レックが精霊の鎧を売却してトルッカに向かっていった頃、ハッサンはグランマーズにお使いを頼まれて夢見の洞くつに入っていった。
そして聖水を使いながら進んでいき、最深部で夢見のしずくを手に入れると、走りながら来た道を引き返してマーズの館に戻ってきた。
「ばあさん!言われたブツ、持ってきたぜ!」
「おお、ご苦労じゃった。確かそこではまだはぐれのモンスターが住み着いていると思うが、大丈夫だったかのう。」
「大丈夫に決まってんじゃねえか!俺を誰だと思ってんだ。ハッサン様だぞ?」
「おお、そうか。相変わらずお前さんは自信満々じゃのう。」
「まあ、レックやミレーユに加えて俺まで落ち込んでいてもしょうがねえからよ。」
ハッサンは得意げに言うと、しずくが入ったつぼを机に置いた。
「それだけ元気があるのであれば、次のお使いを頼んでもいいかのう。」
「ん?またか?」
「そうじゃ。今度は月鏡の塔に行ってくれんかのう。」
「月鏡の塔?ああ、あの弱かった赤毛の家出娘と出会った塔か。」
「ま、まあ、その言い方にはモノ申したいが、ずばり、そこじゃ。そこにはまだ命の木の実に加えて、不思議な木の実、力の種、守りの種、素早さの種があるからのう。これからのステータスアップのことも考えて手に入れてくれんか?」
「おう、お安い御用だぜ!今の俺だったら、そこにいるモンスターくらいわけないからよ!」
ハッサンは相変わらず自信満々だった。
そして彼は夢見の洞くつに行った時に身に着けていた炎のツメ、鋼の鎧、鉄の盾、鉄かぶと、はやてのリングを装備したまま、キメラの翼で出かけていくことにした。
その際、グランマーズは回復用にアモールの水を2個持たせてくれたため、ハッサンはそれを袋に入れて塔へと向かっていった。
彼は現地にたどり着くと、まるで「どけどけえっ!ハッサン様のお通りだぞ!」とでも言わんばかりに中を突き進んでいった。
そして最初はシャドーを、次はあくまのカガミをあっさりと蹴散らし、守りの種と不思議な木の実を手に入れた。
「よおし!これは幸先いいぜ!」
彼は悔しそうに退散していく相手を見ながらガッツポーズをした。
その後、力の種と素早さの種を手に入れたため、残すは命の木の実だけになった。
「さあ、来るなら来い!誰であろうと、ムドーを倒したハッサン様がぶっ飛ばしてやるぜ!」
彼は威圧するような態度を見せながら階段を上っていった。
塔の上の階までやってくると、そこでは命を木の実を持っているポイズンゾンビが悲壮な表情で待ち構えていた。
「おっ、久しぶりだな。その実はお前が持っていたのか。」
「ああ、そうだ。だが、これは貴重なアイテムだぞ。」
「そんなの関係ねえ(×3)。俺はばあさんに頼まれて、その実を手に入れに来た。さあ、それを渡してもらおうか!」
「ただで渡すわけにはいかん。欲しいのであれば俺と倒していくがいい。ただ、俺達も負けられない理由がある。そう、絶対にな!」
「ほう。じゃあ、俺にやられる前に、その理由ってものを聞いておこうじゃねえか。」
「分かった。では、話すとしよう。」
ポイズンゾンビは重い口調で、ハッサン達に負けた後の日々について話してくれた。
彼(ゲームでは彼ら3匹)は塔の中央部分が地面に落ちていくのを見届けた後、ガックリと肩を落としながらムドーのもとへと向かっていった。
そして、何とかもう一度チャンスを与えてもらえないかとお願いをしたが、待っていた返答は『おろか者!お前達は必要ない!』という戦力外通告だった。
さらに連帯責任を取らされたため、塔のモンスター達はムドーの城で奴隷としてこき使われることになってしまった。
過酷な目にあわされる中で、自分達は何とか生き延びたが、中には力尽きてしまう者もいた。
もうだめなのか…。だめなのか…。希望なんて無いのか…。
そんな絶望感が漂う中、ある日、一行は脱走を計画するようになり、密かに計画を練った。
そして数日後。彼らは見張りが眠ってしまった一瞬の隙をついて足かせのカギを盗み、ついに作戦を実行した。
幸い、ポイズンゾンビ達は決死の脱出に成功したが、逃げ遅れた者達は切り裂きピエロやヘルビースト、ようじゅつし、地獄の門番につかまってしまい、結果的に再び故郷の土を踏むことが夢になってしまった。
「というわけだ。俺達は何とかここにたどり着いたが、必ず追手がやってくる。そうなる前に、お前さん達人間からゴールドをもらって、その金で故郷の世界に帰りたいんだ!帰って、家族に会いたいんだ!」
彼をはじめ、逃げ延びてきたモンスター達は悲壮な思いを抱えていた。
「そうか…。大変だったんだな…。だが、ムドーのせいで人間達がどんな目にあってきたのかを考えると、俺もむざむざと引き下がるわけにはいかねえ。ここは勝負だ。勝ったら言うことを聞いてやる。」
「分かった。俺は全てをかけて勝負に打って出る。さあ、かかってこい!」
背水の陣のポイズンゾンビは人生をかける覚悟で向かってきた。
勝負になるとハッサンは強烈な一撃で大ダメージを与えた。
「ポイズンゾンビ様!」
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ。絶対に負けるわけにはいかない!勝つしかないんだ!Must-winなんだ!」
彼は駆け寄ってきた部下達を制止すると、奴隷時代にバットマジックから密かに学んでおいたベホイミを唱えた。
「お前、いつの間にそんな呪文を!」
「これも生き延びるためだ!出稼ぎで故郷に置いてきた家族に会うためにもな!」
ポイズンゾンビはそう言うと、今度は猛毒の霧を吐き出してきた。
「ぐわあっ!これはたまらん!ミレーユ!キアリーだ!キアリーを…。」
ハッサンはとっさに彼女を頼ろうとしたが、今は自分しかおらず、しかも運悪く毒消し草を持っていなかったため、その場で治療が出来なかった。
(げっ!どうすればいいんだ!)
彼は思わず冷静さを失ってしまい、1ターンを無駄にした上に、毒でダメージを受けてしまった。
それを見たポイズンゾンビはわしづかみをしてきて、通常攻撃を上回るダメージを与えてきた。
(ぐわああっ!こうなったら回復だ!と言っても、ゲントの杖はチャモロが目の治療目的で持っているし、俺は今のところ呪文が一切使えないから、アイテムを使うしか…。)
ハッサンは焦りながら袋に手を突っ込んだが、なかなかアモールの水をつかめず、またも隙を見せてしまった。
そうしているうちにダメージがさらに蓄積していったため、早く毒を何とかしないと危険な状況になってしまった。
そしてポイズンゾンビが再びわしづかみのモーションに入った時、「ま、まいった!俺の負けだ!許してくれ!」と言い出して降参を宣言した。
「それは本当か?」
「ああ。このままでは降参ではすまなくなってしまう。どうか命は助けてくれ。」
「その言葉に二言はないな!?」
「ないぜ。だから頼む!助けてくれ!」
ハッサンはいさぎよく持っていたお金のほとんどを差し出し、さらに鉄の盾と鉄かぶとを差し出した。
「分かった。じゃあ、お返しだ。ほらよ、毒消し草だ。」
ポイズンゾンビは袋からそのアイテムを取り出すと、ハッサンに投げ渡してきた。
そのおかげで彼は毒を治療し、大惨事を免れることが出来た。
勝負が終わり、HPを回復させた上で彼らが和解をすると、そこにグランマーズがテレポートをするような形でやってきた。
「うおっ!ばあさん、いつの間に!」(×2)
ハッサンとポイズンゾンビがポーズを取りながら驚いていると、彼女は追手がすぐそこまで来ているため、すぐに全員でここを脱出することを提案した。
「というわけで、時間が無い!今からわしが全ての魔力を駆使して瞬間移動をさせるぞい!」
「分かったぜ!ばあさん、頼む!」
ハッサンが頼み込むと、グランマーズはとっさに魔力をためていった。
そして強力な呪文を唱えると、その場にいた一行は一斉にテレポートをしていった。
(ふう…。助かったぜ。でも、今回のポイズンゾンビとの勝負は完敗になっちなったな。俺は確かにこれまでの戦闘で大活躍をしていたが、呪文が一切使えないからアイテム無しでは自分で回復や解毒も出来ねえし、これじゃあいくらHPが高くてもいずれやられちまうな…。)
ハッサンはこの状況になって、ようやく仲間がいることのありがたみを理解した。
その後、塔を脱出したポイズンゾンビ達はグランマーズのおかげで自分達の世界に生還を果たした。
そこでハッサンはモンスター達が懐かしい家族に再会して喜ぶ姿を見届けた後、ヘロヘロ状態になってしまったグランマーズと現地で一緒に一泊した。
翌日。MPが全回復したグランマーズはもう一度テレポートして、ハッサンとともにマーズの館に戻ってきた。
さらに翌日。青銅の盾と木の帽子を購入して装備したハッサンはモンストルの町にやってきた。
しかし、そこで見た光景はまるでモンスターに襲われたかのように荒れていた。
(これは敵が出現するかもしれねえな。正直、HPも残り少ないから、回復だけはしておこう。」
ハッサンは袋から薬草を取り出して使用し、炎のツメを手にはめて戦闘態勢に入った。
すると、物かげから誰かが歩きながら姿を現したため、少なくとも廃墟ではないことが分かった。
すれ違う人達は武装をしておらず、ハッサンを見ても警戒する様子はなかったため、彼は戦闘態勢を解除し、代わりに情報を集めることにした。
住人達の話によると、ここにはアモスという男性がおり、彼は以前、町を救った時にモンスターにおしりをかまれてしまい、それが原因で夜になるとモンストルという化け物になってしまって町を徘徊するために、このような有様になってしまったということだった。
そしてこの状況を打開するためには、理性のタネというアイテムをすりつぶして飲む必要があることを教えてもらった。
一通り情報を集め終わると、ハッサンはアモスの住む家に案内してもらったため、彼はあろうことか理性のタネを含めて全ての事情を話してしまった。
「えっ?私が夜な夜な怪物に?やだなあ。もう少しで信じてしまうところでしたよ。わっはっは。」
アモスは悪い冗談だと思ったのか、ただ笑っているばかりだった。
「だが、心配ねえぜ。俺が今から必要なアイテムを取ってきてやるからよ。安心して待っていてくれ。」
ハッサンは任せとけとばかりに胸をポンとたたいた。
そして「あばよ。」と言い残すと家を後にして道具屋に行き、薬草と聖水を買い込んだ上で北の山へと向かっていった。
(まっ、まさか…。この町がこんな状態になってしまった原因が私だったなんて…。)
アモスは最初こそ笑っていたものの、徐々に自責の念が芽生えていき、住人にお詫びをして回ることにした。
その後。単独では理性のタネのところまでたどり着けず、結局途中で引き返して町に戻ってきたハッサンは、バーバラに加えてアモスまでも行方不明にさせてしまったことを受けて、さらなるショックを受けるハメになった。
そして住人から白い目で見られてしまい、色々とディスられるようになったため、早々にこの町を後にしていかざるを得なくなった。
(嘘だ…。俺はただ、正直に事実を述べただけなのに、それがこんな悲劇を招くなんて…。このままじゃモンストルの町に戻れねえし、アモッさんにも合わせる顔がねえ。俺はこれからどうすればいいんだ。)
ハッサンは穴があったら入りたい気持ちを抱えたまま、すがる思いでダーマ神殿にやってきて、神官をしているビアンカに会った。
「そうですか。あなたは自分の行いが原因で、悲劇を招いてしまったのですね。」
「ああ。バーバラを戦力外にして以降、俺のまわりには嫌なことが次々と起きるから、何とかしてこの状況を好転させてえんだ!」
「分かりました。あなたは今までのことを心を込めてざんげしますか?」
「ああ、するぜ!目いっぱいざんげしてやる!」
「では、その場でひざまずき、手を合わせて祈りなさい。」
「分かったぜ。」
ハッサンは言われたとおりにすると、これまでのことを心を込めて反省した。
その間、ビアンカはその姿を見ながら自分がどういう判断をすればいいのか考えた。
するとそこに英語の勉強を終えたフローラがやってきたため、彼女はビアンカの相談に乗ることにした。
5分後。ハッサンがざんげを終えると、2人の協議も終わった。
「それでは、今から私達があなたに判決を下します。」
フローラは厳しい表情で彼を見つめた。
「頼む!クビにはしないでくれ!俺がバーバラとアモッさんをクビにしておいて言うのもなんだが、自分がこんな目にあうことは耐えられないぜ。」
「そうですか。でも、安心してください。言われたとおりにすればクビにはしません。」
「本当か?それはありがてえぜ!」
「ですが、あなたには反省の意味を込めて遊び人に転職していただきます。」
「あ、遊び人だと?」
「はい。あなたは今から熟練度8になるまで、継続してこの職業に就いていただきます。途中、無職を含めて他の職業への転職を禁止します。」
「…マジかよ…。」
ハッサンは思いもよらない判決を聞いて、フローラに反論しようとした。
しかし、これを受け入れなければ自分がクビになってしまうため、結局断念し、素直に受け入れるしか道は残されていなかった。
「分かったぜ…。じゃあ、俺をその職業に転職させてくれ。」
彼の同意を受けて、ビアンカは「テクマク○○コン、テクマク○○コン、遊び人にな~れ~。」と言い出し、持っている杖を振りかざした。
「おおっ!何だか遊びたくなってきたぞおっ!!」
転職を終えたハッサンはそれまでの深刻な気持ちから一転し、陽気なキャラに早変わりした。
「おめでとうございます。今から精いっぱい遊びを極めてくださいね。」
「そして、熟練度が8になったら、ぜひ私達に体験談を話してください。」
ビアンカとフローラはハッサンに声をかけた後、笑顔で彼を送り出した。
ちなみにこの日の夜、ハッサンはとある家の前でデボラに会い、彼女から8・2・8・2を勧められたため、遊び心から彼女についていくことにした。
そして中に入っていくと、2人で並んで座り、短く会話を交わした後、デボラは部屋を暗くした。
…しかし、この時点で隣の部屋にルドマンが待機しているということを、ハッサンはまだ知らない…。
(※この後、例のデロデロ音が読者の頭の中に流れますので、心の準備をお願いします。)
この後は2話にわたってミレーユとチャモロに関する内容を発表します。
バーバラファンの方、もう少しお待ちください。