アークボルトにやってきた求司、バーバラ、アモス、スラリン、ホイミンは現地にいた人達と勝負を行い、最終的に何とか勝ち越したため、フリーパスで入れる権利を獲得した。
その後、彼らはお店を見て回りながら過ごしていたが、ブラストにあいさつをするために彼のところにやってくると、レック達からお金と手紙を預かっていたことを告げられた。
「えっ?バーバラのためにですか?」
「そうです。どうしますか?受け取ってもらえますでしょうか?」
「僕は構わないですが…。」
求司は迷わずに同意しようとしたが、バーバラは明らかに動揺し、返事をちゅうちょしてしまった。
「とにかく、受け取るだけは受け取ってください。確かに君にとっては因縁の人達かもしれませんが、彼らは心を入れ替えてくれましたから。」
「わ、分かったわ…。」
バーバラは未だに気持ちを整理出来ずにいたものの、とにかく同意だけはしてくれた。
それを受けて、ブラストは一緒にその場所へと向かっていき、引き出しから袋を取り出した。
「さあ、これです。中には3000ゴールドと手紙が入っていますので、ぜひ読んでみてください。」
「分かりました。早速読んでみることにします。」
求司は袋を受け取って開封し、中に入っていた1枚の手紙を開いた。
そこにはレックの直筆で次のように書かれていた。
バーバラへ
この度は僕達の軽はずみな発言のせいで君をこんな目にあわせてしまい、本当にごめんなさい。
でも、決して君に深い心の傷を背負わせようとしたわけではありません。
あの時、僕達はムドーが最終ボスだと信じて疑いませんでした。
そして、世界を救うために情を捨てて、君を外すことにしました。
その際、君が目の前にいなかったことで、軽はずみに「クビ」とか「戦力外」という言葉を使ってしまい、このような結果を招いてしまいました。
それに関しては一同反省をしています。
あれから僕達は苦戦の末にムドー討伐を果たしました。
しかし、彼は大魔王の手下にすぎないことが判明したため、旅はこれからも続きます。
幸いダーマ神殿で転職が解禁されたため、僕達はそれを利用しながら新たな呪文や特技を身につけています。
その甲斐あって、ある程度お金もたまりましたので、君に装備を整えてほしいと思うようになり、今回、3000ゴールドを渡すことにしました。
これで許してほしいとか、過去をなかったことにしてほしいというわけではありませんが、どうか受け取ってください。
僕達はもうあのような過ちを繰り返しはしません。
現に、ターニアが僕達のために食事を用意してくれた時には、バーバラの分も作ってくれました。
そして、君の分の椅子も用意しましたし、テーブルには君のためのスペースも確保しました。
僕達にとって、君は大切な仲間です。どうかそれだけは信じてください。
レック一同より
その内容は求司やバーバラの想像と違っていたため、彼らは思わず黙り込んでしまい、何を言えばいいのか分からずにいた。
「どうですか?バーバラさんはレックさん達に会い、もう一度やり直しますか?」
「……。」
アモスは恐る恐るバーバラに質問をぶつけてみたが、彼女はうつむいて黙ったままだった。
すると求司がお金の入った袋を手に取り、物思いにふけり始めた。
「ん?キュウジさん、どうしたんですか?」
「えっ?い、いやあ。何だか、あの時に似ているなと思って…。」
「あの時って、どういう時ですか?」
スラリンとホイミンが興味深そうに聞くと、求司は自分の過去について話すことにした。
それは彼が6区を走っていた時に左足の大ケガで倒れてしまい、チームが棄権扱いになった、あの駅伝大会のことだった。
彼が所属していた小説大学は前年に風口志朗が選抜チームでオープン参加したものの、チームとしては初出場だったため、強豪校からはどうしても格下に見られてしまった。
そして、蕨丈二監督は優勝候補筆頭の最強大学の監督である永島田(ながしまだ)連太(れんた)と言葉を交わした時、「どうか繰り上げにならないように頑張ってください。」と言われてしまった。
その言い方は本人にとっては悪気のない、激励の言葉だったが、その場に居合わせた志朗は突如表情が険しくなり、チームメイトに「いいか!あの永島田監督の言葉、絶対に忘れるんじゃないぞ!絶対にタスキをつないで見返してやろうぜ!いいな!」と言ってカツを入れた。
それを聞いた丈二は慌てて止めに入り、詫びを入れた一方、志朗はまだにらみつけていたため、不穏な空気がただよってしまった。
競技は最強大学が1区から一度も首位を譲らないまま進んでいき、小説大学は求司が第5中継所でトップから13分30秒後(繰り上げ1分30秒前)にタスキを受け取り、スタートした。
しかし、最強大学で6区を走った選手は10000mで28分を切ったことがあるのに対し、求司は一度も30分を切ったことがなかったため、計算上8.9km先にいるアンカーの志朗にタスキを渡すことは絶望的になってしまった。
(だからって、このままムザムザと繰り上げスタートになってたまるか!絶対に永島田監督を見返してやる!)
そう考えた彼は丈二の作戦を無視して序盤から暴走に打って出た。
幸い、その甲斐あって4.5kmでのチェックポイントでは13分56秒差だったが、後半ではどんどんその差が開いていき、さらにその暴走がたたって左足に痛みが走るようになっていった。
そして、繰り上げスタートが間近になった時、求司は250m先にいる志朗の姿を見ながら倒れてしまい…。
「その後、風口先輩はゴール後、優勝インタビューを終えてねぎらいに来た永島田監督に向かって、怒りをぶつける発言をしたんです。それを聞いて永島田監督は『あれは見下したわけじゃないんだ。すまない。許してくれ。お詫びに求司君のために金銭面か何かで協力させてほしい。』と言ったそうなんです。」
「それで、お金は用意してもらえたの?」
「うん。最強大学の人達は地元に戻るとみんなに募金を呼び掛けたんだ。でも、僕や風口先輩にとっては因縁の人達だったから、最初はそんなお金受け取れるかって思っていて…。」
「ということは、拒否しちゃったの?」
「いや、結論から言うと、僕が日本を出発する少し前に蕨監督が受け取ったよ。」
「えっ?受け取ったの?」
「うん。あれから双方の監督が色々やり取りをしたんだ。そして、永島田監督達は僕達の悔しさを理解してくれて、僕達も最強大学の人達がどんな気持ちでいるのかも分かって、頑張って集めたそのお金に込められた思いを感じ取ったことで、僕も風口先輩も受け取ることに同意したんだ。」
求司は2人の監督のおかげでわだかまりを解くことが出来、手に入れたお金が治療費の足しになり、さらには渡航費用にもつながったことを話した。
「じゃあ、キュウジはその人達のおかげであたしに出会えたわけなのね。」
「うん。もしその人達の善意を無駄にしていたら、君に出会うことも、この世界にやってくることもなかった気がするから。」
求司は続けざまに、永島田監督をはじめとする最強大学の人達にお世話になったからには、その恩返しとして必ず次回の大会に出場し、元気に走る姿を見せたいことを話した。
「じゃあ、あたしもレック達が用意してくれたそのお金で装備をさらに強化して強くなってみようかな。」
「えっ?本当に?」
「うんっ!さっきまではどうしようかと思っていたけれど、キュウジの話を聞いて迷いが無くなったわ。そして、素直に受け取ったら、あたしにも何かいいことが起きるような気がしてきたから。」
「良かった。君がそう言ってくれて。」
求司をはじめ、その場に居合わせたアモス、スラリン、ホイミン、ブラストはほっと一安心した。
そして、すでに持っていたお金と合わせて買い物に出かけていき、待望の魔法の盾を手に入れた。
すると求司は迷うことなくその盾をバーバラに差し出してきた。
「これ、君に装備してほしいんだけれど、いいかな?」
「えっ?あたしが?でも、あたし、今まで盾なんか持ったことがないんだけれど…。」
「この盾は軽いから君でも扱えると思うよ。今から練習してみるかい?」
「うーーん、いきなりそう言われても…。」
バーバラがどうしようか迷っているとそこにアモスが入ってきて、求司とバーバラで使いまわしてはどうかと提案してきた。
「どうでしょう?お2人さんは仲もいいですし、2つ目を手に入れるまではそれが一番いいと思いますよ。」
「い、いやあ、その…。」
「い、いいのかしら…。」
彼らは顔を赤らめながら照れるばかりだった。
「僕、大賛成です。」
「それで行きましょう。」
「スラリンさんとホイミンさんもそう言っていますし、それで決まりですね!」
アモス達の後押しを受けて2人はついに同意し、まずはバーバラがそれを装備することになった。
その後、求司達がアークボルトを後にする時に、アモスは自分がバーバラとレック達の仲介役として、双方の気持ちを伝える役割を買って出た。
「というわけで、私はこれからしばらくの間、彼らに合流することにします。そしてバーバラさんの気持ちや、今回レックさん達がくれたお金を使って魔法の盾を購入したことを伝えようと思います。」
「それはありがたいわ。ぜひお願いね。」
バーバラは喜んで賛成をしてくれた。
「任せてください。いずれはあなた達が仲直り出来るように、全力を尽くします。しかし、私が抜けるとこちらのチームの戦力がダウンしてしまいますので、キュウジさんにこれを渡したいと思います。」
アモスはそう言うと破邪の剣を差し出してきた。
「いいんですか?大事な武器なのに。」
「いいんです。キュウジさんはインパス以外に唱えられる呪文がありませんから、せめてギラだけでも使えればと思ったんです。」
「それは一理ありますね。僕はこれまで月鏡の塔で氷のやいばを使った以外は、1ターン休みと弓でしか役に立てませんでしたから。それにこれから1ターン休み無効の敵も出てきますし。」
「だからこそ、これを使ってほしいんです。さあ、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
求司はお辞儀をした後、その剣を受け取った。
「でも、アモスさん、武器はどうするんですか?」
「まさか、素手で戦うわけじゃないですよね?」
「スラリンさん、ホイミンさん、心配しないでください。これからやいばのブーメランを買うつもりです。これなら攻撃力は下がるものの、攻撃範囲が増えます。それに私は今戦士ですから、これでも十分戦力になれると思います。」
アモスはそう言うとこれから武器屋でブーメランを買いに行き、その後はここに残留することになった。
一方、バーバラは求司、スラリン、ホイミンを連れてダーマ神殿に飛んでいった。
現地に着くと求司は即座に家庭教師の仕事に取り掛かり、バーバラはかまいたちの勉強をしながら魔法の盾を使いこなすための練習をした。
スラリンはまもの使い(まものマスター)に転職した後、神殿近くに生息しているテールイーターから甘い息を教えてもらうことにした。
そして、ホイミンは魔法使いに転職した後、回復専門役としてゲレゲレやゴレムス達の金策についていった。