……今思えば、あの瞬間ほど“運命”を感じたことはなかった。
冒険者ギルドに戻ったとき、ざわめきが広がっていた。
あぁ、また誰かが探索者登録で高い魔力を測定されたんだろう。
そんなの、珍しくもない。
普段なら気にも留めなかった。
だがその時ばかりは、理由もなく足がそちらへ向かっていた。
いや──《理由もなく》ではない。
本能が、告げていた。
「世界が少し動く」ような、そんな気配を感じたのだ。
長年、死と隣り合わせで生きてきた冒険者としての第六感が、確かに警鐘を鳴らしていた。
ざわめきの中心では、まだ二十にも満たないだろう童顔の青年が、
Cランク冒険者『狂犬のダス』と対峙していた。
その足元には、気絶したダスの取り巻きが転がっている。
「お、おい……あいつ、さっきEランクって魔力測定されてなかったか?」
「ああ、間違いない。Eだった」
「EがCと戦えるわけねぇだろ!」
「止めろよ、誰か!」
「バカ言え、ダスに関わるのはごめんだ……」
耳に届く声に、思わず息を呑んだ。
EランクとCランク。
その差は、言葉にするまでもない。
Eは一般人に毛が生えた程度。
Cは、もはや人間離れした力を持つ。
魔力は生まれつき決まっていて、鍛えても増えない。
だから冒険者ギルドでは、EからSまでの魔力階級が存在する。
EがCに挑むなど、本来なら“無謀”以外の何ものでもない。
だが──童顔の青年は確かに戦っていた。
拙い動きながらも、着実にダスの体に傷を刻んでいく。
それでも、ダスの拳の一撃を食らうたびに青年はふらつき、息が荒くなる。
そして、ダスが拳を振り上げたその瞬間。
空気を裂くように鋭い声が響いた。
「貴方たち!!! ここは冒険者ギルドです!」
割って入ったのは、『こういう喧嘩が起こる時はこの受付嬢に頼むべし』と言われる凄腕受付嬢──カレンだ。
その眼光は、熟練の冒険者ですら怯むほどの鋭さを放っていた。
「冒険者ギルド法第十五条。ギルド内での暴行は禁止!
『狂犬のダス』、あなたには二週間の出禁を命じます!」
「……チッ、命拾いしたな、雑魚が」
吐き捨てるように言い、ダスは取り巻きを引きずりながら去っていった。
一瞬の静寂。
やがて、周囲にざわめきが戻る。
「EランクがCを押してたぞ……」「どういうことだあれ…」
興奮と困惑が入り混じった声が、ホールを包んでいく。
カレンはため息をつき、青年へ視線を向けた。
その瞳には、ほんの少しだけ興味の色が宿っていた。
「さて……貴方にも処分を下したいところですが、状況から見て防衛行動と判断します。
今回は厳重注意で済ませますが、次に同じことをすれば出禁──もしくはそれ以上です」
「……はい」
血の滲む口元で、青年は小さく笑った。
その笑みは、不思議だった。
何かを悟った者のようで、何も知らぬ子供のようでもある。
「は、はい……気をつけます」
声は弱々しい。
けれどその瞳は、確かに燃えていた。
静かに、確かに──“闘う者の光”を宿して。
「では最後に。事後報告のために、お名前をお伺いしても?」
青年は少し息を整え、微笑んだ。
「はい。僕の名前は──」
……俺は、この瞬間を一生忘れないだろう。
いずれこの世界に名を刻むことになる、その青年の名を。
──『カイト』です」
⸻
システムメッセージ
チュートリアルクエスト
【『狂犬のダス』を退けろ】──達成。
報酬
経験値:24
レベルアップ しました
1 → 2
魔力量が5増加しました
20⇨25
獲得アイテム:《初心者の盾》【new】