レック達がジャミラスとの激闘を終え、カルカドの人々を救った翌日、求司はダーマ神殿の宿屋で自主勉強をしていた。
この日はバーバラがベホマを習得するためにマーズの館に行っており、夕方まで帰ってこられない予定になっていた。
そして彼女の代わりにホイミンが彼のところにやってきて、ベホマを唱えてくれた。
「どうもありがとう。本当に助かるよ。」
「どういたしまして。僕は先程ピエール達との修業で稼いだ経験値のおかげでレベルアップし、ついに待望の呪文であるベホマを覚えましたので、これでキュウジさんの治療に関われてうれしいです。」
「それはどうも。本当に君がいてくれてよかった。」
「確かにそうでしょうね。僕が来た時、バーバラさんがそばにいなくて何だか寂しそうでしたから。」
「えっ?そ、そう?」
「はい。キュウジさんとバーバラさんは本当に息ピッタリですし、すごく仲がいいってターニアさんが言っていましたから、きっとお互い大切な存在なんですね。」
「ちょっ、ちょっと!あのね!」
「隠さなくてもいいですよ。僕達はもう分かっていましたから。」
「……。」
求司はホイミンにイジられて顔が赤くなり、思わず黙り込んでしまった。
すると外で『ホイミン君、そろそろイオラとリレミトの試験を受ける時間ですよ。』というフォズの声が聞こえてきたため、彼は「分かりました。今行きます。」と声をかけた後、急いで部屋を後にしていった。
1人になった求司はこれまでバーバラと過ごした日々を思い出しながら物思いにふけっていた。
(ゲームの世界を飛び出してきた彼女に出会ってから、これまで本当に色々あったなあ…。そして、色々会話をして、一緒に行動するうちに、確かに仲良しの関係になったけれど、これから僕達はいつまで一緒にいられるんだろう…。それにこれから先の敵はさらに手ごわくなるし、僕は果たして戦力になれるんだろうか。そして、もし僕が元の世界に帰ることになったら、彼女との関係はどうなるんだろう…。)
彼はこれまでの日々が楽しかっただけに、いつか来るであろうその時が余計に不安になっていた。
しばらくすると扉をコンコンとノックする音が響き、『すみません。』という声が聞こえてきた。
「あっ、アモスさんですか?」
『はい、そうです。入ってもいいですか?』
「いいですよ。どうぞ。」
『では、失礼します。』
求司の了解を得て、アモスは扉を開けて中に入ってきた。
「こんにちは。キュウジさん、元気ですか?」
「まあ、日常生活なら大丈夫ですが、今日はどこにも出かけたくないです。足にもテーピングが巻かれていますし。」
「それは大変ですね。早く完治してほしいんですが。」
「でも、バーバラがおおごとになる前に手を打ってくれましたし、グランマーズさんとホイミンがベホマを唱えてくれたおかげで、本当に助かっています。正直、ベホイミでは見かけ上治っても、足に抱えた爆弾までは消えませんでしたから、これで完治させるめどが立ちそうです。」
「なるほど。私はホイミしか唱えられませんから、直接関われませんが、早く完治してほしいです。」
「僕もそうなってほしいです。ところで、今日は何をしに来たんですか?」
「実は…。」
アモスはカルカドの件が解決した後のレック達について話してくれた。
彼らの近況は次の通りだった。
・レック … 痛めた肩、ひじ、手首が回復せず、検査の結果、かなりの炎症を起こしていることが判明。
・ハッサン … 昨日から続いていた鼻血がようやく止まったものの、仰向けになれず、一睡も出来なかった模様。
・チャモロ … ユニコーンのツノに塗ってあった特殊な毒に侵されてしまい、キアリーではなかなか治らない状態。
・ターニアとスラリン … テリーが4275ゴールドで売却し、5700ゴールドで販売されている炎のツメを買うために、金策中。
「というわけで、ケガ人が続出してしまい、今はとてもチームを組んで次の目的地に行ける状態ではないんです。」
「そうですか。みんな大変ですね。」
「はい。しばらくは道具使用で何とかするしかなさそうなので、私やターニアさん、スラリンさんがアークボルトの武器屋に並んだ炎のツメを予約して、頑張ってお金を集めているんです。」
「それはぜひ欲しいですね。では、僕も応援しましょう。」
「どのような形で応援してくれるんですか?」
「僕は昨日、ホラーウォーカーから身かわしの服を手に入れたので、これをお渡しします。売れば2250ゴールドになりますし、宝探しなどの金策で貯金も1500ゴールドありますから、かなりの足しになると思いますよ。」
「これは助かります。私達ではスライムの服や絹のローブ、鉄の杖や毛皮のフードが精一杯でしたから。でも、これと私達の貯金を合わせれば手が届きます!これでレックさんも治療をしながらメラミで戦力になるめどが立ちます!」
「あっ、なるほど。彼のために道具使用が出来る武器がほしいわけですね。」
「はい。今の状態ではとても通常攻撃が出来ませんから。」
「では、道具使用の効果がある武器に関する情報をもう1つ教えてもいいですか?」
「何ですか?」
「ジャミラスが倒された後は、メダル王の城に入れるようになりますから、そこでてんばつの杖がもらえると思いますよ。」
「その杖も使うと何か効果があるんでしょうか?」
「はい。バギ系のダメージが与えられます。バギマよりは弱いですが、これもMP無しで放てますよ。」
「分かりました。では、レックさんに武器を渡したら、その場所に行ってみます。そして、その武器はターニアさんに渡します。」
アモスはレックの話を締めくくった後、今度はハッサンの現状を詳しく話した。
「というわけで、彼は検査の結果、鼻骨の骨折が判明したんですよ。」
「これはおおごとですね。想像しただけで痛そうです。」
「はい。実際、そうなんです。治療のために滞在しているゲントの村の人の話では、休むように忠告されているんですが、本人は『そんなのイヤだぜ!遊び人を早く卒業するためにも、旅に出て熟練度を稼ぎたいんだよ!』と言って、譲らないんですよ。」
「なるほど。」
「キュウジさん、何かいいアイデアありませんか?」
「うーん…。」
求司は腕を組みながらしばらく考え続けた。
すると、ふと彼の脳裏にサッカーの試合で、鼻をケガした選手がフェイスガードを着けて出場したシーンが思い浮かんだ。
そしてその場で紙と鉛筆を用意し、イラストを描いていった。
「というわけで、これを彼に作らせてみてはどうでしょう。」
「これで大丈夫なんでしょうか?そもそも彼にそのようなものが作れるんでしょうか?」
「ハッサンは元々大工の家で育った身ですから、多分作れるんじゃないかと思います。とにかく、この絵を見せてみましょう。」
「では、早速そうしてみます。では、私は早く炎のツメを買うために、今からアークボルトに行くことにします。」
「行ってらっしゃい。無事に手に入ってほしいですね。」
「もちろんです。では、行ってきます。」
アモスはおじぎをすると急いで部屋を飛び出して行き、キメラの翼でアークボルトに向かっていった。
(あとはチャモロかあ…。キアリーでも治せない毒なのか…。何かいいアイテムがあればなあ…。)
1人になった求司はドラクエのナンバリングシリーズを思い出しながら考え事をしていた。
その後、彼は部屋で勉強を続け、お昼になると支給してもらった昼ご飯を食べた。
(思えば僕はここに来た当初、何としても僧侶になってホイミを覚えて、自分で足を治したいって思っていたっけな。でも、いつしかバーバラをはじめ、みんなに治療をしてもらう立場になっていた。駅伝部にいた時もそうだったけれど、チームワークって大事なんだな。)
彼はこれまでのことを色々と思い出した後、ふとカバンから最強大学駅伝部監督である永島田連太の書いた一冊の本を取り出した。
(この大学がトップを快走した影響で僕は繰り上げのプレッシャーにさらされて、風口先輩が無念のスタートになってしまったから、僕達にとって因縁の人だけれど、今さらそんな風に考えたって仕方がない。これから強くなっていくためにも、この人から学べるものを色々学んでいこう。)
求司は本の表紙に写っている永島田監督の顔を見つめた後、本を開いて内容を読んでいった。
そこに書かれていたのは、簡潔にまとめると次のようなことだった。
・いい原石も、磨き方を間違えれば輝かない。個人の能力もうまく引き出さなければ輝かない。
・レギュラーと控えに超えられない壁を作ると、結果的に選手全員のモチベーションが下がる。
・レギュラーだけでチームが戦う訳ではない。控えや裏方が陰で支えていることへの感謝を忘れるな。
・自分が正しい、自分が完璧だと考えれば人は離れていく。間違いや失敗は人を引き付けるチャンスだ。
・変化しない組織は弱くなる。新しい情報を取り入れて新しい自分に生まれ変われ。
・控え選手にも人生がある。結果よりも、その人の人生を大事にして、人として成長させろ。
・人はみんな違う。違うからチームが強くなれる。他人と違うことを誇りに思え。
・長距離区間ばかりが駅伝ではない。最短区間専門の選手であることを誇りに思え。
・今の常識はやがて変わる。非常識を否定するな。新しい常識を作り出せ。
・私は大会から外された選手から嫌われても構わない。その悔しさを力に変えた姿を見せてほしい。
・チームが強くても出場しなければアピールにはならない。繰り上げでも走った人を私は評価する。
・私は自分の大学だけが強くなればいいとは思わない。私の理想は駅伝界全体の底上げだ。
(この人は一見すると、良く言えば常に冷静、誤解を恐れずに言えば冷酷な勝負師という感じだったけれど、本当は情熱的で、みんなのことや世の中のことを常に考えている人なんだな。)
一通り本を読んだ求司は色々なことが目に留まったが、特に「繰り上げでも走った人を私は評価する。」という部分がまるで自分に向けて言っているかのような印象を受けた。
そして、バーバラ達のチームの監督として、これらの内容をぜひ活かしてみたいと思うようになった。
しばらくすると、部屋にホイミンがやってきて、正式にイオラとリレミトを習得したことを報告した。
「おめでとう。よかったね。」
「はい、魔法使いとして大きな通過点となる呪文ですから、合格出来て良かったです。」
ホイミンはうれしそうにそう言うと、早速ベホマを唱えようとした。
「あっ、ちょっと待って。」
「キュウジさん、何ですか?」
「僕はいいから、レック、ハッサン、チャモロのところに行って、彼らを治療してほしいんだけれど。」
「えっ?いいんですか?だって、足はまだ完治していないのに。」
「僕はバーバラに治療をしてもらうよ。彼女はきっと今日中にベホマをマスターしてくれるはずだから。」
「おおっ!それはまさに愛の力ってやつですか?」
「やめてよ!そう言うの!僕達は元々住む世界の違う人同士だし、そんな関係では!」
「隠さなくてもいいですよ。もうみんな気づいていますから。」
「………。」
求司は顔が真っ赤になり、それ以上何も言えなくなってしまった。
一方のホイミンはニヤニヤするばかりだったが、やがて気持ちを落ち着かせると、「それじゃ僕は行ってきます。」と言い残し、3人がいるゲントの村に向かっていった。
その日の夕方。求司は部屋を出て周囲を散歩した。
するとそこにバーバラが弾む足取りでやってきた。
「あっ、お帰り。」
「たっだいまーっ!キュウジ、元気だった?寂しくなかった?足は大丈夫?痛くない?」
バーバラは求司に早く会いたかったのか、満面の笑みだった。
「ま、まあ。歩いている時に痛みは無くなってきたけれど、まだジョギング以上のことは無理かな。」
「ふうん、そうなの。じゃあ、あたしが今からMPを使い切るまでベホマを唱えてあげるわね。」
「ありがとう。今、どれくらいMPがあるの?」
「たくさんあるわよ。修業の時に一度は使い切っちゃったけれど、ミレーユのおばあちゃんが魔法の聖水をくれたし、それでも足りない分はホイミン君の仲間であるホイムン、ホイラン、ホイロンからマホトラで補充したから。」
「それじゃ、遠慮なくお願いしてもいい?」
「うんっ!」
バーバラは喜んで引き受けると、早速ベホマを唱えだした。
(本当に彼女に回復してもらえると、本当にうれしいな。思えば君は本来、イオラを覚えるために魔法使いに転職したかったはずなのに、僕のために僧侶になってくれて、本当にありがとう。)
求司は呪文を唱えてもらっている間、心の中で彼女に感謝をしていた。
(※ちなみに求司のMPは現在17です。なので、不思議な木の実を食べて最大MPを20以上にすれば僧侶と魔法使いの試験を受けられるようになりますが、彼は呪文から手を引き、完全に金策でチームに貢献する道を選びました。)
治療が終わった後、彼は翌日、一緒にゲントの村に行き、自分でレック達にアドバイスをしながらバーバラにベホマを唱えてほしいことを提案した。
「えっ?レック達に会うの?」
「うん。もうお互いわだかまりも無いと思うし、これを機に仲直り出来ればと思っているから。」
「そう。でもその場合、あたしはみんなに何て言えばいいのかしら。」
「今は分からなくても、きっと時間がたてば答えは見つかるよ。君達は仲間だから。」
「分かったわ。キュウジを信じるわね。明日、一緒に行きましょう。」
バーバラが前向きに答えてくれたのを受けて、求司の表情にも笑顔があふれていった。
ゲームでは炎のツメは非売品ですが、2つ目を手に入れるにあたって、ただジャミラスから手に入れるだけではつまらない気がしたので、5700ゴールドで販売という形にしてみました。
なお、うp主がゴールデンウィークにおでかけをする関係で、更新間隔が少々長くなります。
あらかじめご了承ください。