どうか、あなたの物語が見つかりますように。
夜明けが訪れる。東の空ハジメと僕達の計七人はすっかり旅支度を終え〝水妖精の宿〟からハウルの町の北門に向かう。北の山脈地帯に続く街道から通る形で、魔力駆動二輪で飛ばせば三、四時間くらいで着くと目安を立てている為早い方がいい。
ウィル・クデタと〝死の境界〟が、北の山脈地帯に調査に入り消息を絶ち既に五日も経っているが故、生存は絶望的だ。
ハジメ君も僕も、ウィル達が生きている可能性は低いと考えているが万が一を考えて捜索はする。仕事は仕事だからね。
生きて帰せばしっかりと報酬は出るだろうし、そして心象の回復にも努めれる。出来るだけ急いで捜索するつもりではある。
そうして道なりに進みながらやがて北門が見えてくると、リチャードが人の立ち塞がる感覚を感じ取ったのか足を止めた。
ハジメ君もその北門の傍に複数の人の気配を感じたのか、目を細めながら姿を凝視した。そこにいたのは……
愛子先生と愛子先生の生徒達六人。
「……何を目的としてそうしてるのは聞きたくはないんですけど、一応聞きますよ。何してるんですか?」
ハジメ君が愛子先生に視線を向ける。
気圧されたようにビクッとする愛子先生は、少しの沈黙の後毅然とした態度を見せながらハジメ君と正面から向き合う。
ばらけて駄弁っていた生徒達、園部さん達六人も愛子の傍に寄ってきた。
「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね?人数は多いほうがいいですよ」
「却下。行きたければ勝手にどうぞ……が、一緒は断ります」
「な、何故ですか!?」
「単純に速度が違うんですよ。先生達に合わせてちまちま進んでられないんですから」
奥の方を見ると、愛子先生達の背後には馬が人数分用意されている。どちらにしろ魔力駆動車の速度に敵うはずがないのだが、ハジメ君の物言いに怒りを覚えて口出ししてきたのが園部優花さんが食ってかかってきた。
「ちょっと、そんな言い方ないでしょ?南雲が私達のことよく思ってないのは分かるけど、愛ちゃん先生にまで当たらないでよ…」
ハジメくんからすれば何とも的外れな発言に、ハジメ君が「はぁ……」と呆れため息を放ち憂鬱そうな表情を浮かべていたが、説明するのも面倒くさいのか無言で〝宝物庫〟から魔力駆動二輪〝シュタイフ〟を引っ張ってくる。
「これで理解しました?別にどうでもいい人達に怒りを当てることはしませんよ、大人気ない……そっくりそのままの意味で、移動速度が違うと言っているんですがね」
シュタイフに対して興奮を抑えきれない生徒の一人が、シュタイフを指差しながら呟く。
「こ、これも……!?昨日の銃みたいに南雲が作ったのか!?」
「はいそうですが……それじゃあ僕達は行くから、そこどいてくれません?」
空返事を放ちながら出発しようとするハジメ君の言葉に僕も〝ブリーゼ〟を召喚してメンバーが乗り出す。しかしそれでも、と愛子先生が食い下がる。どうやら是が非でもハジメ達に着いて行きたいみたいだけど……
考えられる理由は二つだろう。一つが、昨夜のハジメ君が愛子先生に僕の過去を話した事で、〝狂った神〟を倒し世界を救うという目的に対して、命を懸ける僕のやり方に反発している。
先生としては、きっと日本で帰ってくる事を待っている僕の両親や僕のこれからの人生に対して心配してくれているのが伝わってくる。
だが、別に僕は帰還する訳ではない。ハジメ君は〝狂った神〟はどうでもよく…ただ故郷にユエさんを連れて帰りたいという目的で旅をしている。もしも〝狂った神〟…エヒトやエヒトのその仲間が邪魔をすればどの道殺す事には変わらない。
だが僕の目的は前世の罪を償う為に、より多くの人の命を零させない為に狂った神を討伐する為に旅をしている。
ハジメ君とは〝七大迷宮〟を巡り神代魔法を手に入れる、その目的が合致しているから一緒にいる訳だ。
つまり僕達は結構、一緒に動いている様に見えるが別々の目的で動いている。
目的も違えば神代魔法を使う用途も違う僕達に対して、先生は何を言うのやら。
……無駄に話が長くなったが、もう一つの理由は〝清水幸利〟の事だろう。八方手を尽くして情報を集めているが成果はなし。が、発想を変えたのか人が入る事の少ない北の山脈地帯ならば?と思い立ったそうだ。事件にしろ、自発的な失踪にしろ……これを機に自ら赴いて、ハジメ達の捜索対象を探しながら清水の手がかりもないかを調べようと思っている所だろう。棚ぼたを狙っている訳だ。
僕がブリーゼに魔力を流して、前を向いた時に愛子先生がハジメに身を寄せて小声で何かを伝えていた。
何を伝えているかは分からないが、ハジメ君は一度深く溜息を吐きながら、愛子先生に向き直りながら何かをまた話している。
そしてシュタイフに跨っていたハジメ君が一旦降りてブリーゼの窓をノックしてくるので、一旦窓を開けてハジメ君の言葉を聞く。
「愛子先生の同行を許してあげたから、ブリーゼに載せてあげて」
「いいんですか?」
「あの人は骨の髄まで〝教師〟だったよ……何処までも追いかけて話を聞こうと寄ってくるだろうし、それで命が間に合わなくなるの嫌でしょ?」
「はぁ、分かりました」ウィーン
窓を閉じながら、ため息まじりにブリーゼの扉をリチャードに開けさせて愛子先生を助手席に座らせた。園部さん達には、「乗れない人は荷台に行ってください」と伝えさっさと運転席に行くハジメ君と共に北の山脈地帯に向かうのだった。
――――――――――――――――――――――――
標高1000mから8000m級の山々が連なる、この場所こそ北の山脈地帯だ。
ここは普段見えている山脈を越えたとしても、その向こう側には更に山脈が広がって北へ北へと幾重にも重なっている様な光景には登山家がいれば絶望間違いなしだ。それと、現在確認されているのは四つ目の山脈までで、その向こうは完全に未知の領域である事が確認されている。
ハジメ君がその麓に二輪を止め、僕も止める事で後ろに付いてきていた生徒達も窓からその光景を見つめていた。
しばらく見事な自然の芸術に見蕩れながら、ハジメ君がすぐさまウィル生存の足がかりとして二輪を〝宝物庫〟に戻して新兵器である〝無人偵察機〟と、それを操る指輪を取り出し起動させた。生命の息吹を与えられた様に起動された鳥型の模型が翼を羽ばたかせずに横軸移動していく様は中々にシュールという他なかった。この光景には愛子先生や生徒達も驚いている。
ハジメ君の片目の義眼に〝無人偵察機〟の見ている光景はリンクされているので、片方の視界は無人偵察機を使いハジメ君は冒険者達が通ったであろう道を通っていくと共に僕達もこれ以上は車の運転は厳しいという事で四輪を収納してもらい徒歩で移動する事にした。
魔物の目撃情報があったが、山道の中心部分よりやや上の辺りだ。6、7号目辺りならば、ウィルや〝死の境界〟もその範囲の調査をしていてもおかしくないし、調査をしたのなら使用していたキャンプ跡があるかもしれないと考えて、ハジメは君が無人偵察機を先行させながら、ハイペースで山道を進んでいった。
そうして、大体一時間と少しくらいの時間で六合目に到着したハジメ達は、一度そこで立ち止まった。理由は、そろそろ辺りに痕跡がないか調べる必要があったのと……
「はぁっ、はぁっ…や、やっときゅ休憩、ですかっ……けほっ」
予想以上に愛子先生達の体力がなく、休む必要が出てきたのだ。少しだけ擁護してあげると、愛子先生達のステータスはこの世界の一般人の数倍を誇る。六合目までの登山程度でここまで疲弊することは本来ない。ただ、ハジメ君と僕らの移動速度が速すぎて全力疾走しながらの登山となり、いつの間にか疲弊しているという事であった。
その間、ハジメ君は川を探索すると言い残して先に向かったので僕達は先生達に出来るだけすぐ辿り着けるように周囲の山々の景色を見つめる事にした。
相変わらず凄い景色で、都市では見たことがない幻想的な世界が広がっている。
初めて日本にある〝富士山〟とやらに家族で登った時も、僕はその絶景に息を飲んだ。あまりにも美しくて、写真に収めるには惜しいと感じる程だった。
もっと壮大で、大きな額縁に入れて飾りたい―――そう思うくらいには都市とは比べ物にならない光景は印象が大きくて。
「中々、綺麗だな……」
そう呟きながら後ろを振り向くと、丁度愛子先生達の息も整ってきて始めたので先導してハジメ君の向かった川の方向に向かう。
少し歩いて、小さく流れる小川に到着した。ハジメ君は何やら訝しそうな表情で「ちょっと見てくれる?」と僕達を招集して持ってきたものを見せた。
それは、赤色の刃が見事な剣だった。
「川の上流に剣があったんだ。それに、鞄も……まだ新しいみたい」
「それはっ……
「一刻を争うみたいですね。行きましょう!」
「無理に追い付かなくていい!走るよ!」ダッ
ハジメ君と共に〝天歩〟や〝縮地〟を使いながら一気に川の上流に向かって駆け出す。愛子先生の方を振り返ると、しっかり疲労が抜けきらない肉体を根気で持ち上げて共に移動していく。
注意深く周囲を見渡すと、近くの木の皮が禿げているのを発見した。高さは2m程度……大きな物体が擦れた拍子に皮が禿げたという所だろう。高さからして人間の御業ではない。
ハジメ君がシアさんに全力の探知を指示しながら、僕達も感知系の能力を全開にしながら、禿げた皮の木の向こう側へと走り出し……争いの形跡が発見できた。
立ち折れ、巨大な脚で踏み躙られた草木。そこに折れた剣や血が飛び散った痕もありながら、それらを発見する度に、特にテンマさんの表情が強ばっていく。
しばらく、争いの形跡を追っていきながら探索を続けるとシアさんが前方に光るものを発見したのか手招きしてきた。
「ハジメさん、これ……ペンダントでしょうか?」
「……遺留品かもしれないね。確かめよう」
ハジメ君がシアさんからペンダントを受け取り汚れを落とすと、どうやらロケットタイプの様だった。留め具を外して中を見ると、女性の写真が入っていた。冒険者一行の物にしては……テンマさんに聞いてみるが、知らないと神妙な表情で首を振った。
「ファタール、これ誰か特定出来る?」
「……ウィル・クデタのものです」
「……!」
ハジメ君がそれを受け取り、「いや……まだ諦める訳にはいかないよ」と言い残しそのまま探索を続けていると〝無人偵察機〟が異常なものを探知したと反応しそちらへ全速力へ向かっていく。既に日は傾いており、野営の準備に入らねばならない時間だ……夜は獣や魔物も動き始める時間帯、迷ってる暇はない。
そうして東に暫く行った所に、大規模な破壊の痕が残った大きな川があった。上流に小さい滝が見え、大きな音を立てながら水が落ちている。しかしその川は本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていた筈なのに、途中で大きく抉れていて小さな小川に別れているようになっていた。まるで、横から大きな攻撃で抉り取られた様な。
恐らく炎系の上級魔法の一撃の類かと考える。周囲の木々は小川にあったものと同じく、折られ踏み潰されていた。そこに焦げた痕跡があるのなら……魔族か何かに狙われたか?
「ここで本格的な戦闘があったみたいだね。この足跡、大型で二足歩行する魔物……確か、山二つ向こうにはブルタールって魔物がいたっけ……」
「でも、この抉れた地面でブルタールは有り得ない……」
そうしてハジメ君が〝無人偵察機〟僕らと並行して飛ばしながら僕達は上流へ向かうことになった。
しかし上流の方は、あまりウィル達の大した証拠などはなかった。テンマさんもそれには神妙な顔付きが収まらず周囲を探し続けるが……
「(!……これは)」
そして、ウィル達の痕跡ではないが地面に何かの痕跡を見つけた。
人の様な足跡。しかし足跡がかなり不揃いというか……歩いたのか、千鳥足だったとしてもこうは不揃いな歩き方はない。
人を抱えて歩いたにしてもこんなにゆったり、急に速く、また遅くが繰り返された歩き方は……あまりいいものとは言えない。
しかし地面には、どれも血の跡が残っている。血の跡がこれだけ残っているとしたら出血多量で死んでいてもおかしくはない。
……一体何の人間の足跡なんだ?
そして、このタイミングでハジメ君からの〝念話〟が発動した。
「(アキラ君!ウィル・クデタ保護した!)」
「(なんだって!?すぐに降りる!)」
とてつもない情報と共に、ファタールに頼んで〝転移〟の魔法ですぐに全員がハジメ君のいる下流の方に転移する。
そして僕達が転移したのは、轟音鳴り響く滝の滝壺の中だった。確かに〝気配感知〟で人の感覚を掴めている。
どうやら洞窟のようになっていて、隠れるには丁度いい場所だった。
そしてハジメ君を見つけると共に、20歳くらいの青年と……赤黒い服と共に簡易的に治療された2名を発見した。その存在を見るや否やテンマさんが大声ですぐに近付き、息を確認する。
そこにあったのは、大きな爪痕で傷付けられたユジンと何かに腹を貫かれたヴァレンティンの姿だった。多量に出血していたのか血に濡れ固まった包帯が見える。
相当な激戦からウィルを守ったのだと理解しながら、テンマさんの報告があった。
「まだ、まだ息してる!」
「ハジメ君、神水は?」
「数はあるはあるよ……数はある、けど」
「(……そうか、神水自体もう残り少ないからここで使う訳にはいかないか)ちょっと待って。僕が、何とかしてみよう。このままだといつ衰弱して死に直結してもおかしくない……」ゴォッ……
そう言いながら僕は、新しく開放された〝治癒〟の派生スキルである〝竈火之揺籃〟を発動する。
基本的、僕の治癒は自分自身に対して強く発動する。だがこれは他人に僕の治癒を弱くはあるが発動させる派生スキルだ。
暖かく包み込む様な炎と共に、時間をかけてゆっくりとテンマさんが見守る中
「…………テン、マ…………?」
「…………生きて、たのか…良かっ、た………」
「り、リーダーぁぁっ!!!!副リーダーぁぁぁあ!!!」バッ
涙ぐんだ瞳を潤わせながら、テンマはユジンとヴァレンティに抱きつく。
傷や温度を治していく僕を見つめながら、静かに抱きつかれているユジンが「……ありがとう」と言ってくれた。
まさかシ協会のフィクサーにこうして褒められる事になるなんてちょっと嬉しく感じる。
そして僕達が感動の再会と治療に勤しむ間、ハジメ君がウィル・クデタから話を聞き出してくれた。
要約するとこうだ。
ウィル達は5日前、ハジメ君達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで突然、ブルタール10体程と遭遇した。
流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だとウィル達は撤退に移った。襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増え始め、気がつけばこの六つ目の例の川にいた。そこでブルータルの包囲網を脱出する為、ユジン達が山を降りる為に温存していた力を解放し盾役と軽戦士のブルータルを始末した。だがそれでも増えていくブルータルに対して、追い詰められていく様に川に出た。そんな時……前方に絶望が現れた。
漆黒の竜と、それを乗りこなす深紅の人型だったらしい。その黒竜はウィル達に対して川沿いに出てきた瞬間、特大のブレスを吐いてその攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落し、流されながら見た限りではあるが……深紅の人型をヴァレンティノが、漆黒の竜をユジンで相手したという。これは後で裏を取って本当であると理解した。
しかし長くは持たず、漆黒の竜が圧倒的な巨大な肉体を使った物理攻撃で吹き飛ばされ全身に強力な一撃を与えられたユジン、そして深紅の人型に致命傷を与えられたヴァレンティノは持ってきていた煙幕やあまり使わない魔法で何とか逃走。しかし川沿いから抜け出すには体力が足らず、結局川に落ちた。
その後流されるまま滝壺に落ち、ウィルと同じく偶然洞窟に進み空洞に身を隠していたという事だった。
「(そんな事が……)」
傍らでウィルが泣きながらそう伝えてくれたことと、一人逃げ出しユジンとヴァレンティノ、テンマを危険に晒す事になってしまいその事に涙ながら謝罪していた。テンマは最初こそ文句を言おうと体を乗り出したが、ユジンに止められた。
寧ろユジンは「護衛として君を最後まで守れず、申し訳なかった」と謝罪する程だった。
その事にウィルが涙目になりながら、一先ず全員生きていることを喜びあいながらハジメ君と僕達は洞窟から出て山から降りることに決めた。最悪魔物が出ても、回復していけばユジンやヴァレンティノも戦えるだろうと踏んだ為だ。ハジメ君も無事と分かったのならすぐに依頼を済ませようと言っていた為の行動だ。
しかし、滝壺から出ていざ下山というタイミングだった。
『グゥルルルルルッ………………』
『ギ………グ……………』
低い唸り声と共に、漆黒の龍鱗をその身に纏い、黒翼をはためかせながら空より金色の瞳でこちらを見下ろし、大地を踏みしめる様に降りてきた…〝漆黒の竜〟と。
深紅の塊と、気持ち悪い肉の塊で作られた人型の槍を持つ存在……明らかに僕が知っている〝人形〟がその場に降り立ったのだった。
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