あの騒動の後、俺はあの場から離れ一人で酒をのんびりと飲んでいた。青年は既に帰っており、周囲の野次馬たちも熱りが冷めたのかギルドで酒を飲みながら談笑している。
脳裏に浮かぶのはあの青年——カイトはEランクの魔力でCランクの魔力のダスを相手に立ち回り、的確にダスにダメージを与え、冷静に攻撃を交わしていく姿。俺から見ても美しい、洗練された動きだった。
思わずぶるりと体が震え、産毛が逆立つ。
あの青年は只者ではない。それは先の戦いを見ればその辺の野良犬でもわかることだが、違うのはもっと根本的なものだ。あの青年はそう遠くないうちに自分のランクまで昇格するだろう。
「おお、タポルじゃねぇか!」
「ンポイか……」
思考していると俺に話しかけてきた男がいた。
その男は岩のようにごつく、肩幅が広い。常に上背を取るような威圧感を放つ。
胸板は分厚く、腕は一本で人の頭を軽く掴めるほどの太さ。
日に焼けた褐色。戦いによる無数の傷跡、古傷の白い線が腕や背中に残る。
拳や肘、膝の皮膚は固くなり、まるで革のように分厚い。
ざっくばらんな短髪。刈り上げに近く、汗と血でしょっちゅう乱れている。
色は黒か、退色した茶。
数少ない友人であるンポイが話しかけてきた。
「お前さんがそんな顔するなんて珍しいな!やっぱりさっきの小僧か?」
「あぁ、お前もか?」
ンポイが俺の向かい側の席に座った。
椅子が悲鳴を上げるようにギシリと沈んだ。
彼はドンッと腰を下ろし、脚を大きく開いたまま背もたれに体を預ける。
机の上のグラスが小さく震え、まるでその場の空気ごと押し潰したような重みがあった。
「そりゃあな!!あの動きは明らかに場慣れしてるやつの動きだった!」
低く太い、喉の奥で鳴るような声が響く。
「ああ、あのダスを相手に立ち回ったあの動きには目を見張るものがあった」
「やっぱお前もそう思うか!まぁお前を除く野次馬はダス相手に奮闘してたことしか目になかったけどな!」
ビールひとつ!!とンポイが店員に注文する
すぐにビールが届き、ンポイはゴクッゴクと喉を大きく鳴らしながら半分ほど飲み干した。
「クゥゥゥぅ!!!やっぱダンジョンから帰ってきた時のビールは美味えな!!脳がパチパチいってやがる!!」
ンポイは笑いながらジョッキをテーブルにドン!と置き、泡が少し跳ねた。
その勢いのまま、俺の方を指差す。
「なぁ、タポルもよぉ!」
「ん?」
「感じるだろ? 今の探索者どもは――魔力だの装備だのに頼りすぎてんだ!」
大きな手で自分の胸をバンッと叩く。
「必要なのは体の動かし方だ! つまり、技術だ‼︎ 拳をどう入れるか、足をどう踏み込むか――そういうのが血肉になってねぇ!」
その声に、周りの冒険者たちが一瞬だけ視線を向ける。
ンポイは気にも留めず、豪快にビールを煽った。
俺はグラスを揺らしながら、静かに応じる。
「……あぁ。結局、魔力は身体に乗せてこそだ。
魔力だけで戦うやつは、どんなに派手でも芯がねぇ。だから折れる。」
ンポイが目を細め、わずかに笑う。
その笑いには、戦場で幾度も死地を潜り抜けた者の“重み”が滲んでいた。
「だよなぁ……」
と呟いたあと、ふいにその顔から酔いが引く。
笑い皺の奥に、鋭い光が宿る。
「……お前も感じたんじゃねえか?」
「何をだ?」
「――あの小僧、カイトだよ。」
ンポイの声は低く、鈍く、まるで拳が大地を打つように響いた。
「ありゃ、ただ強くなるだけのガキじゃねぇ。あいつは、“世界”を変えられる。
そういう奴の匂いがする。」
その言葉に、胸の奥がわずかに軋んだ。
俺はグラスを持ち上げ、琥珀色の液体を透かして見つめる。
灯りがゆらぎ、酒面が波紋のように震える。
「……あぁ、感じたよ。」
自分でも気づかぬほど、声が低くなっていた。
「あいつの目は“強くなる”ための目じゃねぇ。“変えていく”側の目をしてた。」
沈黙が落ちた。
ギルドの喧騒が遠のき、この小さなテーブルだけ、時間が凍りついたようだった。
ンポイは静かにジョッキを掴み、最後の一口を喉に流し込む。
そして、唇の端をわずかに吊り上げる。
「おもしれぇな、タポル。」
低く笑いながら呟く。
「……久々に、
その横顔には、酔いとは別の熱が灯っていた。
それは戦士が“獲物”を見つけた時の、純粋で危うい輝きだった。
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ンポイ
タポルと同じ数少ないAランク冒険者
身長:198cm
体重:118kg(筋肉質)
体型:岩のようにごつく、肩幅が広い。常に上背を取るような威圧感を放つ。
胸板は分厚く、腕は一本で人の頭を軽く掴めるほどの太さ。腹筋は割れているが、無骨な肉の鎧のような厚みがあり、鍛え上げた重量感がある。
過去に「仲間を守れなかった経験」があり一時期スランプに陥っていたがタポルと酒場で出会い話していくうちにスランプから抜け出し気を許せる仲になった。
口は悪いが、タポルにだけは“本音”を言う。
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