どうか、あなたの物語が見つかりますように。
※Library of ruinaの本編のネタバレ注意。
数日が経ち、遂に懸念していた『オルクス大迷宮』に向かっていく勇者御一行と僕達。
前回のような事件は、その後に起きることはなくなった。ただ、檜山君が僕を睨みつけてくるということ以外は。
おそらく目の敵として思われていてもおかしくはない気がする。
そんな事はさておき僕はあれから少しは成長した。地道な訓練が今の自分を作り出すと言ってもいい……2Lvしか上がっていないけど。
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相馬 アキラ 17歳 男 レベル:7
天職:魔剣士
筋力:95
体力:70
耐性:70
敏捷:95
魔力:120
魔耐:120
技能:剣術・属性強化・治癒・耐久・言語理解
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相変わらずスキルは増えた気にならないが、数値が増えた分だけ強くなっていると感じる。
こういう目に見えた成長が、とても心にとって嬉しくなる。
結果は何もなし、変わらずなんていう悲しい話も出てくるかもしれないが結局は何処かで成長が止まってしまうものだ。
そんな中、僕達は『オルクス大迷宮』の内部へと入っていく。外の方に屋台があったが、お腹が空いている訳でもなくあまり食事のことは考えたくなかった。
集中力は、ふとした瞬間に切れる。例え何処まで油断ならない敵が相手でも、実力があれば大抵は何とかなる。
しかし……寝首を掻かれたり、何か自分が理解できない状況に陥るとそれは一変する。
僕自身もその後者の例で、図書館の性質を理解できずそのまま逃げ出した。
そんな自分に、改めて言い聞かせるように言葉を刻む。
「(恐怖とは過去からやってくる。過去に立ち向かわなきゃ、ずっと震えているままなんだ。
今度こそ自分の力で、乗り越えてやる……!)」グッ
そんな決意を固めた言葉で己を奮い立たせていると、メルド団長が手を挙げて前方にいる謎の存在に対して言い聞かせてくる。
「よし!光輝達は前に出て、他は下がれ!もちろん、後からお前達も前に出させる。準備しておくように!
そして、光輝達の前にいるあの魔物はラットマンだ。大した敵じゃない、冷静に倒せ!」
そうして、僕は後ろ側からラットマンという魔物を見つける。
灰色の獣毛に赤黒い瞳の、上半身の筋肉がパンプアップしたネズミ型の魔物だ。
流石に、光輝君達のパーティーにいる八重樫さんもドン引きしていた。いや、女性だから当たり前ではあるんだけど……
ユナさんはああいう化け物に対して、一人で果敢に立ち向かえるからこそ……とても強いし、頼り甲斐になる。
そう思うと、ユナさんのお小言も懐かしい気がしてきた。
そんな思い出に浸っている合間に、光輝君、龍太郎君、八重樫さんが前でラットマン達と迎撃している合間に、後ろの白崎かん、『中村恵里』さん、『谷口鈴』さんが詠唱してサポートから魔法攻撃を行う。
ここで、今迎撃を行っている三人の職業を改めて見てみよう。
まず、前線を張っている天之河君は『勇者』。
身体能力を劇的に高める『限界突破』や『全属性適性』『全属性耐性』などと言った様々な効果を持つ、リーダーに相応しい能力だ。
……という割には、周囲をサポートする能力は魔力感知や先読み、自前の魔法ぐらいしかない。
詰まるところ、一人で戦った方がいいというのが今の見解だ。
そんな中、龍太郎君の『拳士』はステゴロ。
都市では素手で戦う人は少なくない。そういう人は基本的に『強化刺繍』というものを使用して身体能力を強化している。
特に有名どころで言えば、この強化刺繍をメンバー全員に彫っている、都市の中の犯罪組織……というより、地球で言えば裏組織に値する『中指』という組織。
彼らはステゴロを愛用し、構成員を家族と呼びお互いに親睦を深め合うそうだ。
……龍太郎君の話ではなくなっていた。そんな彼の攻撃はシンプル、殴る蹴るだ。つまり、今言った通り。
シンプルながら強力だ。
そして、最後に八重樫さんの『剣士』。これは、一般的な剣術使いだが……八重樫さんのはスキルが派生していたりする。
この世界には武器に使う技自体もある。特に、魔剣士は魔法と剣の技を兼ね備えて攻防一体を共にする。
八重樫さんは八重樫流という流派の道場の後継的存在。八重樫さんもその八重樫流を絡めた刀の技術で敵を蹴散らす事が出来る。
「(やっぱり、ここの人達は皆レベルが高いな)」
なんだかんだ言って、やはり光輝君のグループは大きく目立つ。
「「「暗き炎渦いて、敵の尽くを焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ、〝 螺炎〟」」」
そして、僕が三人の戦闘を分析している間に後ろにいた魔法組が螺旋を描きながらラットマン達を巻き込み、灰と化してしまった。
広間のラットマン達が全滅機してしまい、メルド団長もこめかみに指を置いていた。
「あー、うん、よくやった!次は後続の奴らにもやってもらう、気を抜くなよお前ら!」
喝を入れるように言い放つメルド団長の頼もしさと勇気に自分も答える為に、自分は心の中ではい!と答えた。
あと、メルド団長が光輝達グループに小言のように「それとな、今回は訓練だからとやかく言わねぇが魔石の回収を忘れるなよ」と小さな説教をしていた。
そんなこんなで、僕達は順調に今回の目的である二十層まで進んで行った。
二十層まで到達すると、段々と慣れ始めたからかクラスにはたまに会話がヒソヒソと聞こえてくる程には和んでいた。もちろん、戦闘の時は会話なんて聞こえてこない。
フィクサーとしての仕事前の僕やサルヴァドールさん、ユナさんの会話の時のように気楽に話し、戦闘ではお互いに連携する為に余計な事を喋らない。あの時に見ていたような光景が出来上がりつつあった。
僕個人としても、今の様な空気は悪くない。僕も何回か戦闘したがメルド団長は「やっぱり筋は悪くねぇ」と腕を褒めてくれた。ただ、剣の才能はからっきしだけど……
それでも成長している事を実感ししみじみと考えていた時、メルド団長と前線を張る光輝君達のグループの動きが止まる。その瞬間、不意にも自分も剣に手を置いていた。
いけない。
空気に慣れているとはいえ、サルヴァドールさんとユナさんがいる訳じゃないんだ。分かってる……
「ロックマウントだ!奴らは擬態する魔物だ、周りをよく見て注意しろ!捕まったら、豪腕で潰されるからな!」
メルド団長の忠告と共に、前方の壁が前のめりに膨れ上がりゆっくりと変色し、岩の怪物が飛び出してきた!
あれは、程どゴリラだった。地球という星にいる人間と同類の生物とは本で見た事があったけどこの世界にも似たような存在がいることに驚愕する。
更に、ロックマウントはドラミングしながら光輝君達のグループに威嚇をし、
『グゥガガガガァァァァァァァ―――――――――!!!』
部屋全体を震撼させる、雄叫びが響き出した。
「ぐっ!?」
「うぉっ!?」
「きゃっ!?」
前にいた光輝君達の前衛が怯み、そのチャンスを逃さぬ様にロックマウント達は攻撃を仕掛けてくる。
自分も行かなきゃ、と直ぐに動こうとしたが自分も動けなかった。いや、動こうとしても体に力が入らず立ち向かいたいのに前にいけないような感覚だ。
そして、ロックマウントはサイドステップで傍らの岩を持ち上げて光輝君達の前衛に向かって投げ放った。すぐに後ろの白崎さん達が魔法陣を展開しようとしていた時に、ロックマウント達の見事な連携―――投げた岩がロックマウントだった!
あまりの連携っぷりに唖然にとられ、魔法を中断してしまった後衛グループを助ける為にメルド団長が飛んできたロックマウントを切り倒した。
「お前ら!何やってる!」
ロックマウントを切り倒し、そしてとてつもない咆哮から回復した光輝達を見つめながら叱りつけるメルド団長。「攻撃を止めれば簡単に攻撃されるんだぞ!」と語義を強くしながら言い放った。白崎さん達が助けられた事に感謝していると、白崎さん達に攻撃を飛ばしたのが何かが癪に触ったのか、光輝君が単身で飛び出した!
「よくも香織達をっ!
万翔羽ばたき、天へと至れ、〝
「おい待て!勝手に離れ―――」
メルド団長の声も虚しく、光輝君の『聖剣』から溢れ出す光がまるで迫り来る波のように斬撃となって剣から放たれる。ロックマウントは、すぐに潜ろうとしたがあまりの速さにその光に包まれて完全に消失した。
もちろん、周囲の被害なんて考えていなかったのでその一撃でオルクス大迷宮が揺れて壁がグラリと揺れていたが。
「ふぅ……」
「この馬鹿者が!」ゴチン
「へぶっ!?」
「仲間を攻撃されて悔しいのは分かるが、こんな狭い場所でその攻撃は使うな!崩落の危険性だってあるんだぞ!」
「う……」
メルド団長の説教に言葉を詰まらせ、バツが悪そうに頭を下げている光輝君に安堵の息を流しながらメルド団長は光輝君を慰めていた。やはり漢気ある人だ。
そんな時に、今度は白崎さんの方に視線が向く。光輝君でも見ているのかと思ったが、壁の方向を見ていた。
「あれ、何かな…?キラキラしてるけど…」
その言葉に、全員が壁に対して視線を向けると。
さっきの攻撃で少し崩落した壁が剥げていて、そんな壁の中に青白く光を放つ鉱石がアスファルトを割って咲かす花のように存在していた。
キラキラしてる、という白崎さんの発言にまるで子供が綺麗な星空に憧れを抱くような表情に一部の男子側から息を呑む様な音が聞こえてきたが、僕には聞こえないことにした。
「ほぉ、あれは珍しい…グランツ鉱石だな。大きさも中々だ」
グランツ鉱石。宝石は大体鉱石として地中に埋もれていて、そこから色々な不純物は様々な地形変化諸々で鉱物が純度を持って形になったもの。
そんな中、グランツ鉱石は武具にすれば何か効果がある訳では無いがその純度の煌びやかさには貴族のご婦人などに金品の装飾品として加工して送ると大変喜ばれるそうだとメルド団長が解説する。漢気と一緒にこんな博識な点もあるなんて、やはり頭が上がらない。
本で見た事あるとはいえ、こんな所で珍しいという意見は僕もメルド団長も一緒だった。
「素敵……」
メルド団長の解説を聞いて、その宝石に憧れるように頬を紅く染めながら見つめている様子に、クラスの男子の一人が「それなら」と言いながら飛び出した。
その人物とは、檜山大介だった。
「俺が取ってくるぜ!よっ」
「な、おい待て!大迷宮には崩落以外にもトラップがあるんだ、勝手に動くんじゃない!」
「うるせぇなぁ、こんなもん簡単に」バリッ……
その瞬間、自分の目でも間違いなくグランツ鉱石から赤色の閃光が走った。
そして、僕達の足元に赤黒い魔法陣が出現する。間違いなく、トラップだった。
「撤退だ!早くこの部屋から―――」
部屋の中に光が満ちると共に、僕達の足元の感覚が消え……
床に叩き付けられるような感覚と共に、巨大な石造りの橋の上に転移させられた事に気付いたのは……もう間もなくだった。
―――――――――――――――――――――――――――
「ここは……」
そんな光輝君の声と共に、メルド団長は左右前後を見た後に「お前達、すぐに立ち上がって上階の階段まで行け!」と指示を出していた。
語義をまた強めながら、警告を出すようにメルド団長の荒らげた声が響くと僕達の体はすぐに上階の階段方向へと向こうことになった。
しかし、橋の両サイドに赤黒い魔法陣が浮かび上がらなければこのまま生きて帰れた筈だった。
階段側から溢れ出す、骨格だけの肉体と剣を携えたスケルトンというタイプの魔物『トラウムソルジャー』、
そして……
奥の通路には、体長10mにも及ぶ巨大な角を持つ猪のような魔物が現れた。
ただの猪にしては、その骨格は10mの体格に相応しい程に凝縮、肥大化していた。瞳からは赤黒い殺意の眼光とも言える光が迸っていて、こちらに対して慈悲も容赦もない意思が宿っていた。
「まさか……ベヒモス、なのか……」
そんなメルド団長の声と共に、ベヒモスの空間を引き裂かんとする咆哮が響き渡り正気に戻ったのか一緒に来ていた仲間の騎士達にトラウムソルジャーを突破し、障壁を展開して僕達を守るように伝令した。しかし、それに対して噛み付いてきたのは光輝君だった。
「待ってくださいメルドさん!俺達も戦います、あのベヒモスという魔物を倒せればきっと―――」
「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスだとして、今のお前達じゃ敵わん!奴はな、六十五層の魔物だ!過去に最強と呼ばれた冒険者を前にしても歯が立たなかった!さっさと下がれ!お前達を死なせてはいかんからな!騎士としても、国の為にもな!」
メルド団長の叱責に対して、光輝君は一瞬怯みすぐに撤退した。
その瞬間に、ベヒモスの咆哮が放たれながらこちらに対して突進してくる!
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、〝
その魔法の詠唱と共に、白色の結界が展開される。
そして、赤黒い瞳を光らせながら足速に突進してくるベヒモスの一撃を結界が受け止めた。そんな攻撃を防ぐメルド団長お墨付きの騎士達も甲冑越しから呻き声のような声が聞こえてくる。この結界を維持するだけでも相当な疲労が必要なんだろう。
そんな中、後ろのトラウムソルジャーに苦戦する他の生徒達を見ながら僕は飛び出した。
危なそうな、トラウムソルジャーに攻撃されそうな生徒が見えた。たったその一歩でも早く、僕はスティグマ工房の直剣に魔力を流し込んで魔法を使う。
「風よりも早く、この剣をより速く届け、〝風剣〟! 」ダァッ!
瞬間、風を切り裂きながら僕の剣戟でトラウムソルジャーを薙ぎ倒しながら、すぐに他の生徒達に襲いかかる魔物を切り裂いていく。
恐怖はなかった。だが、もしもハジメ君や光輝君ならきった!前に出ていただろうから……!
「早く立って!怖かったら、僕に任せればいい!でも立ち向かうことだけは忘れないで!僕一人じゃ、捌き切れるのに限界があるっ!」ガァンッ!
「う、うん!」
すぐに他の生徒が応戦に入り、戦況は少し回復しているように見える。しかし、やはりトラウムソルジャーの波を突破するのが難しいのか通路に向かう生徒達が手足を引っ張るかのようにトラウムソルジャーと戦う他の生徒達を押し込んでいく。
あのままでは、その内に負傷者が出てくる。ましてや死人も。
それだけは、と。すぐに振り返る。クラスのリーダーである光輝君を見に視線の先を向けると、ハジメ君が光輝君に向かって何かを喋っていた。
「ハジメ君……!」ギリ……!
震えている場合じゃない。彼と共にここを乗り越えるべきなんだ。
正しく今こそ、過去の僕が感じた恐怖を乗り越える『試練』の時なんだと頭が理解する。
その瞬間、心臓が熱くなる。生命の鼓動を強く感じ、まるで全能感が溢れるかのようだった。
すぐにトラウムソルジャーを薙ぎ倒しながら、何かの詠唱が聞こえてきた。
「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ!全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!
〝
その一撃と共に、ベヒモスに極光が打ち込まれた。強力無比なその一撃はベヒモスが立つ橋を振動させながら石畳を抉り飛ばしていく。
そして、橋にヒビが入る程の一撃を打ち込んでなお。
「やったか―――!?」
光輝君の声は、届かなかった。
ベヒモスは何一つ傷付いていなかった。寧ろ唸り声を上げながら赤黒い魔力を迸らせて角にその光が充填されていき……その角は、凶悪な程豪熱を帯びながら突進を始めた。
もちろん光輝君は避けたが、くだらない一撃に対して手本を見せるかの如くベヒモスの、跳躍からの叩きつけによって橋がグラグラと揺れながら衝撃波が光輝君に直撃した。
おそらく、相当な痛みが走って動けないのか吹っ飛んでから動きにくそうにもぞもぞと動いている。
そんな彼に対して、メルド団長は白崎さんを呼ぼうとして振り返ると。そこに白崎さんの後ろから迫るハジメ君がいた。
会話はベヒモスの一撃で揺らいだ橋の音で聞き取れなかったが、おそらく何かを伝えたのか強い視線でハジメ君を見つめるとハジメ君はメルド団長と共に橋の奥部に一人残り、白崎さんは攻撃で大怪我を負った光輝君を癒し始めた。
「吹き散らせ、〝
「〝錬成〟!」
その声と共に、メルド団長をターゲットにしたベヒモスの突進を風の結界が受け止めながら、ハジメ君の声が響く。
見づらいが、ベヒモスが止まっている。おそらくメルド団長の風の結界ではなくハジメ君の錬成の力によって。
とてつもない力だ、彼にはあんな才能があった!
「(もう少しで、もう少しで何かを掴み取れる筈なんだ……!)」
僕の方は、トラウムソルジャーを切り倒しながら終わらない波を乗り越えていた。しかしそれでも殲滅力が足りていない。
僕一人では、足りない。そう思う。僕は、今一人の自分自身が出来る限りの力で戦っている。
そんな僕が誰かを助けれる暇がなかった。それでもこのままではいけないと感じている。
鼓動がより高まる。こんな場所で止まる訳にはいかない、あの時のように立ち尽くしたくない!
そんな思いが胸をざわめかせる中、聞き慣れた声が聞こえた。
「〝天翔閃〟!」ザァッ!
トラウムソルジャーが光の波によって吹き飛ぶと共に、僕達の頼れるリーダーである光輝君が「皆!俺に続け、道は切り拓く!」と叫びながら斬撃でトラウムソルジャーをなぎ倒していく。
そんな中、後ろから援護攻撃するようにメルド団長も僕達に「何をボケっとしている!訓練を思い出せ、生き抜きたいのなら連携しろ!」と激励し、光輝君の一撃にも迫る剣戟でトラウムソルジャーをなぎ倒していく。
彼が、一人で止めている。ハジメ君が今たった一人でベヒモスを押さえ付けている事を理解した。
トラウムソルジャーの波が収まっていくと共に、続々と通路側に進んでいく光輝君達の声が響く。そんな中、白崎さんがまるで置いていけない怪我人を助けに行くような声で言い放った。
「待って!まだ南雲君が!あのベヒモスを一人で足止めしてるの!」
その声に、僕の心に完全に火がついた。
いや、もしかしたら何か
あの時決心が付かなかった、と自分に対しての愚痴を零しながら剣を握り込む。
ベヒモスが赤熱化した角をハジメ君に向けて突進した瞬間、橋が遂に重みと振動に耐えきれず、崩落寸前の橋を破壊した。
ハジメ君は、あまり動けない体を這いずるように動かしていた。しかし今の僕の距離では間に合わない。
「(―――間に合わない!)」
そう感じていた。
でも。
―――ここで、止まる訳にはいかない!
僕が憧れ、そして導く様に前に進む彼を見過ごせない。
彼はきっと多くの人を繋ぐ唯一の人だ。僕が、助けなければ!
そうしないときっとこの世界で、彼を繋ぐ人が消え失せてしまうから!
絶対に僕の前から、人を失わせたりしたくない!
それが例え幻想であっても、僕はあの時の『
もっと速く、君の元へと飛び出していける―――
僕があの時、恩師とその恩師の友人を助ける為に自分を鼓舞して立ち上がったあの翼を!
この後自分が、どうなってもいいように!
僕は二度と戦えなくなってもいい!
僕が、爆の罪を乗り越える為に!
「もう一度、翼を!ただ飛べるだけでいい!彼の魂の温度を繋ぐ為の!出来損ないな蝋の翼を!
今度こそ、僕が乗り越えるんだ!僕自身の罪を!僕自身の―――
その時だった。
僕の横を過ぎるように、火球が飛んでいった。
一体何故、ベヒモスに対して何一つ有効打を与えれない最後っ屁の様な火球が、横を通り過ぎたんだ。
しかし、すぐに悟った。
これは『悪意』ある一撃である事に。
「っ……!」ダァッ!
そして、火球を受けて吹き飛び手を飛ばすハジメ君に対して僕は何の迷いもなく手を伸ばす。左腕に付けている鞄が邪魔で仕方がなくても手を伸ばした。
そして、掴み取ると共に僕の想いは完全に満たされた。
そして、彼を投げ飛ばそうと体をよじらせた時に―――
「うっ!?」
僕の腹を貫かんと、火球の二つ目が飛んできた。
どうして、と怒りを募らせる。
そして必ず、ハジメ君を助けるとハジメ君を抱えて僕らは―――
深淵の様な底に、落ちていった。
蜜蝋の翼/フィリップ
フィリップが発現した、不安定なE.G.O。
それはきっと、溶けて固まった程度の片翼かもしれない。
そんな翼で、空が飛べるというのか。
烏滸がましい。
そんな溶けて消えてしまいそうな炎が、彼自身を簡単に燃やし尽くす。
―――それでも。
彼は何度だって、不完全な片翼で羽ばたく。
時にその翼を盾のようにしても。
その翼を、己の動きを定める為に動かしても。
その翼を羽ばたかせ、より前へ。
より先へ。
己の罪と向き合うように。
この翼は、贋り物かもしれない。
そんな翼で立ち上がるのは、英雄と言えるのだろうか?
いいや。
この翼は、例え危険を犯し蛮勇と謳われようとも。
この翼で先に届くのなら。
偽物でも、自分の自己満足であろうと。
何処へでも羽ばたけるのだから。
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