自暴自棄のギルドマスターは今日も辞められない ~欠陥魔道具に愛されし無能が、なぜか偉大な英傑と勘違いされる件~   作:gp真白

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第十一話:退職勧告が「夢への旅立ち」と化す、悲劇のリストラ計画

 

ギルドマスター就任から一か月。カイトは完全に**「辞められない呪い」**にかかっていた。何もしなくてもギルドは成長し、欠陥品は奇跡を起こす。

 

「もういい。組織の根幹を揺るがすしかない」

 

カイトは、ギルド職員の「大量解雇」を決意した。これにより、ギルドの業務は滞り、王都からの信用を失い、当然、最高責任者である自分の首が飛ぶだろう。

 

「よし、リストラだ。無作為に職員をピックアップし、問答無用でクビにしてやる」

 

カイトは人事記録を調べ、**「勤務年数が長く、給料が高いベテラン」と「夢を語らず、惰性で働いているように見える若手」**をターゲットにした。彼らを解雇すれば、ダメージは最大になるはずだ。

彼は該当職員をマスター室に呼び出し、退職勧告の書類を突きつけた。

 

「いいか、これは決定事項だ。君たちはギルドを去ってもらう」

 

ベテラン職員への退職勧告:「悠々自適なセカンドキャリア」

最初に呼び出されたのは、勤続30年のベテラン職員、グスタフだった。彼は長年、単調な経理業務に携わっており、カイトには「惰性でしがみついている古株」に見えた。

 

カイト: 「グスタフ。君は今日でギルドを去る。長年の功績は認めるが、今回の判断は…『業務効率化のためだ』」

(→**本心:**自分の首を切るための大義名分)

グスタフは、一瞬驚いた顔をしたが、次の瞬間、感謝と感動の表情に変わった。

 

グスタフ: 「ああ、マスター! ついに、この日が来ましたか!」

カイト: 「え?」

グスタフ: 「マスターは、私の**『長年温めてきた、田舎でのパン屋開業の夢』をご存知だったのですね! 業務効率化の名目で、私に責任を負わせずに、『悠々自適なセカンドキャリア』**を歩ませてくださるとは!」

 

実はグスタフは、給料が良いため辞められずにいたが、定年前にパン屋を始めるのが夢だった。カイトの「業務効率化」という言葉は、「君の能力はすでにギルドの枠を超えている」という**「独立支援の辞令」**だと解釈されたのだ。

グスタフ: 「感謝に堪えません!**『人生の次のステージ』**へ送り出してくださったマスターの英断、決して忘れません!」

 

グスタフは笑顔でギルドを去り、すぐに「元ブレイブ・ハート・ギルド職員が作る、マスター直伝の効率化パン屋」として大成功を収めた。

 

若手職員への退職勧告:「才能を試す武者修行」

次に呼び出されたのは、受付の若手職員、リナ。彼女は受付業務に不満を抱きながらも、別のギルドへ移る勇気がないように見えた。

カイト: 「リナ。君も今日で終わりだ。理由は**『君の能力が、このギルドの業務には合わない』**と判断したからだ」

(→**本心:**侮辱して辞めさせるつもり)

 

リナは、その言葉を聞いて涙目になった。しかし、それは悲しみの涙ではなかった。

リナ: 「っ…マスター! やはり見抜かれていたのですね!」

カイト: 「何を?」

リナ: 「私は、**『王都ギルドの巨大な枠組み』ではなく、『辺境の小さな町で、自分だけのギルドを作りたい』**という秘めた夢を持っていました。ですが、安定を求めてここに留まっていた!」

カイトの「能力が合わない」という言葉は、リナには「君の才能は、うちのギルドの単純作業で潰れてしまう。自分の夢を追うべきだ」という、**「才能開花の勧め」**だと解釈された。

リナ: 「『このギルドでは収まらない』という、マスターの**『愛のムチ』**! ありがとうございます! 私は今すぐ辺境に向かい、自分だけのギルドを立ち上げます!」

リナは、カイトの勧告を「夢への旅立ちの辞令」として受け取り、目を輝かせながら飛び出していった。

 

結末:返された辞表と、増加した信頼

カイトが「大量解雇」を試みた結果、退職者たちは誰もがカイトに感謝し、笑顔でギルドを去った。そして、彼らがギルドを去った穴は、残された職員たちの「マスターの期待に応えよう」という自発的な残業と、欠陥魔道具のフル稼働によって、即座に埋められてしまった。

結果:

• ギルドの人件費は減少し、財務状況はさらに改善。

• 退職した職員たちは各地で成功し、**ギルドの「卒業生ネットワーク」**としてギルドの評判と影響力を拡大させた。

• 残った職員たちは「マスターは、残すべき人間と、羽ばたかせる人間を正確に見分けている」と、カイトへの信頼を絶対的なものにした。

カイトは、自分の首が飛ぶどころか、**「人材育成の天才」「組織再編のカリスマ」**という新たな肩書まで手に入れてしまった。

その日の終業後、カイトは静かに辞表を書き上げ、机に置いた。

翌朝、出勤すると、その辞表が机の上に戻っていた。添えられていたのは、バルド副マスターからの手書きのメモ。

 

【バルドからのメモ】

マスターへ。

この「辞表」は、あなたが*『私たちに全てを委ね、心置きなく旅に出ようとしている』という、究極の信頼の表明と受け取りました。

ですが、ご安心ください。マスターが『世界を救う旅路』に出ても大丈夫なように、このギルドは我々が守ります。

しかし、マスター! 『世界を救う旅』の途中で、このギルドを「心のよりどころ」としていつでも戻ってこられるよう、『ギルドマスターの席は永遠に空けておきます』。

 

どうか、この「辞表」という名の『ギルドからの感謝状』*をお持ちになり、ご安心ください。

我々の王は、永遠にあなたです。

 

カイトは、自分の「辞職」が「世界を救うための旅立ち」とまで勘違いされた現実に、深く、深く絶望した。

 

「ああ……もう、どうしようもない……」

今日も、カイトの平和への戦いは、彼自身の栄光によって阻まれるのだった。

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