どうか、あなたの物語が見つかりますように。
※Library of ruinaのネタバレを含みます。ご容赦ください。
広大な平原を中心を、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道を走るのは、有り得ない速度で爆走する……黒塗りの車体に二つの車輪だけで凸凹の道を苦もせず突き進むそれの上には、三人の人影と、それと並走するジープがあった。
相馬アキラがハジメから借りた〝ブリーゼ〟を運転していた。そして隣の車両の〝シュタイフ〟に乗ったハジメ、ユエ、シアとなる。
アキラの運転する車両には、アキラを含めてファタールとリチャード……そしてテンマが乗っていた。
「この車も大分慣れましたね」
「ありがとう……」
「いえ、問題ありませんよ。所で……例の話は信じて貰えましたか?」
アキラが言っているのは、商業都市〝フューレン〟で起きた事件から流れるように受けた〝北の山脈地帯〟での冒険者一行の捜索依頼の事だ。
ハジメと車が別なのは、単にシュタイフにハジメが乗りたいと乗りたいと言った訳ではなくアキラが多くのメンバーを抱える大御所であるからもあるが(今回だけかもしれないが)、そうではなく。
単にこの話はアキラとテンマでしか分からないし、ハジメには話せない内容だ。
「本当なら、信じざるを得ないと思う」
「まぁ確証を得られていない所は残念ですが……」
「けど……私達と同じ〝図書館〟の事を知っているのは、間違いなくフィクサー事務所や協会達。W社も関わりに行っていたのは知ってる」
「W社の社員まで……図書館というものが相当にヤバいものであると再認識させられるな……」ハハ
アキラがその話を聞き、苦笑いを浮かべながら運転に集中する。
依頼を受ける上で、テンマとテンマの所属する〝死の境界〟に対して条件を付けた。
そしてその内の約束に〝自分の事を話す代わりに、無条件でアキラに何かあった場合は協力してもらう〟という契約だった。
これに関してはテンマは少し躊躇いはあったものの、ハジメとは打って違った行動をするアキラの事は知っておいた方がいいと感じているテンマとしては依頼主の意向に逆らえず、リーダーと副リーダーが生存が確認できなかった場合はテンマ一人が受け持つという形になった。
そして話したのは自分が〝都市〟から地球という星に生まれ落ち、そして〝残響楽団〟の泣く子という存在として図書館と相対していた事、過去に多くの人を殺してねじれとなっていた事……そして、この世界で〝残響楽団〟が暴れ散らかしている事まで全てを。
それをフューレンギルド支部の別室で聞いたテンマは、最初こそアキラ……フィリップに対して剣を向けた。
『お前が、お前があの青い残響との関係者だったのか!』
そう言って二刀流の小刀を抜いたのはいいが、ステータス差で完全に圧倒され〝威圧〟も放たれた上簡単に武装も取られてしまい諦めたが……フィリップが〝夜明事務所〟出身だと聞いた時に全ての事情を察したのか素直に謝罪した。
「あの時は、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だよ。正直首を切られる事を覚悟してたし生きてるだけ儲けものだから……」
「……一先ず、私が話せる全部の情報は、
①私達が図書館から解放された時に、既にこの世界に降りていた事。
それだけ、かな」
アキラはファタールに頼んでしっかりと手記に文面として残させながら、〝鑑定〟で嘘か真か判別させていたが嘘はなかった。
しかし、シ協会がこの世界にいることは図書館の影響下にある事がよく分かる。まさかこんな事になっているとはフィリップも頭を抱えていた。
もし〝中指〟や〝親指〟と言った裏路地を牛耳る犯罪組織がこの世界にあれば中々のトラブルになる事は間違いなかったが……
「一先ず、僕が知りたい事は知れたよ。ありがとう」
「情報伝達は、シ協会では基本だから……大丈夫。
もうシ協会はないけど、リーダーはシ協会の時に身に付けた業務の処理能力から〝死の境界〟を作って一線級のパーティーを作った。
最後まで戦ってくれた私達を養ってくれてる」
「仲間想いなメンバーが多いと聞いていたんですけど、ユジンさんは本当に優しいんですね」
「うん。リーダーも、副リーダーも色々あったけど……一番信頼してる」
テンマが二人を語る姿は、まるで憧れの姉兄の事を話す妹の様な姿だった。
アキラもその姿にはほっこりしながら、笑みを浮かべながら「だからこそ、必ず助けましょう……その前に付近で降りてきたか情報収集をする為にも街に向かわなければ」と口遊む。
「向かう街、は?」
「湖畔の街……ウルです」
――――――――――――――――――――――――
「はぁ、今日も手掛かりはなし……
清水君っ、一体どこに行ってしまったんですか……!」
呆然と肩を落として、ウルの街の表通りをトボトボと歩くのは召喚組の一人にしてハジメやアキラ達のクラスの担任である畑山愛子である。
普段の快活な様子がなりを潜めており、今は不安と心配に苛まれ陰鬱な空気を周りに漂わせていた。
そんな状態の畑山愛子に対して、話しかけたのは彼女の専属護衛隊の隊長であるデビットと愛子のクラスの生徒である園部優花だった。
「愛子……そうあまり気を落とすな。まだ何も分かっていない。無事という可能性は十分にあるし、お前が信じなくてどうするんだ」
「そうですよ、愛ちゃん先生!清水君の部屋だって荒らされた様子はなかったんです。自分で何処かに行った可能性だって高いんですよ?悪い方にばかり考えてると、先生まで……」
いつもの調子が出ず、元気のない愛子に対して励ましを送る周りには他にも、毎度お馴染みに騎士達と生徒達がいる。彼等も口々に愛子を気遣うような言葉をかけた。
畑山愛子も気を落とすのも無理はなかった。
彼女の教え子の一人、清水幸利が失踪してから既に二週間と少しが経っているのだ。
愛子達は手を尽くした。総力を上げて清水を探したが、その行方はようとして知れなかった。町中に目撃情報、周囲の目撃情報を拾う為に〝豊穣の女神〟として情報提供を願ったが全て空振りであった。
当初は〝事件にでも巻き込まれたのでは?〟と騒然となったのだが……そもしも清水の部屋が荒らされていなかった問題や、清水自身が〝闇術師〟という闇系魔法に特別才能を持つ天職を所持していた事、更に他の系統魔法についても高い適性を持っていた事が決め手になり〝自発的な失踪である〟という事で結論が付けられ、ハイリヒ王国もこれ以上は難しいと判断し、教会と連携して応援を呼ぶそうだ。
清水幸利は魔法の才能に関しては召喚された者らしく極めて優秀である。ハジメやアキラの時のように上層部は楽観視しておらず、切羽詰まっているのは間違いない。
そして捜索隊が到着するまで、あと二、三日とはなったが……愛子自身どんどんと弱くなっていく様な気分を笑顔で取り繕っていた。
しかし言葉の通りだ。すぐに自分の頬を叩いて、気分を晴らして振り向くと笑顔で強く宣言した。
「皆さんっ、心配かけてごめんなさい!
そうですよね……悩んでばかりいても解決しません。
清水君は優秀な魔法使いです。きっと大丈夫、今は無事を信じて出来ることをしましょう!
さて、本日の晩御飯です!お腹いっぱい食べて、明日に備えましょう!」
無理しているのは丸分かりだった。しかし気合の入った掛け声に愛子達の教え子は疑う事もなく「はーい」と素直に返事をし、騎士達はその様子を微笑ましげに眺めた。
カランラカラッ、と音を立てる扉のベルの音を聞きながら愛子達は自分達が宿泊している宿の扉を開いた。
ここはウルの町で一番の高級宿、名を〝水妖精の宿〟。
〝水妖精の宿〟は一階部分がレストランになっており、ウルの町の名物の米料理が数多く揃えられているのだ。
当初愛子達は、高級すぎては落ち着かないと他の宿を希望したのだ。しかし〝神の使徒〟或いは〝豊穣の女神〟とまで呼ばれ始め、今では多くの人が支持する愛子や生徒達を普通の宿に泊めるのは些かどうなのかという騎士達の説得の末、ウルの町における滞在場所とした。
元々、教え子達と王宮の一室で過ごしていたこともありこの宿自体には次第に慣れ、今ではすっかりリラックス出来る場所になっている。
農地改善や清水の捜索に東奔西走し疲れた体で帰って来る愛子達にとってはこの宿で食べる米料理は毎日の楽しみになっている。
全員が一番奥にある専用のVIP席に座り、その日の晩餐に舌鼓を打っている。
「ああっ、相変わらず美味しいぃ〜!異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ!」
「まぁ、見た目はシチューなんだけどな。いや……そもそもホワイトカレーってあったっけ?」
「いや、それよりも天丼だろ!このタレとか絶品だぞ?日本負けてんじゃない?」
「いやいやチャーハンモドキ一択だろ。これやめられないんだよな」
本当に極めて地球の料理に近い米料理に毎晩食欲旺盛の生徒達のテンションは爆上がりだ。
見た目、味の違いはあるとして料理の発想自体はとても地球に似通っていた。素材が豊富というのも、ウルの町の料理の質を押し上げている一つの要素にはなっている。
美味しい料理で一時の幸せを噛み締めている愛子達のもとへ、60代の口髭が見事な男がにこやかに歩み寄ってきた。
「皆様……本日のお食事はいかがですか?何かございましたら、どうぞ遠慮なくお申し付けください」
「あ、オーナーさん。今日もとてもおいしいですよ。皆毎日癒されてます」
畑山愛子が代表してニッコリ笑いながら答えている相手は、この〝水妖精の宿〟のオーナーであるフォスであった。
彼も嬉しそうに「それはようございました」と微笑んでいる。
しかし次の瞬間には……その表情を申し訳なさそうに曇らせた。畑山愛子としては、この〝水妖精の宿〟で見てきた何時も穏やかに微笑んでいるフォスとは似つかわしくない表情に何事かと食事の手を止めてフォスに目線を送る。
「……こんな楽しい食事中に、大変申し訳ないのですが……実は香辛料を使った料理は今日限りとなります」
「えっ!?そ……それって、もうこの
カレーが大好物の園部優花がショックを受けたように問い返している。彼女もこのニルシッシルの愛食者であるが故の悲しい表情を浮かべていた。
「申し訳ございません……何分、材料が切れまして。
いつもならこのような事がないように在庫を確保しているのですが、ここ一ヶ月ほど北の山脈に異変ということで採取に行く者が激減しておりまして。
つい先日の事にはなりますが、調査に来た高ランク冒険者の一行〝死の境界〟が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店としても、材料が何時入ってくるか分からないものを出せる訳もなく……」
「……あの、異変っていうのは具体的には?」
「何でも魔物の群れを見たとか……北の山脈は山を越えなければ比較的安全な場所ですので。山を一つ越えるごとに強力な魔物がいるようですが、この山を超えてまでウルに態々来るのは有り得ません。しかし何人かの者がいるはずのない山を超えた先に魔物の群れを見たのだとなれば……」
「それは、心配ですね……」
愛子が眉を寄せながら、少し沈んだ様子で周囲のクラスメイト達と顔を見合わせた。フォスはその様子を見て「食事中にする話ではありませんでしたね」と申し訳ない表情を浮かべながら、「ですが……」と雰囲気を盛り返すように明るい口調で話を続ける。
「その異変も、もしかすると収まるかもしれませんがね」
「どういう事……ですか?」
「実はですね、今日のちょうど日の入り程に新規のお客様方が宿泊にいらしたました。何でも先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれると。フューレンのギルド支部長様の指名依頼と申しておりましたので、相当な実力者のようですよ。
もしやすると異変の原因も突き止めてくれるかもしれません」
愛子達はピンと来ないようだったが、食事を共にしていたデビッド達愛子の護衛護衛の騎士らは一様に「ほぉ……」と感心、興味半分の声を上げていた。
フューレンの支部長と言えばギルド全体でも最上級クラスの幹部職員であるからだ。その支部長に指名依頼されるというのは、相応の実力者である事に変わりないのだから。
そんなデビット達護衛騎士のざわめきに不思議そうな顔を浮かべている愛子達を他所に、二階へ通じる階段の方から声が聞こえ始めた。男二人と少女四人の声だ。
「おや、噂をすれば。彼等ですよ」
「ほう……随分と若い声だ。だが〝金〟に、こんな若い者がいたか?」
そうこうしている内に、男女達は話しながら近付いて来ると共に会話内容が聞こえてきた。
しかも何やら、愛子としてはその声は聞いた事があるような―――
「ここが〝水妖精の宿〟……本当に米料理が食べられるんですか?」
「うん……たまにだけど、リーダーが依頼のご褒美としてここの料理を食べに行かせてくれるから」
「それはとても気になりますね」
「所で、その米料理とやらは美味しいのか?」
「もちろん。私も、美味しいと思ってる」
「なら期待しておくとするか……」
その会話の内容とこの透すかの様な声に対しては愛子の心臓が一瞬にして飛び跳ねたし、園部優花も反応した。
それは、傍らの園部優花や他の生徒達も同じだった。
尋常でない様子の愛子と生徒達に、フォスや騎士達が訝しげな視線と共に声をかけてみる。しかし誰一人として反応しない。騎士達が「一体何事だ」と顔を見合わせ口遊むと、愛子がポツリとその名を告げてみる。
「……相馬君?」
無意識に放った自分の声が、有り得ない事態に硬直していた体を再び動かせる様になった。愛子は愛子はすぐさま立ち上がり、転びそうになりつつも部屋の境目に立つ席からその奥の方に向かっていく。
その部屋にはカーテンが掛かっていた。壁の向こうには大御所の如く多くの人影が見えた。そして、愛子は一切合切躊躇わずにカーテンの引く。
その音に、ギョッとして思わず体を硬直させたのは7名。
愛子はその顔に完全に見覚えがあった。だからこそ〝知っている顔〟に対してしっかりと名前を告げた。
「相馬君!……と、南雲君!?」
「え……は、先生?」
愛子の視線の先には、片目を大きく見開いて驚愕の表情を浮かべている眼帯をした白髪の少年と眼鏡を掛けた変わらない相馬アキラの姿があった。
白色の長い髪をひとつ纏めにしており、左腕は金属の腕に変わっている。
しかし顔立ちは、険しさより童子の様な幼さが残っていた事から愛子はすぐに〝南雲ハジメ〟である事を理解した。
もし普通に町ですれ違った場合、きっと目の前の少年を畑山愛子は南雲ハジメだとは思わないだろう。
だって彼は、こんなにも違う……唯一面影が残っているのは相馬アキラだけだった。
それに、確証はもう確定していた。アキラは先生を見て目をかっ開いていたしハジメに至っては〝先生〟と言っていた。もう言い逃れは出来ないだろう。
「南雲君っ……!やっぱり南雲君なんですね!?生きて……本当に生きて…!」
「いえ、人違いです。飯食お」
「ですね。すいません人違いなので」
「へ?」
死んだと思っていた、教え子と奇跡のような再会を果たしているのにも関わらず冷たい言葉が帰ってきた。
感動し涙腺が緩んで、涙目になる愛子。
今まで何処にいたのかとか、一体何があったのかとか、本当に無事でよかったとか……言いたい言葉は山ほどあるのに言葉にならなきった。
それでも必死に言葉を紡ごうとする愛子は言葉を返そうとしたが……思わず間抜けな声を上げて、涙も引っ込んでしまった。
しかし、ハジメとアキラは分が悪そうに席を立ち上がって宿から出ようとした。
「え、ちょっと待って下さいよ!南雲君ですよねっ!?相馬君ですよねっ!?南雲君に至っては先生の事は、先生と呼びましたよねっ!?なぜ、人違いだなんて!?」
「いや、聞き間違いですよそれ。あれは……そう、方言で〝ちびっ子〟って意味だよねアキラ」
「えっ?え、あー……そうかもしれませんね」
「それはそれで、物凄く失礼ですよっ!
というかそんな方言あるわけないでしょう!どうして誤魔化すんですかぁっ!
それにその格好、何があったんですか!?
こんなところで何をしているんですかっ!
何故、直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか!
南雲君!相馬君っ!答えなさい!先生は誤魔化されませんよ!」
愛子の怒声が〝水妖精の宿〟に響き渡り、〝豊穣の女神〟が男達に掴みかかって怒鳴っている姿に生徒や護衛騎士達もぞろぞろと奥からやって来た。
生徒達はハジメとアキラの姿を見て、信じられないと驚愕の表情を浮かべていた。
それは生きていたこと自体が半分、ハジメに関しては外見と雰囲気が違うしアキラに対しては空気感が違う。
クラスメイト達は、どうすればいいのか分からずただ呆然と愛子とハジメとアキラを見つめる事しか出来なかった。
しかし、そこでハジメとアキラを救ったのは頼りになるユエとファタールだった。ユエは、ツカツカとハジメと愛子の傍に歩み寄り、少し力を入れて愛子の手からハジメの腕を奪い、ファタールはアキラの背後に回って服を掴んでいる愛子の手を〝反射〟の魔法でピン、と指を弾いて簡単に離させた。
「……離れて。ハジメが困ってる」
「な、何ですか、あなたは……?今、先生は南雲君と大事な話を……」
「……なら、少しは落ち着いて」
「ご最もですね。感動の再会の様に見受けますか、平静になりましょう」
冷めた目で自分を睨む美貌の少女と、明らかに
ユエの身長はほぼ愛子と変わらないが、ファタールの身長はほぼ30cm以上も差があるのかその圧と仮面の何とも言えない見透かされた様な言葉と声に対してたじろいだものの、すぐに平静を取り戻した。
「……すいません、取り乱しました。改めて、南雲君と相馬君ですよね?」
今度は静かに、そして確信をもった声音で真っ直ぐに視線を合わせながらアキラとハジメに対して問い直す愛子。
そんな愛子を見て、ハジメとアキラはお互いに顔を合わせながら念話で密かに打ち合わせしながら、“どうせ確信を得ている以上誤魔化したところで何処までも追いかけて聞き出してくる”とお互い確信し、ため息をつきながら頭を軽く掻くと深い溜息と共に肯定した。
「久しぶりですね、先生」
「お久しぶりです」
「やっぱり、やっぱり……!南雲君、相馬君なんですねっ、生きていたんですね……!」
再び涙目になる愛子に対して、ハジメとアキラは大して感動を覚える様子もなく肩を竦めた。
「まぁ。色々ありましたけど……何とか生き残ってます」
「よかったっ、本当によかったです……」グズッ
それ以上言葉が出ない様子の愛子を横目に、アキラとハジメはテーブルに歩み寄りそのまま座席についた。
ハジメの突然の行動にキョトンとする愛子達。二人は完全に調子を取り戻したようで、周囲の事など知らんとばかりに、生徒達の後ろに佇んで事の成り行きを見守っているフォスを手招きする。
「……アキラ、大丈夫なの?知り合いなら挨拶くらい……」
「いえ、大丈夫です。僕は知り合いとの楽しい再会じゃなくて〝依頼〟の解決を速やかに行う事が大事なので」
「それなら……まぁ、それでいいなら」
アキラが注文表を見ながら、リチャードの言葉を返していく様はまるで何一つ気にしていない様子だ。
アキラにとってフィクサーの仕事は、真剣にやらなければならない仕事だ。仕事を放っておくのも、かと言って何も食わずにコンディションを削るのも仕事の質が落ちてしまう。
食事は食べるが知り合いとの和気藹々とした再会は喜ばずに、食事を終えたらこの宿ですぐに仮眠を取る。効率化された動きをする為の返しだった。
「ニルシッシルが、美味しい」
「成程。すいません、ニルシッシルを四人前……」
テンマの助言に従い、フォスに対してアキラが注文を頼みハジメに注文表を頼んでハジメもさぁ注文しようとしようとした時。
当然そこで待ったが入った。
ハジメとアキラがあまりにも何事もなかったように注文を始めたので再び呆然としていた愛子が息を吹き返ふと、ツカツカとハジメとアキラと同じテーブルに迫ると「先生、怒ってます!」と可愛らしい怒りの表情でテーブルをバシン!と叩いた。
「南雲君!相馬君!まだ話は終わっていませんっ!
何で物凄く自然に注文しているんですか!
大体、こちらの女性達はどちら様ですか!?」
愛子の言い分はその場の全員の気持ちを代弁していた。
ハジメとアキラが四ヶ月前に亡くなったと聞いた愛子の言っていた教え子であると察した騎士達わ、愛子の背後に控える生徒達も、皆一様にハジメとアキラに視線を送りながら回答を待った。
ハジメとアキラは面倒そうに眉をしかめるが、どうせ答えない限り愛子が持ち前の行動力を発揮して食い下がらず聞き出してくるだろうと思い、落ち着いて食事も出来ないだろうと二人で念話で感じ仕方なさそうに視線を愛子に戻す。
「依頼のせいで一日以上ノンストップでここまで来てるんですよ。お腹減ってるんですから、飯くらいじっくり食わせてくれませんかね……はぁ…」
「一応、ハジメの隣の方にいる女性方はそっちで紹介をお願いして……こっちは」
ハジメが視線をユエとシアに向けると、二人はハジメが話す前に愛子達にとって衝撃的な自己紹介し始めた。
「……ユエ」
「シアです」
「ハジメの女」「ハジメさんの女ですぅ!」
「お、女?」
「………………」ハァ
愛子が困惑しながら「えっ?」とハジメと二人の美少女を交互に見合わせる。
上手く情報を処理出来ていないらしい。後ろの生徒達も困惑したように顔を見合わせている。
特に男子生徒からはまさか、と現実から目を背けるような意見が出ているが……肝心に気になるのはため息をついたアキラの方である。
「ファタールです。魂の主様……では示しが付きませんね。メイドとメイドを侍らせているマスターと言った形でしょうか」
「リチャードだ。訳あって、アキラと共に行動している」
「テンマ。北の山脈で仲間の救援して欲しい、依頼を出した。今日は食事に誘いに来た……」
アキラの方の自己紹介は非常に分かりやすく、淡々としていた。
男子生徒達も驚いていたものの、ハジメの方とは事情が違いそうと知ってホッとしていた。
しかし、向こうから〝ファーストキスを奪った〟という発言が聞こえてくると共にハジメの方に視線を送るとシアがハジメに対してその発言をしていたことに理解した。
アキラは遂に胃薬が欲しくなってきたなぁ、と遠い目を天井に視線として向けていたが、その言葉を聞いた愛子が遂に情報処理が追いついたらしく、愛子の表情はみるみる内に赤色に染っていく。今、愛子の頭の中では、ハジメが二人の美少女を両手に侍らして高笑いしている光景が再生されている。
「というか、あれは救助行為で「南雲君……」」
顔を真っ赤にしながら、ハジメの言葉を遮る愛子。
その顔は、非行に走る生徒を何としても正気に戻してみせるという決意に満ちている。
そして、〝先生の怒り〟という特大の落雷、ウルの町一番の高級宿に落ちた。
「女の子のファーストキスを奪った挙句、ふ……二股なんて!れ!
すぐに帰って来なかったのも遊び歩いていたからなんですか!?
もしそうなら許しませんっ!先生は絶対許しませんよ!お説教です!そこに直りなさいっ、南雲君!」
きゃんきゃんと吠える様に怒る様子に、アキラも肩を竦めながら遂に運ばれてきたニルシッシルを寄せながら「僕がああならないで良かった……」と安堵の息を零すのだった。
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フィリップ君のヒロイン、誰にするか?
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園部優花
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その他原作組女子
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