自暴自棄のギルドマスターは今日も辞められない ~欠陥魔道具に愛されし無能が、なぜか偉大な英傑と勘違いされる件~   作:gp真白

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第九話:招集命令と、動かぬ英雄の受難

 

1. 究極の怠慢と、新たな閃き

ギルドマスター室の豪華な椅子に座り込み、「何もしない」を続けていたカイトは、すっかり生気が抜けていた。この一ヶ月、ギルドは彼の無為のおかげで過去最高の成果を叩き出し、カイトは**「動かぬ聖人」**として崇められていた。

 

「はぁ……もう辞めることを考えるのも疲れた……」

 

その時、一通の豪華な封書が、ギルド総本部から届けられた。

 

「……王都ギルド開館での総司令本部幹部会議への招集? 馬鹿馬鹿しい。面倒くさい。行きたくない」

 

カイトは封書を放り投げた。この会議は、各大陸のギルドマスターや、王国の重鎮が集まる、最も権威ある、そして最も時間のかかる場だ。

 

「よし、これだ」

 

カイトは、再び希望を見出した。

「何もしない」作戦は失敗したが、「行かない」という明確な職務放棄ならどうだ?

「この重要な会議を無断欠席すれば、ギルドマスターとしての面子と信頼は完全に失墜する。これは組織の首絞めに直結する大失態だ!これでこそ辞められる!」

カイトは心の中でガッツポーズをした。動かずに拒否することで、彼はついに辞職の糸口を見つけたのだ。

 

2. 招集状と最悪の勘違い

カイトが「今日は椅子から動かないぞ」と心に誓った矢先、ギルドマスター室の扉が勢いよく開いた。

バルドとエリシアが、興奮と畏敬の入り混じった表情で立っている。

 

「マスター!やはりご決断でしたか!」エリシアが感嘆の声を上げた。

「ご決断?何のだ」

「総司令本部への招集です!マスターは、招集状を受け取ってから一瞬たりとも動かずに瞑想を続けておられた!これは、『動かぬことで、この会議が不要な会議であると判断』し、『その判断を、我々に無言で試して**おられた』**のですね!」バルドが熱く語る。

 

カイトは顔を引きつらせた。ただ単に面倒で行きたくないだけだ。

 

「い、いや、俺はただ行きたくない……」

「なんと高潔な! 『不要な会議に時間を割くくらいなら、ギルドの平和のために瞑想を続ける』という、マスターの『効率化の極意』!我々はその****英断を支持し、招集を拒否**する準備を進めておりました!」

 

「え?拒否?いや、それはまずい!」

 

カイトは焦った。招集拒否などすれば、単なる無断欠席よりさらに大問題になる。これでこそ辞められるが、その前に**「何をされるかわからない」**という恐怖が勝った。幹部会は怖すぎる。

 

3. 総司令本部の馬車

カイトが「行かなければならない」と態度を改めようとした瞬間、ギルドの外から重々しい馬車の音が響いてきた。

バルドが窓の外を見て、顔色を変えた。

 

「な、なんと……!マスター!総司令本部が、招集を拒否するであろうマスターのために、特別に……!」

 

ギルドの門前には、王家の紋章をあしらった豪華絢爛な馬車が停まっていた。そして、その周囲には、各国ギルドの総司令本部の幹部が、全員揃ってカイトを待ち受けている。

 

カイトの目にも、普段は会う機会すら皆無な、伝説のS級ギルドマスターや王国の枢機卿たちの顔が見えた。彼らは皆、カイトのギルドマスター室を見上げ、厳粛な面持ちで立っている。

 

バルドは震える声でカイトに報告した。

 

「マスター……彼らは、あなたの**『無言の拒否(究極の効率化)』を察し、『我々幹部が自ら出向いて、マスターの貴重な時間を一秒たりとも無駄にしない』という、最大限の敬意**を表しに来たのです!」

 

「お前たちが**『何もしない(拒否)』という私の意図**を理解してくれたことに感謝する」という、無言のメッセージだと勘違いしているのだ。

 

4. 逃げられない運命

カイトは青ざめた。

(カイトの心の声:待て。これは完全に『行かない』という選択肢を物理的に封じられたということじゃないか。あの連中を待たせて、このまま動かないでいたら、「ギルドマスターとしての最終的な責任」を問われるどころか、「王国に対する宣戦布告」と勘違いされかねない!)

 

特に、王国の重鎮たちの眼差しは、**「我々の時間を無駄にするな」**という無言の圧力を発しているように感じられた。

カイトは、もはや無為も放棄もできなくなったことを悟った。最悪の状況だ。

 

「……バルド。すまないが、『訓練の一環として、この招集は受ける**ことにした』**と伝えてくれ」

 

カイトは諦めと恐怖に震えながら、立ち上がった。

エリシアは感涙した。

 

「ああ、やはり! マスターは、『敵の最大限の敬意と油断』を利用し、『敵の本拠地で新たな戦略を仕掛ける**』という、深謀遠慮の『動く作戦』**に移行されたのですね!」

 

カイトは、ギルドを辞めるどころか、王国の中心で行われる**「幹部会」という、最も恐ろしい舞台に、「動かぬ聖人」**として強制的に立たされることになった。

 

「はぁ……もう、どうにでもなれ……」

 

カイトは、職員たちの歓声に見送られ、総司令本部の馬車に乗り込んだ。その馬車が向かう先は、彼の**「辞めたい」という願いとは、あまりにもかけ離れた、「世界を動かす中心地」**だった。

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