どうか、あなたの物語が見つかりますように。
※Library of ruinaのネタバレがあります。ご容赦ください。
僕達がハルツィナ樹海に向かう為、ミレディ大峡谷の階段を登り切って見えたその光景は。
馬車を携え、焚き火を炊いてまるでピクニック気分の様に談笑し合う帝国兵の姿だった。
馬車内部を『遠見』で見通すと、数人を閉じ込められそうな檻が何個も用意されており完全にハウリア族……兎人族を狙う事を前提にして用意されている事が分かった。
「ん?おい、あれ見ろ!」
「兎人族だ!しかも大勢いるじゃねぇか!」
「やっと獲物が来たって感じだよなぁ」
そう言って兎人族達がたじろぐ中、僕とハジメ君、ユエとファタールが前に出る。シアさん?シアさんはお留守番です。
「小隊長!白髪の兎人もいるみたいですよ……隊長が欲しがってましたよね?」
「おお、ますます幸運だ。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」
「小隊長〜、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ?こっちは、何もないとこ三日も待たされてるんですよ。役得の一つや二つ大目に見てくれません?」
「あのなぁ……まぁ全部はやめとけ。2、3人なら好きにしていいぞ?」
「ヒュ〜、流石小隊長!話が分かってくれるっ!」
そう言って完全に兎人族を舐めて下卑た目線で見つめている小隊長は近付いてくる僕達を見つめてきた。
なんだこいつら?という表情から、僕達が日本人の顔立ちなのは特に違和感を持たれていないようだった。
「なんだお前ら?」
「僕はハジメと申します。兎人族の皆さんを連れてハルツィナ樹海に行く所です」
「あん?……ああ、もしかして奴隷商人か?妙に顔立ちがガキみてぇだから勘違いした……てかお前達亜人族じゃないって事なら話がはえぇな。
そいつらは帝国軍が引き取る。だから今ここでそいつらを引渡しな」
そう言いながら気持ち悪い笑顔を浮かべる小隊長という男の顔を見つめながら、ハジメ君は笑顔で言い放った。
「嫌です」
「……おいガキ、まさか帝国軍の事を舐めてるって訳じゃねぇよな?置いていかないって事は俺達と敵対するって事だが」
「そういう契約なんですよ。契約を守らないと罰を受けてしまいますから」
そう言って、僕の後ろにいるファタールさんが前に出てくる。仮面こそ被っているものの、その肉体の豊満さに帝国兵が息を飲む。悪魔の尾は魔法で隠してあるそうなので、多分見えてない。
「ご機嫌麗しゅう、帝国軍の皆様。契約者の天職を持つ『ファタール』と申します。
兎人のハウリア族と我々はご契約中でして、その契約を放棄した場合大変痛い罰が下るのです。その事をご理解いただけましたか?」
「なるほどな、奴隷商人としても契約があるから裏切れねぇって事だよな?」
「お分かりいただけましたか」
「なら尚更、テメェら殺しても何も問題ないって訳だよなぁ!俺達帝国軍には腐るくらい奴隷商人がいるからな、一人くらい死んだって問題ねぇんだよ!」チャキッ
そういって刃をファタールに向けてくる中、ハジメ君の後ろから流石に待たせすぎたのかユエさんが顔を出してきた。
そして、まるで舐め尽くすようにユエさんを見つめた小隊長が汚い笑顔を浮かべながらハジメ君を見てきた。
「おいガキ、今殺してやるって決めてたが……そこの後ろの女を渡してくれたら命だけ助けたやるよ。そこの男も、奴隷商人の女を置いていけば命だけは見逃してやる」
まるで上辺を取り繕うかのような顔だが、どう足掻いても生かすつもりは無いようだ。嘘が苦手なのかこう言ってやればきっと従うと信じてやまないらしい。
「断る」
「てめぇ!いくら何でも俺らを舐めすぎた!行くぞお前ら、そこの女全員捕まえて、テメェらの四肢もいでその前でぶち犯」ドパァンッ!
「誰が人の女に手を出していいって言ったのかな―――下衆」
ハジメ君が笑顔を浮かべていた顔を一気に怒り心頭の表情に変えると、彼は高速で抜いた『ドンナー』で小隊長の顔面をぶっ飛ばした。
ハジメ君は少し自分の手を見つめ直し、「後は任せていい?」た頼んできた。彼にとって、これは初めての人殺しだ、きっと思う所があるんだろう。
それなら、後はここから……僕の汚れ仕事だ。
「誓約する。『汝、かの敵を五人滅ぼさん。そして我を守る鎧を伸ばしたまえ』……行くぞ」ダァッ!
そうして、『縮地』で駆け出した瞬間に背後に回った帝国兵の首を三本『スティグマ』の一閃によって吹き飛んだ。
小隊長が撃たれ死に、間もない頃にこの一撃が飛んできたせいか帝国兵達は状況を理解出来ないでいたか、僕の一撃を以て完全に臨戦態勢に入ったのか魔法を使って攻撃してくる。
しかし、その瞬間骨の様な腕が壁となって魔法を受け止める。
「我が魂の主様……お下がりください」
「これ、僕がハジメ君に頼まれたんだけどなぁ」
「それでもです」
「下がりたくないと言ったら、守ってくれたりするのかい?」
「それなら……構いません。弾け」パチン
指を鳴らし、更に魔法による攻撃を飛ばしてくる帝国兵達の魔法がまるで元の場所に帰るように跳ね返り、直撃する。唐突に魔法が返された事に理解できない帝国兵達は呆気にとられた様子で「き、近接だ!近接でアイツらを殺すぞ!」と僕の一撃を学んでいないのか直剣や槍を持ってこちらに向かってくる。
「く、くら」
「邪魔です」ドシュゥッ!
「が……?」
ファタールの方は、転移して瞬間的に暗殺を遂行した。まるで死にゆくものを見下ろしながら骨を纏った腕を鳴らしながら駆け出し、いとも簡単に他の帝国兵を蹂躙していく。
そんな僕の方は……
「くそぉっ!」
「……」ガキィンッ!
「な、なんで効いてないんだよ!」
「〝茜示剣〟」
「うわ―――」
剣を振っただけで簡単に飛んでいく帝国兵の首を見つめながら、更に背後から攻撃してくる帝国兵を後ろにスティグマを突き刺すように振り抜いて引き裂く。
そして、誓約の効果が発揮される。僕の体全体に白と赤色のラインが走った重厚な甲冑が身を包んでいく。
まるで見た目は、『翔明の騎士』を意識したような姿で展開された騎士の鎧は完全に展開された。
これが『シルト』の第二形態。第三形態や第四形態……最終的に第五形態を展開する事が出来るハジメ君の技術力が揃った最高の一品だ。
「ひ、ひぃぃっ!」
「……」ザッザッ
「ま、待ってくれ!命だけばっ」ドシュゥッ……
「助けてくれ?お前は同じ状況に陥った彼らを助けたのか?助けなかっただろう。同じように助けてから言った方がいい」ザッザッ
そう言って、完全に蹂躙した。
僕の方はフィクサーとして人と相対し、殺したことはある。生き残る為に殺さなくてはならない事はあったから何も感じることはなかった。
怒りと悲しみで殺したのと、生きる為に殺したのとはまた違う。その重みを伝わらせてくる……
だがこんな所で止まる気なんて毛頭ない。そう改めて心に誓い帝国兵達は全滅した。
ファタールが帝国兵の頭を掴み、何かを得ている様子を見て話しかけると「残りのハウリア族が何処へ行かれたのか探っております」と教えてくれた。
しかし結果は……首を横に振った様子を見て僕は「そうか」と残してハジメ君達の方へ戻っていった。
「ハジメ君、終わったよ」
「終わりました」
「二人共、お疲れ様……アキラ君は、大丈夫?」
「全く問題ないですよ。寧ろ……慣れていますから」
「そうだよね……僕は、あれっきりでいいかなってなったよ」
「大丈夫です。ハジメ君が手を汚す必要はないですから……あの小隊長は逆鱗に触れてしまったものですが 」
横たわりもう動かない帝国兵の死体を見つめながら、ハウリア族を連れて僕達は再び移動していくことに決めた。
―――――――――――――――――――――――――――
遂に突入開始したハルツィナ樹海に進行しながら、僕達は徒歩で移動していた。
徒歩な理由は、このハルツィナ樹海は亜人以外ではスキルを使っても探知不可になるほどに張り巡らさた霧の力によって方向感覚を失い、最終的に完全に孤立するというとんでもない仕様になっていた。
詰まるところ亜人と共にいなければ大変面倒くさいこと極まりないのだが、だからといって馬車のような目立ちやすいもので動くと襲撃された時はハウリア族を全滅させられた時が僕達の命の終わりだという。
まぁ、殺させるなんて事は起きないと思うのだが……
そんな中、さっきの事件に対して何も言わないハジメ君とユエさん、そして僕らに対して不思議に思ったのかシアさんがハジメ君の隣にいる最中か聞いてきた。
「あの、アキラさん……どうして帝国兵を一人で?ハジメさんならきっと全部倒せるはずなのに……」
「……ハジメ君は、あれで初めて人を殺したんです」
「あ……」
「ハジメ君には恨んでる人がいます。その人は僕も恨んでますが、その人がまた自分達を殺すとなると何時かは覚悟を決めないといけない訳ですが……ハジメ君はマトモな感性を持っていますから、人を殺す事には躊躇したんだと思いますよ」
そう説明し、納得したように今の話は理解してくれたシアさんだったが……
「あれ、それだとアキラさんは……」
「……まぁ、多くの人を手に掛けてきた節はあるよ。生き残る為に人を殺すことも厭わなかった。
例え相手に家族がいるとしても、死んだらそこで終わりなんだ。お互いの譲り合う気持ちとか、そんなものは戦いの場では意味がない。
逃がせばよかったのに、が出来るのは相当な頭がおかしい人か……相当なお人好しだよ。
君達を助ける為に亡くなった同胞達はきっと『なんで助けた 』って言うだろうし」
そう指摘すると、うっとした顔で何も言わなくなった。
きっとシアさんは優しいのだろう。例え追い込まれても人に対して手を差し伸べれる。
しかしその優しさをつけ込むように利用する輩がいるのだから、ハウリア族がここまで数を減らしたのも無理はないと思う。きっと色々な事を経験した上でのこの悲惨さは……彼女の未来視を見た上で乗り越えていったのだろう。
だからと言って、未来視で安心し切ってたら本当に論外だが。
未来が見えるというのはあくまで『その時に見たものがそういう結果だった』というだけだ。
僕はプルートに出会った時もそうだ。プルートは変わっていた、過去の様子とはあまりとは思うがそれでも誰かの手が加わっていた。
それでさえああなるのだがら、たかが一つの未来を見た所で結局人は変わらない。醜いやつはとことん醜い。
「あの、思ったんですけど……4人方はどういう経緯で一緒にいるんですか?」
そういう事を聞かれたので、まぁ話すだけならとハジメ君と僕は事の経緯を説明した。
僕達はお互い、同じ星の元で生まれ育ってきたこと。(都市のことはその後に話したけど)
そしてお互い同じ学校という場所で勉学を学んでいたが、謎の魔法陣によって転送され、このトータスという世界に召喚されたこと。
そしてハイリヒ王国という場所に仕え、勇者として戦争に駆り出される羽目になったこと。
そうして鍛えていた最中に、ハジメ君と改めて会い、日を跨いでお互いに危険が舞い込んだ時に助け合ったこと。
そして……奈落に落ち、ハジメ君が片腕を失って僕が命懸けで彼を守ったこと。
そこからなんやかんやあって、ハジメ君と僕は友達になったこと……改めて話にされると結構恥ずかしかった。
そんな中で、僕とハジメ君の話の諸々を話してみた。するとシアさんはズビズバと音を立てながら泣いていた。
「あ、あんまりでずぅ、なんで二人だけごんな過酷な運命にっ」
…同情するならちゃんと案内して欲しいな、という言葉は飲み込んだ。流石に今言ったら空気が寒くなると思うし、きっと余計に関係をこじらせかねないから。
しかし、その後にユエさんが思いっきり言った発言で結局この飲み込んだ言葉は無駄に終わった。
「残念ウサギ……旅についてくる気」
「え!?」
「えっ!?」
なんでシアさんが驚いてるの?という話はさておき、やはり図星だったようだ。
と言ってもこればかりは仕方ない気もした。ファタール以外は魔力の直接操作が可能で、まるでお互い魔物の様な異物だ。
ハジメ君に関しては、特にそれが顕著に出ている。今も魔力を浮かばせれば体に魔物特有の魔力の線が浮かび上がる。
改めてその事実を突き付けると、やはりシアさんにとってハジメ君やユエさんは自分と同じ存在(しれっと僕がハブられたのは少し悲しかったけど)なのだ。
そんな同じ人と出会った時、一緒にこの人達と旅をしたいと理想を考えてもおかしくはなかった。
寧ろハジメ君と旅をするのならそれはそれで……という表情にも見えたが、やはり羨望の眼差しがあるんだろう。
しかしハジメ君の解答は……
「ダメです」
「ど、どうしてですか!?」
「僕達は楽しく旅をしている訳じゃないんだ。故郷にユエとアキラで一緒に帰る為に旅をしてる。同じ同胞を見つけるのはこの人生で生きていけばいつかはあると思う。そっちの方か、危険も踏まなくて全然いい」
ハジメ君にとっても、この旅に多くの人を巻き込む訳にはいかなかった。
だからこそ『仲間を見つけた』という安易な理由でこの旅に付いてこさせる気はなかったし、寧ろ自分の力で色々な世界を見に行けるのならそれはそれでいいんじゃないかとハジメ君の優しさから別の回答を与えられた程。
それが難しいのは重々承知しているので、ハジメ君としてもあんまりシアさんは連れて行きたくないんだろうな……と思う。
それに、それに調子づいて他のハウリア族の人々が巻き込まれたら大変である。この旅が大御所……まさしく小中の修学旅行、もしくは遠足である。
そもそもそこまで面倒見きれないし、養う事なんて出来ない。尚更ハジメ君はシアさんの誘いを断る。
まぁもう一つ理由があるとすれば……
「そもそも、シアさんがいなくても大丈夫なんだ。
僕にはユエがいるからね」
「ん……残念ウサギ」
そう、ユエさん。
ハジメ君の旅の中にはユエさんがいる、一番守りたい存在がいるのなら尚更シアさんの席がない……お互いあの過酷なオルクス大迷宮を乗り越えただけはある。
あ、僕もちゃんといますよ。忘れないでねハジメ君……
「で、でも!私にはちゃんとユエさんと違う点がありますよ!」
「……未来が見えるかどうか?」
「違いますって!ほら!だって私の方はおっぱい大きいのに、ユエさんはぺったんこじゃないですか!」
―――ぺったんこじゃないですか!
―――ぺったんこじゃないですか!
―――ぺったんこじゃないですか
暫くその声がエコーしたように響き、ハジメ君は呆れながらため息をついた。
ユエさんの方はというと、もう抑えが効かないくらいには背後から背後霊を出していた。それはもうゴゴゴゴゴと威圧感を感じさせる程には激怒していて、ユエさんは魔法の詠唱を終えていた。
「え、えっと……謝ったら許してくれたりは?」
「……お祈りは済ませた?」ゴゴゴゴゴ
「あ、あはは……ご、ごめんなさぁい!」
「〝嵐帝〟」
「アッ―――――――――!」
あふん、と呻き声をあげながら風上級魔法を発動させて見事にぶっ飛ばされたシアさんを、ハウリア族の方々は心配していた。
まぁこれに関しては、シアさんが九割十分悪いから仕方ない。その後にハジメ君に「……大きい方が好き?」と聞かれてたハジメ君は本当に可哀想だと思った。この攻撃の後にそれを聞くとハジメ君がどう返していいか分からなさそうにしていた。上手くカバー出来るか悩んだが僕も地雷を踏みそうになったので助けてあげるのはやめた。
ごめんなハジメ君、君が僕に巨乳好きというレッテルを押し付けた事は未だに恨んでいる。絶対に許さん。
まぁそんなこんなはあったが、ハルツィナ樹海に順調に向かっていた時だった。
この樹海を進む様な音が聞こえ、すぐにハジメ君の代わりに僕が腕を横に伸ばして静止させる様に命じた。
ハウリア族の人達は全員止まり、ハジメ君は速攻でドンナーとシュラークを抜いている。何時だっていけるタイミングである。
その瞬間、僕とハジメ君が瞬間的に音が聞こえた方向に飛び立つ。
一旦はハルツィナ樹海の木々の上に立ちながら、下で謎の存在がハウリア族を睨みつけていた。
「お前達は……種族と族名を名乗れ!」
それは虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人であった。
間違いなく虎人族的な奴だろう。ハジメ君が少しキラキラした瞳で見つめたそうにしていたがすぐに表情を戻して下の亜人を見つめ直す。
実力はあまり高くない。しかし相手は完全にハウリア族をジロジロと見定めるように見つめている。
しかしその中に、一人。シアを見つけた途端に圧倒的な激怒の表情に変わる。
「あ、あの私達は……」
そう言いながらカムさんが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアさんに対してまるで存在そのものを認めることがないように、シアさんに向ける目線はこの世の大罪人を見つめる目だった。
「白い髪の兎人族…だと?貴様らっ、報告のあったハウリア族か!亜人族の面汚し共め、長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく訳の分からん人間と共にいるなど大罪だ!もはや弁明など聞く必要もない!全員この場で処刑してやる!」
「そ、そんな……!」
怒り心頭の顔で勝手に罪を作り上げ、そしてこの場で処刑すると言い散らかす虎人族の男。カムさんが上を見そうになったが『見るな』という視線をハジメ君が送っていたので何とか事なきを得たが……バレるのは時間の問題である。
「総員かかれッ!」
その声と共に、虎人族は飛び出した。
しかし、天空から降りてきた白色の謎の鎧騎士が前を塞がなければ虎人族の野望は達成できたはずだ。
まぁそれ……僕なんだけどね。
「な、なんだ貴様っ」
「夜明事務所5級フィクサー、フィリップ。
全員のその馬鹿舌とそのアホ耳、白日の元に晒してやる」
尚、怒り心頭だったのはアイツらでもあり―――僕でもあったのだが。
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