どうか、あなたの物語が見つかりますように。
リチャードが、連続で罠を踏み抜いてからはた5回目。
ギルとファタールは何も言わずに付いてきて、アキラは連続で罠を踏み抜く彼女に対して皮肉を言いながら。
ハジメ達はいつものメンツと会話をしていた。
リチャードの方は、怒りに塗れていた。
おかしい、と。
自分は強くて、そして多くの人を率いる長になれるほどの強さを持っていると確信していた。
しかしそう信じていたものの牙城が崩れている。
何よりも、罠に対して警戒しているあまり横から飛んでくる攻撃をアキラに助けられ、
魔物に警戒していたらシアから「そこに罠ありますよっ!?」と言われ、咄嗟に回避。
リーダーとしての面子は、ほぼ粉々になっているからだ。
とにかく腹が立ち、腸が煮えくり返りそうな彼女を毎回煽るように言い放つのはアキラの言葉だ。
「魔法式の罠はハジメ君しか見えないんで無理に感知しなくていいんですけどねぇ」
「ああ、物理式の罠を感知できないくらい何も残念がる必要ないですよ。よく見たら分かりますけどね」
「敵に背中を取られるのは、戦士として大丈夫なんですかね?ああ、不味い時はちゃんと助けますよ」
数々の彼の言葉が、心臓に抉り切るように傷痕が残る。
うるさい、うるさいと思っていても言葉が鮮明に。
彼女の脳内に響きマトモな思考をさせてくれない―――そう思い込む他なかった。
何故思い込むのか?そう、逆にアキラが正面に立った場合話が変わってくるのだ。
「左右から刃ピエロ」
「右斜め下、シアさんが少し歩いたら罠あります」
「物理式トラップあるんで真ん中だけは歩かないでください」
自分では成せない的確な判断を下しながら、実際に本当に成し遂げてしまう。
罠も言ったところにあるし、敵の奇襲攻撃も簡単に退ける。
やる事なす事が全て成功し当たり前かの如く、アキラの行動はとても上手くいく。
強いて問題を上げるなら、アキラが罠や敵が無い場所で勝手に横に飛んだり剣を振り抜いてしまう癖がある事か。
ハジメ曰く「あれはやってるな」と何かを言っていたがリチャードからすれば何も意味はないものだと思っていた。
しかし、その後の動きを見れば間違いなくあれは何かの挙動を先に知っていたと思った。
「前方から岩のトラップ、ピエロが踏みました 」
「は……?」
リチャードが前方に立ち、リーダーをやり初めてはた1時間。そして半分くらいの層を進み始めた頃。
ピエロの挙動が変わったのか、自分からトラップを踏み抜くという謎の行動を取ってトラップを起動させるというあまりにもはた迷惑な行動を先読みしたかのように呟く。
そして、実際に前方から岩石が転がってくるトラップがやって来たのだ。
「ッ……!筑波嶺の、峰より落つる、男女川!決字百首〝突鯉〟!」ズガァンッ!
一気に加速したリチャードの身体から、二つの鉤爪を束ねて突貫する。
見事に岩石のトラップは通り抜け、後ろの仲間を見つめる。
「やったぞ、乗り越え」
「〝茜示剣〟」
しかし、リチャードが安心したのも束の間。連続で落ちてくるような岩石のトラップの音が聞こえた。
リチャードが咄嗟に振り向くと、同時に3つ落ちてきていた。
何故だ、トラップは使い切りでは―――そう思って余裕を見せていたのに、トラップは何度も起動して追い込んできているのだ。
しかしそれに咄嗟に気付いたアキラが、見事な剣戟で岩石を弾きそして切り裂いていく。
そうして駆け足でトラップを掻い潜ったアキラが、左右の通路からいきなり顔を出してきたピエロ2名に奇襲攻撃を仕掛けた。右に剣で、左に蹴りで攻撃して一気にピエロを討伐した。
「ふぅ。トラップが一度きりなんてそんな古典的な事しませんよ、アイツは」
そして、その言葉をまさしく当てるようにトラップが連続で作動することを考慮していなかったリチャードはまたも己の行動で?と苛立ちを覚えた。
先程から自分の無能さを突き付けてくるようなアキラの行動に対して苛立ちを覚えていたのはリチャードであり、そしてリチャードのみであった。
ギルは何も言わず、リチャードの行動を見定めているだけ。
同胞を助けもしない無情な奴だ、そう思う他ないリチャードの考えは完全におかしかった。
「(クソ、何なんだ……どうしてこうも上手くいかない……)」
リチャードのこの危険な思考を、アキラは見切っていた。
だからこそ彼女が自分の行動の問題に気が付けるように敢えてリーダーを促し、失敗すればくどくどとリチャードの問題点を挙げていく。
そうすればきっと彼女は途中で、
その時にやっと気が付くのだ、彼女は自分の行動の危険さと自己中心的な考えがその結果を招いた事を。
「リチャードさん、
そして、その為ならどんなに酷い人間にでもなってやろうというアキラから、容赦のない言葉のナイフを投擲される。
実際失敗の連続が続き集中力が散漫してきているリチャードは、特にアキラの発言に対して怒りを募らせていく。
しかしアキラの発言よりも、彼女はきっと誰か認めてくれているはず、私の力を頼りにしている筈なんだ―――そう思い続けている。
しかしリチャードの思いとは裏腹に、ハジメ組はリチャードに対して懐疑的な目線を向けている。
遂に視線の感情すら読み取らなくなってきた彼女に対して、ハジメも呆れつつあった。
ここまで露骨にしているのに怒りすら感じないのはどうなのだ、と思いながらも彼女を先頭としたライセン大迷宮……元い8時のサーカス会場の攻略は進んでいく。
また、罠を避ける度にミレディ・ライセンの煽りとオズワルドの発言が出てくる出てくる。
〝ぷぷー、焦ってやんの〜、ダサ〜い〟
〝あららぁ、お客様がご自身のハートを何処かに置いて行かれましたぁ〜!命を落としてしまったお客様はきっと心臓が悪い人だったのでしょう!しかしご安心ください!お客様のハートは我々の団員が探して見つけてあげますよっ!〟
〝もしかして、気付かなかった〜?ぺちゃんこになっちゃったかも?まぁそんな事ないよねぇ、ここに来れるんだからそんなミスするなんてバカのする事だもんねぇ〜クスクス〟
〝頭上注意ですよぉお客様!我々の団員が仕込んだ天井からのビックリ攻撃は喰らってしまえば漫画みたいにペラペラになったりしませんからねぇ〜!ああ、もうなってしまったお客様は後で私の団員が回収致しますからねぇ!〟
精神的に追い込んでくるのは、何もアキラだけではなかった。
オズワルドやミレディ・ライセンの煽りは、何人かの頭に血管を浮かばせたが特にそれが酷いのがリチャードだった。
リチャードが抱えた怒りは、迷宮に配置された看板に対して次々とリチャードの攻撃が撃ち込まれ破壊された。
「はぁっ、はぁ……!」
「大丈夫ですか?そこで体力を使ってもいいんですか?」
「黙れ!!!」
キン、と響く叫び声にも似た怒りの声が迷宮の通路に響きその声にシアがうっと耳を抑えながら表情を曇らせる。それに気付いたリチャードは、歯噛みしながらアキラにぶつけるつもりだった怒りをまた撤回して進んでいく。
最早罠や迷宮の進行よりも怒りをどう晴らすのかという事しか頭の中にない彼女にとって、アキラの発言や迷宮の創造主のミレディ、そしてオズワルドの発言に対しての怒りのぶつける場を探す事だけが生きがいになっていた。
「(私は、ここで倒れていい存在じゃないんだ!
ここで迷宮を攻略し、あのピエロを倒して強くなれるんだ!
私が強ければ誰にも舐められることはない、あの男の発言も全部撤回させてやる!)」
そうして、彼女にとっての一番の難所が現れた。
―――――――――――――――――――――――――
僕達が到着した場所は、長方形型の空間が先に広がる部屋だった。
左右の壁一面には甲冑を着こなした甲冑騎士達が大量に大剣と盾を構え、いかにも動き出しかねないという形だった。
奥の方には荘厳な扉があり、扉の前の中心部の方には菱形の黄色の水晶が配置されていた。
ここまでの大所帯、集団戦はそれぞれ個人で出来る。しかし一番の心配は個人での戦闘よりも、爆弾の様に最早制御が効かなくなったリチャードの方だった。
「いかにもって扉―――」
「私が行く!」ダァッ!
「って!」
ハジメ君が扉を見つめながら、何が起きるかを考えていた時にはとっくにリチャードが飛び出していた。
身体強化から放たれる加速した身体能力で、中央にある菱形の結晶を手に取った瞬間。
ガコン!という音と共に、一斉に甲冑騎士達は起動した。恐らくゴーレムとやらだろう。
僕が数える限り総数五十。そして何より、あの黄色の結晶体から魔力の反応がある。あの扉からもだ。
つまるところあの扉は
しっかりと謎解きして開けるという、切迫した時間と抑えてくれる仲間の為に魔法を使える者がせっせこやらなければならないものだが……
「天つ風、雲の通ひ路、吹き閉ぢよ!決字百首〝天津乙女〟!」
黄色の結晶を尾で締めながら掴み、リチャードは鉤爪でゴーレム騎士達にぶつかりに行く。
連続で鉤爪の連撃を撃ち込むも全て盾に阻まれ、ガシャガシャと音を立てながら他のゴーレム騎士達が取り囲み、剣で攻撃してくる。
しかし、簡単に当たるはずがない。リチャードは身体能力を強化しながら攻撃出来る強みがある。ゴーレムの隙間という隙間を掻き分けながら、遂に扉まで到着することが出来たリチャード。
しかし彼女もすぐに理解した。
「な―――おい!魔法担当は何をしているっ!!!!」
そうこちらのユエさんと僕を見ながら、怒りを剥き出しにしながら、僕達はゴーレム騎士達に対してゆっくりと対応し始めた。
リチャードが苛立ちを顕にし、結晶を再び尾で掴ませ一気に駆け出したが、ゴーレム騎士も味方には合流させまいとすぐに道を塞いでくる。
「邪魔だぁぁぁぁあ゛!!!!!!かささぎの渡せる橋におく霜の!決字百首〝傘白〟!」ズガァンッ!
『―――!』
ゴーレム騎士の盾や体を足場にして、一気に前に塞がってくるゴーレム騎士を鉤爪を前に束ねて槍のようにゴーレム騎士の体を貫きながら見事な速度で僕達の所まで戻ってきた。
「おい!援護しろ!」
「援護ですか。今から僕達を連れてあそこまでですか?」
「当たり前だろうがっ!迷宮を攻略したいなら、私に従えっ!」
「まぁ、そこまで急ぐのなら是非どうぞって感じですが……ユエさん、解除は僕とやりますか?」
「…ん、分かった。ただし敵は蹴散らして」
「仰せのままに」サッ
ハジメに目配りして、ユエさんを肩に担いでから一気に駆け出す。
一切リチャードの方を見ず勝手に話を進めていたのが悪かったのか、リチャードは舌打ちしながら身体能力を強化して再び加速して先回りしていく。
あの速度、毎回出せる訳じゃない。死に物狂いで出している様なものだ。きっと何処かで体にガタが来るだろう。
「ユエさん、揺れます!」
「…ん!」
「〝茜示剣〟」
ゴーレム騎士はバラバラの動き方をする。しかし、人を守りながら攻撃するのに一番適している剣技―――そう、サルヴァドールさんの『夜明之剣』。
夜の間だけは守備力と速度が上がる。それも朝日が出ている時のステータス全強化よりも更に速度が出る。
更にここで、普段の封印を解除する。
「〝誓約〟……汝、此之を十刻の間守護する誓いを立てる。そして十刻の間まで我が封印を解く」
承諾された様に、胸の方で揺れるペンダントがカウントダウンを数え始める。その間、僕は〝豪脚〟や〝天歩〟で自由自在に歩き、駆け出しながらゴーレム騎士の剣の攻撃や掴み攻撃を回避する。
「〝誓約〟」
そうして、回避している合間の十秒間のカウントダウンが終了して一気に加速する。
ゴーレム騎士達は最早追いつけず、簡単に僕達は扉の方に到着した。
「おいっ!早くこの扉を解錠しろ!」
「…ん、三つの鍵穴があるから…この結晶を三つに分解する必要がある。ここは魔力が練りにくいから、時間は掛かる」
「っっっ……とっととしろっ!」
「イライラしても何も起きませんよ」
「うるさいっ!とっととやれ!二人がかりでだ!」
そう言ってゴーレム騎士達の方に飛んでいくリチャードの姿は最早醜い獣そのものだった。
ここまで、己の感情に塗れた獣は果たしていただろうか。人間という
縦横無尽に繰り放つ暴力の様な攻撃がゴーレム騎士を破壊しながらその破片を周りに味方がいると知らずに散らしていく!
「…あ!」
「危ない!」ガァンッ!
もちろん、それはユエさんの方向に飛んでくることもあるのだが。
〝ディアモンド〟で防いでなければ本当に危なかった、というよりハジメ君がブチ切れてリチャードを殺しかねない。
「大丈夫ですか?」
「ん…大丈夫。ありがとう」
「あなたは御守りしますので、その間にしっかり解除は任せましたよ。どうせ結果は見えてますから」
そう言いながら、どんどんと蹴散らされていくゴーレム騎士達。
数がゆっくりとカウントダウンのように減っていく中、ゴーレム騎士達に異変が起きる。
「チッ…!復活しやがって!」
舌打ちする様に呟くリチャードの声と共に、破壊されたゴーレム騎士は簡単に修復された。何かしらの誓約があると感じていたが、特に何もない。
それにしても、この部屋だけオズワルドが手を仕込んだ形跡がない。やはり僕の『あの予想』が当たっているのか?
まぁ、彼女についてきた僕達も否応しなかったのが責められるかもしれないが……それはともかく。
「春過ぎて、夏来にけらしっ、白妙の!決字百首〝春過衣干〟!」
本来では綺麗に跳躍し、一気に鉤爪と脚技で蹴散らす技は最早子供の地団駄のように脚で叩き潰す様な技に変化していた。
それくらいに余裕がなく、実際彼女の肩で息を吐くように疲れ果てていた。
「かはっ、はぁっ、はぁ―――!」ザッ
『―――!』
「っ、しまった―――」
「はぁっ!」ダァンッ!
「ふんっ!」
しかし、奥の方で戦ってくれていたハジメ君、ギル達も遂に追い付いてきた。
ドンナー&シュラークの威力は落ちているものの、それでもハジメ君のアーティファクトの力は相当に強い。自前の身体能力が制限された訳ではないので、蹴散らしは出来る。
「ぐっ……」
「そろそろ解除されるから、早く先に!」
「分かって、いるっ……!」ダァッ!
ハジメ君のドンナーとシュラークの銃撃に、ゴーレム騎士達が怯みながら僕達の方にリチャードが到着した。
そしてそのタイミングでユエさんからGOサインが届いたので、ゴーレム達が扉を開けさせまいと接近してくる瞬間。
この瞬間を待っていた。
「ファタール、頼むよ」
「はい……〝宣誓〟。ゴーレム達を打ち倒す為、我が魂の主様の封印を一時的に解除します。
〝魔力吸収〟を貸し出します。契約」
「完了」
体が一気にふっ、と軽くなる。
そうして〝ナハト〟と〝スティグマ〟を抜剣して、次々と腕をこちらに向けて掴もうとしてくるゴーレム達の体を利用して一気に駆けながら引き裂いていく。
更にゴーレム達を倒すと〝魔力吸収〟でゴーレム達を動かしている魔力を吸収していく。
「〝茜示剣〟!」
詠唱破棄した魔法剣の剣戟がゴーレム達五十体を見事に引き裂きながら、ゴーレム達は半身を切り裂かれ、核を破壊され更に粉々にされ……完全に打ち倒すことが出来た。
「はい、終わりっと」フゥ
「…ん、こっちも終わった」
肩に剣を置きながら、僕はユエさんの方に小走りで向かう。
遂に奥の部屋の扉が開き、何より一番に向かう僕らより先にリチャードが先に向かった。
「は、はははは!遂に到着した!見ろ、私は間違っていなかった!私の力で、この部屋に辿り着いたんだ!」
「あーもう先に行っちゃって……」
そう言って辿り着いた部屋は、特に何か目立った物もないただの四角い部屋だった。寧ろ質素過ぎて何かの罠かと思うほど。
しかし、ハジメ君の方を見ると『ある予想』が当たっているかの如く頷いてきた。やはりか。
「どうした!お前ら、私に何か言う事は―――」
ガコン!という音と共に、部屋の扉が閉まると一気に部屋がエレベーターのように移動していく。
丁度部屋には全員が入りきり、見事に全員が移動する部屋に連れられる形になった。
重力下の影響を受けた全メンバーは、すぐに何かに掴まるように各々が身を守り出す。
リチャードはすぐに鉤爪を大きくし、床に引っ掛けて耐える道を選び、僕はファタールに抱き上げて骨の結界を作り上げた。
ギルさんは多分、リチャードさんと同じようにしているとは思うが、ハジメ君達は分からない。だがきっと大丈夫だろう。
そうして、しばらく体が揺られながら―――何処に向かうか分からないこの部屋の移動を耐え抜くのだった。
―――――――――――――――――――――――――
そうして止まった部屋の移動は、僕達が出てくるきっかけとなった。
骨の結界から飛び出ると共に、周りを見渡すが特に入ってきた時と変わらない。いの一番に飛び出したリチャードが扉をぶち破ってすぐに外に出たので、僕達も周囲の警戒をしながら部屋から出て盾を構える。
しかし特に何もおらず、逆に夜風が僕達の背中をくすぐった。
そうして、僕は「ああ、やっぱりね」と思いながらファタールを降ろす。
「いたた……あれ?なんか見覚えあるなぁここ」
「……物凄くある。特にあの石版」
ハジメ君も違和感に気付き、そうしてギルも出てくるとはぁとため息を付きながら―――僕は〝ライセン大迷宮〟の初期の場所に帰ってきたことを憂いながら……入口の最初の通路で遂に緊張と感情が事切れたように膝をついたリチャードを見つめる。
「最初の部屋、みたいだね」
「あ…………あ…………」
「ずっとおかしいと思わなかったの?確かに迷宮はヒントなんてくれないけど周りにヒントはあるんだから……気付いてると思ってたよ」
「ふ、ふざけるなっ!これは、罠だ!」
「罠ですか」
見苦しい言い訳を続けるリチャードに、僕は現実を教える様にしゃがみこんでこう伝えた。
「君が導いたんだよ」
「違う!」
「いいや?だって、今のこの部隊の隊長は君じゃないか。
僕はあくまで、君がミスをした時にそこはこうなんじゃないのと指摘しただけで君の補佐でも何でもない。
君が、リチャードが自分で選んであの場所に到着してここに来る事になった」
「違うって、言ってるだろ!」フォンッ!
「っと」
すぐに横から首を飛ばしかねないような攻撃が飛んできて、回避した。
本当に味方なのか怪しいくらいの一撃が飛んでくるので、油断も隙もない。一応言うが、彼女は味方であり共に戦う仲間である。
「違うならこの結果はなんだい?君がそう判断して辿り着いた場所に何が間違っているって言うの?」
「お前が、お前達が!私に何も言わなかったからだ!お前達が私に情報を伝えていればこんな事にはならなかったんだ!」
「伝えてたぞ」
しかし、リチャードのその発言はハジメ君の言葉によって崩れた。
「…………は?」
「伝えてた。寧ろ何度も伝えてたのに、リチャードさん……聞こえてないフリしてなかった?」
「ち、ちが」
「俺も聞いていた」
「ぎ、ギル様まで!」
「様をつけるな。リチャード、お前はあの場所に辿り着くまで自暴自棄になっていたのを覚えていなかったのか?」
「は―――」
リチャードもようやく、自分のやっていた行動に心当たりが出始めた。
ワナワナと震えながら両手で自分を抱き締めながら「違う、間違ってなんか」とリチャードは繰り返す様に呟き始めた。
僕は溜息をつきながら、わざわざリチャードの正面に立ってしゃがみ込む。
「リチャード。僕は君に気付いて欲しかったんだ。
迷宮は一人で攻略する事も出来る。それ相応の判断力や状況の対応力、スキルの取捨選択や自分の状態管理から冷静でいられるような精神力があれば一人でも攻略が出来る。
けどリチャードにはそれがない。だから迷宮攻略なんて一人でするものじゃないし、仲間を頼るべきなんだ。
そして、これは大迷宮でも言えることだけど―――こんな過酷な迷宮に一人で挑めば命の危険は計り知れない。それを守ってくれるのが仲間なんだ。
そしてその仲間の団結力や、その死線を乗り越え他人に背中を任せる信頼を築き、どんな状況でも共に乗り越える精神力を創る為にこの大迷宮を作ったと思ってる。
だからこそ、頼って欲しいんだ。僕達を」
「………………」
「無理にとは言わない、僕は―――本気だ」
リチャードが顔を上げる。その視線は……
「ふざけるなっっっっ!!!!!」
拒絶の目線だった。その瞬間、僕の体から鮮血が舞い散る。
僕の胸を鉤爪の切断痕が入り血が流れ出した。
僕は胸を抑えながら、頭が手で抑えながら怒りを吐き出してくるリチャードを見つめる。
「何が、仲間だ……信頼?団結?知るか!そんなものは、そんなものは強さに必要ない!
強さに必要なのは圧倒的力だ!仲間もそんなもの必要ない、私をどうせ見下して楽しんでいるんだろ!そう言って私を陥れて、結局どいつもこいつも私を舐めてかかってくる!
ああ、そうだ!結局お前も、ギルも亜人共も!私をイラつかせてくる!
お前らが、お前達さえいなければこの大迷宮を突破して、私は最強に―――!」
「黙りなさい」
しかし、それ以上の言葉は続かなかった。
滅多に、滅多に感情を見せないファタールが脚に骨を纏わせ、思い切りリチャードの首筋を踵落としで蹴り抜いた。
地面に軽く跳ねるように叩き付けられるリチャードを見ながら、すぐに僕に近付いてくるファタールに介抱された。
「ごめん、まさか激昂するとは思わなかったよ」
「申し訳ありません、私がいながらっ……」
「いや、大丈夫だからそんなに心配しなくていいって」
あーだこーだと駄々をこねる様に言い訳しつつも、ファタールの焦り具合は僕に対して信頼を持ってくれている証だった。
少し嬉しく思っていると、ギルがリチャードを担いだ。
「すまんアキラ。やはりこいつは大迷宮に相応しくない」
「……いや、僕の判断ミスだよ。もう少し正気に戻す為のいい方法があったかもしれないんだけど」
「しかし、お前が傷付いては元も子もないだろう」
「……それは」
「安心しろ。お前達の迷宮攻略はしっかりと手伝う。もうこいつにパーティーは動かさせん。
だから、俺の事は気にせず迷宮を攻略してくれ」
「……うん。ありがとうギル」
そう言ってギルに手を差し伸べられ、僕は改めて……ハジメ君達と共にライセン大迷宮の本来の攻略を開始した。
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