた。

 伝説のポケモンの名に恥じない強すぎる相手に、精一杯抗ってくれた……。

 時々想定外の動きをされて、有り得ない挙動をされて……それに翻弄された形になったのもあるけど、それも所詮言い訳だ。

 私がそれに対応出来なかった……トレーナーとして、皆をサポート仕切れなかった。

 

「う、うぅうううう……!」

 

 視界が滲む。

 悔しくて、悔しくて悔しくて悔しくて。

 ラルトスを奪った憎い相手に、及ばなかった現実が悔しくて仕方無かった。

 

 もっとあそこで、あの時に、ああやって。

 終わってしまった今、いくつもの後悔が押し寄せるけど、もう手遅れ……。

 

「グギュグゥ……」

 

ドシン

 

 ディアルガが一歩、私へと近付いてくる。

 もう、私にはディアルガに立ち向かう力はない。

 これで……終わり?

 今までずっと頑張ってきて、ここまできて、ラルトスを失って……私自身も、これで終わり?

 

「…………それでも、いいのかな」

 

 悔しさに握り締めていた拳が、ほどけた。

 だらりと両腕が力なく垂れて、俯いた瞳から滴が溢れる。

 涙が、ポタポタと地面に染みを作っていく。

 

 ラルトスがいない世界で、私が頑張る理由なんて――。

 

「が…………がぅぅ………………」

 

――不意に、黒が視界の端で動いた。

 滲んだ視界の先で、既に力尽きた筈のレントラーが、身体中を震わせて立ち上がろうとしていた。

 掠れて震えた、力のない声で、目の前に立つディアルガを睨み付けて……。

 

バリッ

 

バリバリッ

 

 電撃を纏って、立ちはだかってくれた。

 

「ッ……! レントラー、ダメ! 限界だよ! 戻って!」

 

 でもわかる、レントラーは限界だ。

 完全にひんしの状態……これ以上の無理は間違いなく命に関わる。

 レントラーのボールを取り出して戻るように言うけれど……レントラーはボール自体を電撃で貫いてしまった。

 

「あっ……」

 

 そして、立ち上がったレントラーの視線が、私と交わった。

 

「がぅ」

 

 ニッ、とニヒルな笑みを浮かべたレントラーは……その視線は……私に逃げろと言っているようだった。

 そしてレントラーはすぐに、此方に迫ってくるディアルガへと向き直った。

 ボロボロの姿で、もう、限界の状態なのに……私の為に。

 

「だ、だめ、レントラー……!」

 

「グルルルル……グォオオオオオンッ!!!」

 

 咆哮したレントラーから、凄まじい電撃が迸る。

 そんな力、残ってる筈がないのに……!

 思わず手を伸ばすも、それを阻むように、遮るように電撃が走って近付く事も出来ない。

 

「そんな……!」

 

 止められない、覚悟を決めたレントラーの行動を、止められない。

 苦しい、皆が私を想ってくれているのが痛い程伝わってくるからこそ、今にも胸をかきむしりたいくらいに、苦しい……!

 

チャリ……

 

 自然と胸にあてた手が、ペンダントに触れて音をたてた。

 ラルトスとの、思い出のペンダント……。

 私は、思わずそれを握り締めた。

 

 どうしたら良いの?

 私のせいでまた失うの?

 また、目の前で失うの……?

 

「…………嫌」

 

 涙が頬を伝う。

 どうしようもない現実に打ちのめされて、それでも諦められなくて。

 苦しくて、悔しくて、悲しくて、辛くて……涙が止まらなかった。

 

「嫌だよぅ……」

 

「ガァアアアアアアアアアア!!!」

 

 レントラーの咆哮に呼応するように、ディアルガも口を開く。

 その口元に、凄まじいエネルギーが集まっていく……あんなの受けたら、レントラーは、もう……ひとたまりもない。

 

バリバリバリバリ!

 

 それでもレントラーはその場から逃げる事無く、強大な電撃を放った。

 渾身の力、最後の力を振り絞った、最大級の電撃……。

 雑多なポケモンならひとたまりもないようなそれを……。

 

「グギュァアアアアアアアア!!!」

 

ズドォオオオ!

 

バシュンッ!

 

 ディアルガの放った咆哮が、容易く消し去ってしまった。

 既にレントラーは力尽きた様子で身体をぐらつかせて……その咆哮を避ける術は、なかった。

 

「助けて……」

 

 私はただ、惨めに泣いて……祈る事しか出来なかった。

 

「助けて…………ラルトス……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラルラル……」

 

バシュゥウウウウウウ……

 

「………………え」

 

 ……もう、聞く筈のない声が聞こえた。

 聞こえる筈のない、失った筈の、声が。

 滲んだ視界で、良く見えなくて、急いで袖で拭った。

 

 そしてそこに……倒れそうになったレントラーを受け止めたラルトスの姿が、そこにあった。

 崖に落ちた時よりもズタボロで、なんで立っているのか不思議なくらいの重傷で、レントラーの頭だけを支える姿はおかしくも見えるのに……。

 私の心を満たすのは、確かな安心感だった。

 

「ラ、ラルトスゥ……!」

 

 視界がまた、涙で滲む。

 拭っても拭っても、後から後から出て来て止まらなかった。

 そんな情けない私を振り返って、ラルトスは笑った。

 安心して、と、もう大丈夫よと、そう言ってくれているような気がした。

 

 ラルトスはゆっくりとレントラーを地に下ろすと、何かを此方へと放り投げてきた。

 

コッ……コンコン……

 

コロロロ……

 

 その何かは私のほうへと転がってくる。

 歪んだ視界の中で、思わず視線を向けて……それが何なのか理解して、私は目を見開いた。

 

「これ……ラルトスのペンダント――」

 

「ラァアアアア…………!」

 

 その瞬間、ラルトスから目映い光が放たれた。

 いや、全身が光っている……これは……。

 

「……進化の、光……!」

 

 ラルトスが、進化しようとしている。

 あの時、あれだけ嫌がっていたのに、あれだけ苦悩していたのに……。

 自惚れじゃなければ……きっと、私の為に。

 自分を、曲げて。

 

「ッ……!」

 

 口を引き結んで、涙を拭って、私はそれを真っ直ぐ見つめた。

 私の為に、今までの自分を否定して進化しようとしているラルトスの一挙手一投足を、見逃してはならないと思った。

 その全てを見届けなければいけない。

 それが今私に出来る、ラルトスへの精一杯の誠意だから。

 

 ラルトスの光るシルエットが、一気に大きくなっていく。

 その成長は、2倍程の大きさ……丁度キルリアと同じくらいの大きさで一度止まったけれど……そのまま更に大きくなっていく。

 それはあっという間に、私よりも大きな姿へと変貌していた。

 

 少しずつ、光がおさまっていく。

 ()()腕、すらりとした脚の周りには、白いスカートのようなものが広がった。

 胸元の()()()()の突起はラルトスの時と同じように中程で折れたまま。

 それは今まで何度か見た同族の姿と同じ……けれど、頭部だけは顔を覆う髪のような部分が左側に寄っていて、左目を覆い隠すような形になっていた。

 そして……瞑っていた右目が、ゆっくりと開かれていく。

 

「…………サナ……」

 

 ラルトスは……小さく呟いて自分の体を確かめるように自分を見下ろした後、此方を振り向いた。

 いつもは見下ろしていたのに、今は僅かに見下ろされていて、不思議な気分だった。

 

「おかえり、ラルトス……いや、サーナイト!」

 

 思わず名前を……万感の思いを込めてその名前を呼んだ。

 ぐしゃぐしゃのひどい顔で、精一杯の笑顔を浮かべて。

 そして――

 

「サナ!」

 

ガシャンッ!

 

――返答とともに帰って来た華が咲くようなサーナイトの笑顔に、私の何がが砕けた気がした。

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