ありふれた烙印で異世界再燃   作:黒霧 氷

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どうか、あなたの物語が見つかりますように。


※Library of ruinaのネタバレを含みます。ご容赦ください。





Ep.25 黒級/金の為に黒くなる男

 

 

 

 

中立商業都市フューレンは高さ20m長さ200kmの外壁で囲まれた大陸一の商業都市である。

ありとあらゆる商会がこの都市で日々シノギを削り合っており、夢を叶え一発成功を収める者もいれば、簡単に無一文となって悄然とこの都市を出て放れる者も多く存在する。

観光で訪れる者から取引に訪れる者達といい、出入りの激しさでは大陸一と言える。

最初、ここを僕が見た時にあの世界の〝都市〟を彷彿とさせたのは間違いなかった。

商会が大量に跋扈しているのだって、フィクサーの所属する事務所や〝翼〟の設立する会社の様なもの。ほぼ一緒である。

 

そんな巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれおり、

この都市における様々な手続関係の施設が集まっている中央区から、

娯楽施設が集まった観光区、

武器防具から家具類等を生産、直販している職人区、

あらゆる業種の店が並ぶ商業区まで。

東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が多いというのが常識らしい。

そこに来るという事は人が一番多く来る、という事でもあるのでまず危ないものはないだろう。

 

そんな話を中央区の一角にある冒険者ギルドのフューレン支部内にある、一つのカフェで軽食を食べつつ聞く僕達。

話しているのは、案内人と呼ばれる職業の女性だ。

都市が巨大であるからか意外と需要が多く、案内人というのは社会的地位のある職業の様だ。

多くの案内屋が日々客の獲得のためサービスの向上に努めているので信用度も高いから、ハジメ君は都市の紹介を依頼を頼んだ。

そんな僕達は、モットー率いる商隊と別れると証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドにやってきているのだ。

案内人の女性リシーと名乗った者に料金を支払い、軽食を共にしつつ都市の基本事項を聞いていたのである。

 

 

 

「そういう訳ですので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメします。中央区にも宿はありますが…中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんよ」

「なるほどなぁ、素直に観光区の宿にしとこうかな。オススメとかあります?」

「お客様のご要望次第になります。様々な種類の宿が数多くございますから」

「そりゃそっか。そうだなぁ、ご飯が美味くて、あと風呂があれば文句はないよ。立地とかは考慮しなくていいし……あ、責任の所在が明確な場所がいいかな」

 

 

 

リシーさんはにこやかにハジメ君の要望を聴きながら、最初の二つはよく出される要望だったのかうんうんと頷きながら脳内でオススメの宿をリストアップしていく。

しかしその後のハジメ君の言葉で「え?」と首を傾げた。

 

 

 

「え〜……責任の所在ですか?」

「ええ。例えば、何らかのトラブルに巻き込まれたとして、こちらが被害者だった時とかに宿内での損害について誰が責任を持つのか……って所です。

どうせならいい宿に泊りたいんですけど、そうすると備品なんか高そうで。トラブルの後に賠償額をふっかけられても面倒ですからね」

「え~……そもそも、そんなに巻き込まれることはないと思いますが」

 

 

 

困惑するリシーさんにハジメ君は苦笑いしながら対応した。

 

 

 

「まぁ普通はそうなんだろうけど……連れが目立ちまして。

観光区なんてハメ外す様な人も多そうだし、商人根性逞しい商人が強行突破に出ないとも限らないでしょう。

まぁ、あくまで〝出来れば〟ですから。難しければ考慮しなくていいですよ」

 

 

 

ハジメ君の言葉に、リシーさんはハジメ君の両横に座りモグモグと軽食を食べるユエさんとシアさんに視線をやる。

そして納得したように頷きながら「確かにそうですね」と返していた。

現に今も周囲の視線をかなり集めている。特にシアさんの方は兎人族の中でも美貌も見た目が珍しい。

他人の奴隷に手を出すのは犯罪ではあるがしつこくくどい交渉を持ちかける商人から、彼女を見ただけで暴走する輩がいないとは言えない。実際ホルアドの街の人にハジメ君が襲われかけて装備をひん剥かれて吊るされていたりしたので本当にないと言えないのだ。

 

 

 

「しかし、もし襲われる事が前提なら警備が厳重な宿でいいのでは……?そういうことに気を使う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが」

「ああ、それはいいんですよ。欲望に目が眩んだ人は時々とんでもない事をしでかましますから。

警備も絶対でない以上は最初から物理的説得は期待していません」

「物理的説得です、か……なるほど、それで責任の所在な訳ですね」

 

 

 

完全にハジメ君の意図を理解したリシーは、あくまで〝出来れば〟でいいと言うハジメ君に対して案内人根性が疼いたようだった。やる気に満ちた表情で「お任せ下さい、素晴らしい宿に案内します」と了承する。

そしてユエさんとシアさんの方に視線を移して「お二人方は、何かご要望はありますか?そちらの三人方もどうぞ!」と出来るだけ客のニーズに応えようと質問してくれる。

リシー……彼女の所属する案内屋はきっと当たりだ。第一に事務所ではなくお客さんの満足させるサービスを考えてくれる様だ。

 

 

 

「……お風呂があればいい。但し混浴で貸切出来るなら」

「えっとぉ〜、大きなベッドがいいです!」

「僕はハジメ君の言った内容が成立する場所なら、何処でも」

「同じくです」

「……種族を差別しないなら何処でもいい」

 

 

 

少し考えてそれぞれの要望を伝える僕ら。

なんてことない要望ではあるが、ユエさんが付け足した条件とシアさんの要望を組み合わせていくと……自然ととある意図が透けて見えたのかリシーも察したようで、「承知しました、お任せ下さい」とすまし顔で了承していた。二人は頬が僅かに赤くなっていて、ハジメ君の方に視線を送っていた。

僕は半ば呆れながらも「良かったねー」と口ずさみながら、周囲を見渡しながら紅茶の入ったカップを口に運ぶ。

 

 

「………………」チャキ

 

 

その時、ハジメ君が不意に強い視線を感じたのかドンナーを抜こうとホルスターに手を置いた。

特にシアさんとユエさんに対して、今までで一番不快かつねっとりとした粘着質な視線が向けられていて……そこにはリチャードも含まれていた。

そんな視線など普通気にしないユエさん達だが、あまりに下卑た視線に密かに眉を顰めていた。

それはリチャードも同様ではあったが、場合によってはその両腕から出る鉤爪を出すのも厭わない程。

ハジメ君がその視線の先を辿っていくと……まるで豚の様に肥えた男がいた。

 

肥えた肉体に脂ぎった顔豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にも分かる程性能と美しさに服を着ている。

そのブタ男がユエさん達とリチャードを欲望に濁った瞳で凝視していたのだ。

そのブタ男が重そうな体をゆっさりゆっさりと揺すりながら真っ直ぐ僕達の方へ近寄ってきた。どうやら避ける事は出来ないようだ。ハジメ君が逃げることはないとは思うし、そもそも僕は剣に手をかけている。

リシーさんも、僕達の不穏な空気に気が付いたのか見るからに傲慢な態度でやって来るブタ男に対して営業スマイルも忘れて「げっ!」と何ともはしたない声を上げた。

 

 

 

 

「おっ、おいガキ共ぉ。ひゃ……はぁっ、百万ルタ、やる。この兎と虎を、わぁ渡せ。それとそっちの金髪と灰髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来ぉい!」

 

 

 

吃り気味の、なんだか詰まり詰まりの言葉でそう告げて、ブタ男はユエに触れようとする。

彼の中では既にユエさんが自分のモノになっている全体であるようだが……

次の瞬間、その場に凄絶な殺意と威圧が降り注がれた。

直接その殺気を受けたブタ男は「ひぃぃっ!?」と情けない悲鳴を上げると尻餅をついて後退ることも出来ずにその場で床を濡らした。

……これってハジメ君が後始末するのだろうか。それともお店側かな?どうでもいいか。

 

 

 

「ユエ、シア……アキラも一緒に行こう。

気分が変わる前に場所を変えなきゃ」ザッ

 

 

 

ハジメ君はユエさん達と僕らに声をかけて席を立つ。

本当は即射殺したかったのだろう。

だが、あんな言い方をしても声を掛けてきただけで殺してしまえばハジメ君が加害者である。

殺人犯を放置してしまう程都市の警備は甘くないだろう。

基本的に正当防衛という言い訳が通りそうにない限り、都市内においては半殺し程度を限度にしておくのが彼の思考だったと考える。

 

 

 

席を立ったハジメ君が〝威圧〟を解きギルドを出ようとした直後、扉を見えなくしてしまう程の大男がハジメ達の進路を塞ぐような位置取りに移動し仁王立ちをし始めた。

ブタ男とはまた違う意味では100kgはありそうな巨体であり、全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士と伺える。

しかしその巨体が目に入ったのか、ブタ男が再び声を出した喚きながら指を指した。

 

 

 

「そっ、そうだぁっ、レガニド!そこのクソガキ共を殺せ! わ、私を殺そうとしたのだぞっ!嬲り殺せぇっ!」

「坊ちゃん……流石に相手を殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや?」

「やれぇっ!いっ、いいからやれぇ!お、女は……傷つけるなっ!私のだからなぁっ!」

「まぁ……了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ?」

「い、いくらでもやるっ!さっさとやれぇっ!今すぐっ!」

 

 

 

どうやらレガニドと呼ばれた巨漢の戦士は、ブタ男の雇われ護衛だった。金持ちは違うね、とハジメ君がこっそり呟きながら目を逸らさずにブタ男と話、報酬の約束をするレガニドはニンマリと笑っていた。珍しい事にユエさん達は眼中にない。

見向きもせずに貰える報酬にニヤついている……と言ったところか。

都市の中でも契約で金を意識する人は多い。そういう事もあるし依頼主に契約の金の話をする辺り、そこら辺を弁えていると言うより……金に強欲な男なのだろう。

 

 

 

「おう坊主。わりぃが……俺の金のためにちょっと半殺しになってくれねぇか。ああ何、殺しはしねぇぞ。

まぁ、嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ」

 

 

 

レガニドはそう言いながら、拳を構えた。

長剣の方は、流石に場所が場所だけに使わないようだが……

しかしそんな静かな二人とは打って変わって、周囲がレガニドの名を聞いてざわめいていた。

 

 

 

「おっおい、レガニドってあの〝黒〟のレガニドかっ!?」

「〝暴風〟のレガニド!?何であんなヤツの護衛なんてやってるんだ!?」

「どうせ金じゃないか?〝金好き〟のレガニドだろ」

 

 

 

周囲のヒソヒソと話す声で大体目の前の男の素性を察したハジメ君がドンナーのハンドリングに手をかけていた。

天職持ちなのかどうかは分からない、冒険者ランクが推定〝黒〟という事は上から三番目のランクということであり、相当な実力者でもある。

いくらハジメ君が強くても、もしかしたら初見殺しのスキルなどを持っていてもおかしくない。上位の強さというのはそういう事である。

レガニドから闘気が噴き上がり、ハジメ君がすぐに後退してドンナーでレガニドを撃ち抜こうとした瞬間、意外な場所から制止の声がかかった。

 

 

 

「ハジメ、待ってくれ」

「え……リチャードさん?」スッ

 

 

 

リチャードはファタールを引っ張って来させると、ハジメの疑問に答える前に、ハジメ君とレガニドの間に割って入った。訝しそうなハジメ君と困惑したレガニドに、リチャードは背を向けたまま答える。

 

 

 

「私が相手をする。ファタールは決闘の契約だ」

「……契約に関してはお手伝いしましょう」

 

 

 

リチャードがそう言いながらハジメ君を見る。しかしハジメ君が返答するよりも、レガニドが爆笑する方が早かった。

 

 

「ガッハハハハ!!!

嬢ちゃんが俺の相手をするだって?中々笑わせてくれるじゃねぇの……何だ?夜の相手でもして許してもらおうって魂胆は」

「黙れよ、戦士の誇りすらもない男が」シュッ

 

 

「……っ!?」

 

 

下品な言葉を口走ろうとしたレガニドに対して辛辣な言葉を送りながら鉤爪が一瞬で通り越した。

音速の爪刃が襲い掛かって、レガニドの頬にプシッ……と小さな音を立てながら、血がたらぁっと滴り落ちる。

かなり深く切れたようだ。レガニドは、リチャードの声の通りにリチャードの攻撃に対応出来ず「何時……攻撃しやがった……」と冷や汗を掻きながら言葉を呟いていた。

 

 

 

リチャードはハジメ君を見つめながら、真剣に目を見つめながら言い放った。

 

 

「私は守られるだけの存在ではないことを周知させる必要がある。そして―――未だに商品価値しかない亜人族という認識を変える為にも」グッ……

「……ああ、なるほど。

まぁ、言いたいことは分かったよ。意図も理解したし……ファタールさんがいるなら大丈夫かな。

幸い、目撃者も多いし逃げることはないかな。うん、いいよ」

「……ありがとう」スッ

 

 

 

ハジメ君はリチャードの言葉に納得して、苦笑いを浮かべながら一歩後ろに下がった。

リチャードは、ハジメ君が下がったのを確認すると、隣のファタールに対して手招きをした。

それを受けたリチャードは、一歩横に避けるリチャードの後から前に立ち、手を伸ばして青色の文字で描かれた黒色の紙の契約書を突き出す。

 

 

「私、契約者のファタールと申します。これからリチャード様とレガニド様の決闘を行いますのでこの決闘の契約を行います」

「決闘に契約?いきなり何なんだよ嬢ちゃん?」

「あちらのお客様の契約内容に基づいて、あなたが戦闘を行うならばこちらも契約に関して基づいて決闘するのが道理では?」

「……まぁ、決闘ならいいぜ?契約内容ってのは?」

「レガニド様が勝利なさった場合……あなた様のお客様と、あなた様のご要望を叶えます。私達の代理として戦闘するのはリチャード様です。そして彼の代理として戦闘するのはあなた様です。

決闘に敗北した場合、一切合切あなた様の契約者とあなたがこちらと関わらない事をこの場で契約してもらいます。

決闘に対して、一切合切の他者との協力や決闘者以外の戦闘の影響は違反扱いとし……契約に違反した場合、あなたの〝大切なもの〟を剥奪いたします。

それはスキルであり、それはレベルであり、それはあなたの命でもあります。しかし違反しなければいいのです、違反しなければ取られる事はありません」

「……確かにな」サッ

 

 

ファタールを見つめながら、レガニドは少しだけ冷や汗をかいていた。「こんな相手が世界にいるとは知らなかったがまさかそんな力が紙切れにあるとはな」と契約書を書いていた。内容を深く読まないでいいのかな?そう思ったけどまぁ、金しか見てない男は契約読まないよなぁと納得した。

 

 

「契約完了です。それではリチャード様……お願い致します」

「ああ」

 

 

そう言いながらファタールはコツコツと靴を鳴らしながら下がっていくと、リチャードが前に出てくる。

 

 

「やるぞ」ザッ……

「んにしても、おいおい。虎人族の嬢ちゃんに何が出来るってんだ?雇い主の意向もあるが、お前さんの強さがどうにしても傷付けたくはねぇな」

 

 

 

ファタールから目を離さずにレガニドは、そうリチャードに告げる。しかし、リチャードはレガニドの言葉を無視するように逆に忠告をした。

 

 

 

「ちはやぶる 神代も聞かず 龍田川……」

「はっ、最後の一句が大きく出たな。坊ちゃん!わりぃけど、傷の一つや二つは勘弁ですぜぇっ!」ブォッ!

 

 

 

レガニドは、リチャードは大して気にせずに気を配りながら未だ近くで尻餅をついてへたり込んでいるブタ男に一言断りを入れた。

流石に、リチャード相手に無傷で無力化は難しいと判断したようだ。だがレガニドは気が付くべきだった。

常識的に考えて愛玩奴隷という認識が強い虎人族が鉤爪を構えていて……かつ僕の警護をしている。

相応の実力が垣間見えるファタールと、僕の二人が初手を任せているという意味に。

 

 

「唐紅に 水くくるとは……決字百首〝千早唐紅(ちはやからくれ)〟」ザッ

 

 

リチャードは鉤爪を巨大化させ、後退しながら構え……一気に踏み込んだ。

 

「ッ―――!?」

「行くぞ」

 

 

静かな声音に反して、一気に瞬間的に振るわれた超軽量の鉤爪が表情を驚愕に染めたレガニドの胸部に振り下ろされるが。

直撃の瞬間に、レガニドは辛うじて両腕を十字にクロスさせて防御を試みた。しかし……

 

 

 

「(死―――)」

 

 

 

防ぐ事に対して微塵もせず、咄嗟に後ろに飛んで避ける事はスイングが速すぎてほとんど意味はなさなかった。瞬間的に胸に爪痕が残っている。

レガニドは轟音を響かせながら、ギルドの扉を突き破って地面を踏ん張りながら何とか深い傷を追わずに済んだ。

肺の中の空気を吐き出したレガニドはすぐに視界の中に、風のように駆け抜けてくるリチャードの姿を見た。どうやら、すぐに距離を詰めてくるとは思っていなかった。

 

 

「ぐぅっ!?」ザッ!

「避けてばかりかぁっ!」ザッ!

 

 

冒険者のランクを〝黒〟にまで上り詰めた自分がまさか、

亜人族の少女に本気で決闘を受けている。

しかも全く余裕があり、体力切れがあるように思えない。

拍子抜けに感じられているという事実に、レガニドはもはや笑うしかなかった。

痛みのせいでしかめたようにしか見えない笑みを浮かべながら、すぐに回避する。激痛と共にそのまま倒れ込みそうだがまだ四肢が五体満足であるだけマシの様に見えた。

痛みを堪えながら、すぐにスキルか何かで風を纏った拳でで何とか攻撃を放つレガニド。しかし、風の様に軽やかに回避しながら一気に足蹴りを放つリチャードの攻撃を、空いた腕で防御した。

一気に激痛が走ったのか目の焦点がブレた様に揺れるが何とか床を踏みしめることが出来て堪え耐えた。

攻撃は回避され、更に追撃を貰ったと言えど咄嗟に後ろガードしなければ立ち上がることは出来なかったかもしれないと考えていそうだ。

 

 

 

 

「(坊ちゃんっ……こりゃ、割に合わなさすぎるぜ……!)」グッ

 

 

 

―――直後、レガニドは生涯で初めて〝空中で踊る虎〟という世界でも見た事がないような光景を目にした。

 

 

 

「月見れば ちぢに物こそ 悲しけれ 我が身一つの 秋にはあらねど……決字百首 月我見(つきがみ)

 

 

 

リチャードのこの軽やかさの正体は〝重力魔法〟だった。

自分自身に降り掛かる重力を自在に操りつつ、その肉体に掛かる重力自体を上がる部分に対して使用して、風も重力も知らない様に移動する。

もし彼女に浮かせたら最後、そのまま空中で紙の様にしなりながら空中で方向転換しながら回避し続けるという。

詠唱破棄は〝決字百首〟の詠唱に全て適応させるという凄い偉業を成し遂げている。

 

 

 

空中での一方的な鉤爪による舞い踊るダンスが終えるとレガニドは、そのままグシャッと嫌な音を立てて床に落ちた。

ピクリとも動かなくない身体は、最早血を流し過ぎて死にかけている。

最初の数撃で既に意識が落ちかけていたがリチャードは知っていたが、戦士に対して一切の容赦なくその後と肉体に爪痕を残していく事を決めていたからこその末路だ。

しかも、男の大切なもの(股間)もしっかりと斬裂痕が残っている。魔法で治せるかもしれないが……傷痕は残りそうだ。

周囲の男連中の苛烈にして凶悪な攻撃に、後ろで様子を伺っていたハジメ君としても「わぁ…」と驚愕の声を上げさせた。

 

 

 

「戦士がこの程度とは、たかが知れているな。私の尊敬するギル様はもっと強かったぞ」グッ

 

 

 

そんな状況に、誰もが硬直しているとおもむろに静寂が破られた。ハジメ君が歩き出した。

ギルド内にいる全員の視線がハジメに集まる。ハジメの行き先は……ブタ男のもとだった。

 

 

 

「ひ、ひぃいぃっく、来るなぁっ!わぁ、私を誰だと思っているっ!?プププ、プーム・ミンだぞっ!?

ミン男爵家に逆らう気かぁっ!?」

「……地球の全ゆるキャラファンに謝れよ、ブタが」ガンッ!

 

 

 

ハジメ君がブタ男の名前に地球の代表的なゆるキャラを思い浮かべつつも、盛大に顔をしかめながら尻餅を付いたままのブタ男の顔面を勢いよく踏みつけた。

 

 

 

「ぷげぉぐぁっ!?」

 

 

 

文字通り豚のような悲鳴を上げて顔面を靴底と床にサンドイッチされるプームはミシミシと鳴り響く自身の頭蓋骨に恐怖し悲鳴をあげていた。その声がうるさいとでも言うように、鳴けば鳴くほど圧力が増していく。顔は醜く潰れ、目や鼻が頬の肉で隠れてしまっている。

 

 

 

「おいブタ。二度と視界に入るな。次は直接間接問わず関わるなよ?契約を破ったらお前の大切なもの……例えば真下にあるもんとか。風穴が空いても知らないけど、もしも本気でやるなら……真下じゃなくて顔面とその贅肉を的代わりにしてやるよ

 

 

 

プームはハジメ君の靴底に押しつぶされながらも、必死に頷いて小刻みに震えて始めた。既に虚勢を張る力も残っていないのか、完全に心が折れている。

しかしその程度で、あっさり許すほどハジメ君は甘くはないかった〝喉元過ぎれば熱さを忘れる〟……と言ったか。

一時的な恐怖だけでは全然足りない、殺しの選択が得策でない以上代わりに、その恐怖を傷として忘れない様にしておけばいい。

そんな表情を浮かべながら、ハジメ君が少し足を浮かせると、ハジメは錬成により靴底からスパイクを出し、再度勢いよく踏み付けた。

 

 

 

「ぎ゛ががぁぁぁぁぁっ!?」ジタバダッ

 

 

 

黒色の革底に生えた鋭いスパイクがプームの顔面に突き刺さりチクチクと痛みを与えていた。

しかしそれでは飽き足らず、流石に手加減はするものの連撃を脚から打ち込んでいた。

プーム本人はすぐにチクチクとした痛みと威圧で放たれる殺気と威圧でで直ぐに気を失っていった。

ハジメ君が足を床に下ろすと、見るも無残な……いや、元々無残な顔になっていた。

ハジメ君はどこか清々しい表情でユエ達の方へ歩み寄り、リチャードとファタールも僕の方に戻ってきた。

そしてハジメ君はすぐ傍で呆然としている案内人リシーにも笑いかけてくる。

 

 

 

「じゃあ案内人さん。場所移して続きを頼もうかな」

「はひっ!いっいえ、その私、何といいますか……!」

 

 

 

ハジメ君の笑顔に恐怖を覚えたのか、しどろもどろになるリシーさん。

その表情は、明らかに「関わりたくない!」と顔に出してしまうくらい言葉が顔に出ていた。

ハジメ君も何となくは察しているが、また新たな案内人をこの騒ぎの後に探すのは面倒だった。

リシーさんを逃がすつもりは毛頭なかった。ハジメ君の意図を悟ったのか、ユエさんとシアさんがリシーの両脇でブロックした。逃げるのは背後だけだと思ったが、ファタールも構えていて「ひぃぃやぁぁっ!?」と情けない悲鳴を上げるリシーさんだった。

 

 

 

しかし、そこへリシーさんにとっての救世主ギルド職員が騒ぎを聞きつけて今更ながらにやって来た。

 

 

 

「あのっ!申し訳ありませんが、あちらの方で事情聴取にご協力願います!」

 

 

 

ハジメ君にそう告げた男性職員の他、三人の職員がハジメ達を囲むように近寄った。だが全員腰が引けていた。格好がつかない……

もう数人はプームとレガニドの容態を見に行っていて、すぐに保護をし始めていた。

 

 

 

「そうは言ってもね……あのブタが僕の連れを奪おうとして、それを断ったら逆上して護衛を襲ってかからせたから決闘として契約し、それを返り討ちにしただけだ。

それ以上説明する事がない。もし事件の内容が、案内人とかその辺の男連中も証人になるよ。

特に近くのテーブルにいた奴等は随分と聞き耳を立てていたようだしねぇ?」

 

 

 

ハジメ君がそう言いながら周囲の男連中を見渡すと目があった彼等はこぞって首がもげてしまあそうになるほど激しく何度も頷いた。

 

 

 

「それは分かっていますがっ、ギルド内で起こされた問題は当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので………規則ですから冒険者なら従って頂かないと……」

「当事者双方……か」

 

 

 

ハジメ君はプームとレガニドの二人を見てみるが、当分目を覚ましそうになかった。

ギルド職員が治癒師を手配しているようだが、おそらく二、三日は目を覚まさないのではないだろう。リチャードは手加減しなかったが、これがユエさんシアさんが全力で半殺しにかかったら大変な事になっていたであろう。

 

 

 

「あれが目を覚ますまでずっと待機してろって言うんですか?

被害者の僕達がですよ?」

 

 

 

ハジメが威圧を感じさせる視線をギルド職員に向け始めると、典型的なクレーマーのような発言にギルド職員が「そんな目で睨むなよぉ……仕事なんだから仕方ないだろぉ……」という自暴自棄な小さな言葉を呟いていた。しかし、ぼそりと呟いていた自分のセリフに対して、身体をビクゥッと跳ねながら「何でもありませんよ!?何でもありませんから!?」と返していた。

 

 

 

ハジメ君が「仕方ないなぁ」と思いながら、プームとレガニドの二人に対して「痛みを感じたら起きるよね?」と呟きながらそれを職員が止めようと押し問答していると突如、凛とした声が掛けられた。

 

 

 

「何をしているのですか!?これは一体何事ですか!?」

 

 

 

今度は見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目でハジメ君を見ていた。

 

 

 

「ドット秘書長っ、いいところに!これはですねっ……!」

 

 

 

職員達が「ありがとう!」という視線を向けながらドット秘書長と呼ばれた男の元へ群がっていき、事情を話していく。

そんなドットは職員達から話を聞き終わったのは、ハジメ達に鋭い視線を向けた。

 

 

 

どうやら、まだまだ解放はされないようだ。残念ながら。

 

 

 







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フィリップ君のヒロイン、誰にするか?

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