自暴自棄のギルドマスターは今日も辞められない ~欠陥魔道具に愛されし無能が、なぜか偉大な英傑と勘違いされる件~ 作:gp真白
1. 権威の否定作戦
王都で「王国の至宝」とまで祭り上げられたカイトは、絶望の淵にいた。もはや善行は飽和状態。辞職するためには、**「ギルドマスターの権威そのものを否定する」**しかない。
カイトはギルドの奥深くにある、**『歴代ギルドマスターの不名誉な遺産』を保管している倉庫に目をつけた。そこには、過去に大失態を犯したギルドマスターが使用を許された「不名誉の印鑑」**が眠っている。
「これだ。この印鑑は、使用すると**『この書類の内容は、ギルドマスターの承認を得ていない不適格な内容である』という烙印を押される。これで、重要な契約書に押せば、信用は地に落ち、俺はギルドの歴史に泥を塗った愚者**として追放される!」
カイトは、最も重要な契約の一つ、**「近隣諸国との共同魔物討伐協定」**の書類を探し出した。この書類に不名誉の印鑑を押せば、外交問題に発展し、間違いなくギルドマスターの職を解かれるだろう。
2. 不名誉の印鑑(欠陥品)の真実
カイトは印鑑を手に取り、決行の時を待った。その印鑑は、魔力で動作するはずだが、長年の放置と欠陥により、「契約を否定する」魔力が「契約を強化する」魔力に変化してしまっていた。さらに、その魔力は「押した者の本心を契約内容に付与**する」**という、極めて厄介な副作用を持っていた。
カイトは、周囲に誰もいないことを確認し、決死の覚悟で印鑑を協定書に叩きつけた。
「これでギルドの信用は崩壊だ!」
ドンッ!
印鑑が書類に押されると、印影から金色の魔力が湧き出した。
(カイトの心の声:辞めたい!俺はこの契約に反対だ!失敗しろ!)
カイトの本心である**「辞めたい」「反対だ」という強烈な『否定の念』**が、印鑑の欠陥魔力によって増幅され、契約書に付与されてしまった。
3. 契約の進化と外交の成功
翌朝、その協定書は、隣国の使節団との最終会議に提出された。
使節団は印鑑を見て、一様に驚愕した。彼らには、印鑑が押された瞬間に契約書が放った**「神聖な光」**が見えていた。
「これは……まさか、『契約を否定することで、契約の絶対的履行を誓う』という、古代の神聖契約の紋章ではないか!」
古代の伝説には、**「絶対的な否定の魔力」を込めることで、「契約が裏切られる可能性を完全に排除する」**という、極めて希少な印鑑の存在が記されていた。
そして、カイトの**「辞めたい(=契約を否定したい)」という本心が契約書に付与された結果、協定書には以下の文章が魔力で自動追記**されてしまった。
追記: この協定は、ギルドマスター・カイト・アレンの**「全存在を賭した否定」をもって、「未来永劫、裏切りなき履行」**が保証される。
• 隣国使節団: 「ギルドマスターは、この協定が絶対に裏切られないように、自らの**『辞職願望すら超える、強大な否定の魔力』を込めて保証してくださったのだ!何という誠意**!」
• バルド: 「不名誉の印鑑? いいえ! マスターは、この印鑑を**『古代の絶対契約印』**として復活させたのだ! **『この契約に不備があれば、私は辞職する』**という、命を懸けた誓いの現れです!」
結果、この協定は**「カイトの命がけの誓約」**として、近隣諸国との信頼関係を過去最高レベルに引き上げ、ギルドの外交的地位を不動のものとした。
4. 歴史への強制刻印
カイトは、自分が押したはずの印鑑が**「神聖な契約印」**としてギルドの歴史に刻印されることを知らされ、力が抜けた。
「俺は……ギルドを破滅させようとしたのに……外交の英雄だと……」
さらに、エリシアが興奮した表情で、カイトに新たな印鑑を手渡した。
「マスター! この度、あなたの偉大なる功績を記念し、**『神聖契約印・カイトモデル』**が新設されました! 今後、全ての重要書類は、この印鑑でしか承認されません!」
カイトが手に持ったのは、かつての**「不名誉の印鑑」**と瓜二つの、金色に輝く新しい印鑑。
「これから、ギルドの全ての未来は、あなたの**『否定の魔力』によって『絶対的な成功』**として保証されます!」バルドが力強く宣言した。
カイトは悟った。もはや、**「辞めること」は「世界を滅ぼすこと」と同義になってしまったのだと。彼の意図とは裏腹に、彼の「無気力な存在」そのものが、ギルドと世界の「絶対的な安定」**の礎となってしまった。
「もう……何も、しない……」
カイトは、虚ろな目で新しい印鑑を見つめ、ギルドマスターとしての**『永遠の責任』を受け入れるしかなかった。彼の「辞めたい」という願いは、こうして「絶対に裏切れない契約」**として、世界に刻み込まれたのだった。