自暴自棄のギルドマスターは今日も辞められない ~欠陥魔道具に愛されし無能が、なぜか偉大な英傑と勘違いされる件~ 作:gp真白
ギルドマスター就任から二週間。カイトの自暴自棄な試みは、ことごとくギルドの評価を上げてしまった。欠陥魔道具の導入は、もはや「革新的な経営戦略」として、他ギルドの視察団が訪れるほどだ。
「もうダメだ。このままでは、俺は英雄として定年を迎えてしまう。いやだ!平和な受付に戻りたいんだ!」
カイトは最後の、そして最も愚かで分かりやすい計画を決行することにした。それは、ギルドの主要な財源である「魔石」を、市場価格の十分の一で投げ売りすることだ。
カイト: 「これでギルドの財政は破綻する。さすがに、財源を食い潰した責任は重い。問答無用で解任だ!」
カイトは、保管されていた高ランク魔石の在庫リストを引っ張り出し、そこに記載されている市場価格(**【\bm{P}】**とする)を見て、溜息をついた。
「よし、この最高級の魔石を、今日の物価指数**【\bm{I_t}】が1.0**だとして、0.1で売却を指示する!これで誰が見ても『馬鹿なギルドマスター』だ!」
彼は意気揚々と、「魔石の全在庫、価格を市場価格の十分の一(\bm{P \times 0.1})で即時売却せよ」という簡単な指令書を作成し、財務担当のベテラン職員、ルーサーに渡した。
「ああ、ルーサー。この売却、誰にも相談するな。私が全責任を負う」
カイトの言葉は、「誰もが反対するような大失態を犯す」という自暴自棄の表明だった。
ルーサーの「深読み」と、異世界の物価指数
ルーサーは、指令書を受け取った瞬間、全身に電流が走るのを感じた。
「な、なんと…! マスターの深謀遠慮は、我々の想像を遥かに超えていた!」
異世界の経済では、魔石の価格は非常に不安定で、日々の物価指数**【\bm{I}】によって変動する。このギルドの依頼書や在庫リストに記載されている市場価格【\bm{P}】は、「基準価格(\bm{P_{base}})」**であり、実際の取引価格は「\bm{P_{base} \times I_t}」となる。
そして、その日の王都の経済状況は、長引く戦乱の終結と、周辺国からの魔石供給の急増により、**「物価指数\bm{I}が史上稀に見る高騰を示す直前」にあった。具体的には、\bm{I_t}はまだ低いが、翌日には\bm{I_{t+1}$が$2.0}**に跳ね上がることが、裏の経済情報で囁かれていたのだ。
ルーサーは、カイトの指令書の**「市場価格の十分の一(\bm{P \times 0.1})」**という表記を見て、戦慄した。
ルーサー: 「マスターは、この指示の直後に物価指数が\bm{2.0}に跳ね上がると**『予見』**されているのだ!」
ルーサーが解釈したカイトの真意は、こうだった。
1. **市場価格(\bm{P_{base}})**の\bm{0.1}で売却せよ。
2. これはつまり、**「物価指数\bm{I}が\bm{2.0}になった際の価格\bm{P \times 2.0}」の、さらに「半額(\bm{0.5})」に近い、「現時点の最高値」**で魔石を一気に売り抜けろ、という指示だ!
(計算:翌日の価格が\bm{P_{base} \times 2.0}。その半額が\bm{P_{base} \times 1.0}。カイトの指示した\bm{P_{base} \times 0.1}は、現在の低指数での最高値であり、翌日高騰する前に一気に売却することで、**「暴落リスクを回避し、最高値の利益を確定しろ」**という意味だと深読みしたのだ。)
「このタイミングでの大量売却は、翌日の暴騰を知る者しかできない**『情報戦の勝利』**だ! マスターは王都の裏経済を完全に掌握しておられる!」
暴騰前の「英断」と、ギルドの財宝
ルーサーはカイトの真意を悟った(と勘違いした)と確信し、即座に王都の富豪と闇の商人を集めた。
「カイトマスターの英断により、本日限りで魔石の全在庫を放出する!価格は**『市場価格(\bm{P_{base}})の十分の一』**だ!」
富豪たちは色めき立った。「馬鹿なギルドマスターがいる」と噂になったが、裏経済通の彼らは、翌日の物価指数暴騰を知っている。
「今の価格の十分の一!? 翌日には、この価格の二十倍の価値になるものを!?」
富豪たちは、カイトの指示を**「今日中に売却し、翌日の暴騰で利益を得させるための、ギルドからの秘密の恩恵」**だと勘違いした。彼らはギルドとの繋がりを強化するため、指示通りの価格で、魔石の全在庫を競い合うように買い占めた。
翌日。予想通り、魔石の物価指数**\bm{I_{t+1}$は$2.0}に暴騰**した。
世間は、「ブレイブ・ハート・ギルドは、暴落寸前の魔石を最高値で売り抜け、見事に危機を回避した!」と大絶賛。
ギルドの金庫には、カイトが意図した**「\bm{P_{base} \times 0.1}」という価格ではあったものの、「市場の全在庫を最高のタイミングで現金化した」という事実が、「賢明な投資」**として記録された。
カイトは、ギルドマスター室で財務報告書を受け取った。
バルド: 「マスター!見事です!我々の財産は、あの**『英断の魔石売却』**により、前年度比で$200%$の増加を達成しました!これで、我々は王都最大の富を持つギルドとなりました!」
カイト: (ガタッ)「え?なんで?十分の一で売ったはずだろ!?」
バルド: 「我々が、物価指数暴騰の直前で売り抜けたことの意味を、マスターがご存知ないはずがありません!これで、我々は当面、財政的な不安から解放されます!ありがとうございます、マスター!」
カイトは、自身の「ギルド崩壊作戦」が、またしても「ギルド繁栄の英断」として報われた現実に、頭を抱えて崩れ落ちた。
「くそっ!俺はただ、大損害を出して辞めたかっただけなのに!この世界、俺の**『愚かさ』**を一切許してくれないのか!」
彼の「辞めたい」という願いは、巨万の富と、揺るぎない「天才経済学者」としての評価によって、さらに遠いものとなったのだった。