月鏡の塔でレック、ハッサン、ミレーユは行き場もなく途方に暮れていたバーバラを仲間に加えた。
彼女はレベルもHPも力も低いが、発言の一つ一つが面白いこともあり、たちまちムードメーカーのような立場になった。
そして、しばらく経験値集めをした後、4人は地底魔城を攻略し、次にトルッカの町に向かっていった。
町の近くまでやってきた時、彼らは一匹のスライムに出会った。
「えっ?たった一匹で僕達に挑むの?」
「戦っても手ごたえなさそうだな。」
レックとハッサンが顔をしかめていると、そのスライムは戦おうとはせず、それどころか自分をスラリンと名乗ってきた。
「あの、僕は悪いスライムではありません。モンスターと人間とのかけ橋になりたいと思っているんです。」
スラリンはつぶらな瞳を見せながら4人を見つめた。
「そう。あたしとしては歓迎したいわね。」
「でも、肝心の実力面はどうかしらね。」
バーバラはぜひ仲間に入れたい一方、ミレーユは難色を示していた。
そのため、4人は多数決で決めることにした。
話し合いの結果、賛成が1、反対が3だったため、スラリンの加入は見送りになってしまった。
「そうですか…。分かりました…。もし縁があったら、また会いたいです…。」
彼はそう言うと、寂しそうな表情で去っていった。
(ごめんね…。あたしはぜひとも迎え入れて、仲良く過ごしながら一緒に強くなりたかったけれど…。)
唯一賛成票を入れていたバーバラは申し訳なさそうにスラリンの後ろ姿を見つめていた。
一方、他の3人は仮に加わっても弱過ぎる、足手まといになるといった雰囲気を漂わせていた。
(このままじゃ、あたしもいずれこんな存在になってしまうのかな…。)
バーバラはMPこそ高いもののそれ以外は短所だらけで、回復呪文も無いため、何だか嫌な予感を感じ取っていた。
それから間もなく、レック達はトルッカの町に入っていき、一息つくために宿屋に向かおうとした。
しかし、現地では町長が焦った表情をしながらあわただしく走り回っていた。
「ここで一体何があったんだ?」
「とりあえず話しかけてみようぜ。」
レックとハッサンをはじめ、ただならぬ雰囲気を感じ取った4人は、早速町長のところに行き、話を聞くことにした。
すると彼は娘が2人組のあらくれにさらわれてしまい、身代金5000ゴールドを要求されたことを打ち明けた。
「そういうわけなんだ。どうか娘のエリザに会わせてほしい。そして出来ることなら娘を開放してほしい…。その一心で私はこの数日間、寝ずにあちこちをまわっているんだ…。」
わらにもすがる思いでお金を集めている彼の姿を見て、レック達は、あらくれ達からエリザを助け出すことを申し出た。
「おおっ!いいのかね?君達に頼んでも。」
「はい。僕達は困っている人を放ってはおきません。」
「俺達が悪い奴らをぶっ倒してやるからよ。」
「必ずあなたの娘さんを助け出してきます。」
レック、ハッサン、ミレーユが気合いを入れる一方、バーバラはいまいち自信を持てずにいた。
しかし、自分だけ辞退するわけにもいかないため、勇気を振り絞ってついていくことにした。
彼らが小屋の前にやってくると、そこには明らかに怪しい2人組と、口をふさがれてしゃべれないエリザの姿があった。
「ん?誰だ?お前らは?」
「この娘を取り返しにきたのか?」
レック達に気付いた2人はそう言った後、自分達をビッグとスモックと名乗った。
「まあいい。このとおり、娘は無事だぜ。さあ5000ゴールド、出してもらおうか?」
ビッグは手招きをしながらお金を要求してきた。
「私達はそんな要求には乗りません。さあ、エリザさんを返してください。」
「何だと?その金髪のちゃんねー、威勢が良さそうじゃねえか。」
「ってことは、俺とアニキとやり合うってのか?」
「はい、そのつもりです。」
ミレーユはみんなを代表してはっきりと言い切った。
するとビッグとスモックは「やっちまうぞ、オラ!」と言わんばかりに振りかぶったため、戦闘が始まった。
最初に行動したミレーユは素早くスカラを唱え、自分の守備力をあげた。
それを見たビッグはターゲットをバーバラに切り換えてきたが、彼女はとっさに防御をしたため、ダメージを半分に抑えた。
レックとハッサンはビッグに通常攻撃をしようとしたが、素早くスモックが身代わりに入ったため、彼にダメージを与えることになった。
次のターンではミレーユがレックにスカラ、スモックは薬草を使用し、ビッグは大きく息を吸い込んだため、こちらはノーダメージが確定した。
そしてバーバラはルカニでスモックの守備力を下げ、レックとハッサンはスモックに通常攻撃をヒットさせた。
次にミレーユはハッサンにスカラをかけたが、それを見たビッグはまだ守備力が上がっていないバーバラをターゲットにしてきた。
「きゃあっ!」
強烈な一撃を受けた彼女は一気にHPを削り切られ、地面に倒れ込んでしまった。
「バーバラ!」
「おのれ!」
頭に血がのぼったレックとハッサンはお返しとばかりにダメージを与えた。
戦闘はバーバラが動けないまま進んでいき、ミレーユはホイミやベホイミを駆使して先制での回復役に回り、レックとハッサンが攻撃専門で行動した。
しかし、あるターンでビッグが大きく息を吸い込む動作をしてきたため、その時は次のターンで一斉に防御をし、受けるダメージを軽減させた。
それを繰り返すうちに流れはレック達に傾いていき、明らかな劣勢に立たされたビッグとスモックは助けてくれとばかりにお金を足元にばらまき、さらにはステテコパンツを落として一目散に退散していった。
「あっ、コラ!待て!」
ハッサンは逃がすかとばかりに2人を追いかけていった。
一方、レックはエリザを縛り付けていた縄や布をほどき、ミレーユはバーバラにベホイミを繰り返し唱えた。
その甲斐あって彼女は「うっ…。」と声を上げながら意識を取り戻したが、その目はうつろで、話しかけても会話が成り立たない状態だった。
(これは相当なダメージを受けたようね。たとえ呪文でHPを回復させたとしても、体に何か良くない影響が出るかもしれないわ。)
彼女の状態が心配になったミレーユはすぐさまレックにそのことを伝え、マーズの館に飛んでいくことにした。
「分かった。ミレーユ、バーバラのことを頼んだよ。」
「ええ、分かったわ。」
彼女は了解を得るとすぐに袋からキメラの翼を取り出して使用した。
レックはその姿を見届けた後、自由の身になったエリザと一緒に町長のところに向かっていった。
「おばあちゃん。バーバラ、大丈夫?元気になる?」
「わしがマホトラでお前さんからMPを分けてもらい、さらに魔法の聖水を使った上でMPが尽きるまでベホマを唱え続ければ起き上がることは出来るじゃろう。」
「そう。それなら良かったわ。」
「じゃが、戦力になるかとなると話は別じゃ。彼女の体はこれまでの戦闘でかなりのダメージが蓄積しておるからのう。」
グランマーズはこのままでは肉離れや疲労骨折を起こしてしまい、回復呪文でも対応しきれなくなることを打ち明けた。
(そう…。ここで故障してしまっては困るわね。これから私達はムドー討伐を控えているわけだから、何か対策を打たなければ…。)
頭の痛い現実を突きつけられたミレーユはMPを供給している間、何かいい方法がないか考え続けた。
そしてグランマーズがベホマの重ね掛けを始めると、再びトルッカに飛んでいき、レックとハッサンに状況を詳しく伝えることにした。
「それじゃ、おばあちゃん、バーバラのこと、お願い。」
「分かった。行ってきなさい。」
「はいっ。」
ミレーユは足早に館の外に出ていくと、再びキメラの翼で飛び立っていった。
翌日。グランマーズの治療の効果もあって、バーバラは立ち上がって歩けるまでに回復した。
しかし、彼女は体の痛みに悩まされ、まともに戦闘が出来ない状態だった。
(どうしよう…。これじゃとても戦力になれない…。ただでさえHPや力が低過ぎる上に強力な呪文も無いせいでみんなに迷惑をかけてきたのに、ますます足手まといになってしまう…。)
これまで以上にあせりを感じたバーバラは近くに置いてあったいばらのムチを拾い上げ、外に出ていこうとした。
「これ。どうするつもりじゃ?」
「みんなのところに行くの。あたし、こんなところで休んでなんかいられないから。」
「やめなさい!今のお前さんはただでさえ全ステータスが下がっている上に、呪文の消費MPも2倍になっておるぞい!」
「でも、でも…。」
バーバラはグランマーズから説得をされても同意せず、ルーラを唱えてその場を飛び立とうとした。
それを見たグランマーズは即座にラリホーマを唱えた。
「えっ?どっ、どう…、して…。」
呪文を受けたバーバラはその場で膝をつき、うつぶせに倒れそうになった。
「おっと、いかん!」
グランマーズは頭から崩れ落ちそうになったバーバラを受け止めた。
(すまぬ、こんなことをしてしまって…。じゃが今復帰したら、本当に取り返しのつかないことになるからのう。どうか許しておくれ。)
彼女は心の中で謝るとバーバラをベッドへと運んでいき、あおむけにした。
その後。バーバラはグランマーズのケアもあって体調も何とか上向き、ステータスや呪文の消費MPも元通りになった。
それを知った彼女は何としても再びみんなに合流するため、レック達の居場所を教えてほしいことをグランマーズに伝えた。
「本当に大丈夫か?そんな体に爆弾を抱えた状態でもし故障が発生すれば、長期離脱は避けられんし、たとえ治ったとしても今後の生活に影響が出るぞ!」
「でも、ムドーを倒せば平和が戻るんだから、そこさえ乗り切れば構わないわ!あと少しのところまで来ているんだから、お願い!」
「そう言われてものう…。」
「お願い!」
「…分かった…。」
バーバラの気持ちに押されたグランマーズは、ついに水晶玉を取り出し、言葉を唱え始めた。
するとレック、ハッサン、ミレーユはゲントの村の近くにおり、眼鏡をかけた僧侶の男性と会話をしていた。
『チャモロ。チェーンクロスを使いこなせるなんて、なかなかやるじゃねえか。』
『それにベホイミをはじめ、色々な僧侶系の呪文を使いこなせるのね。』
『これまではテストという形でしたが、ぜひ僕達の仲間になってくれませんか?』
ハッサン、ミレーユ、レックは目を輝かせながらスカウトをした。
『分かりました。そう言っていただけてうれしいです。では、貢献出来るように頑張ります。』
合格判定を受けたチャモロは気合いを入れながら、正式に仲間に加わった。
『ところで、みなさんはこれまで3人で旅を続けてきたのですか?』
『いや。実はすでにもう一人いたんだけれど、今、ケガで離脱しているんだ。』
『彼女はこのままムドー戦に挑んでも、弱過ぎて役に立たない気がしていたの。』
『その点、お前は体が万全の状態だからな。あいつよりずっと役に立つぜ。』
3人はバーバラのHPが低過ぎることや、仮に新しい武器を与えても通常攻撃に期待出来そうにないこと。さらに彼女に代わる新たな人材を探していたことを打ち明けた。
『あの、いいんでしょうか?彼女に対してそんなことを言ってしまって。』
『いいんだよ。俺たちゃ、今まであいつの弱さのせいで頭の痛い思いをしていたんだからよ。』
『正直、バーバラ本人の前では言えないけれど、もう戦力外ということにするわ。』
『これもムドーとの最終決戦に勝つためだ。そのためなら彼女に恨まれても構わない!』
3人はこれまでたまっていたうっ憤をぶちまけるような言い方をした挙げ句、バーバラにクビを宣告した。
(あたし、クビなの…?もうそこにあたしの居場所は無いの…?)
バーバラは彼らの発した冷たい宣告にショックを受け、その場から動けなくなってしまった。
(おっと、いかんいかん。つい見入ってしまった…。)
はっとしたグランマーズは急いで映像を消したが、時すでに遅しの状態だった。
(あたし…、戦力外なんだ…。クビなんだ…。確かにあたしは弱かったけれど、それでも精一杯頑張ってきたのに…。みんなにこんな風に思われていたなんて…。)
この時すでにバーバラの両腕はわなわなと震えており、目からは涙があふれだしていた。
「こんなものを見せてしまってすまなかった。悪いのはわしじゃ。どうか彼らを責めないでほしい。責めるならわしを…。」
「もういいわ!もうイヤ!思えば武器もいばらのムチのまま更新してもらえなかったし、期待されてないことは薄々感じていたわ!それに弱過ぎる、役立たずだなんて、もう耐えきれない!あんな3人からはさよならするわ!」
バーバラは泣きながら叫ぶと、グランマーズの引き留めも聞かず、さらに武器や防具などのアイテムを一切持たず、普段着だけの状態で外へと駆け出していってしまった。
「これ!待ちなさい!」
「うわああああああっ!!」
自暴自棄になったバーバラは走りながらルーラを唱えた。
その際、力任せに魔力を暴走させてしまったため、彼女の体はまぶしい光に包まれていった。
そして次の瞬間、何かが爆発するような激しい閃光がほどばしった。
外に出てきたグランマーズはその様子をただ見つめることしか出来なかった。
しばらくしてその閃光が収まると、その場所には人の姿が跡形もなくなっていた。
(…すまぬ…。わしのせいで取り返しのつかん状況を招いてしまった…。許しておくれ…。)
グランマーズは時間がたつのも忘れて、バーバラがいた場所をじっと見つめていた。
すると、そこにレック、ハッサン、ミレーユ、チャモロがルーラでやってきて、これからムドーの島に向かうことを伝えた。
これを乗り越えれば世界が平和になると信じて疑わないレックの体には、トルッカで購入した精霊の鎧が装備されていた。
そして、バーバラがこれまで所持していたアイテムを見つけると、しめたと言わんばかりにばかりにそれらを持っていき、売却して、チャモロが身かわしの服を買うための足しにした。
しかし、実はムドーが最終ボスではなく、彼を倒した後も旅は続いていくことを、レック達やグランマーズはまだ知らない…。