幸せの国と言われていた場所がジャミラスの居城であり、恐ろしい場所であることを知ったレック、ハッサン、チャモロ、アモスは準備を整えた後、再度現地に乗り込んでいくことにした。
その際、アモスはターニアから炎のツメとゲントの杖を受け取ったため、それまで彼が使っていたバトルアックスはレックの手に渡った。
(ターニア。断腸の思いだったとはいえ、君を外してしまって本当にごめん。そしてバーバラ。罪の意識もないまま君を外してしまって、君にも本当にごめん。許してくれなくてもいいから、どうか僕達が勝てるように見守っていてくれ。)
レックは心の中で祈りながら城内に入り、4人で進み続けた。
一方、現地では偵察のモンスターがおり、彼らはレック達が操られた人々と対峙している姿を見ると、即座に別の場所にいる仲間に合図を送った。
(※ただし、彼らはその後、ハッサンの下手くそな歌声で気を失ってしまいました。)
その合図は次々と伝わっていき、アンカーのきりさきピエロ2人は駆け足でジャミラスのところにやってきた。
「申し上げます。ただいま、侵入者がやってきました。」
「その中にはムドー様にまぐれ勝ちした人間もおります。」
「何いっ?まだ俺様達の言葉に乗ることなく、立ち向かうものがおるとは。では、そいつらに世界の半分、闇の世界を見せてやるぞ!」
「かしこまりました。」
「仰せのままに。」
きりさきピエロはかつてムドーに仕えていた時とそっくりの態度で、その場を後にしていった。
それから10分後。彼らに誘われるように奥深くにやってきたレック達は、ジャミラスが大勢の部下達の前で演説をしている光景を遠目から見た。
(これはすごい迫力だし、何だか足がすくみそうだ。でもカルカドの人達がいけにえにされているのを許すわけにはいかない。何としてもボスを倒して、みんなを助けなければ!)
レック達は心の中で怒りに燃えていた。
一方、武器を失い、失意の底でチームを離れたターニアは、悔しさをこらえながらダーマ神殿にやってきた。
すると、彼女は偶然にも求司とバーバラに鉢合わせをしてしまった。
「えっ?バーバラさん?」
「あなたはもしかして、ターニア?」
彼女達は旅人の洞くつで出くわした時のことがフラッシュバックしてしまい、お互いビックリだった。
「あ、あの…。私…、あなたに…、何てことを…。」
「えっと…、あたし、どうすればいいの?」
2人は動揺したまま、その場に立ち尽くしてしまった。
「と、とにかく、君がターニアさんですね。僕はキュウジです。バーバラ達のチームの監督をしています。」
求司は自身も驚きながら、何とか自己紹介をした。
「ねえ、キュウジ。こういう時、どうすればいいの?あなたならどうする?」
「こういう時はねえ…。あっさりいったら?」
「あっさりって?」
「僕ならこうするけれど…。」
求司はとっさに思いついたアイデアをバーバラにヒソヒソ声で伝えた。
「いいの?そんなんで。」
「まあ、とにかく、やってみよう。」
「わ、分かったわ。」
アドバイスを聞いた彼女はまだ半信半疑の気持ちだったが、最終的に求司を信じることにして、ターニアの方を向いた。
「バーバラさん…、私達…。」
「あっ、ターニア?あったしーっ!」
バーバラはさっきまでとは打って変わって、突然笑顔で話しかけた。
「えっ?」
「んっ?ねえ、ガッカリして、メソメソして、どうしたの?ターニア、笑ってよ。太陽みたいに。」
彼女のあまりの変ぼうぶりに、ターニアは別の意味で動揺してしまった。
すると、求司は旅人の洞くつでバーバラがリレミトを唱えてしまったのは、ただ驚いて混乱したためだったことを打ち明けた。
「というわけで、彼女はもう過去を乗り越えてくれましたので、心配しないでください。これからは仲良くしていきましょう。」
「キュウジさん…、本当に、いいんでしょうか…?」
「ダイジョーVですよ。」
求司はリアクションを交えながら笑顔で答えた。
それを見て、ターニアも少しずつ表情が明るくなっていった。
気持ちが落ち着いた後、彼女はレック達が心配でたまらないことを打ち明けた。
「キュウジさん、お兄ちゃん達は果たしてジャミラスに勝てるんでしょうか?」
「正直、状態によるかもしれないです。もし、ジャミラスと戦うだけなら勝機は十分あると思うけれど、カルカドの人達が人質に取られるかもしれないし、部下のモンスターも相手にすることになったら、ボス戦前に消耗してしまうから。」
「そんな…。もしそうなったら、お兄ちゃん達は…。」
求司の意見を聞いて、ターニアの不安はますます大きくなり、体が震えはじめた。
一方のバーバラも、過去に冷たく扱われた因縁があるとはいえ、彼らがやられてしまうのは耐えられないことだった。
「ねえキュウジ、あたし達も行こうよ。」
「本当に行くの?」
「うん。あたし、過去より未来のことを考えたいし、これを機に仲直り出来ればと思っているから。」
「分かった。でも、僕達だけでは不安だから、助っ人を集めに行こう。」
「助っ人って、誰に声をかけるの?」
「個人的にはアークボルトで出会った兵士の人達を考えているんだけれど。」
「果たして協力してくれるかしらねえ。」
「迷わず行こう。行けば分かるさ。行くぞーっ!」
「オーッ!いーち!って、何言わせんのよ!」
「言ってくれればこっちのもんです。」
「あのねえ。雰囲気ぶち壊しじゃないの!」
求司とバーバラのやり取りを見て、ターニアは思わずクスッと笑った。
「あなた達、本当に仲がいいのね。」
「い、いやあ、その…。」
「キュウジが面白いのよねえ…。」
「まあ、とにかく行きましょう。バーバラさん、ルーラお願いします。」
「分かったわ。」
バーバラは早速呪文を唱え、3人はアークボルトに向かっていった。
現地に到着すると、バーバラは門番をしていたガルシアに事情を話し、助っ人に加わってくれないか問いかけた。
「そうか。分かった。でも、これは軍隊呼びという特技と見なされるから、対価としてそれなりのお金を払ってくれないか?」
「えっ?お金を払うの?」
「ああ。うちらもボランティアでやるわけではないからな。」
「そんなあ…。」
バーバラが顔をしかめていると、そこにターニアが割って入り、自分がお金を用意することを提案した。
「お嬢ちゃん、いいのかね?」
「はい。お兄ちゃん達のために出来ることは何でもするつもりです。」
彼女は商人に就いてから、いつもより余計に賃金をもらえるように頼み込んだり、宝探し(穴掘り)をしてお金や鉄の杖、毛皮のフードといった金策アイテムを手に入れたため、資金はある程度余裕がある状態だった。
「というわけで、これを差し上げますので、どうか力を貸してください。お願いします!」
ターニアはすがるように頼み込むと、お金の入った袋を差し出した。
「分かった。では今からブラスト隊長のところに行って、協力をお願いすることにしよう。」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
ターニアは深々とお辞儀をした後、ガルシアと一緒に城内に入っていった。
そして、求司とバーバラは代わりに見張りをすることにした。
しばらくすると、サラがやってきて見張りを交代することになったため、求司とバーバラは外で金策に出かけていった。
すると、ある秘密の場所で踊る宝石3匹分のお金に加えて、石のオノ、踊り子の服、くさりがま、鉄の鎧を発見した。
「えっ?どういうこと?どうしてこんなにたくさんの物がここに?」
「僕も良く分からないけれど、この近辺に住んでいたモンスターのアジトだったのかも。」
「ということは、テリーが大暴れした時、みんなこれらを置いたまま、急いで逃げちゃったのかなあ?」
「多分ね。というわけで、これ、もらっていく?」
「いいの?」
「僕の予想だと、これらを売ればもっといい武器が手に入りそうだから、もらっていこう。」
「分かったわ。じゃあ、そうしましょう。」
バーバラの同意を得て、2人は荷物を抱えて引き返していった。
城の入り口ではターニアがちょうどガルシア、スコット、ホリディ、ブラストを連れてやってきたところだった。
「あっ、みんな協力してくれることになったのね。」
「ええ、そうよ、バーバラさん。私の気持ちが通じて、本当に助かったわ。」
ターニアは持っていたお金を使いきってしまったものの、表情は晴れやかだった。
一方で、サラは表情が途端に曇りだした。
「ガルシアさん、本当に強敵のいるところに行くのね。」
「ああ。このお嬢ちゃんにあそこまで説得されたら、行かないわけにはいかないからな。」
「そうなの…。私としては出来ることなら引き留めたいけれど…。」
「大丈夫だ。必ず帰ってくるから、心配はいらない。君はここで見張りを頑張ってほしい。頼んだぞ。」
「はい…。」
サラはうつむきながらも、勇気を出して承諾した。
すると彼女は持っていたはがねのムチを差し出してきた。
「バーバラさん、私が行けない代わりに、これを貸し出しますので、使ってください。」
「えっ?いいの?大事な武器なのに。」
バーバラはなかなか同意出来ずにいたが、すると求司が持っている破邪の剣を下取りに出すことにした。
「キュウジ、いいの?」
「うん。これとくさりがま、踊り子の服、鉄の鎧、石のオノを売って、持っているお金と合わせれば、7400ゴールドに届くから、これではがねのムチが買えるよ。」
求司は迷うことなくアイテムとお金を持って武器屋に行こうとした。
「とはいえ、今は時間も大事にしたいですから、買い物に行く代わりにこの場で私のはがねのムチをお渡しします。」
「本当ですか?」
「ええ、どうぞ。大事に使ってくださいね。」
サラは笑顔でその武器をバーバラに渡し、求司からお金とアイテムを受け取った。
そして求司はバーバラから氷のやいばを受け取り、ヒャダルコ専門で使うことにした。
(バーバラがこれまで愛用していた武器が僕の手に…。こんなうれしいことがあるだろうか。)
彼は声には出さないものの、心の中ではドキドキの状態だった。
そしてターニアはキメラの翼を使って、いよいよ現地に向かって飛び立っていった。
(お兄ちゃん、今行くからね。待っていて!)
彼女は今回限りの特例で用意してもらったどくばりを装備しながら、気合いを入れた。
一方、ジャミラスのもとにやってきたレック、ハッサン、チャモロ、アモスはまず前座という形で部下のモンスター達と戦うことになった。
最初は危なげなく勝った彼らだったが、チャモロがベホマとイオラを使えることを見抜かれると、相手は彼を集中攻撃するようになった。
「くっ、回復役の私が絶対にやられるわけにはいきません!」
「彼のMPを温存するためにも、僕が早く相手を倒さないと!」
「私が攻撃をしながらゲントの杖での回復をしましょう。」
「と~ぞくに、てんしょく~してからっ、ちていまぢょ~にき~た~よ~。」
チャモロ、レック、アモスが懸命に頑張り続ける中、ハッサンは相変わらず下手くそな歌声を披露し続けた。
その作戦は最初こそ効果があったものの、すぐに相手が対策を練ったため、次第に無駄行動になっていった。
その結果、彼らは前座こそ何とか切り抜けたものの、ベホマとイオラを連発したチャモロのMPが大きく減ってしまったため、ボス戦を前にリレミトで無念の撤退となってしまった。
城の外に出てくると、チャモロはありったけのMP回復アイテムを使用した。
そして、レックとアモスがホイミでみんなのHPを全回復させた後、再び乗り込んでいくことになった。
その頃、別世界にいるミレーユは、安奈に念入りにマッサージをしてもらった。
「アン、せっかくの休みなのに、治療のために色々迷惑をかけてごめんなさい。」
「いえ。何も悪いことをしたわけではないのに、謝る必要はありません。私ならこういう時、『治療をしてくれてありがとう』と言いますよ。」
「そうなんですか?」
「はい。私は会話の補助をした時、日本語でごめんねと言われたのをThank youと訳したことがありますから。」
「そうですか。それなら、治療をしてくれてありがとうございます。」
「どういたしまして。では、私は今から兄の代わりに駅伝部の監督代行をしている外場(そとば)みか子さんと連絡を取りますので、ゆっくり休んでいてくださいね。」
「分かりました。」
ミレーユはそう言うとベッドに横になり、壁越しに安奈とみか子の会話を聞くことにした。
『みか子さん。兄さんの体調はいかがですか?』
『心配しないでください。すでに仕事を分担していますし、もう少しすれば監督に復帰出来ますよ。』
『そうですか。それならほっとしました。それから、私が現地で出会い、これから日本に留学をする人の映像は見ましたか?』
『ええ。5000mのタイムこそ14分55秒と聞いていますが、走るフォームもきれいですし、鍛えれば戦力になりそうですから、これから丈二さんと入部について前向きに話し合いたいと思います。』
『分かりました。では、兄さんのことも合わせて、よろしくお願いします。』
『かしこまりました。』
2人の会話が終わると、安奈はすぐに食材の買い出しに出かけていった。
(アン、本当にごめんなさい。…いや、ありがとうございます。きっと元気な体になって、恩返しをしますからね。)
ミレーユは安奈の優しさに感謝しながらゆっくりと眠りに落ちていった。
登場人物紹介
・外場みか子(27歳)
小説大学駅伝部のコーチであり、データ分析が得意。
監督である丈二の右腕的な存在であり、現在彼の代わりに監督代行をしている。
(※当初は彼女を出す予定はありませんでしたが、求司の世界に名前付きで登場する女性キャラが安奈だけでは寂しかったので、考えた末に出すことにしました。)
ゲームではジャミラスの居城でザコ戦はなく、待っているのはボス戦だけですが、演説を聞いているモンスター達がどうして襲ってこないんだろうという疑問が以前からありました。
まあ、ゲームで本当にこうなったら嫌ですが、作品に緊張感を持たせる意味も込めて、ザコ敵との前座戦を入れてみることにしました。