どうか、あなたの物語が見つかりますように。
視点は変わるが、虎人族のリチャードは虎人族の戦士である。
一族の誇りを持っているし、何よりその一族に生まれ力を持っている自分自身も相当な自信を持っている。
しかしそんな彼女に、一人だけ勝てないという女がいる。
それは……この骸骨の仮面を被った、誰にも見えない悪魔の尾を揺らして綺麗なフォームで無言を貫いて歩く彼女……あの
リチャードは自分自身の姿に非常に高い自信を持っている。能力でもそうだが女としての魅力も強いと思っており、それを惜しむことなく虎人族の魅了を出している。
そんな中、このファタールはスーツで隠されているとはいえ物凄い肢体の持ち主なのは間違いなかった。
歩くフォームの良さからスタイルの良さはよく分かり、灰色の三つ編みの髪は人々の気を惹くように尾と共に揺れていた。
何よりも……自分よりも豊満な、スーツの上から盛り上げている胸はリチャードよりも大きい。
ショックを受けた。改めて理解すると、彼女は人を寄せ付ける要素を多く持ち過ぎている。その為色んな男性から色目を掛けられている。
しかし何一つファタールはその視線に答えることはなく、寧ろ何も見えていないかのように街中を目的地に向かって歩いているのだから……ファタールは置いていかれるしぼーっとしていると他の男らに話しかけられない。
すぐにファタールを追いかけて隣に立つリチャードは、歯向かうように態度で噛み付いてきた。
「少しくらい挨拶もないのか」
「……」
「おい!聞こえているのか!?」
「はい」
「ぐっ……!聞こえているのなら返事をしろ!」
「今、返事をしましたので」
「なら最初の言葉は聞いているだろう!」
「ああ、あなたにどんな挨拶をするのか迷っていました」
「き、貴様ァ……!」ギリィッ……
ここまでリチャードはファタールによる侮辱された対応に苛立ちを覚えながら、キャンキャン鳴いて威嚇する性格の荒い犬のように指を指しながら怒りをぶつける。
「いいか!貴様など私の力があれば簡単に倒せるのだぞ!」
「そうですか」
「な、なんだその反応は!」
「あなたもそうだと言うのなら、私もその通りそっくり返します。
私の力であれば、あなたを簡単に追い詰めることが出来ることをお忘れなく」
「っ……!」ゾァッ
彼女の返しに対してリチャードはとてつもない意思を感じた。
自分が持っている能力に対してはリチャードが絶対的な自信を抱いているのなら、彼女―――ファタールもそうだった。
その強い意思……意味を持たせるのなら“スゴ味”で圧倒してきたファタールに対してリチャードは屈服することは無かったにしても、歯向かう気力を無くしたのか舌打ちをしながら共に向かう事にした。
そうして二人は、冒険に必要な道具屋や食料品を扱う店ではなく……冒険者向きの普段着の服や鎧の上から着る服をリチャード用に用意する為にファタールが向かっていた店に到着した。
リチャードが付いてきているのは、サイズが合わなかった時が心配なので採寸しつつという形だ。
その店に到着した時に、まさかの驚きな展開だったが……なんとハジメの女二人ことユエとシアが丁度店の中に入ってきていた。
「ん…ファタール」
「おはようございます、ユエ様」
「ファタールは、服を買いに?」
「はい。私のではなく、リチャードさんのですが」
「あれ、ファタールさんじゃないですか!」
「はい。ファタールです」
淡々とシアとユエの挨拶に対応していくファタールを置いて、リチャードは二人に割り込んできた。
「おい!どうして最初に私へ挨拶しない!?」
「ん……誰だっけ」
「なん……だと」
「えっと確か、エルド〇ッチさん……」
「違うっ!リチャードだ!」
「思い出した、カル〇スさん!」
「貴様ァ!侮辱するのもいい加減にしろよハウリア族が!」ガシッ
そう言って怒り散らかしながらシアの胸倉を掴むリチャードに対して、急に手を掴んできた女―――いや、乙女の手が介入してきた。その手は手袋を付けたファタールの手ではなかった。
リチャードがその視線を上に動かすと、そこにいたのは……化け物だった。
身長2m超え、全身に筋肉という鎧を纏い劇画の存在かと間違えるほどの濃ゆい眉と頭の禿の四箇所から長い髪が一房ずつ生えていて、それらは頭の頂点に複雑にピンクのリボンで結ばれていた。
動けば筋肉は脈動するように動き、両手を頬の隣で組んで終始くねくねと動くまるで怪異―――更に服装が、乙女の服だという。
しかしこの怪物の問題点はそんなところでは無い。これが女性であれば良かった。
しかしそれは、乙女であって
それは……漢女だった。
「あら〜ん、いらっしゃい!可愛い子達ねぇん、来てくれておねぇさん嬉しいわぁ〜けど店内で喧嘩しちゃダメよ?」
そのあまりにも人間らしくないような姿を視認したリチャードは、あまりにも怖くなって「ご、ごめんなさい」と素で謝って手を引っ込めてからファタールの後ろに隠れた。
しかしファタールは、一切動揺する事なく「ご注文いいですか」とこの化け物に対して店員としての機能を働いてもらおうと頼み込む。
ゴゴゴゴゴ……と何かの重苦しい空気が展開される中、化け物は口を開いた。
リチャードはその様子を見たあまりもの恐怖でファタールの背中であることを理解しつつも引っ付いていた。
「いいのよぉ〜ん!それでぇ?今日はどんな商品をお求めかしらぁん?」
そう言って空気をぴゅわわわわ〜んと変えてくるこの化け物―――改め、この店の店長クリスタベルは笑顔を向けてファタールに話しかける。
あれ、意外と悪くない人かも?とシアが思いつつ、ファタールは冷静に「彼女に見合う服をお願いします。予算は気にしません」と返すとクリスタベルは承諾したように「任せてぇ〜ん」と言いながらリチャードを馬鹿力で引っ張って持っていってしまった。最後の際までファタールにしがみついていたリチャードは、まるで恋愛映画の列車で別の地方に行ってしまう恋人の別れ際のシーンのようにファタールに手を伸ばしていたが抵抗虚しく、ファタールはため息を付きながら手を振ってリチャードを送っていった。
その後に帰ってきたリチャードは、なんかもう……沢山着せられていた。
最初のリチャードは、鎧や獣の皮のスカート的なもので最低限の場所を隠し、腕や足側からは獣の脚が人の手足のようになっているからな、異形感は出ていて似合っているかと言われると……あんまりだった。
しかし、今着ている服はだいぶマシになったと言わんばかりのものだった。
寧ろ逆に、その可愛さを際立たせた。自信過剰で横暴な態度を取る彼女は、その姿とは裏腹に黒の金が混じった髪を一つに纏め、ファタールと同じく三つ編みにされていた。
服は、亜人は身体能力が高く鍛え抜かれた身体を強調するデザインを好むと言われている。そこを意識したクリスタベルの配慮が伺える黒色のシャツを、夏場で濡れたTシャツを結んでいる人の様な腹を露出する形で見せつけるようなコーデになった。
更に、ただシャツを着せるだけでは味気ない。そこにダークブラウンカラーのなぜこの世界に存在するか分からないジャケットを着せ、ワイルド感溢れる上半身の服装は強気な性格を匂わせてくれる様なカッコイイ姿に変わった。
変わって、下半身は薄いブラウンカラーのホットパンツになった。太腿は見せつける、更にインナーパンツをホットパンツの下に仕込むことで大した恥ずかしさもなくなる。
更に両方に尾を貫通する穴を用意されており、素晴らしい程にマッチしている完成度がこの服の出来を完成させていた。
「す、凄い……」
「あっらぁ〜!素晴らしいじゃない、その服装なら誰も文句言わないわよぉ〜?」
「う、うん」
そう言って肩に手を添えてくるクリスタベルに怯えながらも、リチャードはいい普段着を持つことが出来た。ファタールは仕事が終了したのか、懐中時計を取り出して時間を確認していた。
しかし、そんな彼女を見逃すはずかなかったクリスタベルだった。
「あらぁ、あなたも想い人がいるんじゃないかしらん?」
「あなたは……店長様」
「クリスタベルでいいわよ。それよりも、そのボディをふんだんに使ってあげなくちゃならないわよ?その仮面も、悪趣味という訳ではないけど……素顔くらい大切な人に見せてあげればいいんじゃないかしら?」
そう言ってくるクリスタベルに対して、ファタールは少し唸る。
というのも、彼女が仮面を付けるのは「契約する相手に私情を持ち込まない」という線引きを明確にする為に、自分の顔を隠す事で自分を殺しているような意味を表している。
しかしそれは関係ない今の現状、外しても構わない。
契約士としてのプライドというものは特に存在しない。ただ自分は
初代契約士プルートがどんな蛮行と愚行を行ってきたか知っているからこそ、ここまで命令を受動的に受ける悪魔族の女が出来たのだろう。
そんな彼女が今、たかが伝説級の魔物も視認しただけで正気度というなのSAN値チェックを行うと確実にゼロかマイナス以下のSAN値の数値に突入する化け物……ことクリスタベルの口振りに乗った。
後ろにあるマスクのベルトを外すと、彼女は息を吐きながらその仮面を外す。
その貌を見た、クリスタベルの表情は驚愕の表情に全てが包まれた。
ユエやシア、リチャード……店の客も全てが押し黙る程。
「もうよろしいでしょうか。どうか、こんな
そう言って、仮面をゆっくりと魔法で出した骸骨の手がファタールの顔に付け、ベルトをカチッと嵌める。
クリスタベルは、察した。彼女が仮面を付ける意味、そして何となく「ファタール」と呼ばれる意味合いを。
英語なんてこの世に存在しない文言、なのに彼女は今魂でその言葉の意味を理解した気がする。
それ程に彼女が―――――のだろう。
そうして、ファタールに最高に似合うその服をクリスタベルはこの限られた時間の中で見繕う。
しかしクリスタベルは、至極苦悩した。
何を着ても似合ってしまうような、そんな存在相手に果たしてここの服程度でいいのか。
衣服を取り扱う店なのに、客に見合ったその服を出せないのは自分の店としてのプライドと突然叩き出された果たし状の挑戦から目を背ける事が出来ない。
乙女にはやらねばならぬ時がある、それが今であると理解した故の―――苦悩。
ユエとシアはこの出来事に対して、後に「世界を揺るがす一つの大事件だった(ですぅ)」と答えている。
たかが服選びで?と思うかもしれないが……たかが服選びである。それが女子にとっては相手からどう見え、そしてどう魅力を感じさせるかの大勝負。
例えるならそう、短剣一本で特色に挑むバカとそれに短剣一本で付き合ってやる特色くらいの大勝負だ。
そう誇張する程に長い時間をかけ、リチャードが長い時間待たされて苦痛だったと零す程に待ち―――
「神ィ!」という声と共に、恍惚とした表情で服を選び終わったクリスタベルの声と共に、ファタールは自然とクリスタベルの望むを叶えるように一人試着室に向かっていった。
「……」ゴクリ
「……」ギュッ
ユエは固唾を飲み、シアは心配そうにユエの袖の裾を指で掴む程。まるで世紀の大決戦の如く待ち構えている間に、その大決戦の火蓋は完全に閉じることになった。
そう……ファタールが出てきたのだ。ただしいつもの仮面を付けたままだが、彼女が試着室から出てきた時に―――世界から祝音が鳴り響き全ての存在が固唾を飲んでしまう程には彼女に見惚れた。
クリスタベルが用意した服は、ファタールの全てを利用して勝利を掴んだ。
まず、彼女の豊満な胸を強調させる為に灰色の縦のセーターを使用した。そのお陰はしっかりと結果に出ていて、店に来ていた男性客は全ての視線を彼女に浴びせていた。
次に、彼女のスレンダーの足といいくびれから放たれる腰周りは青色の何故この世界にあるか分からないジーンズを使う事でその「良さ」を死ぬ程際立たせた。
腰にはしっかりとベルトを付けており、彼女のクールビューティな雰囲気を崩さないのも評価点が高い。
更にここで、追加の投石をぶち込むアルキメデスの投石器のように牙城を崩すもの。
それは片腕に掛けられた、黒色のジャケット―――なんでこの世界にあるんだ―――
それはともかく、この装備をあえて腕に置くという事で「出来る女」としての要素が最高に大きくなった。
珍妙な仮面を付けているだけではあるが、その仮面を外しこの姿の彼女に出会った男は五度見以上を繰り返すに違いない。
更に更にと、付け加えるようにいつも使用している手袋とは違うカラーの白を付けることで清純さを強調する。
靴は彼女が使用していたスーツの時に同じく履いていたブラウンカラーの靴を使用し、上から下まで最後までトッ〇の如く味わえる最高の噛み合わせを披露した。
後ろに纏めてある灰色の三つ編みは前に出し、最早これでときめかない男は出す気がない程には完成しきっていた。
「はぁっ、はぁっ……本当に、最高の逸材の最高のコーデを見い出せた……気分……ね」ガク
クリスタベルはファタールに似合う服を選び終え、その全ての力を使い果たしたのか眠りについた。いびきかいてるけど。
そうして、クソ長い服選びは終わりを迎えたのだが……店を出る場合考慮しないといけない事が一つ。
それは、普通に代金を支払って出たファタールに押しかけてくる存在達の事を言う。
「「「「「「「「「「「「「「ファタールさん(たん)(ちゃん)(様)(殿)!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」
ざぁっ、と地面にスライディングするのも苦ではない程に衣服店から出たファタールを狙い撃ちするか如く滑り込んできた男達を見事にスルーしながら、ファタールはマサカの宿に戻っていくがその道を阻むのが男達。
ファタールははぁ、とため息を付きながら男達の戯言に付き合うことにした。
「どうなさいましたか」
「「「「「「「「「「「「「「ファタールさん(たん)(ちゃん)(様)(殿)!!!!!!!!!!!!!!!俺(僕)(私)(俺っち)(吾輩)(我)と結婚してくださいっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」
「お断りします」スッ
―――世界に大規模な凍害が起こった、それを表すような見事な振りに男達の心は粉々に砕け散った。
しかし、男達のメンタルがそれで折れる事はなかった。
しぶといヤツらである。
「待ってくれ!僕は君の事をその一瞬で見たあの時から好きなんだ!僕と結婚して欲しい!」
「いいや!俺は彼女がこの街に来た時から目を付けていたんだ、彼女は輝ける存在であると!俺と結婚してくれないか!」
「ファタールたんハァハァ」
……最後のがおかしい者がいたが、ろくな人間がいない。
もちろんファタールの答えは「NO」。
「お断りします」
ショックで崩れる様に倒れていくもの、あまりの一撃にママー!と叫びながら走り去っていくもの、その声に何かの美を感じさせたのか興奮しながら震えるもの、多種多様な反応を示しながらまだまだと、男達は壁の如く立ちはだかる。
「それなら!力ずくで俺のものにしてやる!」
そう言って男達はまるでル〇ン三〇の如く飛び込んでいくが、その瞬間氷の弾丸に股間を撃ち抜かれていく者、氷の箱に包まれる者が多発した。
「……〝凍柩〟」
それの発端はユエだった。
圧倒的魔法のセンスにより、氷の弾丸で男の尊厳を破壊していくユエの表情はファタール以上の悪魔そのものだった。
ばきゅんばきゅん☆と放たれる弾丸が、後に第二のクリスタベルを生み出す事は有名だが、ファタールの骨の操作によって男の尊厳がキ〇アの心臓を盗む時のようにもぎ取られ潰された男が後の第三のクリスタベルになり、その後トータスの大きな影響力を持つ店を構えることになるのはかなり先のお話になる。
「……大丈夫?」
「はい、問題ありません」
ユエが心配した表情でファタールに話しかける。ファタールには何処も異常はなく、ユエもその様子には落ち着いて「良かった」と零した。
ユエとファタールは深層でオスカーの隠れ家から共にしている仲間であり、最初こそ警戒していたものの彼女の人となりを理解したお陰で上手いこと距離感を掴めるようになった。
そしてそれはファタールも同じであり、ほんの少しだけ空気が緩んだ感じでユエの頭を撫でた。
「ありがとうございます」
「ん……苦しゅうない」
「有り難き幸せ」
こうして見ると、可愛らしいユエと美しいファタールの二人がまるで姉妹のようにお互いをちちくりあってるようにしか見えない。
そんな姿を見て「あ〜!ずるいですぅユエさん!」と遅れてきたシアも混ざるようにぎゅむっと中に入っていく。
三人も上手い形で仲の良さが出て良い―――そう周りには感じさせている程だった。
しかしその仲良し空気をぶっ壊してきたのは、リチャードである。
「おい!こんだけ巻き込ませておいて詫びの一つもなぃのか!」
リチャードは三人を掻き分けるように腕を動かし、ファタールに向かって文句をつらつらと愚痴として吐いた。ファタールもやれやれって感じの顔をしながら、ユエにやったように頭を撫でてやった。
「お、おい何をする!」
「褒美です」
「こ、これが褒美だと!?頭のおかしい奴だな!」
「なら、やめますか?」
「…………いや、これでいい……」
ウガウガ文句を言っていた彼女も結局は勝てない。
こうして彼女達の濃い一日が終わって、元の主達の元に戻っていくのだった。
日常回。お楽しみいただけましたか?
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