1.講師が仕掛けた「欠陥理論」の罠
王立特級魔術学院での第二回目の講義。レオンは、教卓に残されていた**「第三の英雄」**の理論の断片を胸に、静かな怒りを燃やしていた。彼の安寧を脅かす存在が、再び教え子の顔をして彼の前に座っている。
レオンは講義で、わざと欠陥のある理論を提示した。それは、第三の英雄が研究していた「光と闇のマナの共存」の原理を応用した術式に似せながら、最も重要な**「連環安定化要素」**を意図的に抜いたものだった。
「さて、ここに示したのは、古代マナ理論を応用した**『統合収束術式・欠陥版』だ。この術式は一見完成されているが、マナ出力が安定しない。基礎魔力操作学の知識を用いて、この術式が『自壊する』**真の理由を指摘できる者はいるか?」
レオンの目的は、単純な技術的欠陥を指摘させることではない。この術式の真の欠陥は、**「第三の英雄の禁断の理論」**を知る者でなければ、理解できない領域にあった。
傲慢な貴族生徒たちは、前回レオンの**『最小限の雷光』**による指導を受けたため、安易に手を上げられない。しかし、その静寂を破る者が現れた。
教室の中央、王族の血筋を強く引く女性徒、リリアーナ・ヴェルトが、冷たい微笑みを浮かべて立ち上がった。彼女の持つマナはザイガスよりも強大で、その眼差しには、レオンの基礎理論を完全に否定する確信があった。
2.理論の継承者と、聖女の警告
「レオン講師殿」リリアーナは、レオンの提示した図を侮蔑の目で見た。
「その術式の欠陥は、あなたが提示した**『連環安定化要素』**の不足ではありません。それは、表向きの理由です」
レオンは微動だにしなかったが、内心では戦慄していた。彼女は、彼の意図を理解している。
「この術式が自壊するのは、**『光のマナと闇のマナの共存』を、『外部の触媒』ではなく、『術者自身の血筋に刻まれた光と闇の二重特性』で制御しようとしているからです。光と闇が術者内部で強制的に共存させられた場合、マナは無限に増幅するのではなく、『無』**へと還元される。それを回避するには、第三の英雄の『共鳴理論』が必要です。あなたの提示した欠陥は、その理論の基礎を否定するものです」
リリアーナの回答は、完璧だった。それは、レオン自身が最も恐れていた**「禁断の理論」**に基づいていた。
(レオン内心):「この女……!彼女は、第三の英雄の理論を学んでいるのではない。まるで、その理論を**『血筋』**として受け継いでいるかのようだ」
レオンがリリアーナの冷徹な知性に激しい怒りを感じたその瞬間、講義室の隅で聴講していたアストレイアから、レオンの意識に直接、霊的なマナによる警告が届いた。
(アストレイアの通信):「レオン先生。彼女の祖父は、七年前、第三の英雄を擁護し、貴方を追放に追い込んだ貴族であり王族の理論の継承者です。私情で、彼女の『命』を奪おうとしないでください」
アストレイアは、レオンの過去への憎悪と、彼の講師としての職責の間で、綱渡りのような監視を続けていた。
3.カイトの冷徹な指摘と、アリオスの情報戦
講義後、レオンはカイトが閉じ込められている特別研究棟へ急行した。
「カイト。君は、この理論の断片を見たことがあるか?」
レオンは、教卓に置かれていた理論図をカイトに見せた。カイトは、足枷を鳴らしながら、その図を冷たく見つめた。
「興味深い。これは、私の**『拡散の力』をさらに進化させ、『存在の根源』**にまで干渉しようとする理論だ。しかし、先生」
カイトは冷徹な眼差しでレオンを貫いた。
「この理論は、貴方と第三の英雄の間でしか存在しない理論です。私が失踪した令嬢から受け継いだ情報にも、このレベルの理論は含まれていません。もしそれが今、この特級学院で復活したなら、それはオリジナルの発明者か、その直系の継承者が、あなたのすぐ近くにいることを意味します」
カイトの言葉は、レオンの疑念を確信に変えた。特級学院は、第三の英雄の理論が芽生える温床なのだ。
時を同じくして、学院の外部では、アリオスが動いていた。カイトから得た情報と、警備隊の過去の記録を照合したアリオスは、リリアーナの家族が、特級学院内で**「禁断の理論」**に関する非公式な研究会を運営していることを突き止めた。
「レオンの理論を悪用するだけでなく、第三の英雄の理論を完成させようとしているのか。特級学院こそが、全ての闇の根源だ」アリオスは、水面下で特級学院への立ち入り捜査の準備を進めていた。
レオンは、リリアーナを再び教壇で見据える。彼女は、第三の英雄の理論という、レオンの**「黒歴史」を完成させ、彼の安寧を完全に破壊する新たな敵であり、レオンが「教師」として、最も厳しく「教育的指導」を施さなければならない教え子**となった。