どうか、あなたの物語が見つかりますように。
※Library of ruinaのネタバレを含みます。ご容赦ください。
「あなたは……」
僕がそう口ずさみながら、ドット秘書長と呼ばれた男は片手の中指でクイッとメガネを押し上げながら……
落ち着いた声音で僕を蚊帳の外にしてハジメ君に話しかけた。
「話は大体聞かせてもらいましたよ。証人も大勢いる、嘘はないのでしょうね……少々やり過ぎな気もしますが。
まぁ死んでいませんし許容範囲としましょう。
彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、ここフューレンに滞在はしてもらうとして。
お二人方、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……それまで拒否されたりはしないでしょうね、まさか?」
言葉の外から察するに「これ以上譲歩はしませんよ?」と伝えてくるドット秘書長にハジメ君は肩を竦めて答えた。
「ああ、構いませんよ。そっちのブタがまだ文句を言うようならむしろ連絡して欲しいくらいだし。今度はもっと丁寧な説得を心掛けるとしようかな」スッ
「僕も彼と同じパーティーの所属なので、どうぞ」スッ
ハジメ君がまるで「金や権威で揉み消したり誤魔化したら許さねぇからな」とそんな意図が含んだ言葉を呟きながら、ドットさんに呆れ顔をさせながらステータスプレートを差し出した。
そういえば、あれからハジメ君はしっかりとステータスをいい感じのとこまで偽装してステータスプレートに改変を行っているので何かがバレる事は無い。それに、ホルアドの街から出る前にリチャードとファタールのステータスプレートも作っている。
「連絡先に関しては、滞在先が決まってないからなぁ……そうだ、そっちの案内人にでも聞いてくれると助かるな。彼女の薦める宿に泊まるだろうから」
ハジメ君に視線を向けられたリシーさんはビクゥッと身体を硬直させてハジメ君に視線を送った後、それが撤回されることがなかったのか「やっぱり私が案内するんですね……」と諦めの表情で肩を落としていたのを見つめる。ごめんねリシーさん……
「分かりました。いいでしょう……しかしあなた様らが〝青〟ですか。向こうで伸びている彼は〝黒〟なんですがね。
そちらの虎人族の亜人のステータスプレートを拝見しても?」
ハジメ君と僕のステータスプレートに表示されている冒険者ランクが最低の〝青〟であることに僅かな驚きの表情を見せるドットさんだが、すぐに僕の後ろのリチャードの方がレガニドを倒したと聞いていたので、彼女達の方が強いのか?と思いリチャードに対して提出を呼びかけた。
そこで僕はどうぞ、と言う前にハジメ君が〝念話〟で僕に話しかけてきた。
「(急にどうしたの?)」
「(いや、まだリチャードのステータスプレート見せて欲しくないんだ。だってほら、まだ偽装してないし……)」
「(そうだけど、ただの亜人だよ?)」
「(いや、ユエもだけどシアもステータスプレートは紛失しるって言い訳してるし……)」
「(それはそうだけど)」
「(それに、神代魔法を覚えてるから何か騒ぎになったら聖教会も動くかもしれないし)」
「(確かに…)」
実際にハジメ君の言う通りだ。リチャードは重力魔法の神代魔法を覚えているが故に何か騒ぎになったら僕も避けようがない……ではどうするかと考えていた時に一つ思い出す。
「(……ハジメ君、キャサリンさんから受け取ったあの手紙)」
「(ああ。あの手紙……)」
ハジメ君が僕が言い出した事でブルックの街を出るときに、ギルドのブルック支部にいるキャサリンから手紙を貰ったことを思い出した。
ギルド関連で揉めた時にお偉いさんに見せれば役立つかもしれないと言って渡された得体の知れない手紙である事は間違いない。
ダメで元々、ハジメ君は「少しいいですか?」と口を挟んでくる。
「その前に、僕の後ろにいるユエとシアはステータスプレートを紛失していまして。ユエとシアの身分証明の代わりになるか分からないんですけど知り合いのギルド職員に、困ったらギルドの偉い人に渡してくれって言われてたものがありまして」
「知り合いのギルド職員ですか……拝見します」スッ
ハジメ君が服の裏の隠しポケットから出した手紙を受け取るドットさん。
ステータスプレート再発行を拒むような態度に疑問を覚えてきる表情を浮かべているが、代わりにと渡された手紙を開いて内容を流し読みしていくとギョッとした表情を浮かべ始めた。
そしてハジメ君達の顔と手紙の間で視線を何度も彷徨わせながら手紙の内容を繰り返し読み込んでいく。
目を皿のようにして手紙を読む姿から、どうも手紙の真贋を見極めているようだ。やがてドットさんは手紙を折りたたむと丁寧に便箋に入れ直してハジメ君達に視線を戻していく。
「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが……
この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねますね。
支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか?そうお時間は取らせません。10分、いえ15分程で済みます」
ドットの予想以上の反応に、「「本当にキャサリン(さん)って何者なんだ(なんだろう)……」」と小さく口ずさみながらドン引き気味のハジメと僕だが、結局その答えは向こうは答えてくれないので諦める他なかった。
「まぁそれくらいなら……構わないかな。分かりました、待たせてもらいます」
「職員に案内させます。では、後ほど」
ドットさんは傍にいた職員を呼ぶと共に別室への案内を言い付けて、手紙を持ったまま颯爽とギルド内部の奥へと消えていった。
指名された職員がハジメ君達を促すと、僕らも奥の移動を促された。
ハジメ君達がそれに従い移動しようと歩き出したところで、困惑した様な……しかし、何処か期待したような声が後ろから聞こえてきた。
「あの~っ、私はどうすれば……?」
リシーさんだった。「ギルドでお話があるなら私はもうお役目御免ですよね?」とその瞳が物語っている。
明らかに厄介の種である僕達とは早めにお別れしたいらしいが……ハジメ君は、当然だという表情で頷くと端的に答えた。
「待っててください。まさか逃げたりしませんよね。プロなんですから……ねぇ?」
「……はぃぃ」ガックシ
肩を落としてカフェの奥にある座席に向かうリシーさんの背中には嫌な仕事でも受けねばならない社会人の哀感が漂っていた。本当にごめんなさいリシーさん。
僕達が応接室に案内されてからきっかり10分後。
遂に扉がノックされた。ハジメの「どうぞ」という返事から一拍置いて扉が開かれる。
そこから現れたのは……金髪のオールバックにした鋭い目付きをした30代後半くらいの男性と、先ほどのドットさんだった。
「初めまして……冒険者ギルドフューレン支部の支部長イルワ・チャングだ。ハジメ君、ユエ君、シア君、アキラ君、ファタール君、リチャード君……でいいかな?」
簡潔な自己紹介の後、僕達の名を確認がてらに呼び握手を求める支部長のイルワさん。ハジメ君も握手を返しながら返事をする。
「ええ、構いませんよ。名前の方は手紙に?」
「その通りだ。キャサリン先生からの手紙に書いてあった通りなら……随分と目をかけられている、注目されている様だね。
将来有望、但しトラブル体質。
出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」
「トラブル体質……かぁ。確かにブルックの街だとトラブル続きだったなぁ。
まぁ、それはいいかな。肝心の身分証明の方はどうなんですか?そっちが気になっていまして」
「ああ、キャサリン先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだ、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ。そちらのアキラ君達もだ」フッ
どうやらキャサリンさんの手紙は本当にギルドのお偉いさん相手に役立に立ったみたいだ。にしても、随分と信用がある。
キャサリンさんを〝先生〟と呼んでいることからかなり濃い付き合いがあるように思える……ハジメの隣に座っているシアさんは、キャサリンに特に懐いていたことからその辺りの話がとにかく気になる様で少し緊張した感じでイルワに訪ねていった。
「あのぉ~、キャサリンさんって何者なのでしょうか……?」
「ん?ああ、本人から聞いてないのかい?
彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。
その後にギルド運営に関する教育係になってね……各町に派遣されている支部長の五、六割はキャサリン先生の教え子なんだよ。
私もその一人で彼女には頭が上がらなくてね……
美しさ、人柄の良さから当時は僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さん……そんな存在だったんだ。
後に結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだ。
子供を育てるにも田舎の方がいいって言っていたね。
彼女の結婚発表は青天の霹靂だった……もちろん荒れたよ。ギルドどころか、王都がね……」
「はぇ〜……そんなにすごい人だったんですね~」
「……キャサリン、すごい」
「只者じゃないとは思ってたけど、そんな経歴があったのか……」
聞かされたキャサリンの正体に対して、感心するハジメ君達。
僕も想像していたよりずっと大物だった様だ。
最もハジメは若干、時間の残酷さに遠い目をしていた。失礼な人だね。
「まぁ……それはそれとして、問題ないならもう行っていいよな?」
「もし問題ないなら、僕達はこのまま観光……と行きたいんですけど」
元々身分証明の為、と言われて来たわけなので用が終わった以上長居は無用だとハジメ君と僕がイルワさんに問い出す。
しかしイルワさんは瞳の奥を光らせると「少し待ってくれるかい?」と僕達を留まらせる。何となく嫌な予感がするハジメ君は僕の方を見つめながら肩を竦めた。
そうしてイルワは、隣に立っていたドットさんを促して、一枚の依頼書を僕達の前に差し出した。
「君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っているんだ」
「断る」
イルワさんが依頼を提案した瞬間、ハジメ君は被せ気味に断りを入れ席を立つ。ユエさんとシアさんも続こうとするが続くイルワさんの言葉に足を止めた。
「待て待て。取り敢えず話を聞いて貰えないかな?聞いてくれる場合、私から今回の件は不問とするのだが……」
「……」
ハジメ君は、しばらくイルワを睨み……〝依頼を引き受ければ〟ではなく〝話を聞けば〟と言っていることから話くらいなら、と面倒事を回避できるなら聞くしかないと思い直し、座席に座り直す。ユエさんとシアさんもその通りに。
「聞いてくれるようだね。ありがとう」
「……流石大都市のギルド支部長。いい性格してるよ」
「君も大概だと思うけどね。さて……今回の依頼内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。
北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかった。しかし、数日前に一人の冒険者が逃げ帰ってきたと同時に実家が捜索願を出した、というものだ」
イルワの話を要約すると、つまりこういう事だった。
ここ最近ではあるが……北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せらた事で、遂にギルドから調査依頼がなされた。
北の山脈地帯は一つ山を超えた時、その殆どが一切の未開の地域となっている。
そのせいで大迷宮の魔物程ではないにしても……それなりに強力な魔物が出没すると言われており、高ランクの冒険者達がこれを引き受けた。
ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。
この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物だった。クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になる!言ってと飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが……
今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出した様だった。何ともお騒がせな息子である。
「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出している様だ。
手数は多い方がいい、そう踏んだギルドにも捜索願を出した。
それが昨日のことになる……最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね……
彼女等に対処できない何かがあったとすれば並の冒険者じゃ二次災害が起きてしまうだけ……犠牲はこれ以上生ませたくないのだ。
だが生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているという訳だ」
「……まぁ話は聞きましたけど、生憎ですが僕達にその相応以上の実力ってやつがないとダメだと思いますよ?僕は〝青級〟ですし?」
ハジメ君は、そこまでの実力はないと伝えるもイルワさんはまるで取り合わない様に首を傾げた。
「さっき〝黒級〟のレガニドを瞬殺したばかりだろう?それに……ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして青級なんて飾りではないか?」
「何故知って……手紙か?だが、あの人にそんな話はぁ〜〜…………」
ハジメ君はそんな事話していないし、僕も言っていない。
しなしそんな時にシアさんと……僕の方に顔を合わせないリチャードが手を挙げた。
「何かな、シア?」
「え~と、つい話が弾みまして……てへっ?」
「……後でお仕置かな」
「えぇっ!?ユ、ユエさんもいましたよ!」
「……シア、裏切り者」
「二人共お仕置き決定……で、リチャードさんは?」
「ギル様の事を出来るなら、多く知らしめる様に……と」
どうやら、原因はユエさん達とリチャードの様だった。
ハジメ君のお仕置き宣言に、二人共平静を装いつつ冷や汗を掻いていたが……リチャードさんは仕方ない、と諦めた様だった。
そんな様子を見て苦笑いを浮かべながらもイルワは話を続けた。
「そして、君達には会って欲しい人がいる。先程逃げ帰ってきた冒険者がいると言ったが、帰ってきても何も話したがらずに震えていた。
教会の人間にも見てもらったが、あまりにも怯えていて精神がおかしくなったと言われてしまう程だった。
その冒険者は常にその冒険者のパーティーと共にしていてね。そんな冒険者と君達がこの依頼を出してくれるなら、きっと付いてきてくれるし話も弾むと思っている。
では……来てくれないか!」
そう言って、イルワさんが声高らかに告げると……扉から入ってきたのはポニテールの少女だった。
黒色のジャケットの様な服に、腰裏に刀を添えて……黒色のポニテールを揺らしながら女性の職員に助けられるようにイルワさんの隣に座った。
「……テンマ、です。この依頼を受けて、くれると聞いて……来ました。
パーティー〝死の境界〟の……リーダーと同じくパーティーの……
「―――なん、だって」
――――――――――――――――――――――――
―――僕は、絶句した。
いやまさか、そんな事があるのか?
ユジンという言葉には僕が聞き覚えがあった。それはシ協会という暗殺特化の依頼を仕事とするフィクサーの名前だからだ。
実力と共にシ協会の中でも有名で、フィクサーを纏める〝月刊フィクサーシリーズ〟ではインタビューを受けていた内容を見かけたことがある。
「―――生存は絶望的……可能性はゼロではないけど。
伯爵は、イルワさんと個人的にも友人だから、できる限り早く捜索したいと考えてる。
私も、リーダーと副リーダーを探したいし、生きているのなら……探す価値はある。どう、かな……今はあなた達しかいないって聞いてるから……引き受けてはもらえない、かな」
懇願するようなテンマの表情には、単にギルドが引き受けた依頼という以上の感情が込められている。
それはそうだ。大切な仲間を二人も失っている……いや、この言い方は失礼だ。いなくなってしまうような状況を耐えれるわけが無い。今すぐにでも探しに行きたい気持ちはあるだろうが、彼女は恐らくその事件以降から何も話せないくらい精神をやられている。
伯爵とイルワさんが親しい仲ということは、もしかするとその行方不明となったウィルとやらについても面識があるのかもしれないと思うと生きている心地がしないだろう。
ギルド長としても、個人的としても安否を憂いているのは間違いない。
「そう言われてもなぁ……僕達も旅の目的地がある。
ここは通り道だったから寄ってみただけなんだ。北の山脈地帯になんて行ってられないよ。断らせてもらうかな」
ハジメ君としては、そんな貴族の三男の生死など心底どうでもいいので躊躇いなく断りを入れた。それに世界を救う旅の遮りになるのでテンマさんの依頼なんて受ける気もなかったようだ。
しかしそれを見越していたのか、ハジメ君が席を立つより早くイルワさんが報酬の提案を始めた。
「待って欲しい。報酬は弾ませるよ。依頼書の金額はもちろんだが……私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に〝黒〟にしてもいいんだ」
「いや、資金は最低限でいいし、ランクもどうでもいいからなぁ……」
「なら今後、ギルド関連で揉め事が起きたときは私が直接、君達の後ろ盾になるというのはどうかな?
フューレンのギルド支部長が君達の後ろ盾になる……ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ?君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」
「……大盤振る舞いだな。友人の息子相手にしては入れ込み過ぎじゃないか?」
ハジメ君の言葉に対して、イルワさんが初めて表情を崩す。
後悔を多分に含んだ表情だ。
「……ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けた〝死の境界〟にも私が話を通した。
異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思っていた、その筈だった……実害もまだ出ていなかったしね。
ウィルは『貴族は肌に合わない、昔から冒険者に憧れていて……』そう言っていた。
だが彼にはその資質はなかった。ならば強力な冒険者の傍でそこそこ危険な場所へ行って悟って欲しかった。
冒険者は無理だと……昔から私には懐いてくれていて……だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのにっ……くっ」ギリッ……
ハジメ君がイルワの独白を聞きながら、僅かに思案する。ハジメ君が思っていた以上に……イルワさんとウィルの繋がりは濃いらしい。
すまし顔で話していた様に見えたイルワさんの内心はまさに藁にも縋る思いだ。生存の可能性は最早時間の問題になっている。
あんな無茶な報酬を提案したのも、イルワが相当焦っている証拠なのかもしれない。
「私からも……お願い、します……!」ザッ
しかも、僕達に対していきなり土下座を始めるテンマさん。
「え、ちょっ」
「お願い゛、しますっ……!もう、あの時みたいに、皆が離れるのは、嫌なんですっ……!どうか、どうかっリーダーと副リーダーだけばっ゛……!」グッ……!
テンマは床に頭を付けながら、そう涙ぐんだ言葉を僕達に向けてくる。
僕としては……この世界でなんでシ協会のメンバーが生きているのかも聞きたい。ただこの話はハジメ君も知らないし、寧ろこの話はハジメ君を巻き込みかねない。
慎重に考えた。考えた上で……ハジメ君が先に意見を出した。
「そこまで言うなら考えなくもないかな……但し、二つ条件があるよ」
「条件?」
「ああ、そんなに難しいことじゃないよ。ユエとシアにステータスプレートを作って欲しい事。
そして、そこに表記された内容について他言無用を確約すること。これは絶対だ。有無を言わさずに何も聞かせないし話さない。
最後に、ギルド関連に関わらずアンタの持つコネクションの全てを使って僕達の要望に応え便宜を図ること。この三つかな」
「それは……あまりに……」
「出来ないなら、この話はなしだ。もう行かせてもらおうかな」
席を立とうとするハジメ君に対して、イルワさんもドットさんも焦りと苦悩に表情を歪めた。テンマさんは……顔を上げないがハジメ君の言葉を待っているように感じた。
まず一つ目二つ目の条件は特に問題ない。言わなきゃいいだけだし……
しかし三つ目に関しては実質、フューレンのギルド支部長が一人の冒険者の手足になれ、という事だ。
責任ある立場としておいそれと許容することは出来ないのだろう。彼も顔を顰めていた。
「何を要求する気、かね?」
「そんなに気負わないでいいよ……無茶な要求はしないからね?
ただ僕達は少々特異な存在なんで、教会あたりに目を付けられると……いや、これから先、ほぼ確実に目をつけられると思う。
その時、伝手があった方が便利だなぁ……とそう思っただけだから。面倒事が起きた時に味方になってくれればいいよ。
ほら、指名手配とかされても施設の利用を拒まないとか……」
「指名手配されるのが確実なのかい?
ははっ……個人的にも君達の秘密が気になって来たな。キャサリン先生が気に入っているくらいだ、非道な人間ではないと思うが……
そう言えば、シア君は怪力、ユエ君は見たこともない魔法を使ったと手紙に報告があったね。その辺りが君達の秘密であり、それがいずれ聖教会に目をつけられる事を前提……そうなれば確かにどの町でも動きにくい……故にその提案を、か」
流石大都市のギルド支部長。頭の回転は早かった。
イルワさんは、しばらく考え込んだあと、意を決したようにハジメに視線を合わせた。
「犯罪に加担するような倫理に欠ける行為や要望に対しては……すまないがギルドとしては同調できないし対応できない。
君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断しよう。つまり、出来る限り君達の味方になることは約束する。これ以上は譲歩できないが……どうかな?」
「まぁ、落とし所はそこになるよね……それでいいよ。
報酬は依頼が達成されてからでいいよ。用意するの大変でしょう?後は、お坊ちゃん自身か遺品あたりでも持って帰ればいいだろう?」
ハジメ君としては、ユエさん達のステータスプレートを手に入れるのが一番の目的である。
この世界では何かと提示を求められるステータスプレートを所持していない方が不自然であり、この先色んな町に寄る度に言い訳するのは面倒である。
そして一つ問題があったが、これは直ぐに解決した。
最初にステータスプレートを作成した者に騒がれないようにするにはどうすればいいかという事だったのだが、ファタールの契約の存在がその問題を解決してくれた。
ただ、口約束をしてもやはり契約を破った密告自体は有り得てしまう。
そこはイルワもギルドから手を回すと言ってくれたので、ハジメ君、ステータスプレートの作成を依頼完了後にし、いいタイミングで受け取りに行くと答えた。
心を苛む様な事件に対して、出来る限りの事をしてくれると答えてくれたハジメ君を、イルワさんも悪い様にはならないだろうという打算だった。
「本当に君達の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておくよ。ハジメ君の言う通りどんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらえればそれでいい。生きているのならそれでも充分過ぎる。
ハジメ君、ユエ君、シア君、アキラ君、ファタール君、リチャード君……宜しく頼む」スッ
イルワさんは最後に真剣な眼差しでハジメ達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げるというのは、早々出来ることではない。キャサリンさんの教え子というだけあって、人の良さが滲み出ていた。
そんなイルワさんの様子を見て、ハジメ達は立ち上がると気負いなく実に軽い調子で答えた。
「あいよ」
「……ん」
「はいっ!」
「ええ、引き受けました」
「契約内容は把握しました」
「……やるだけやりますよ」ハァ
そして、僕は僕自身が気になっている話を進めることにした。
「テンマさん」
「っ……」バッ
「僕が引き受けますよ。その依頼」
「アキラ君!?」
「どうせ北の山脈地帯に向かうんだったら、個人で依頼を受けてもいいよね?」
「それは……まぁ、そうだけど」
ハジメ君が困惑しながらも、僕の対応に驚いていた。
まさか面倒くさそうなこの依頼を受けるとは思ってもいなかったので、ハジメ君は蚊帳の外ではあった。
だからこそハジメ君は困惑していた。
「僕から条件は三つ」
「……出来る限りは、受けたいと思って……います」
「ああ、そんな杞憂にならないで大丈夫です。
一つ目に、あなた達の事を教えてください。僕のパーティーだけでその事を聞き出しますので、ハジメ君には聞かせません。安心してください。
二つ目に、僕の事を話します。そして僕の事を話したという事はテンマさんに無条件に僕に関して何かあれば是非力になって欲しいと思います。強い実力者のパーティーのコネは大きいですから。
三つ目に……もしも〝死の境界〟のパーティーが生き残っていた場合の前提で話します。
このマークの行方を探しています。出来るだけ、出来るだけでいいので……暇さえあれば探してくれると助かります」
そう言いながら、ファタールから貰った契約書を見せる。
最早テンマとしてはこの依頼を断れば〝死の境界〟は終わってしまうだろう。
テンマは少し悩んだ後、しっかりと依頼書にサインした。
「出来る限りの……事はします。よろしくお願い、しますっ……!」
「ええ。お任せ下さい―――
そう言いながら、僕が差し出した手をテンマはしっかりと握って頷くのだった。
・シ協会
暗殺特化の協会。
「誰にでも平等に死を掲げる」というモットーの元設立されたこの協会は遂依頼金さえしっかり払えば何事の事情を問わず対象を片付けてくれる。失敗すればもちろん返金可。
都市において暗殺は需要が高い為、労働環境はあまり良いとは言えない。人員不足を嘆いており、頻繁にシ協会のフィクサーがインタビューに出てはシ協会を宣伝していたようだ。
アキラ曰く「この世で1番忙しい協会と言えば、命懸け仕事掛け持ちと言えばシ協会しかありませんね」と控えめに言ってド級のブラック企業であることを口ずさんでいた。
どうやらアキラはテンマやリーダー、副リーダーを知っている様だが……?
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フィリップ君のヒロイン、誰にするか?
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八重樫雫
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園部優花
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都市の女性組