どうか、あなたの物語が見つかりますように。
※Library of ruina及びLobotomy Corporationのネタバレがあります。ご注意ください。
水の流れる音と共に、僕はゆっくりと意識を回復させたのか。
視界が開けて、意識がはっきりとする。
すぐに体を立ち上がらせようと動かしたがそれは出来ず、膝元を見るとハジメ君が倒れ込むように僕の膝元にいた。
……白崎さんに申し訳ないと思いながらも、ハジメ君を揺さぶり起こしてやる。
「ハジメ君、起きてくれ!生きてるぞ!」バシバシ
「う……あ、こ、こは……?」
「オルクス大迷宮の、深層だと思うよ……」
その一言と共に、ハジメ君も完全に意識を回復させて体を起こした。僕も現状を把握する為に立ち上がり、お互いに周囲の警戒を始めた。
幸い何とか、僕達は致命傷を逃れて少しの体の痛み程度に落下の衝撃は抑えられた。
そして何より、命あってこその人生だ。僕としても、彼を助ける事は自分の人生に改めて一歩踏み出せる気がした。
一応、助かったのは少し警戒している最中に僕の鞄が水に落ちていた事と一緒に武器も突き刺さっていたこと。
僕の武器は、スティグマ工房の武器という事で相当な硬さと相応の値段をしている。やはり無茶言って買ったのが功を奏した。
「ここ、深層なら……上に上がる階段があるはずだけど」
「僕個人から見ても、階段に上がる意見に賛成したいんだけど……そうともいかないのがここなんだ。
あまり喋らずに、行こう」
僕の警告に対して、ハジメ君は隣に知り合いがいる安心感からかコクリと頷いて共に行動する。
なんというか、彼自身も一番この状況に対して恐怖していると思う。僕だってそうだ。
逃げ出したい、怖い。それでも……前を向かなければならない。
僕がそうだったから。しかしこの考えをハジメ君に押し付ける気は毛頭ない。これは僕の考え方であり、僕の罪であるから。
そんな思いを頭に回しながら、何時でも岩陰に迎える準備をしながら僕とハジメ君が移動していく最中。
遂に、一番出会いたくなかった魔物と遭遇してしまう。
『ギュピッ』スタッ
見た目は、ただのウサギ型の魔物。しかし油断してはならないのが子のウサギ型の魔物の肥大化した足だ。
相当鍛え抜かれている足は、カンガルーの蹴りで五臓六腑が弾け飛ぶようにこの蹴りを体に喰らえば元も子もないという事だろう。
相手が気付く前に、僕達は岩陰に隠れてやり過ごすことにした。
相手は相当鈍感なのか、もしくは脚が異常発達したせいで感覚が鈍っているのか分からないが、ウサギ型の魔物はこちらに振り向くことなく周囲を見渡したり毛繕いするかのように自分の足で体を掻いている。
妙に現実らしい、そんな事を感じさせるがすぐにウサギ型の魔物の行動がおかしくなると僕達の空気が一変し空気が重くなった感覚が走る。
そして、ウサギ型の魔物が周囲を見渡している理由に気付いた。
『グルルァ……』バチッ
赤色の閃光を体から走らせる、二つの尾を持った狼が現れた。しかも単独で行動しているのが余計にその強さを目の当たりにさせられる。
そんな深層の魔物が2体、鉢合わせた。つまりこれは滅多にお目にかかることが出来ない強い者同士の戦い。
その戦いが目の前に繰り広げられるというのは、情報が欲しい僕からすれば最高の瞬間だった。
二尾狼は赤黒い閃光を走らせながら、ウサギ型の魔物に対して喰らいつかんと迫り来るがウサギ型の魔物の姿が消える。
ほして、僕達の耳からは遅れて音が聞こえて空を破裂させるような音と共に、二尾狼の体に白色の影がめり込んでいた。
ウサギ型の魔物の、足だ。
簡単に蹴り込まれた二尾狼は赤色の閃光が消え、そのまま倒れ込んだ。ウサギ型の魔物はまるで勝利を喜ぶように鳴き声を上げている。
「(明確に意思と感情がある……深層の魔物にも優越感や達成感があるのか?)」
実際ウサギ型の魔物……蹴りウサギと命名しよう。
何かを察知したのか、こっちを見てきた。
明らかに僕達を見ている。ハジメ君の方をほんの一瞬で視線を落とした時に、震えていた。
不味い、と直感的に震えた。
スティグマ工房の武器に魔力を注ぎ、すぐに剣を前に盾のように突き出して構えた瞬間に僕の体が簡単に壁に叩き付けられるのが分かった。
全身に痛みと、硬直したような感覚が走り呻き声すら出ない。だが、不思議と僕は生きていた。今の一撃で内臓がやられていてもおかしくはない。
もしかして、『耐久』のスキルが活きているのか―――そんな事を頭に浮かべたのに、立ち上がる事は全くおぼつかなくなった。
「アキラ君!」
その声と共に、僕に対して近付いてくるハジメ君にすぐに歯噛みしながら僕は口を開いて出せるだけの声を開いた。
「我が剣を大地に献上し、敵を拒む壁を成せ、〝岩剣〟!」
こちらに対して、蹴りウサギが目線を向けてハジメ君がこっちに近付いてくる瞬間を見極めながら、蹴りウサギが蹴りの動作に入ろうとした瞬間に岩の剣が蹴りウサギに対して放たれる。しかし、それに気付いた蹴りウサギは何もない上空に飛ぶと共にこちらに飛んできた。
あとハジメ君が少し、近付いてくるまで2秒。
「流れる、剣と共に、この戦場にっ、一つの雨を!〝水剣〟! 」
途切れ途切れの詠唱から、水で作られた剣を幾つも召喚し蹴りウサギに狙いを定めて飛んでいく。その攻撃に対して、上空では危険と感じたのか、攻撃をサマーソルトキックで破壊していく蹴りウサギの姿を見ながら、僕はすぐに体を回復させて呼吸を整える。そして、いいタイミングでハジメ君が僕のところに辿り着いた。
「ハジメ、君……!錬成だ、錬成を使って、避難しようっ……!壁の中でもいい……!」
「う、うん。任せ―――」
その瞬間だった。
ハジメ君がそれ以上の言葉を発することなく、僕の目の前に鮮血が舞い散りながら、僕の肩も鎌鼬に抜かれた様に軽く切れた。
しかし、痛みで苦しみ叫び声を上げるより前に目に付いたものがあった。
ハジメ君の左腕が、吹き飛んでいた。
断面に何一つズレがなく、綺麗でそして簡単に引き裂かれているのが目に見えた。
叫び声が、聞こえる。ハジメ君のだ。
その瞬間に、痛みと同時に歯を噛み締めて僕は詠唱に入った。
「我が剣の輝きよ、暗雲照らし出し我に希望をっ゛!〝光剣〟!」
剣から光が溢れ出し、僕は改めて食らい迷宮でこの惨事を引き起こした存在を見つめる。
白い、熊。しかし2mを優に超える肉体と巨大な鉤爪が目に見えた。あれを、自分達のステータスでは理解できない速度で切り裂いたのかと思ったが、そんな事はどうでも良かった。
ハジメ君が逃げる。その瞬間までに、自分はこの満身状態の中で時間を稼がなければならなかった。
彼をここで、失う訳にはいかない。
僕は彼を生き残らせる為に、あの翼をもう一度生やし、飛んだ。
もう一度起こすのだって、羽休めした自分からしたら何の問題もないだろう。
けど、寧ろいい。
僕は彼を助けるだけでいい。自分を犠牲にして、この先に多くの人を助けれるのなら何だって構わない。
結局は僕の『
それでも。
僕は……今の自分の罪に向き合い、これ以上無下な犠牲を。
僕の前に、一人も死なせたくないという思いを。
もう一度燃え上がらせた。
「今度こそ……僕の戦いに、決着を付けてやる……!」
―――――――――――――――――――――――――――
南雲ハジメは、激痛に苛まれながら近くの壁まで這いずり寄っていた。
それはもちろん逃げる為。自分を助けに来てくれた彼の思いを無駄にしない為。
どうしてこんな自分を助けてくれるかは分からない。それでも彼は何も厭わずに『南雲ハジメ』を助けに来てくれる。
何故なんて、言ってられなかった。
とにかく時間を稼いでくれる彼の為に、南雲ハジメは一心不乱に迷宮の壁に向かって手を伸ばす。
そんな時だった。
「今度こそ……僕の戦いに、決着を付けてやる……!」
そんな声と共に、南雲ハジメは衝撃的な光景を見ることになった。
彼の使っているとてもカッコイイデザインの剣は、まるで血管が浮かんだ様に橙色の線が浮かび上がり、まるで蝋の様な物に剣が包まれていた。
更に、その右手から右肩にかけてのみ鎧に覆われ、左側に生えた大きな片翼が存在していた。
今にでも溶けてしまいそうなそんな蝋で出来た翼と剣を使って、彼はあの爪熊と接戦していた。
『グゥォオオォッ!』
「はぁっ!」ガァンッ!
鈍い金属のような音が響くが、彼は爪熊の圧倒的な力の差をものともしていない。
その理由が、彼の背中にある翼が盾のようになっているからだ。爪熊の攻撃を抑えながら、爪熊の噛みつきに対して後ろに飛んで避けることで簡単に距離を取れる。
相馬アキラのあの姿には、見覚えがあった。
それは自分が火球によってベヒモスと一緒に落とされた時に、彼が背中から生やしていた暖かい翼。
今にでも溶け出しそうにしていたあんな翼を、彼はあの一瞬で作り上げて自分を迷宮側に投げこもうとしてくれた。
しかし、同じ様な火球に彼も当たってしまい南雲ハジメはその翼に抱き締められながら落ちていった。
恐らく無事だったのは、彼がこの翼でクッションになってくれたのもあるだろう。
だからこそ、彼の『南雲ハジメには生き残って欲しい』という思いを汲み取る必要があった。
その為にも、例え無様で情けなくても這いずって迷宮の壁に向かい、蠢きながら……遂に目の前の壁に到達し、彼は叫んだ。
「錬、成ぇ……!」
錬成によって、迷宮の壁がゆっくりと変化して穴が出来ていく。そこに這いずっていく。
南雲ハジメにとって左腕の痛みは最早どうでも良かった。
ただ生きろ、生きてくれという願いに自分も答える他なかった。
とにかく自分がこの世界で初めて手に入れた能力『錬成』で、道を作る他なかった。
頑張れば人がしゃがんで通れるくらいの道をとにかく、錬成で作り上げていく。
そんな中、物凄い音と共に何かが穴の外から叩き付けられる音が聞こえた。
不意に、少しの隙間からハジメは振り返った。
「ぅ………………」
彼が、相馬アキラが爪熊の攻撃で負傷していた。
叩きつけられた衝撃は翼で抑えたのか、すぐによろめきながや立ち上がる。
南雲ハジメは、みっともなく泣いてしまった。
もういい、大丈夫だ。君は戦わなくていい。そんな思いが心の中でグルグルと目まぐるしく動いた。
それでも。
錬成と唱え続けた。
「あ、ぁぁ゛!!!〝錬成〟ッ、〝錬成〟ェ!錬成ッッッ!」
どんどんど先に進みながらとにかく進むしかないハジメは、涙と鼻水、そして涎で地面を汚しながらとにかく進み続けた。爪熊がやって来れないように前へ、前へ。
そして、物凄い温度の炎の熱が穴の外から感じたハジメは振り返らずに……ずっとずっと、その先へ進み続けた。
―――――――――――――――――――――――――――
戦況は、劣勢だった。
僕は自分の発現させたこの力を最大限上手く活用できていない。その自覚はあったし、僕としてもこの力だけは上手くコントロールできない。
しかし爪熊には対抗出来た。だから劣勢でも対応できた。
しかし……爪熊は学習したのか、物理攻撃と共に爪熊の本来の性能である『爪』の力を使ってきた。
爪熊の爪から、鎌鼬が飛んできた。
その鎌鼬は鋭く、僕の足に切り傷を作りながら連発してくるときた。
痛みと、そしてこの力によって急激に動かす部位が増えた事への多重的な思考と爪熊の撤退方法からハジメ君が生きているかの安否確認まで目まぐるしく思考していた。
しかし結局は、僕が戦うこの爪熊との命を懸けた戦いに思考を戻さなくてはならなかった。
『グォォォォッ!』ブォンッ!
「しまっ、ぐぁぁっ゛!?」
爪熊の鎌鼬を警戒し過ぎたあまり、簡単に掴まれて思い切り投げ飛ばされる。ただ、着地の衝撃は翼で抑える事が出来た。
しかし、体がふらついている。彼を受け止めた衝撃の反動が今ここに来て襲ってきている。更に、魔力を使用し続けたことで意識が朦朧としている。
「ぅ……………………」グッ
それでも、立ち上がらねばと体を振るい起こして立ち上がった。
絶対に負けたくない。ここで死ねば彼もいつか死ぬ。
だからせめて、彼が死ぬ時間をもっと遅く。
もっと長く。手に入れなければならなかった。
人目見た時にずっと思っていた。
彼は、決して目立たない訳じゃない。
目立たないけれどその力を自分の為に使っているだけで、周りを助けようと思えばその為に努力を厭わない人間だ。
それはベヒモス戦や、僕自身が中学二年生だった頃に見た
彼のあの姿に、自分の何かが胸動かされた。
だからこそ、この思いを無駄にしないように。
そして自分自身のこの傲慢さを、燃料に焼べながら。
「…………」
何処がから、暖かく美しい声が聞こえてくる。
〚もう頑張らなくてもいいよ。君はとても頑張ってる、君の優しさに多くの人は救われている。
今度は君が報われる番なんじゃないかな〛
「…………」
〚君と会うのは何回目になるんだろうね。私は君の事をずっと見てきたんだ。そう、ずっと。
この世界に来てからも〛
『 ゴァァァァァッ!』ドゴォッ!
「はぁッ!」ガァンッ!
灼熱の剣が、燃え上がりながら爪熊とぶつかり合いお互いが戦況を掻い潜りながら見極めている。
先に狩るのは自分であると、そう言う様に。
〚君が頑張って、君が努力して、君が優しくして、そしてこの世界を助けている。救っている。
それなのに世界は君を救わないし、君の命だって今狙われているよね。
そんな世界は、君にとって不都合だって思わない?〛
「…………我が剣よ、この乞い願いし想いを、激情と知れ」
美しくも暖かく、飲み込むような声が僕を包み込まうとしてくる。
すぐに隙を晒せば、
けど……
「(そうは思いません、カルメンさん)」
僕は、この人の声を否定する。
世界はいつだって理不尽で、残酷だ。僕に才能がないのも、僕が強くなれないのも、僕が戦わなければならないのも世界のせいだ!……そう怒ったって構いやしないとも。
しかしそれを並べて、いざ『自分が戦わなければならない時』が来たとして。
そんな言い訳を並べて、悲しくならないのか。
そんな事を言ったって、僕を助けてくれないじゃないか。
言葉なんて言うのは簡単だ。口にする事だって楽だし、そうやって囁けば僕は簡単に騙される。
しかし今、この戦いは。
僕が乗り越えなくてはならない戦いだから。
僕が乗り越えるべき、過去の罪の体現。
図書館の時のような強大な壁なんだ。
そんな壁に対して、貴女はまた僕に目を隠して、耳を塞いで、口を閉じろというのか。
いいや、いいや……
僕は、もう逃げたくない。
気持ちは何時だって正直だ。本当は逃げ出したい、痛い、泣きたい、そんな思いでいっぱいだ。
ただ……それも全部、言い訳だ。
僕はきっと大した人間じゃない。僕の為に悲しんでくれる人なんていない。
ならばせめて。
人の役に立つ。そうすれば、僕はきっと満足してこの世を去れると思うんだ。
僕自身がこの世界に相応しくなくて、きっと居場所なんてないと分かってる。元の世界に帰れる訳が無いと思う。
ならばここで自分の役割を果たす。そして同時に、僕を助けてくれる人には全ての恩を返す。
だから。
「(僕が本当に、その声を聞く時は今じゃない。
僕が楽になれるのは、全ての約束を終えて……死んだ時だ。
立ち向かいます。この熱い感情と共に、もう一度立ち上がります。
だからもう………………僕の邪魔を、するな!)」
『グゥォオオォッ!』ダァッ!
ふと、彼女の声は聞こえなくなった。
諦めたのか、呆れたのかなんて分からない。
ただそんな時に誰かの声が聞こえた。
僕は直ぐに、駆け出した。この一撃で全てを決める為に。
「この激情を以て、全てを燃やし尽くそう。
そして……夜明と共に消え去ろう。
〝
激情が体を燃え上がらせる。そして、思い切り飛び立つ。
この翼と一撃を撃ち込むと、爪熊の爪をいとも簡単に融解させる。
そして、飛び立ちながら肩、そして胸を引き裂くとスティグマ工房特有の炎の烙印が浮かび上がる。
あと一撃で、倒せる!
「――――――――――――!」
しかし、気が付いた時に僕は何故か壁に飛ばされていた。
爪熊は火傷がついていない腕を振るった瞬間に鎌鼬が僕を切り裂きながら壁に叩き付けたのだ。
爪熊のあの鎌鼬は、決して自前のものでなく『スキル』だった。
腕を切り飛ばさなければ、ならなかった。
「……最後の、最後で……読みが外れるなんて……」
『グゥォオオォッ!』ダァッ!
「……ハジメ君……僕は、あなたと一緒に……最後まで戦いたかった」
そうして僕の視界は、暗転した。
―――――――――――――――――――――――――――
「―――起きるんだ、フィリップ」
その声と共に、誰かが僕に語りかける。
誰だろうと思い、目をゆっくりと開くと。
僕の恩師であるサルヴァドールさんが、顔を覗かせていた。
僕が目を覚ますと、白い空間にいた。
何も無い、境界線を捉えるのも難しいくらいの純光に包まれた謎の場所で、サルヴァドールさんに会った。
もしかして、僕は天国にいるというのか。
地球の人間に生まれ変わった時、外国という場所にある文化を学んだ事がある。
そこには、死んだ時に己の罪に対して『天国』か『地獄』に行くと言われていた。
僕は決して清い人じゃない。そう思ってきっと地獄に行くだろうとも信じていた。
だからこそ、こんな天国の様な光包む場所でサルヴァドールさんがいる理由が分からなかった。
「サルヴァドール、さん」
「なんだね、フィリップ」
「僕は、死んだんのでしょうか」
その問いに対して、サルヴァドールさんは「そうだな……」と何かに思いを浮かばせながら、結論付けたのかこう言った。
「もうすぐ死ぬ、という事だ」
「もうすぐ……死ぬ?」
「私はね、君を迎えに来たんじゃないんだ。
君に忠告する為にここに来た。例えそれが世界のルールに反していてもだ」
「世界の、ルール?」
サルヴァドールさんは、名残惜しそうに僕を見つめながら語った。
「フィリップ。君は、未来ある若者だ。
私の技術を持っていきなさい」
「サルヴァドールさん……!?待ってください、まだ話したい事とか、言いたい事とか、沢山!」
「無理だよ。私も長くはここに入れないんだ。
だが、君はもうとてもよく育った。
まるで最初こそ、飛び方を知らない雛鳥だった君が。
逞しく、そして強くなった。本当の意味で君は自分の殻を破ることが出来たんだ」
そう言いながら、僕の方に手を置くとサルヴァドールさんから光が溢れ出して消えていく。
「サルヴァドールさん!」
―――フィリップ。私から君に教えることはもう無いかもしれない。だが思い出し続けるのだ。
君の言う通り、恐怖は過去からやってくる。全ての恐怖を乗り越え、そして未来に突き進むんだ。
私は、老い先が短いと理解していた。長年の勘という奴かな。それを感じながらもユナに助けられた事だってある。
それでも生きる事を諦めなかった。
君がいたからだ、フィリップ。
君を置いて、死ぬ訳にはいかなかった。
君はきっと、凡才と言われるのだろう。これから先も、そして未来までも。
だがそれでいい。言わせておけばいいんだ。
君が本当の才能を手に入れるのは、今からそして未来から。
君の力が、多くの人を助けそして……君が泣いて怒り、目を塞ぐようになったあの時の罪を乗り越えたその時に。
君ともう一度、話したいものだ。
「サルヴァドール、さん゛っ…………!」
そんな声が聞こえながら、僕は天に向かって手を伸ばす。
掴めないなんて分かってる。けどそれでも。
僕は大切な恩師の光を手放したくなくて、必死に手を伸ばした。
そして…………光の世界が消えていく中、黒髪の白衣姿の男を見かけた。
あれは誰だろう、そう思った。
男は最後の瞬間に、僕に対して何かを言い放った気がするが……
結局、それは聞き取れなかった。
―――――――――――――――――――――――――――
「サルヴァドールさ―――」
「起きた!?起きた、起きた!」
「え」
そんな声と共に、僕は何故か石造りの謎の場所で目覚めた。
一体全体何が起こっているか分からない。どうして生きているんだ。
そんな様子を不思議に思ったのか……片腕のない黒髪の彼……いや、パニックになってすぐに頭が理解した人物。
南雲ハジメを改めて認識する。
彼が生きていた。その事実だけでも嬉しかった。
「は、ハジメ君……!生きてたんだな、良かった……!」
「ごめん……実は、あの後君の事を放っておけなくて……
君を助けに行った。錬成で」
「な……」
唐突に明かされる事実に言葉を失いながら、僕は少し怒りを剥き出しにしながら答えた。
「なんで助けに来たんだ!僕の思いを無駄にする気か!」
「無駄にしてもだよ!」
「っ……」
「無駄にしても、君を助けなくちゃって……思ったんだ。だから、爪熊が君に覆い被さっていた時に錬成で君を包み込んだ。火傷で痛そうに苦しんだ爪熊はそのまま別の方向に逃げていって、君を担いで、引きずってここまで来たんだ」
そう言いながら、ゆっくりとこの部屋全体を調べると人が正座か胡座をかけば座り込める様な空間が広がっていて、彼が言う『引っ張ってきた通路』には移動して残った血の跡があった。
「……そうか、生き残ったんだな」
「良かったよ……正直、この先どうしようって考えてて。アキラ君が死んじゃったら本当に心が折れてたと思う……
けど、救いになったのはあれのおかげだよ」
そう言ってハジメ君が指を指した場所には、青白く光るバスケットボール大の鉱石があった。そこからは、まるで生命の源流が如く液体が流れている。
僕はそれを軽く指につけ、軽く舐めてみる。飲み水かと思ったがするとたちまち傷が治り体の倦怠感や痛みも無くなった。
治癒効果のある鉱物を、ハジメ君が見つけてくれたのだ。
これで命拾いしたようだ。最も……ハジメ君の左腕がないのは『失った部位は治癒できない』という意味の現れなのだろうが。
「……この先どうしよう」
「待とうと思えば、待てるかもしれないけど……」
「けど、光輝君達だってベヒモスに敵わなかった」
「確かにそうだ。けど、彼は皆強い。本当に長い時間が掛かるけど……」
「そうにしたって…………もう、上にも上がれないよ……アキラ君が戦うにしても、またあの力を使える保証もない」
「……」
確かに、あの力は早々使えるものじゃない。
だがやらなきゃならないのは間違いなくそうだった。
「いや、出れるよ。
僕とハジメ君が協力すれば乗り越えられる。だってこうして生きているのは君のお陰じゃないか!」
「それは、そうだけど」
「なら、何処までも進み続けるよ。諦めたくないんだ、本当に諦めようと思った時まで……目を背けたくないから。
一緒に行こう。そして何処までも立ち上がるんだ」
そう言うと、僕の近くに備えられていたスティグマ工房の剣を取る。
こいつがあったからこそ生きているのも、一つの要因かもしれない。
そして、お互いの気持ちは晴れないままだが……
この『オルクス大迷宮』から生きて帰る為に、作戦を考えることにしたのだった。
===============================
相馬 アキラ 17歳 男 レベル:10
天職:魔剣士/蜜蝋の翼
筋力:120
体力:100
耐性:100
敏捷:110
魔力:150
魔耐:150
技能:剣術[+夜明之剣]・属性強化[+烙印付与]・治癒[+火炎再生]・耐久[翼之盾]・言語理解
===============================
感想、お気に入り登録お待ちしております!