どうか、あなたの物語が見つかりますように。
清水幸利にとって、異世界召喚とは、まさに憧れであり夢であった。しかして、実際に異世界召喚され、本人に何が起こったか。その結果は……
見るも無残な姿に成り果てて、担任とクラスメイト達の前に跪かされるというものだった。
ウルの町の外側。この場に、愛子と生徒達、そして護衛隊の騎士達と町の重鎮達が幾人、ウィルとハジメとアキラ達のみだった。
街中に今回の件の首謀者を連れ込めば怒涛の復讐劇や悲しみの連鎖を作り上げる可能性があった、だからこそアキラの裁定によって話も聞きやすく、街の内部に内通者などを入れて暗殺……などという万が一を消すという可能性を少しでも無くす判断を取った。
未だに白目のまま気絶している清水幸利を助けようと前に出るのは畑山愛子ただ一人であり、何よりも多くの人物達が清水幸利に対して強い警戒心を抱いている。それはデビット達護衛隊も同じくだった。
拘束もしていない為、甘いと思われるがこれは畑山愛子からの指示である。デビット達も文句を言ったが愛子自身が望んだ事に対して何も言えず、結局拘束の話云々は有耶無耶に。
「清水君……」
そんな愛子の呼びかけに、遂に清水の意識が覚醒し始めた。
視界がまだぼやついているのか、暫く周囲を見渡すと自身が今どんな状況なのかを理解したのか、ハッとなって体を起こした。
本人もそれなりの場の経験があるのか、距離を取ろうして立ち上がりかけた。だが後頭部への衝撃が残っているのか、ふらつきながら尻餅をついてしまい……警戒心、卑屈さ、苛立ちがごちゃ混ぜになった表情で、目まぐるしく瞳を動かしている。
「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません…先生は、清水君としっかり話し合いたいんです。どうして、こんな事をしたのか……どんな事でも構いません。
先生に、清水君の気持ち……思いの丈を聞かせてくれませんか?」
清水幸利に対して、しっかりとしゃがんで目線を合わせる愛子先生の献身は見事なものだ。僕が悪人だとしたら、彼女のその姿勢に対して全てを喋ってしまう。
だがそれは、中途半端に善意がある人だけだ。
つまり根本的に悪意があるものは―――
「は……?何故?そんな事も分かんないのかよ。
だからっ、どいつもこいつも無能だって言うんだよ!
馬鹿にしやがってっ、勇者!勇者!うるさいんだよ!
俺の方がずっと上手く出来る、気付きもしないで、モブ扱いしやがって!
ホンッット、馬鹿ばっかりだ!
だから俺の、俺の力を価値を示してやろうと思っただけだろうが!」
「お前っ……自分の立場分かってんのかよ!?危うく俺達がいる町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」
「そうよっ!馬鹿なのはアンタの方でしょ!?」
「愛ちゃん先生がどれだけ心配だったか分かってんの!」
反省すらしない。自分自身の才能を評価しない相手も環境も、この男にとっては全てが憤りを覚えさせるものであり、そして邪魔である。
そんな周囲を罵倒しながら怒りを表情に出してグチグチと言い放つ清水幸利に対して、愛子先生の生徒達が次々と文句を言い放つ。
その勢いに押されたのかは分からないが、顔を俯かせて黙りを決め込む姿はあまりにも幼稚で、子供の様だった。
しかし、愛子先生は違った。
「そうですか、沢山不満があったのですね……
ですが清水君。周りの人を見返そうと決めたのなら、尚更この町に対する攻撃が何なのか、先生には分かりません。
どうして町を襲おうとしたのですか?あのままでは、街は魔物に襲われ、あなたを評価する人もいなくなります。
それでは清水君の言う〝価値〟を示せません」
愛子先生の疑問は最もだった。
清水は少し顔を上げ、汚れて垂れた髪の隙間から瞳をじっと見開きながら、愛子先生に対して気味の悪い笑みを浮かべて見せつけるように言い放った。
「示せるさ…………魔人族にならな!」
「っ!?」
清水の口から放たれた発現により、僕達とハジメ君のメンバー以外の大勢の人達が驚愕の表情を浮かべていた。
想定していた反応を得られて、満足そうに笑みを浮かべる清水の目的は僕やハジメ君にとっては筒抜けではあるものの、何かしらの得体の知れなさが妙に武器を突きつけるような行為に走る事を留めさせていた。
「魔物を捕まえに一人で北の山脈地帯に行ったんだ。
その時さ、俺は魔人族と出会ったんだ。
最初は、もちろん警戒したけど……けどさぁ!
その魔人族は、俺と話し合いを望んだんだ!そして話す上で分かってくれたのさ、俺の本当の価値って奴を……さ。
だから俺はそいつらと……魔人族側と契約したんだよ」
「契約……それは、一体どんなっ」
ハイリヒ王国の戦争相手である魔人族と繋がっている、その事実に愛子先生は困惑を抱きながら、自分という教師がありながらその様な存在に生徒を錯乱させてしまった自分自身というものが情けない、そう言いたそうな愛子先生の表情を見つめる。
そんな愛子先生の葛藤をものともせず、清水が衝撃の言葉を口にした。
「畑山先生を、俺が殺す事にだよ」
「……………………えっ……?」
愛子先生の瞳が揺らぎなが、一瞬何を言われたのか理解できなかったのか少しだけ足が下がっていた。
周囲の者達も同様に驚いていたが、それに反して清水は余裕の態度だった。寧ろ何か、今からでも清水は愛子先生を殺せる様に仕向けれるかの如く。
しかしその横暴は流石に騎士団も許せず、抜剣も厭わない。その動きに対して舌打ちをしそうな口ぶりだったが、直ぐに押さえ込んで寧ろ嘲笑うかの様に愛子先生をなぶるようにペラペラと喋っていく。
「はっ……何だよ、その間抜面?
自分が魔人族から目を付けられていないとか、そんな間抜けな事考えてたとかじゃないよな。
ある意味、勇者より厄介なあんたを魔人族が放っておくわけないだろ。
〝豊穣の女神〟と、あんたを讃える町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の勇者に立てるって!
そういう契約だったっ、そういう契約だったんだ!
俺の能力は素晴らしいって!
勇者の元で、王国の下で働くにおかしいって!
そう言ってくれるんだ!!!!!!
そうだそれなんだよ!分かるやつは俺を分かってくれるんだって、強い魔物も俺に貸してくれた、それで強い魔物も従えれた!」
歓喜するように、その事実に溺れるように清水は立ち上がって周囲を嘲笑う如く笑みを浮かべる。だが「それなのに」と付け足した瞬間に、その笑みは激怒に変質した。
「なのに何だよ!何なんだよ!
何で、八万の魔物の軍勢が負けるんだよっ!!!
何で異世界に兵器があるんだよっ、お前とっお前は一体何なんだよっ!!!」ガッガッガッ!
あまりにも、その怒りは馬鹿馬鹿しくそして現実を見てい無さすぎた。
自分の能力は高く、自分の力の前ではどんな奴も当然ひれ伏す!そう考えているような精神状態なのがよく分かった。
だからこそこの男の本質がよく分かるし、器もそれなりの程度しかないような年齢に準じた子供である事がこの場で証明された。
地団駄を踏みながら怒りを物に当たるような態度がまさしく、幼く馬鹿である事を証明している事に本人は気が付いていないし……人に言われて更に激昂するのだろう。
しかし、あの様な発言の衝撃から我を取り戻す時間が与えられた愛子先生は、一つ深呼吸をする事で完全に落ち着きを取り戻して、激昂しながらも立ち向かう勇気はないようでその場をそれ以上動かない清水の片手を握って静かに語りかける。
「清水君……落ち着いて下さい」ガッ!
「なっ、なんだよっ!離せっ!」
突然触れられた事に極端に反応を示しながら、苛立ちと共に手を振りぬこうとする。だがそれがあまりにもよくなかった。むしろその手を離さないと、ステータスを無視したような力を出していた。
……別にそんな事はなく、実の所ある程度のステータス強化をファタールと愛子先生が『契約』する事で保証されている。
万が一は先生に清水幸利を封じてもらう予定だ。だからこそ、ここまで破格な契約をしたのもある。
「清水君の気持ちは、私にも伝わってきました。
〝特別〟でありたいという、君の気持ちは人として間違っていません。清水君ならきっと〝特別〟になれます。
君は方法を間違えただけなんです。ですが魔人族側には行ってはいけません。清水君の話してくれたその魔人族の方は、君の認められたいという思いを利用したんです。
そんな人に先生は、大事な生徒を預けるつもりは一切ありません。
清水君、もう一度やり直しませんか?
先生はもう、生徒達に戦って欲しくない。生徒同士が武器を突きつけ合うような悲劇は、これっきりにしたいにです。
清水君が特別になりたいその姿勢、その行動力は先生は応援します。君なら絶対に、天之河君と肩を並べて共に日本に帰れる為に戦えます、だから……」
それ以上の言葉は語ることなく、清水幸利を抱きしめる愛子先生の姿は〝豊穣の女神〟と謳われる程のある暖かみがあるものだった。
その抱擁に対して、まるで心打たれたように震える清水幸利はゆっくりと腕を伸ばし―――彼女の首に腕を回し、一気に羽交い締めにすると何処からか10cm程の針を取り出して愛子先生の首に突きつける。
「動くなぁっ!ぶっ刺すぞっ!」
裏返った声で、ヒステリックに叫ぶ清水幸利のその表情は怒りに塗れていてかつ……舐められていると感じたのか、不服そうに眉を顰めながら頬が引き攣っいて笑っていた。狂っているともいう。
「う、っく……!?」
「愛子先生っ!」
「愛ちゃん先生!」
「黙れって言ってんだろうが!いいかっ、この針は北の山脈の魔物から採った毒針、分かるか!?
刺せば数分も持たずに苦しんで死ぬ!分かったんなら全員、武器を捨てろ!捨てたんなら手は挙げろ!」
清水はギラギラした瞳と共に痛くなるくらい笑みを浮かべながら、周囲の者達が自分に何も出来ない姿に完全に動けない生徒達や護衛隊の騎士達にニタついている。
しかし、今度の視線はハジメ君に向いてきた。
「おいっお前、厨二野郎!」
「え?厨二野郎?別にそんな人何処にもいないけど、後ろかな?」
「お前だよ!後ろじゃねぇよ!お前だって言ってんだろうがっ!馬鹿にしやがってよぉっクソが!
これ以上ふざけた態度してる気なら、マジで殺すからなっ!
分かったんなら全部の武器を俺に寄越せっ、それと他の兵器もだ!」
清水幸利は罷り通るはずのない要求をハジメ君に向けながら口汚い言葉を吐き散らかしている。
その様子にはハジメ君も呆れていた。
「いや、それさ。殺されたくなかったら〜って……そもそも先生殺したら魔人側に行けるんでしょ?どっちにしろ殺すのなら、僕だけ渡し損じゃねぇか」
「うるさいっ!うるさいっうるさいっうるさいっんだよ!!
いいから黙って全部渡せ!
お前らみたいななぁっ、俺より才能のない馬鹿みたいな奴らは俺の命令だけ従ってればいいんだよ!分かるか!?
そ……そうだっ、へへっ、おい、お前のその奴隷も貰ってやるよっ、そいつに兵器と一緒に持ってこさせろ!早くっ!」
冷たくあしらわれ、遂に冷静さすら失い始める清水幸利からは情というものが多くの人から失われ始めている。
しかもハジメ君のシアさんに目を掛けては、お前を寄越せとすら言われる始末だった。
「お前がうるさいって言っても、別に僕は武器を渡す気はないよ。あとシア?後ろに隠れないでよ、僕だけあの視線を受け止めるのも苦労するんだって」
「だって、ホントに気持ち悪くて……生理的に受け付けないというかぁ……ほら見て下さい、この鳥肌!
有り得ない気持ち悪さですよぉっ」
「まぁ勇者願望の人間のやる事が人身売買する奴隷商とか、馬車を襲って身代を整えてる盗賊と同じだし」
ハジメ君達は声を抑えているつもりだが、その声はそれなりに響く。清水幸利にもそれがよく聞こえていたのか苛立ちを覚えながらブツブツと独り言を呟きながら狂ったように笑っている。最早そういう風にしないと、気が狂ってしまうのだろう。
「し、清水君っ……どうか、話を……!私は、大丈夫……ですから……!」
「……うっさいんだよ、あんた。
いい人ぶりやがって、この偽善者が!
お前は黙って、ここから脱出するための道具になっていればいいんだ、分かったら黙ってろ!」
語気を強くして、怒りを孕んだ言葉で愛子先生の希望をより絶望に変えていく。
もう愛子先生も理解しただろう。この男に救いようはないと。だからこそハジメ君が僕が手をかけるつもりだ、そう思いながらそろそろ魔法剣の準備を始めようと、ハジメ君に作ってあげたホルスターに納められたドンナーを見つめる清水に一言言おうとしたその時だった。
「ッ!?ダメですっ!避けてぇっ!」
おそらく『未来』を視たシアさんがそう叫びながら飛び出すと、ファタールが一瞬にして転移して愛子先生を引き剥がす。しかし愛子先生が振り払われると理解した清水は最後の抵抗で思い切り、その針をファタールが引き剥がそうとして置いた手を貫く様に突き刺した。
更にその瞬間、水と血のレーザーが愛子先生、そして役たたずを殺すように清水幸利にも放たれようとしていた。
「ファタールッ!」
突然の自体に対して、僕がファタールの名前を叫んで一瞬にしてEGOを発現させる。ハジメ君がもうギリギリまで愛子先生に迫ってきていた血と水のレーザーを銃撃して破壊しながら、追撃に備えてリチャードユエ、シアさんが引き剥がして突き飛ばした愛子先生を守るように受け止める。
僕が〝瞬光〟と〝遠見〟を使用しながら射線を辿ると、遠くで黒いローブを被った耳の尖ったオールバックの男が、大型鳥の魔物に乗り込む姿が見える。
しかし僕が剣を抜いて無詠唱魔法を使用するよりも早く、ハジメ君がドンナーとシュラークによる連続射撃を行う。
「ふざけやがって!」ドパァンッ!ドパァンッ!
ドンナーとシュラークによる電磁加速されたレールガン射撃は、即座に男と大型鳥の魔物を捉えていた。もちろん簡単に当たってくれるはずもなく、殆どの弾丸は避けられたがハジメ君の連続射撃によって魔物の足、黒ローブの人物の片腕は吹き飛ばされていた。
しかしハジメ君の攻撃方法を理解していたのか、街を盾にする様に低空飛行しながら徐々に加速、もう見えなくなった。
だが問題はそれで終わっていなかった。
「アキラッ!」
敵の気配が消えたのも安心して束の間、普段の冷静な声音とは異なった焦燥感溢れる声で僕を呼ぶリチャード。
ハジメ君はドンナーとシュラークを納めながら、宝物庫から大量の回復系アイテムを取り出しながら、僕は倒れ付すファタールに向かい、すぐにスキルである鑑定を使用する。
見た事のない毒の種類。しかも解毒薬なんて存在していないだろう。
「マスターっ……
ファタールの怪我は大した事のないように見える。
だが実際、人の手に直径3cmの穴が空いて大丈夫なんて事はない。声からも分かる程に、激痛を歯で食いしばる様な声で愛子先生に治療を促しながら、空いた手で僕の手を取って何とか聞き取れる優しい声音でそう諭す。
「……分かった」
僕が愛子先生の方を見ると、その表情は真っ青になっていた。
手足が痙攣し始めていて、肩から出血している。おそらくファタールの身を以しても完全には防ぎきれなかったのだろう。
言葉に出来ない苦しみを表情に浮かべながら、それでもと視線でファタールを見つめている。
ファタールに先にやってあげて欲しいと、そう言うのだ。
「(本当に、本当に……あなたはなんて、馬鹿な先生なんだ……!)ハジメ君!」
「愛子先生は任せていいから、これ!」フッ!
「ああ!」パシッ
ハジメ君に声をかけると、本当に息の合う動きで〝宝物庫〟から試験管型の容器を二本取り出し、片方を僕の方に投げ渡してしっかりと掴む。
「愛子……先生……愛子先生!?」
「愛ちゃん先生!!?」
「お、お前ら!愛子がっ!」
その頃になってようやく、ハジメ達の元に駆けつけた周囲の愛子先生の仲間達が群がってハジメ君と愛子先生を取り囲む。生徒達やデビッド達の動揺は非常に強くなつており、半ばパニックになっている者も現れている。
ハジメ君に対して安否を確認しろだの、効きもしない治癒魔法をかけようとする者、無理矢理退かして治療所に運ぼうとしようとする者をも全員が押しかけようとした時―――
「黙れよ」
ハジメ君が自分でもハッとした様に驚いて、すぐに試験管の栓を開けながら、苛立ちと殺意を孕んだ声でそう叫ぶと周りの人間ももう何も言わずに、後ろに下がって行った。
そして、ハジメ君が愛子先生に対して〝神水〟を与えながら治療を施すのと同時に〝竈火之揺籠〟と〝白炎付与〟を発動させながら、僕はファタールを燃やしつつ治癒の力で彼女を暖めつつ、仮面をゆっくりと取る。
そうして彼女の顔など気にせずに〝神水〟を流し込む。
この〝神水〟はハジメ君が見つけ出した〝神水石〟から獲得したもの。どんな傷も瞬く間に癒し、病も治す。
更にそこへ、僕や他人に治癒の効果を与える〝竈火之揺籠〟と浄化する効果を持つ〝白炎付与〟をファタールを燃やす。熱さはないのが分かっている、ほんのり暖かいくらいだ。
「うっ、く、かはっ!」ケホッ
しかし、あと一歩の所でファタールまで〝神水〟が届かない。
毒の効力か何かは分からないが、彼女の身体は冷たくなっていくばかりだった。
そしてすぐ後ろを振り向くと、ハジメ君が愛子先生に口移しで神水を流し込む光景を見て一瞬で僕もそれを実行することにした。
簡単に中身を口の中に含み、ファタールにすかさず合否を問わず舌を入れ込み、神水を流し込む。
ファタールが苦しまないように少しだけ背中を浮かせながら、咳き込んだ時にすぐに離せるように。
そうして数秒、数十秒、数分の時間が経つ。その瞬間が来るまで僕の背中は冷や汗しか垂れなかっただろう。
ゆっくりとファタールが、目を覚ました。すぐに唇を離すと、僕は改めて名前を呼ぶ。
「ファタール……」
「……マスター」
生きている。良かった、本当に良かった……
そう心の中で本気で安堵した。
もしもファタールが庇っていなかったらきっと、犠牲が生まれていた。そして僕は強く後悔していただろう。
目の前の失われゆく命を救えなかったと。それを、ファタールは止めてくれたのだ。
「ごめん……本当にありがとう」
「いえ……あなたのお役に立つ事が、私の務めですので」
「痛い部分はない?感覚がおかしい所は?」
「特には。不快感も見られません」
「そっか。ならいいんだけど……」
僕がハジメ君の方に振り返ると、ハジメ君の方も治療が終わって愛子先生が顔を赤くしながら安否を確認されていた。
ハジメ君の療養はしっかりと正確なものだったと確認できたのが不幸中の幸いだった。
あのタイミングで自分に正確な治療が出来るか分からなかった、だからこそあらゆる手段を取り尽くした中でハジメ君のやり方があっているとは……まだまだ未熟であると理解する。
「……さて」
そして僕は、ゆっくりと清水幸利に向かって立ち上がって歩み寄る。
そんな清水の胸には、あの魔人の攻撃で出来たであろうファタールに開けられた穴と同じサイズの穴が空虚に空いていた。そこからは出血が酷く起こっており、大きな血の池が出来始めようとしていた。以してあと数分か。
「し゛っ、死にだくない……!
だ、だずけっ゛……こんなはずじゃっ……!
ウソだっ゛……ありえ゛ない゛……」
そう言って誰かに助けを求める様な声で周りに視線を送るが、誰も助けない。
やった事がやった事だ。誰がこの様な存在を助けると言うのだろう。もしかしたらまた、何かの隠したもので殺しにくるのかもしれないと考えるともう無理だろう。
例え死んだとしても、死ぬ前にこいつくらい……と言って殺してきそうな事は明白だった。
「相馬君!南雲君!先程の回復薬があれば、清水君を……!」
そう言って、清水幸利を助けてやれないかと弁護する愛子先生。だがハジメ君は容赦なく「けどあなたを殺そうとした人だ」と冷たく言い放つ。
その間にも、周囲に血が流れる自分を助けてくれと必死に言い伝えてくる清水に視線を向けるものはいない。
「確かにっ……そうかもしれません。
いえ……南雲君が言うに、きっとそうなのでしょう。
でも、私が!私が、そういう先生でありたいのです。
何があっても生徒の味方であると、胸を張って言える様な先生になりたいと誓って、今こうして先生であるのです。
だから、南雲君、相馬君!
お願いします……!」
そう言って頭を下げる愛子先生を見ると、なんだか今から清水幸利を殺してしまおうと考える自分が馬鹿らしく感じてしまう。だがハジメ君の方は、ため息をつきながらも最後の確認をしようとしている。
おそらく清水幸利は諦めていない。きっと魔人に自分の力を誇示する為に力を振るうだろうし、愛子先生を殺してその首を魔人族に捧げるだろう。それに……
「(恐らく、清水を活かしておけば『残響楽団』のメンバーについて話してくれるかもしれない)」
その一つの可能性に賭ける事にして、僕もハジメ君の様に向かっていった。
「清水幸利、聞こえているね?僕達は君を助ける事が出来る」
「……!」
「だけど、その前に聞いておきたいんだよね」ザッ
「……」
救えるという言葉に対して希望を見出した清水幸利を見つめながら、ゆっくりと僕らはしゃがみ込む。
そしてまるで、その命が長く続くまでYESと言わせるように僕は清水幸利の胸倉を掴む。
《vid:1》「お前は、敵なのか?それとも味方になってくれるのか?」《/vid》
清水はその問いを聞き、目をパチパチと瞬きしながら卑屈な笑みを浮かべて命乞いをするように告げる。
「て、敵じゃない……!
お、俺、どうかしてたっ!もう、しない、何でもするから……助けてくれたら、あ、あんた達の為に軍隊だって……作るし、女だって洗脳してっ……
ち、誓うよ……あんたに忠誠を誓う……!
何でもするから……助けてっ、たすけてくれっ……!」
ハジメ君がその表情を確認すると、無表情になった顔でゆっくりと清水幸利を見つめる。その真意を確認するようにじっと。
清水は何やら真実がバレてしまいそうな感覚に対して、
まるで全てが丸分かりだ、嘘をつくなと言われている気がして咄嗟に目を逸らした。しかし僕が見張っている為、下手に目を逸らすと今度は僕が彼の瞳の奥底にあるものを伝う様に認識する。それは―――憎しみと怒りと嫉妬と欲望とその他の感情が目まぐるしく動いていた。
光はない、寧ろ光をそこに差し込む事すら躊躇われる程にはあまりにも酷い。
ハジメと僕は確信した。
これはもう愛子先生の言葉では、もう決して清水の心に届かない事に。そして清水幸利は必ず僕達の敵になると。
故に決断する。一瞬、愛子先生に視線を合わせるて僕は首を振った。愛子先生は僕達二人を見つめて……悲痛な表情を浮かべながら僕は剣を、ハジメ君はドンナーを抜く。
「ダメェ!」
愛子先生の声を置き去りにしながら清水幸利に対して、直剣と回転式拳銃の一撃が―――
「お待ちくださいっ!」
「「ッ!?」」
―――通る筈だった。
しかし同時に息を呑んだ。何故なら、攻撃を一種の内に視界に入った存在に対して攻撃できなくなった。
それは僕も、ハジメ君も同じだった。
それは……
「なんでだ、ファタール……どうして?」
止めたのは―――
愛子先生の叫びに動いたのかは分からない。だが、間違いなく止めているのは目の前のファタールなのだ。仮面を被らずに、純粋に彼女の瞳がこちらに見えてくる。
彼女の金色の瞳が僕とハジメ君を見つめながら、彼女は真剣に訴えかけてくる。
「此度までやって来たことは確かに許されない事でしょう。そこは私も、お守り致しません。ですがお二人方、抑えてください……全てが敵、全てが悪であると思って殺してしまえば……本当に道を外れてしまいます」
ここまでファタールが、自分から多くを話すことはなかった。
いや……何かを感じたのだろうか。
それに対して、僕は頭の中で計画していた事が全て砕け散った。
どうにでもなれ、と。
「だったら、ファタールは何とか出来るのか!」
「アキラ!?」
「君に、彼が―――助けられるのか?」
僕の問いに対して、ファタールはゆっくりと立ち上がって―――僕の顔を見つめる。
「あなたが望むなら」
そう言われてしまい、僕は眼鏡を外してゆっくりと背を向けて歩き始める。
完敗だった。あそこまでそう言われると、僕はもう彼女を止める理由はない。
ただある意味、彼女にとって僕達はそれくらい殺ししか興味がなくて、殺してしまえば修羅になってしまうような存在に映っていたのかもしれない。
以前よりも都市という、元の世界の価値観に変わっている事に対して僕は怒りを覚えながらその場を後にした。
――――――――――――――――――――――――
ゆっくりとアキラが戻っていく中、アキラの仲間であるファタールさんは彼に対して黒色の用紙に青色の文字で何かを記しながら喋り始めた。
「だ、れだ……」
「契約です。あなたは、金輪際人を殺すことは出来ません。例えどんな方法であってもあなたの力を人を殺し、世界を壊し、そして破滅させるような事に使う事は出来ません」
「……!が、っ、はぁっ……そ、んな……の、むちゃくちゃ、だ……」
「むちゃくちゃです。分かっています、だからこそ契約なのです。
もしもあなたが、本気で変わると思うのなら……心の底から人の為に立ち上がるというのなら。
我々の旅についてきなさい。そして……
私があなたの願いを、何でも一つ叶えましょう」
その一言は、周囲をざわめかせる。
その言葉に嘘偽りがないのを僕自身がよく感知できる。
ファタールさんは契約者という天職を持っていて、その効力は非常に強い。これは誰に対して掛けるのも、自分自身に効果を向けるのも同じ事だった。
「ファタールさん、めちゃくちゃだよそれは!」
「ハジメ様……」
「いくら何でも、君がそこまでする必要はないよ……」
僕もアキラの友達だからこそ、彼女がそうまでして救う程の人間ではないと僕は思っている。
アキラが何故ファタールにこの事件の後処理を頼んだかなんて、僕が知る余地がない。
彼がファタールを信用してるから、分かっているから―――任せたのだろうか。
いややはり……分からない。
「彼に対して、同情する訳ではありません。やった事は立派な反逆行為、処刑されてしまっても間違いありません」
「それなら尚更、殺さないといけないじゃないか」
「……そこが、間違っているのです。
殺すのではなく、変えなければならないのです。
歪んでしまったものをより歪ませるか、元の形に正すかの二通りに」
そう言って、ゆっくりとファタールは清水幸利の方に顔を向けると―――彼に対してしっかりと告げる。
「契約、なさいますか?」
その契約は悪魔の契約だった。
いや、ファタールさんは悪魔だってアキラから聞いているからこそ悪魔であると理解する。
これが本当に正しい事なのか?
それとも間違いであるのか?
それは僕に分からないが……清水の言葉は、しっかりと僕に聞こえてくる。
「俺の願いは、ただ、一つだっ…………!お前ら、お前ら二人……絶対に目の前で殺してやる……!絶対、殺してやる、っからなぁ……ぁ……!」
「……契約完了です」
この場で、最も殺意と哀れみと怒りが込められた契約が完了した。
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天職:闇術師/?????
筋力:210
体力:370
耐性:200
敏捷:370
魔力:1280
魔耐:1090
技能:闇術[+思考洗脳][+傀儡操作][+恐怖統率][+悪意付与][+精神汚染][+心身重篤]・闇魔術適性[+詠唱短縮]・並列詠唱・言語理解
====================================
フィリップ君のヒロイン、誰にするか?
-
八重樫雫
-
園部優花
-
その他原作組女子
-
都市の女性組