ムドーがラスボスだと信じて疑わずにいたレック達は、城に乗り込む前に、弱くて故障がちだったバーバラを外すことにした。
しかし、その際に彼女を弱すぎる、役立たず、戦力外と言ってしまったため、本人は自暴自棄になってゲームの世界を飛び出していってしまった。
ムドー討伐後にグランマーズからその話を聞いたレック達は、もしかして取り返しのつかないことをしてしまったのではないかという気持ちに襲われるようになっていった。
そんなある日、戦いで受けた傷がいえて日常生活であれば問題なく送れるようになったレックは、精霊の鎧を売却しにライフコッドへと向かっていった。
「おや、こんな高性能の鎧なのに、もう使わないんですか?」
「はい。もうムドーを倒しましたし、僕としては役割を果たしたと思っていますから。それに…。」
「それに?」
「い、いや。何でもないです。とにかく、これはお返しします。」
レックはこの鎧を買うために、トルッカでせこいことをしてしまったが、それは口が裂けても言えないことだった。
そのため、少しでもお金を返すために、安くてもいいから売ることにした。
「分かりました。では、買った時の半額、3500ゴールドで取り引き成立にさせていただきます。それでよろしいですか?」
「はい、分かりました。どうもありがとうございます。」
レックは頭を下げてお礼を言った。
そして、店主が差し出したお金を受け取ると、再び頭を下げて店を後にし、ルーラでトルッカに向けて飛び立っていった。
(※ゲームでは売れませんが、展開の都合上、こうしました。)
「おお、これはこれは、レック君ではないですか。今日はどうしたんですか?」
「町長さん、実はあの時のお金を2割り増しでお返ししようと思いまして…。」
「ということは、6000ゴールドかね?」
「はい。以前はどうしてもムドーを倒したいばかりに無茶なことをしてしまいましたが、実際に倒した今となっては自責の念に耐えきれなくなりまして…。それで、けじめをつけたいんです。これで許してくださいとは言いませんが、どうか受け取ってください。」
レックは町長に謝罪をした後、申し訳ない表情でお金の入った袋を差し出した。
「まあ、娘を助けてくれた上に、ムドーを倒してくれたとあっては、わしも怒るわけにはいかんし、つけあがるわけにもいかん。だから、半分の3000でどうかね?」
「いえ、それではこっちが申し訳ないです。もし、どうしてもと言うのであれば、せめて5000ゴールドもらってください!」
「…分かった。では、それでいこう。」
「本当ですか?」
「ああ。多少は言いたいこともあるが、お金は働けば戻るものだからな。」
町長ははやる気持ちを抑えながら、優しく言葉をかけた後、5000ゴールドを受け取った。
しかし、レックの表情はそれでも晴れなかったため、町長は「どうしたんだい?もう問題は解決したのに。」と問いかけてみた。
「実は、ムドーは倒したんですが、それで旅が終わるわけではなかったんです。」
「ほう。まだ黒幕がいたんですね。」
「はい。僕は、そうとも知らずにムドーさえ倒せばと考えていたせいで、弱くて足を引っ張りがちだった仲間をクビにしてしまったんです。」
レックは自分達の会話がグランマーズの水晶玉を通じてバーバラに丸聞こえだったため、彼女にキレられた挙げ句、さよならを言われたことを話した。
「なるほど。そんなことを言ったら、そりゃ本人は傷つくだろうな。」
「はい。確かにあの時は本人が目の前にいないのをいいことに、あんな言葉づかいをしてしまったことは反省をしています。でも、彼女を本気でいじめるとか、侮辱するつもりじゃなかったんです。僕としては勝利のために能力の劣る彼女を外し、全てが終わったら、みんなで勝利の報告をするつもりだっただけで…。」
レックは自分達のバーバラに対する考え方が本人と大きくかけ離れていたことや、強くなければ生き残れない。役に立たなければ外されても仕方がないと考えていたことを説明した。
「でも、言った方はそうだとしても、じゃあ言われた方がどう思うのか、考えてみたことあるかね?」
「えっ、それは…。」
「それに、彼女はみんなから弱いとか、役に立たないとか言われても、誰にも相談出来ずに1人で耐えていたんだろう。さらに言えば、彼女は今でも心の中で、君達が束になって自分を責め立てていると思うんだが…。」
「そんなわけはないと思います。だって、僕はこうやって反省しているんだし。」
「でも、本人のいないところでそんなことを言っても、本人には1ミリも伝わらんぞ。」
「……。」
レックは町長に色々突っ込まれてしまい、とうとう言葉につまってしまった。
「まあ、もう取り返しはつかんかもしれんが、これを教訓と考えて、これからにいかしていきなさい。そして、今後は同じ過ちを繰り返さないようにな。」
「はい…。これからは、弱い仲間も大事にします。」
「そうやって『弱い』とか『役に立たない』というような言葉を使うのもどうかと思うが…。」
「じゃあ、どうやって言えばいいんですか?」
「私だったら頑張った結果のミスは責めないし、たとえ失敗しても『よくやったね。』とか『次はうまくいくから。』と言うだろう。というわけで、出来る限りポジティヴな言い方をするように心掛けなさい。ネガティヴは言葉はポジティヴな言葉以上に、トゲのように心に突き刺さっていくからな。」
「はい、分かりました。今後、気を付けます…。」
レックは肩を落としたままコクっとうなずいた。
一方の町長は少し言い過ぎたと思ったのか、それ以降は優しい言葉をかけてくれた。
それを受けてレックの心も多少は落ち着いたため、彼はお礼の言葉を返した後、ルーラを唱えて町を後にしていった。
レイドックの家に戻ってきた彼はターニアに会い、これまでのいきさつを話した。
「そんな…。これで世界が平和になると思ったら、こんなことになるなんて…。」
彼女もまさかと言いたくなる事実を聞かされて、動揺を隠せずにはいられなかった。
「しかも、僕は自分があんなことを言ったせいで、バーバラを離脱させてしまった。彼女を悲しみの底に突き落として、取り返しのつかないことをしてしまった…。」
「そんなこと言わないで。あの時は最終決戦だと信じて疑わなかったわけだし、仕方ないわよ。」
ターニアは後悔の気持ちにさいなまれる兄を何とか励まそうとした。
しかし、皮肉にも言葉をかければ逆に気持ちが焦ってしまう結果を招いたため、やがて言葉に詰まってしまった。
(一体、どうすればいいのかしら…。下手に1人にして何かあったらと思うと、やっぱりそばにいてあげたいし…。)
彼女はどうすればいいのかが分からなかったが、そうしているうちに、やがて食事の時間が近づいてきたため、レックを部屋に残して台所に向かっていった。
それから30分後。ターニアは2人分のパンとシチューを持ってきた。
「さあ、お兄ちゃん。ここに帰ってきてから何も食べていなかったでしょう?せめてお腹だけは満たして。お願いだから。」
「分かった…。」
レックは未だに落ち込んだままだったが、右手でスプーンを持つとシチューをすくい取り、口に入れた。
「どう?おいしい?」
「うん…。」
レックは相変わらず落ち込んだままだったが、ゆっくりと食べ物を飲み込んだ。
その後、彼は何かを吹っ切りたいように次々と口に運んでいった。
それを見ていたターニアも一緒に食事をとり、やがて用意した食べ物を全て平らげていった。
片付けが終わった後、彼女は再び兄のもとに戻ってきて、これからどうするのかを問いかけた。
「そんなこと言われても、分からないよ…。僕はしょせん、バーバラを戦力外にしてしまった人だから…。」
「もうそんなことを言うのはやめて。バーバラさんがそんなことを聞いても、彼女は喜ばないわ。」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
「……。」
レックが思わず興奮してしまったことで、ターニアは思わずビクッとした。
「あっ、ご、ごめん…。」
「ううん、気にしないで。私は大丈夫だから。」
妹が優しい表情で許してくれたことで、レックはすぐに落ち着きを取り戻し、それ以上は言わなかった。
するとターニアが意を決したように思いついたアイデアを提案してみることにした。
「ねえ、お兄ちゃん。」
「何?」
「私、お兄ちゃんと一緒に旅をしてみたいんだけれど…。」
「えっ?ええっ!?」
レックは妹があまりにも意外なことを言い出したため、思わずビックリ仰天だった。
「ちょっと!冗談だろ!?」
「冗談なんかじゃないわ。私、少しでもバーバラさんの抜けた穴を埋めてあげたいの。それが彼女のためにもなると思ったから。」
「だからって、君はこれまで旅に出たこともないし、戦力になれるかどうか…。」
「それでも行くわ。今は弱くても、役立たずと言われても、きっと強くなってみせるから。」
ターニアは現時点で全ステータスがバーバラよりも低く、呪文も特技も無い状態だった。
しかし、彼女の真剣な表情と迷いのない瞳を見て、レックもやがて覚悟を決めていった。
「分かった。じゃあ、一緒に行こう。僕はもうバーバラの時のような過ちは繰り返さない。君にもきっと長所があるはずだから、それを伸ばして、必ず戦力になれるようにしてみせる。」
「お兄ちゃん、ありがとう…。私、頑張るからね。」
ターニアは願いが通じたことを心の底から喜んだ。
その顔を見て、それまで落ち込んでばかりいたレックの表情も少しずつ変わっていった。
(そうと決めたからには、絶対に妹を守らなければ…。とはいえ、たとえ守ったとしても、バーバラが戻ってくるわけじゃない。彼女を戦力外にして、ターニアが立派に成長した姿を見たら、彼女から何か言われるかもしれない。でも、僕は逃げない。僕はどんなに冷たい言葉で傷つけられても構わない。だから、どうか許してくれ…。)
彼は出会った頃の明るかったバーバラを思い浮かべながら、何度も心の中でざんげをした。
そして何度も何度も謝り続けた後、いよいよターニアを連れて家を後にしていった。
その後、ダーマ神殿にやってきた2人はちょうど神官をしていたフォズから転職について詳しく説明をしてもらい、レックはそれを踏まえた上で戦士に転職した。
「あの、フォズさん。私はどのような職がお勧めなんでしょうか?」
「そうですねえ…。現在、ターニアさんはレベル4で、HP59、MP26(※SFC版の6で初期状態のホイミンと同じです。)ですから、どの職でも自由に就けますが、私としてはまず魔法使いと僧侶をお勧めしたいと思います。」
「魔法使いと僧侶ですか?」
「はい。それらに転職した上で講義を受けて、試験に合格すれば即座にメラミとホイミを唱えられるようになりますから。」
「では、早速魔法使いになりたいと思います!よろしくお願いします!」
ターニアはすがるような気持ちでお願いをした。
それを受けて、フォズは即座に彼女を魔法使いに転職させた。
しかし、ターニアはフォズからのアドバイスでメラミの唱え方こそ覚えたものの、その威力はまるで「今のはメラではない。メラミだ。」と言っているようなものだった。
「非常に言いにくいのですが、これでは合格を出すわけにはいきませんね。」
「…ごめんなさい…。役に立てなくて…。」
「いえ。自分を責めないでください。では、代わりにあるアイテムを差し上げようと思います。」
「えっ?どんなアイテムですか?」
「今から持ってきます。少しお待ちください。」
フォズはそう言うと一旦その場を離れ、いかずちの杖を持って戻ってきた。
「これを道具使用してみてください。誰でも敵1グループに攻撃が出来ますよ。」
「私もですか?」
「はい。きっと心強い武器になってくれると思います。どうぞ受け取ってください。」
「分かりました。」
ターニアは杖を受け取ると、少し後ずさりして杖を振り回した。
すると、先端部分から炎が飛び出し、少し進んだところでその炎が消えた。
「えっ?本当に炎が!?」
彼女は自分でも道具使用出来たことにビックリだった。
「すごい!これなら君でも戦力になれそうだね。」
レックは喜びながら妹のところにやってきた。
「う、うん…。でも、これで本当に戦力になれるかどうか…。」
「きっとなれるよ。僕がついているから、心配しないで。」
「お兄ちゃん…。」
ターニアはまだ不安を感じずにはいられなかったが、それでも兄からかけられた言葉に後押しされる形で気合を入れ、バーバラに代わるメンバーとして活躍することを誓った。
その姿をフォズは優しいまなざしで見つめていた。