自暴自棄のギルドマスターは今日も辞められない ~欠陥魔道具に愛されし無能が、なぜか偉大な英傑と勘違いされる件~ 作:gp真白
ギルドマスター就任から一週間。カイト(35)は、豪華だが居心地の悪いギルドマスター室で、天を仰いでいた。
「もうやだ。書類が多い。会議が多い。依頼が面倒くさい。なんで誰も俺を辞めさせてくれないんだ……」
彼の眼前には、職員たちがカイトの**「英断」と称賛した業務報告書が山積みになっている。すべて、カイトが「面倒くさい」**という理由で適当に指示した結果、なぜかギルドの収益を上げたものばかりだ。
「このままじゃ、定年までギルドマスターだ。無理だ。俺は命を削って働くために転生したんじゃない。平和に暮らすために転生したんだ!」
カイトは立ち上がり、決意を固めた。平和への道はただ一つ、**「ギルドマスターを辞める」**こと。
「そのためには、俺の無能さを周りに知らしめ、ギルドに大損害を与えるしかない。しかも、俺自身に大きな被害が及ばない、画期的な方法で……」
2. 欠陥魔道具の導入計画
カイトが目をつけたのは、自作の魔道具だ。前世の知識と異世界の部品を組み合わせた、一見便利なガジェット。しかし、どれもこれも欠陥品ばかりだった。魔力供給が不安定で、すぐに暴走するのだ。
「これだ。俺の無能な技術をギルド運営に導入し、混乱させる。誰も俺をギルドマスターとは認めなくなるはずだ!」
カイトは倉庫から、ダンボール箱に入れた魔道具を取り出した。その一つが、『自動仕分け機・マジックソーター(プロトタイプ1.0)』。依頼書の難易度を自動で分類する、はずの装置である。
「よし、これを受付に導入しよう。魔力回路が不安定すぎて、高難易度依頼をDランク依頼に分類したり、その逆をやらかしたりする**『爆弾』**だ。これで冒険者が怒り狂い、ギルドの信用はガタ落ちだ!」
カイトは自ら装置を運び出し、ギルドの受付に設置した。
3. 欠陥品、まさかの機能拡張
受付職員のエリシアが、目を輝かせて駆け寄ってきた。
「マスター!これが噂の『未来型ソーター』ですか!さすがはマスター、受付業務の更なる簡略化を!」
「あ、ああ……これはその、『極秘のテスト』だ。絶対に強力な魔力を持つ者の近くで動かすな。そして、雨の日は特に危ないぞ」
カイトは正直に欠陥を告げた。これでエリシアが使用を拒否すれば、彼の無能さが証明される。
しかし、エリシアはカイトの言葉を**「深読み」**した。
「なるほど! 『強力な魔力を持つ者=高位冒険者』の近くで動かすと、ソーターに負荷がかかり、『彼らにふさわしい隠された高難度依頼**』が選別されてしまうのですね! また、『雨の日は魔力の流れが不安定になるから、通常とは違う視点で依頼を見つけ出せる**』**と!」
「え? いや、違う、ただの故障で……」
カイトが否定する間もなく、エリシアは装置を稼働させた。
4. ギルドを救う、偶然の「バグ」
その日は快晴だったが、受付には丁度、高難易度の魔物討伐から帰還したSランク冒険者パーティー**『雷鳴の剣』**が書類を提出しに来ていた。彼らは強力な魔力を持っている。
ブゥン……ガタガタガタ!
マジックソーターは、Sランクの強力な魔力に反応し、不安定な回路が暴走。難易度Aの依頼書を読み込んだ瞬間、ソーターは激しいノイズと共に依頼をランダムに分類し始めた。
• Aランク依頼(報酬:高額) → Dランクの新人冒険者へ
• Cランク依頼(報酬:低額) → 『雷鳴の剣』へ
「ほら見ろ、失敗だ。もう辞めさせてくれ……」カイトは頭を抱えた。
だが、この**「分類のバグ」**が、奇跡を生んだ。
『雷鳴の剣』のリーダーが、Cランクの依頼書を読み、顔色を変えた。
「なっ……Cランクの『薬草採取』? しかし、この採取地は……! 十年前に『雷鳴の剣』が全滅しかけた、古竜の巣の入り口じゃないか!」
「なんだと!?」バルドが声を上げる。
実は、この『Cランク薬草採取依頼』は、人手不足で長年放置されていた、**「報酬は低いが、極めて危険な場所」**の依頼だった。
「これはマスターの……神の采配だ!」バルドが叫んだ。
「あの古竜がまた活動を始めたと疑ったマスターが、私たちに**『Cランクという名目で、人目を欺き』、『極秘で現地の偵察』**を命じたのだ!」
『雷鳴の剣』のメンバーは、すぐに真意を悟ったとばかりに頭を下げた。
「マスター! ありがとうございます! 極秘偵察、我々にお任せください!」
そして、Dランクの依頼書を受け取った新人冒険者は、**「自分たちがAランク並みに評価された」**と勘違いし、限界以上の力を発揮して依頼を成功させてしまった。
結果:
• マジックソーター:**「極秘任務と育成を両立させる、深謀遠慮の魔道具」**として大絶賛。
• カイト:**「現場の危険を察知し、極秘裏に動く英知の指導者」**として、さらに評価が跳ね上がる。
カイトは、暴走を終えたソーターの横で、絶望に打ちひしがれた。
「くそっ、欠陥品のくせに、なんで人前だと上手く回りやがるんだ……」
カイトの「辞めるための戦い」は、始まって早々、彼の意図とは真逆の方向へ加速していくのだった。