ありふれた烙印で異世界再燃   作:黒霧 氷

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どうか、あなたの物語が見つかりますように。


※投稿されていたものが書き途中であったものであったことを確認し、削除致しました。大変申し訳ありませんでした。





Ep.24 護衛/苦労するお守り

 

 

 

ブルックの街から中立商業都市フューレンまでは馬車で約六日の距離を馬車で向かう。

僕達は、フューレンまで三日の位置まで来ていた。道程はあと半分である。ここまで特に何事もなく順調に進んで来た。といっても後ろ側の護衛だ。のほほんとしている感じが否めないし、これって護衛なんだろうか……とも思う。

今日も特に何事もなく、僕達は護衛の時間を終えて夕飯を囲むことになった。そして冒険者達の食事が自腹であると知った僕が料理を担当することにした。

大勢に作るのは結構大変だったが、生成魔法で作った調理器具達のお陰で料理面に問題はなかった。

しかしまさか、冒険者の食事事情がこうだと憐れみを感じてくる。そこは冒険者らしいとも思うが……フィクサー業で多くの人に助けられた僕としては、出来るなら多くの人を助けてあげたい。

先人がそうしたように、僕もそうする。

今回の食事のメニューはハジメ君と一緒に狩猟したウサギ?みたいなの(もう天歩ウサギみたいなのは勘弁して欲しいけど)の獣肉を使ったシチューとパンとなった。

 

 

「かぁぁあっ〜、うんめぇ!本当に美味ぇよぉ!」

「こんなに上手く作れるのか……!?紅茶の貴公子は料理もできるのか……」

「なんだか負けた気がするわねぇ〜」

「はふっはふっ、熱いのに止まらねぇ!」

 

「ゆっくり食べてくださいねー」

 

 

調理したシチューモドキを次々と胃に収めていく冒険者達を見ながら、初日に彼等が干し肉やカンパンのような携帯食をもそもそ食べていあとは思えない。

寧ろあの様な食事で済ませるのは、やはり生きていくには武器のメンテナンスから道具を買い集め、そして地図や情報も買う必要がある冒険者としては食事は必要最低限……というものを感じさせていた。

ハジメ君が僕に料理を頼んで、そこからコーンポタージュモドキや魚の串焼きからうどんモドキを作り始めた頃から冒険者達の眼が獲物を狙う目になっていたのは言うまでもなかった。

最終的に、その視線にうんざりしつつも可哀想だと思ったシアさんの提案で皆に振る舞うことになった。

僕としてはボランティアの炊き出しのような事をしているだけだったが、彼らもお金を払うと言い出してしまい最終的に料理を提供するシェフのようになってしまった。

 

 

「(ここまで喜んでもらえると、やっぱり料理って覚えておいてよかったなぁ)」

 

 

当初の自分としては、これを覚えても長くは生きれないのに……とは思っていた。

しかしこの技術が、実際に味のバリエーションが少ない奈落の魔物の時に生きた。

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それを痛感した後にこうして、冒険者達からの信頼を得ることが出来た。無駄にはなってないし、彼らの信頼というお金でも買えないものを手に入れている。

こうして結果として出てくれるのは、最も嬉しいものだ。

 

 

「おかわりはあるので幾らでも言ってくださいね」

 

 

 

「「「「「ゴチになります、兄貴ぃーっ!!!!!」」」」」

 

 

今日の夜も、まだまだ騒がしい。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

あれから二日が経ち。残す道程があと一日に迫った頃……

遂にのどかな旅路を壊す無粋な襲撃者が現れた。

敵襲に気が付いたのはシアさんで、街道沿いの森の方へウサミミを向けピコピコと動かしていたのでその表情を察知してすぐにリチャードとファタールに向けて警戒するようにを命じた。

 

 

 

「敵襲です!数は百以上、森の中から!」

 

 

 

その警告を聞いた時、冒険者達の間に一気に緊張が走った

現在通っている街道は、森に隣接してはいるが其処まで危険な場所ではないそうだ。

まぁ……何せ、大陸一の商業都市へのルートだ。道中の安全はそれなりに確保されている中で、これだ。

魔物に遭遇した、という話はよく聞くが普通でも二十体前後、多くても四十体くらいが限度。間引きされているとは言っても。

つまり百体はおかしい。だからこそ空気がピリピリするし冷や汗を流す冒険者もいるくらいに。

 

 

 

「くそっ、百以上だと!?最近襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか?ったく、街道の異変くらい調査しとけっての!」

 

 

 

護衛隊のリーダーがそう悪態をつきながら苦い表情を浮かべていた。

商隊の護衛は、全部で十二人。僕らを入れても十八人だ。この人数で、商隊と荷物を無傷での運搬はかなり難しい。

単純に物量で押し切られればそれまで、そしてこれが魔物の異常な個体などであれば尚更である。

護衛隊のリーダーが爪を噛みながら「クソ、こうなったら俺らだけでもいいから商隊だけは……」と口ずさむ所を聞き、僕はハジメ君と顔を合わせ、ハジメ君はドンナーとシュラークを取り出していた。

 

 

 

「迷ってるなら、僕らが殺ろうか?」

「えっ?」

 

 

 

まるでちょっとした買い物にでも行ってこようか?とでも言うような気軽い口調で信じられない提案を出したのは紛れもなくハジメ君だ。護衛隊のリーダーは、ハジメの提案の意味が分からずつい間抜けな声で聞き返していた。

まぁ、いきなりあんな解答を出してきたら素っ頓狂な様子になってもおかしくない。

 

 

 

「もう1回言っておきますよ。迷ってるなら、僕らがやりますよ?」

「あ、ああ……いや、それは確かに、このままでは商隊を無傷で守るのは難しいのは重々承知なのだが……えっと、出来るのか?このあたりに出現する魔物はさほど強いという訳ではないが数は相当な物だぞ……」

「数なんて問題ないですよ。じゃ、ユエとアキラに任せるよ」

 

 

 

ハジメ君はそう言って、すぐ横に佇むユエさんの肩にポンッと手を置いた。僕に関しては目線で「頼むよ」と伝えられている気がした。

ユエさんの方は、特に気負った様子も見せずに任せろと言わんばかりに、「ん…」と返事をしていた。

まぁここまで言われてしまったら、期待に応えるしかない。

それに、護衛隊の人達がユエさんや僕の話を知っているにしろ知らないにしろ僕達がそれなりの修羅場を乗り越えてるのは雰囲気で分かる筈だ。

……が、特に顔を合わせた時に何か思われた訳でもないので意外とそこまでかもしれない。

 

 

「わかった。初撃はユエちゃん、アキラ君に任せよう。

もし仮に殲滅できなくとも、数を相当数減らしてくれるなら問題ない。我々の魔法で更に減らし、最後は直接叩けばいい。皆、今の話は聞いたな!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 

護衛隊のリーダーの判断に他の冒険者達が気迫を込めた声で応えた。

どうやら、ユエさんと僕の二人で殲滅できるという話はあまり信じられていないらしい。

ハジメ君は内心「果たしてどうなんだろうねぇ」とか考えているに違いない。見れば分かると知れば分かるは相当に違うからこそ、百体以上の魔物を一撃で殲滅できるような魔法使いと剣士なんて金級の冒険者がやるような所業、青級の冒険者が出来るのか?との判断をされても仕方ないかと肩を竦めながら〝スティグマ〟を抜く。

 

 

 

「ユエ、一応詠唱しておいた方がいいよ。アキラもね?後々面倒だし」

「……詠唱……詠唱?」

「もしかして知らない?」

「ん……大丈夫、問題ない」

「何も問題はないと思いますよ」

「そのネタ……まぁ大丈夫か」

「接敵、十秒前です!」

 

 

 

周囲に追及されてしまえば「なんでここに青級って偽装してる奴らがいるんだ!?」と思われかねないと判断したハジメ君がユエさんと僕に詠唱をしておくよう告げていた。

ユエさんの方は、詠唱なんてすっぽかせるくらいの無詠唱使いだったので頭の上に〝?〟を浮かべていた。

まぁ分からなかったら小声で唱えていたという事にでもしておけば大した問題ではないのだが……

 

 

 

「彼の者、常闇に紅き光をもたらさん、

古の牢獄を打ち砕き、

障碍の尽くを退けん、

最強の片割れたるこの力、

彼の者と共にありて……天すら呑み込む光となれ、〝雷龍〟」

 

「ああ、太陽よ。何故お前はその光を散漫させながら我らが目を潰さんとするのか。

ならばこの光を、陽射しを以て夕陽の如く光を落とそう。

この憂いの感情を見つめる眼差しの様に、

次こそは目を突き抜けぬ光と祈りながら……〝夕憂(ゆううれ)〟」

 

 

 

僕とユエさんの魔法の詠唱が終わったその瞬間、詠唱の途中から立ち込めた暗雲からは閃光が迸っていた。それらが集まったその姿は、蛇を彷彿とさせる東洋の龍だった。

かと言って僕の方は、まるで太陽の様な火球がオレンジ色に染まりながらその光を刃の様に展開していた。

太陽の光と雷雲が、この世界に顕現しているように見えてもおかしくはなかった。

 

 

 

「な、なんだあれは……」

 

 

 

それは誰が何に対して呟いた言葉だったか。

目の前に魔物の群れがいるというのに、誰もが世界に天幕が掛けられたように天を仰ぎ激しく放電する雷龍と淡い光を放つ太陽のに対して、護衛隊にいた魔法に精通しているはずの冒険者達も見たことも聞いたこともない魔法に対して目を見開きながらその光景に口をあんぐりと開いて驚愕の表情を浮かべていた。

そして、それは何も護衛隊だけのことではなかった。

森の中から獲物を喰らい殺さんと殺意を抱いてやって来た魔物達でさえも、商隊と森の中間あたりの場所で立ち止まり、畝りながら天より自分達を睥睨する巨大な雷龍と、慈悲のように降り注がせてくる光を放つ太陽に対してはまるで蛇に睨まれたカエルの如く、光に目を取られ眩ませる人の様に射竦められて硬直していたのだ。

ユエさんが指を動かし、魔法を動かすと同時に僕も剣を振り下ろして〝夕憂〟と〝雷龍〟の猛抗が地面に振り落ちた。

 

 

 

『ゴァァァァァァァッ゛!!!!』

 

 

 

「うぉわっ!?」

「どわぁあっ!?」

「ぎゃぁあああ!!」

 

 

 

雷龍が、凄まじい轟音を迸らせながら顎を開きながら何とその場にいた魔物を、一瞬の抵抗も許されずに滅却され消えていく。

ユエさんが〝雷龍〟を指揮しながらそれに従い、雷龍は魔物達の周囲をとぐろを巻いて包囲した。

あの攻撃で恐れを成して逃亡していた魔物が突然眼前に現れた雷龍の肉体にぶつかった瞬間、ジッと焦げた音と共に消え失せた。

逃げ場を失くした魔物達の頭上では、雷撃の轟音と太陽の陽射しが鋭い剣となって魔物達に対して降り注いだ。

雷龍が残った魔物を全て飲み込む勢いで周囲全体で暴れ散らかしながら、太陽の光は止まらずに敵を射止めながら最終的に残ったのは焼け焦げた匂いと敵がいたという事を教えてくれる塵程度だった。

……やらかしたと今でも思う。流石に加減をするつもりだったがユエさんに加減という文字は頭の中にない。そもそも加減は日本語である。

 

 

 

「……ん、やりすぎた」

「あの魔法、僕知らないんだけど……」

「ユエさんのオリジナルらしいですよ?ハジメさんから聞いた龍の話と例の魔法を組み合わせたものらしいです」

「僕のもそうですね」

 

 

 

 

無表情ながらドヤ顔している雰囲気を醸し出すユエさんがハジメ君に詠唱の意味とか何とかを教えている。

僕の魔法は、〝光剣〟と重力魔法の複合魔法だ。魔剣士は基本、剣と属性に関する魔法しか使えない。故に魔法の解釈をねじ曲げる事で〝光剣〟の姿を太陽にし、陽射しを斬撃として周囲に振り落とすように重力魔法で放つことによって太陽から降り注ぐ光や紫外線、諸々の様に再現したのだ。

こういう魔法は詠唱も魔法自体もオリジナルとなる、自分だけの魔法と言えば憧れるがそこまで作り込まないと行けないのは面倒くさい。どうせなら、使いやすくて分かりやすい魔法の方が僕は好きではある。

 

 

 

焼け爛れた大地を呆然と見ていた冒険者達 が我に返り始め、その視線と関心は、猛烈な勢いで振り向き僕達に集まり、最終的にはざわめきながら冒険者達の困惑が興味に爆発した。

 

 

 

「おいおいおいおいおいっ、何なのあれ!?何なんですか、あれはっ!?」

「へ、変な生き物と太陽が……空に、空に……あっ、夢か……?」

「へへ、俺、町についたら結婚するんだ……!」

「動揺してるのは分かったから落ち着け!」

「魔法だって生きてるんだ!変な生き物になっても、太陽が降りてきてもおかしくないだろ!だから俺はおかしくない!」

「いや、魔法に生きてる死んでるは関係ないからな!?明らかに異常事態だぞ!?」

 

 

「「「「はははははは!!!!!」」」」

 

 

ユエさんと僕の魔法が衝撃的過ぎて、冒険者達は感覚が壊れ始めていた。狂気的な笑みを浮かべている者もいたが、仕方ない。

既存の魔法に何らかの生き物を形取ったものは存在しない。しかもあれは中国地方の〝龍〟をモチーフにしている。

それを自在に操る魔法使いって何、しかも見た事ない魔法を……ただの旅の魔法使いがだ。

「ユエさま万歳!」とか言い出した冒険者達の中で唯一まともな護衛隊のリーダーは、そんな壊れかけた仲間達を見て盛大に溜息を吐くと僕達の元へやって来た。

 

 

 

「はぁ……まずは、礼を言おう。ユエちゃんとアキラ君のおかげで被害無くして切り抜けることが出来た」

「今は仕事仲間ですから。礼なんて不要ですよ?」

「……ん、仕事しただけ」

「はは、そうか……でだ。さっきのは何だったんだ?」

 

 

 

護衛隊のリーダーが困惑を隠せずに尋ねる。これに関しては最早言い逃れ出来ないだろう。

 

 

 

「……オリジナル」

「上に同じくですね」

「オリジナル!?自分で創った魔法ってことか……上級魔法……いや、もしかしたら最上級を!?」

「…創ってはいない。複合魔法」

「複合魔法、そうか……だが、一体、何と何を組み合わせればあんな魔法が……」

「……それは秘密」

「ノーコメントで」

「…………それは、まぁ、そうか。切り札のやり方を簡単に明かす冒険者などいないだろう。すまない、変な事を聞いたな」

 

 

 

深い溜息と共に、追及を諦めた護衛隊のリーダー。

ベテランの冒険者なだけに暗黙のルールには敏感らしい。

肩を竦めながら、壊れた仲間を正気に戻しにかかっていった。

なんというか、僕達のせいで敵は撃退出来たのに仲間に対して過大な影響を与えてしまいそれを宥めなければならない彼がとても苦労人に見えた。

最終的に、僕達は他の商隊の人々の畏怖と尊敬の混じった視線をチラチラと受けながらも歩みを再開する事にした。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

僕とユエさんが全ての商隊の人々と冒険者達の度肝を抜いた日以降からは特に何事もなく、僕達は遂に中立商業都市フューレンに到着した。

フューレンの東門には六つの入場受付があるらしく、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。

ハジメ君含め僕達も、その内の一つの列に並んでいた。順番が来るまでは暫く待つ必要が出てきしまった。

馬車の屋根で、ユエさんに膝枕をされながらシアを侍らせながら寝転んでいたハジメ君と周囲を監視する僕とリチャードの元にモットーが下の方にやってきた。

何やら話があるらしく、結構呆れ気味にハジメを見上げるモットーに、ハジメは軽く頷いて屋根から飛び降りてきた。

 

 

 

「まったく豪胆ですな。周囲の目が気になりませんかな?」

 

 

 

モットーの言う周囲の目とは、毎度お馴染みの僕達に対する嫉妬と羨望の目……そしてユエさんシアさんに対する感嘆といやらしさを含んだ目。

それに加えて、今はシアさんやリチャードに対する値踏みするような視線も増え始めた。

流石大都市の玄関口であり、様々な人間が集まる場所ではユエさんもシアさん、リチャードも単純な好色の目だけでなく利益も絡んだ注目を受けている。

なんというか、こういう目線が〝異世界〟である事を知らしめてくれる。目線は目に浮かばせるだけなのにそれを実力行使でやっても金さえ払えば黙った事にさせてくれる。

……あんまり現実世界と変わらなさそうだ。

 

 

「まぁ、煩わしいけどのは本当だけど仕方ないよ。気にするだけ無駄だし」

「やれるもんならやってみろって感じですね」

 

 

そう言って肩を竦める僕らにモットーは苦笑いを浮かべながら、交渉の視線へと変わった。

 

 

「フューレンに入れば更に問題が増えそうですな。やはり、彼女らを売る気はないのですかね……?」

 

 

さりげなくシアさんとリチャードの売買交渉を申し出るモットーさんだったが、僕達の「その話は既に終わりましたよね?」というハジメ君と僕の無言の主張に、両手を上げて降参のポーズを取っていた。

 

 

 

「そんな話をしに来たのなら来なくてもいいですよ。それで、用件は何ですか?」

「いえ、似たようなものですよ。売買交渉でして……貴方の持っているアーティファクト。やはり譲ってはいただけませんか?商会に来ていただければ公証人立会の下、一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いします。

貴方のアーティファクト……特に〝宝物庫〟は、商人にとっては喉から手が出るほど手に入れたいものですからね」

 

 

 

 〝喉から手が出るほど〟そう言いながらもモットーは商人スタイルの笑顔を崩さない。

商人にとって常に頭の痛い懸案事項である商品の安全確実で低コストの大量輸送という問題が一気に解決するというのは、相当に大事件元い世界を揺るがす大事件になる。

〝やはり〟というのはハジメ君が野営中に〝宝物庫〟から色々取り出している光景をモットーさんが何回も見かけていたのだ。その時の表情といい、まるで砂漠を何十日も彷徨い続け死ぬ寸前でオアシスを見つけた遭難者のような表情だったという。

あまりにしつこい交渉にハジメ君が軽く〝威圧〟で殺気を飛ばすと、モットーはうっと軽く引き下がる。しかしそれでも止まらない。

やはり諦めきれないのだろう。

 

 

「何度言われようと、何一つ譲る気はないよ。諦めてくれると身の為になる」

「しかしっ、そのアーティファクトは一個人が持つにはあまりに有用過ぎる!その価値を知った者は理性を効かせられないかもしれませんぞ!?

そうなれば、かなり面倒なことになるでしょう……例えば、彼女達の身にっ「おい」!?」

 

 

 

モットーが、少々、狂的な眼差しでチラリと脅すように屋根の上にいるユエさんとシアさんに視線を向けた瞬間、カチャッと額に冷たくも死の予感を感じさせるものが押し付けられた。壮絶な殺気は放たれているが、周囲は誰も気がついていない。馬車の影ということもあるし、ハジメ君の姿は()()()()()()()。これがオズワルドの一番強い〝幻影〟である。

 

 

 

「それは、宣戦布告と受け取っていいんだよね?」カチ……

 

 

 

静かな声音ではあるが、されど絶対零度の如き冷たい声音で硬直するモットーの眼を覗き込むハジメ君の隻眼は……まるで死神のようだ。モットーが全身を震わせながら、それでも譲れないのか立っている。

 

 

 

「ち……違います!どうかっ、落ち着いてくださいっ……!あなたが……あまり隠そうとしておられない、のでっ、そういうこともある……と!ただそれだけで……っ!」

 

 

 

モットーさんの言う通り、ハジメ君はアーティファクトや実力をそこまで真剣に隠すつもりはなない。

少しの配慮で面倒事を避けられるならユエに詠唱させたようなこともするが逆に言えば、少しの配慮が必要ないなら隠すつもりはない。

ハジメは君はこの世界に対し〝自分の目的を邪魔するのなら遠慮しない〟と決めているのだ。

道を阻むなら、全てを薙ぎ倒してでも。

その覚悟がある。そしてそれは僕も同じだ。

 

 

 

「そうか、ならそういう事にしておこうかな」

 

 

 

そう呟いて、ドンナーをホルスターに収めて殺気を解くハジメ君を横目で見つめる。

モットーはその場に崩れ落ちていた。大量の汗を流し、肩で息をしている。

 

 

 

「別にモットーさんが何をしようとモットーさんの勝手だけど…ただ、敵意や悪意、殺意をもって僕らの前に立ちはだかるのなら……生き残れるとは思わない方がいいね。

国だろうが世界だろうが関係ない。全てぶち落とす」

「はぁっ、はぁっ……!

……なるほど。割に合わない取引でした、な」

 

 

青ざめた表情ではあるが、気さくに返すモットーは状況をよく理解している優秀な商人なのがここまでで理解できた。

それに道中の商隊員とのやりとりから見てもかなり慕われているようであった。

本来はここまで強硬な姿勢を取ることはないのかもしれないが、そんな彼を狂わせるほどの魅力が、ハジメ君のアーティファクトにあったということだ。

いや……寧ろ商人としてまだ交渉する余裕があっただけ彼はまだ狂っていなかったという事だ。

 

 

 

「ま、今回は見逃すよ。次がないといいけどね?」

「全くですな……私も、耄碌したものだ。欲に目がくらんで竜の尻を蹴り飛ばすとは……」

 

 

〝竜の尻を蹴り飛ばす〟とはこの世界の(ことわざ)で、竜人族を指す言葉である。ハジメ君はハイリヒ王国の図書館で知っていたし僕もそこを利用しているので知っていた。

竜人族は竜に形態を変え、その全身を覆う龍鱗は鉄壁の防御力を誇るが、目や口内を除けば唯一臀部の付近に龍鱗がなく弱点となっている。防御力の強みはあれども竜族は眠りが深く、一度眠ると余程のことがない限り起きないのだが弱点の臀部を刺激されると一発で目を覚まし烈火の如く怒り狂うという。

昔何を思ったのかそれをやり遂げて叩き潰された阿呆がいたとか。そこからちなんで……手を出さなければ無害な相手にわざわざ手を出して返り討ちに遭う愚か者という意味で伝わるようになったと言われている。

 

 

 

 

「……ユエ殿のあの魔法も竜を模したものでしたな?

詫びと言ってはなんですが……あれが竜を模した魔法であるとはあまり知られぬがいいでしょう。

竜人族は教会からはよく思われていませんから……まぁ竜というより蛇という方が近いので大丈夫でしょうが。

アキラ殿は、複合魔法を使う際はご注意を」

 

 

 

何とか立ち上がったモットーは、服の乱れを手で直しながらハジメ君と僕に忠告をしていた。中々豪胆な人物である。

この瞬間、場合によっては殺されていたかもしれないのにその相手と普通に会話できるというのは並みの神経ではない。

 

 

 

「そうなんですか?」

「ええ、人にも魔物にも成れるその存在は恐ろしく強い。

そしてどの神も信仰していなかった不信心者なのです。

これだけあれば教会の権威主義者には面白くない存在というのも頷けるでしょう」

「なるほど。というか随分ないい様ですね。不信心者と思われますけど?」

「私が信仰しているのは神であって……権威をかさに着る〝人〟ではありませんよ。人は〝客〟ですから」

「ああ……何となく、あなたの事が分かってきましたよ。

根っからの商人ですね、あなたは。これ見て暴走するのも頷けてきました」

 

 

 

そう言って手元の指輪を弄るハジメ君に、バツの悪そうな表情と誇らしげな表情が実に複雑な表情をするモットー。先ほどの血走って狂いそうな表情はもう見受けない。

ハジメ君の殺気に今度こそ冷たい水を全身に浴びせられた気持ちなのだろう。

 

 

 

「とんだ失態を晒しましたが……ご入り用の際は我が商会を是非ご贔屓にしてくれると。ハジメ殿、アキラ殿は普通の冒険者とは違うとお見受けしました。特異な人間とは繋がりを持っておきたいので、それなりに勉強させてもらいますよ」

「……ホント、商売魂が逞しいよ。その時は頼らせてもらうかな」

「ご忠告、ありがとうございます」

 

 

 

ハジメ君から呆れた視線を向けられながら、「では、失礼しました」と踵を返し前列へ戻っていくモットーを見つめながら僕達は肩を竦めた。

ちなみにハジメ君には「荒事しないでね」と警告しておいた。ハジメ君がバツの悪そうな顔で「ご、ごめん!」と返してくれたのでまぁ目を瞑ることにはしたが……

ユエさんやシアさん、リチャードには未だ……さっきより強い視線が集まっている。モットーさんの背中を目線で追えば、さっそく何処ぞの商人風の男がユエ達を指差しながら何かを話しかけている。興味本位な気持ちで立ち寄ったフューレンではあるが、僕達が思っていた以上に波乱が待っていそうだと感じながら進んでいく列に進んでいくのだった。

 

 

 

 







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フィリップ君のヒロイン、誰にするか?

  • 八重樫雫
  • 園部優花
  • その他原作組女子
  • 都市の女性組
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